鬱蒼とした青。

雪乃都鳥

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第四章〜この世で最も苦しいもの〜

「黒と少女」

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 黒は、塔の麓に手足を地面について少女の名前を呼んだ。返事がないと判断したのだろうか、塔に前足をかけて勢いよく石壁を駆けた。
「おい、お嬢」
 塔には窓淵はなく、代わりに月のようなくりぬいたような穴がる。黒はその姿を見たのかと思えば、もう一度深琴の名前を呼んだ。
 ちらりと、その黒髪が見える。よく手入れのされた、艶のある髪質だった。その瞳は出会った頃と同じ色だった。
「どうしたの、黒ちゃん。また遊びにきてくれたの? 」
 黒は、ああん?と声を荒げたがどうやら癖のようで深琴は気にしていない。
「今更なにを言ってんだい? 当たり前のように毎日くるさ・・・・・・」
 黒は目を細めて、下を向いた。目が合う、意図的にだろうか。「あの長い期間を除けばだがの」
 黒はを見下ろした。鋭い瞳で、僕は目をゆっくりと閉じた。
 喋り声が聞こえて目を開ける頃には、何事も無かったかのように平然と尋常に深琴とやり取りをしていた。
 いつまで待たせるんだと、僕は黒に腹を立てた。僕は深琴と黒が仲良くしているのを見たくはない。
 黒は勝ち誇りの笑みを見せて、僕を挑発した。乗るものか、と拳を握り締める。僕は顔を意識的に緩めた。
「深琴、帰ろう。こんな所にいても面白くないでしょ?」
 深琴は今気付いたようで、無言で塔に引っこむ。僕は微笑した。
 返事はなかった。わかっていたことだった。でも諦めない。確かに深琴は、おじいちゃんの家にいる時の方が楽しい顔をしている。
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