いけないですか

雪乃都鳥

文字の大きさ
上 下
16 / 19
第4章

1,「タバコの煙」

しおりを挟む
 日のあたりの良いあぜ道だった。都会にもこんな場所があるのかと、思いながら実咲を振り返る。
 実咲は土から顔を出す芽や時々咲いている菜の花を、懐かしそうに見ていた。

「田舎なんだね」
「うん、いい所でしょう?」
「……そうだね」

 やっと心にきた春だった。それまでは寒すぎて、思わずため息を漏らしていたのに。
 静かだった。人のざわめきも、視線もない。ただ風に草木が擦れ合う音が聞こえていた。


 元彼の家は居並ぶ家々を避けるように存在していた。小屋のようなひっそりとした家だった。

「実咲、押せる? 」

 俺がそう言えば実咲は頷き震える手でインターホンを、押した。実咲と二人で、そいつが出てくるのを待つ。音沙汰がないので不安になったが、そいつはちゃんと出てきた。


 「……誰?」

 そいつは俺をみやり、実咲に怠そうな視線を向けた。無造作でぼさぼさとした頭だった。だが、それにはどこか色気があり成人男性のそれだった。

「初めまして、成瀬 陽人です」
「なんだ、彼氏?」

 急に優しげな目をして、実咲を見た。実咲は顔を赤くして、頷く。そいつは、「へぇ」と言って俺を頭の先から足元まで見た。

「年下、ね」

 まあ、入れよとそいつは家の奥に入っていった。そいつの後ろをついて靴を脱ぎ上がる。
 狭い廊下を歩き、居間に通された。真ん中にダイニングテーブルがあり、壁に寄せるようにレコードや雑誌が積まれていた。

「そんで、何しにきた?」

タバコの煙が、部屋に充満した。俺はむせて咳払いをする。俺は口を開こうとしたが、実咲の声に遮られた。

「京一に、会いにきたの」
「へえ、どうして」
「この気持ちに、決着をつけたいから」

 そいつは、深く息を吸って灰色の煙を出した。そのタバコを、灰皿に、押し付ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

処理中です...