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第二章 二葉藍子

授業

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 気難しそうな雰囲気の、やや中年太り気味で黒縁眼鏡をかけたこの男性教師は、教卓の後ろに立つとピンと背筋を伸ばし、どこぞの教官のように腕を後ろに組んで朝の点呼を始めていく。

 「起立、気をつけ、礼!」

 「おはようございまーす!」

 クラスのみんなが一斉に挨拶を返し、私も一緒にそれに加わった。

 「それでは点呼を始めます。青木……」

 「はい」

 担任があ行から順番に名前を呼んで生徒一人一人を確認してゆく。
 玲子と私も返事をし、やがて三神の番になったが返事が返ることもなく、結局は姿を現さなかった。
 やはりあいつは今日も授業をサボったようだ。
 こうなるともう二度と来ないのではないだろうか。

 「三神は今日も欠席のようだな。まったく、困った奴め……」

 呆れた様子でそう呟くと、担任は役割を終えて教室を出ていった。

 左前方に座る玲子の方に視線を送ると、こちらを向いて残念そうに首を横に振る。
 私は返答に困り、とりあえず首をかしげる仕草をしてそれに答えた。

 まったく、玲子ときたら……

 次のチャイムが鳴り、世界史のやや若い男性教師が教室へ入るといよいよ授業が始まった。

 今日の内容はエジプトの歴史についてである。
 古代エジプトといえば、ピラミッドやスフィンクス、そしてなんといっても宇宙人。
 遥か以前にあれだけの発展した文明を築き上げ、それらしきものを醸し出す奇妙な人物の壁画などもたくさん残されている。
 テレビで放送される超常現象モノの番組は毎回欠かさず観ているほどオカルト好きな自分にとってワクワクするようなテーマだ。
 だが今回はあくまでも高校の授業。

 「ナイル川下流の大三角州地帯である下エジプトの古代エジプト人が、メソポタミア文明の影響をうけて前五千年頃から農耕文明に……」

 そんな好奇心を誘発するものには一切触れられることなく、地味な内容の話が進められてゆく。
 教師が『これがテストの答えです』と言わんばかりに強調して発音する部分を中心にノートに書き込んでいくうちに世界史の授業は終盤となり、質問の時間となった。

 「それでは、今日の授業で何か質問のある方は手を挙げてください」

 質問? 場違いな発言なのは分かっているが、せっかくのこのテーマのチャンス。
 どうしても他の人の意見、特に大人の人のものが聞きたいので私の手は我慢ならずに挙がってしまう。

 「はい先生! エジプト文明って不思議なことが多いですよね? 宇宙人が関わっていると思いますか?」

 その突拍子もない質問に教師の眉毛が思いっきり開き、面食らった表情になった。

 あっ、まずい。やっぱり言ってはならなかったか……

 「宇宙人!? そ、そうだね……個人的に先生は古代の地球に別の惑星の知的生命体がやって来て、人類に文明を与えた可能性は必ずしも否定できないと思うよ」

 意外にも真面目に答えが帰ってきたので何だか嬉しくなってきた。
 もっといろいろ聞いてみたい!

 「それじゃあ、不老不死って実現可能だと思いますか? ファラオとかってミイラになってそういうのやろうとしていたじゃないですか」

 「うーん、さすがにそれは専門外だから先生にはそこまでは分からないけど、もしかすると未来になると何らかの方法で肉体を復活させる方法が見つかるのかもしれないね。それはそう遠い時代の話ではないかもね」

 「はい先生、ありがとうございました! すいません変な質問しちゃって……」

 「いや、こういった好奇心を持つのは悪いことではないよ。では他に質問ある方は~」

 このやり取りに玲子がこちらを向いて『何やってんだか』と言わんばかりに首をかしげるのであった。

 それから幾つかの授業を終えると正午のチャイムが鳴り、昼休憩の時間に入った。
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