最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

014 ネルビス一団

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「そういえば、街ではあまりあなたの姿を見かけないけれど。ザックスは、ドラガリアにはあまり来ないのかしら?」

「いや、そうでもねぇよ。つっても、七日に一回くらいの頻度だけどな」

 ザックスは腕を頭の後ろに組みながら答えた。

 ザックスたちは今、ドラガリアの中央部に来ていた。煉瓦で舗装された道を二人で並んで歩いている。

 街の往来は人が行き交うものの、それなりの荷物を持ちながらでもぶつかることが無い程度には、人が多くない。

 この時間帯は、店で作業をしている人も多いのだ。

 ザックスは色とりどりの石壁がずらりと並ぶ街を眺めながら、言葉を続けた。

「まあ、食い物の備蓄は納屋にあるし、大体は燃料とか雑貨の買い出しだな。行商も定期的に来てくれてるから、そんなに買い込むこともねぇんだ」

「へぇ、意外と悠々自適な生活を送ってるのね」

 マーブルは意外そうに口へ手をあてた。

「森の中でずっと生活してるから、不便で退屈に感じてると思ってたわ」

 ザックスは腕を組み、眉間にしわを寄せる。

「うーん、不便と言えばそうなのかもしれねぇけど、もう慣れちまってるしな。それに、狩りの感覚はやっぱ、こういう街にいると鈍ってくる気がするんだよ」

「ふーん、どうして?」

「何て言うかな。誰かがいるのが当たり前だし、自分を襲ってくる奴も滅多にいねぇからかな。危機感が薄くなりがちなんだよ。森に居たら、基本的に食うか食われるかだぜ」

「そうなのね。なんか、殺伐としてるのね」

「まーな。だから、気配には敏感になるし、物音にも気を付けるようになるんだ。でも、ここみたいにずっと喧しいこともねぇから、そんなストレスにはならねぇんだよ」

 ザックスはマーブルに苦笑いを向けた。

「そういうものかしら」

 マーブルはザックスを見上げて言葉を返す。と、ふと視界の端に意識が向いた。

「そろそろね。あそこに見える赭色しゃしょくの建物が、ネルビス一団の拠点よ」

 マーブルが指さす先には、暗赤色の大きな建物があった。

 その建物へ、甲冑を身に着けた茶髪の男が木箱を運んでいる。

「ネルビスの旦那ぁー。ブツが届きましたぜー」

 そういって、男は建物の中へと吸い込まれていった。

 ザックスとマーブルはネルビス一団の拠点までやってくると、解放された引き戸から中を覗き込んだ。

「よし、そこに置いといてくれ」
「うぃーっす」

 銀色のぱっつん前髪が指揮を執り、茶髪の男は箱を抱えながら部屋の隅へと歩いていく。

「ネルビスの旦那。対竜ネットの方が、納品に時間がかかりそうです」

 坊主頭の男が銀髪の小男へと近寄り、声をかけた。

「そうか。今回の作戦にはあった方が助かるが、間に合いそうにないか?」

「ええ。どうやら巣の移動を開始したようで、次の住処が定まるまでは回収できないようです」

「仕方がない。手元にある分で何とかしよう。……ん?」

 銀髪の男が入口で覗く二人に気が付いた。マーブルがほほえみながら手を振る。

「なんだ、マーブルじゃないか。そんなところにいないで、中に入っていいぞ」

「ごめんあそばせ、ネルビスさん。今、取り込み中だったかしら?」

「まあな。次の獲物を狩りに行く準備をしているところだ。ところで、そいつは誰だ?」

 ネルビスと呼ばれた男は、マーブルの隣に立つザックスを見やる。頭からなめるように視線を這わせると、腰のホルスターに収まったガン・ソードで目を止め、眉をひそめた。

「その銃は……」

「気付いたかしら。彼の名は、ザックス。あのガン・ソードの後継者よ」

「いや、まだ正式に決まったわけじゃねぇけどよ。親父からまだちゃんと言われてねぇし」

 ザックスは若干照れながら訂正する。が、マーブルの言葉によって辺りの空気は一変し、どよめきだした。

 竜追い人にとって、武器を引き継ぐという事はその業を引き継ぐ事を意味し、新たな竜追い人として活動することを意味していた。

 ザックスは、『竜殺し』ビゴットからガン・ソードを引き継ぎ、その業を継ぐ後継者としてここに立っている、と。世間ではそう捉えられる。

「貴様が、ビゴットの後継者、だと?」

 ネルビスが険しい顔でザックスを睨みつける。

「んー、まあ一応、その予定だ」

 ザックスは頬を掻きながら、少し照れくさそうに答えた。

「ふんっ。で、これまででお前が狩った竜は何だ? ワイバーンか? レオレッグスか?」

 ネルビスは、食用として狩られることの多いDランク竜種の名をあげた。

 マーブルはおさげを左右に振り、人差し指を立てて答える。

「いいえ。聞いて驚かないでくださいまし、ネルビスさん。ザックスが初めて狩った竜は、あの翡翠竜なのよ」

 マーブルの言葉に周囲がざわついた。
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