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♡坂の上でピー♡

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 自暴自棄になるのも飽きた頃、隣で眠る知らない男を1人部屋に置き去りにして、香苗はホテルを出た。

 朝日が眩しい。

 黒いワンピースに赤いハイヒール、肩から提げたバッグにはスマホと煙草と、僅かばかりのお金が無造作に突っ込まれていた。その僅かばかりのお金を路上で眠るホームレスの枕元に置き、代わりに立て掛けられていた段ボールを拝借した。段ボールの表面にはドラム式洗濯機と書いてある。道理で大きいわけだ。

 渋谷も早朝は人が少ない。円山町の坂の上で段ボールを広げ、中にスポリと入った。そこは誰もいない自分だけの部屋。この大都会で唯一の、自分だけの空間。

 上がポカリと空いている。切り取られた空は澄み切った水色をしていた。東京の空も棄てたものではないなと思った。香苗はポカリと開いた空を眺めながら、ピーをした。

「これで空と海が出来た」と香苗は思った。

 ピーをしながら香苗は煙草に火をつけた。深く吸い込み、深く吐き出す。煙がすぐ目の前にある茶色い壁に当たり、香苗の顔に跳ね返った。香苗は眼を見開き、その因果を逃げず逸らさず受け入れた。しばらく煙の中を遊説していると、なぜか山が見えた。煙の中に、深緑の、山を見た。その山は、どこか懐かしく、少し寂しげであった。

 香苗は手に挟まっているタバコを見つめた。見た事ない煙草だった。市販のものではなさそうだ。

 ピーは続いている。
 
 酔っぱらった若い番が香苗の入った段ボールを見つけ、「特に理由はない」という理由から、段ボールを蹴飛ばし、段ボールは香苗を包んだまま、坂を転がり落ちていった。

 竹輪に挟まったゴボウの様に、香苗の頭と爪先が段ボールからはみ出しながら転がっている。そのどちらからも、ピーははみ出している。
 
 赤いハイヒールだけが、坂の中腹に引っ掛かっていた。

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