最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

011 マーブルの研究工房

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 人類は、その歴史の中で竜を狩る術を手に入れ、力強く生き抜いてきた。

 世界の頂点に君臨してきた竜と肩を並べ、互いにその命を喰らい合う。人類は、竜と戦うため、生き延びるために進化を遂げ、発展してきた。

 竜を狩る者は“竜追い人ドラゴン・チェイサーズ”と称えられ、人類の発展に寄与してきた。

 いまや、竜の肉体は食料となり、また、その体から作られた道具は人類の生活に役立てられている。

 竜追い人が業として行う竜狩りと、それを利用して流通させる一連の行い。人々はこれを、ドラゴンビジネスと呼んだ。

 竜追い人は、今日もまた生活のために、竜を追うのであった。






 現在におけるドラゴンビジネスの本拠地である国は“ドラガリア”と呼ばれる工業都市である。

 広大な敷地を円形にぐるりと囲む城壁。都市の中央部に建てられた城は、ドラゴンビジネス協会本部として機能している。

 中央部から南西へすこし離れたところに位置する研究所。今はマーブルの根城となっているこの施設に、ザックスはやって来ていた。

 研究所は寸胴で三階建ての中央棟があり、左右に円形の部屋をくっつけたような建物だった。中央棟の扉には、ノックをするための叩き金が付いている。

 ザックスが叩き金を持ちノックすると、ややあって扉はゆっくりと開いた。

「いらっしゃい、ザックス。配達ご苦労様。助かりましたわ」

 扉を開け、うなじの辺りで左右二つに結わえたブロンドの髪を揺らしながら、マーブルが出迎えた。

 マーブルはザックスを中へ招き入れると、後ろ手で扉を閉める。

「えっと、角はどこに置いとけばいいんだ?」

 ザックスが辺りをぐるりと見回す。

 観音開きを跨いだ先にあるエントランスは四角い空間で、綺麗に磨かれた石造りのタイルが敷かれており、中央奥には木製の扉があった。左右には通路が伸びて、中央にある大部屋をなぞるように広がっている。

「ごめんなさい、あっちの部屋まで持っていってもらってもいいかしら」

 マーブルが中央の扉を指しながら、ザックスの前に出た。案内をするように、そのまま歩いてザックスを先導していく。

 扉を開けると、大きなカプセルが目についた。ザックスがすっぽりと入ってしまいそうなそれは緑色の液体で満たされ、カプセルからは何本もの管が木の根のように地面へ伸び、そこかしこに向け走っている。

「そこの台に置いてもらっていいかしら」

 マーブルがキャスター付きの台を指さした。

 ザックスは手に持っていた翡翠竜の角を、指示された台へ無造作に置く。

「なあ、この液体は何だ?」

 ザックスは、一際目立つ緑色のカプセルを見ながら、マーブルに尋ねた。

「それは魔力プールですわ。魔力を溜めておくための溶媒よ」

「ふーん……?」

 ザックスは曖昧に返した。

「あんまり興味ないかしら?」

「いや、よく分かんねぇからよ、そういうの」

「まあ、そうよね。あなたの使っている魔力莢に詰められてるのが、これよ」

 言われて、ザックスは腰につけた革製のポーチから魔力莢をひとつ摘まみ、しげしげと眺めてみた。

「へぇ、こいつがねぇ……」

 魔力莢は白色の筒で覆われているため中身が見えない。ザックスは試しに振ってみたが、音はしなかった。

 翡翠竜の角を台上で動かしていたマーブルは、次いで台を押しながら、ザックスへの説明を続ける。

「きっちり充填されてるから、振っても音はしないわよ。幾つかの仕切りがその中に入ってるんだけど、そこに白色ダークマターを入れてありますの。それが魔力の源になってるってわけ」

「白色ダークマターって何だ?」

「そこに積んであるの、見るだけなら開けても良いわよ」

 マーブルが運ぶ手を止め、部屋の隅に積んである木箱を示す。

 ザックスは木箱に近づき、ふたを開けてみた。すると、そこには乳白色の石が詰まっていた。中には黒い石も混じっているが、大きさはどれも同じくらいのもので、これといって形が決まっている訳ではなかった。

「へぇ、こんな石ころが入ってんのか」

 ザックスは白色ダークマターをひとつ摘まみ上げた。
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