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第一章 相田一郎

緊急事態発生

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 「すいません金山さんの様子がおかしいんです!!」

 必死でみんなに聞こえるように大きな声で叫んだ。それは朝の挨拶よりも遥かに気合いの込もったものだ。
 
 期待を抱き、キョロキョロしながら少しの時間を待つ。
 頼む、誰でもいいから何か反応してくれ!
 
 耳を立てると相変わらず機械の作動音が繰り返されるばかりだ。
 まさか、何かの冗談だろ?

 「聞 こ え て ま す か !?」

 もう一度叫んだ。

 だ…駄目だ……みんなただずっと同じ方向を向いて黙々と仕事を続けている。
 誰も俺に見向きもしない。

 ただクレーンを上げ下げしている者。
 何も入ってない機械を作動させている者。
 同じ場所を雑巾で清掃している者。

 ここにいる全員が俺を除いて、その無意味な作業をずっと無表情で繰り返している。
 時間潰し暇潰し、そんな次元の行動じゃない。

 まるでロボットだ……
 何故だ……何故こうなった?
 原因が全く想像つかない。
 まるで意味が分からない。

 それはいつから?

 ……そうか俺が気付いていなかっただけなんだ。
 俺が呑気に空想にふけっている間もそれはとっくに始まっていたんだ!
 まさかこんな事になってるなんて誰が予想できるものか。

 「不味いぞこれは……」
 
 不安が込み上げてくる。
 多分、事務所もそうなっているんじゃないのか?

 社長の挨拶にしても他の人たちにしてもいつもと様子が違っていた。
 全くもって嫌な予感しかしない……
 とにかく確認しなければ!!

 事の重大さに気付き、全力疾走で工場を出て事務所へと向かう。せめて誰か一人でも正常な人間が居てくれれば……

 勢いよく入口のドアを開けるとみんなに聞こえるように俺は大声で叫んだ。

 「すいませんトラブル発生です!!」

 「おはよう」

 少し間を置いて奥の方から、明らかに嚙み合わない場違いな社長の返答が返ってきた。

 ああ……まさか……

 そして周りを見渡せば社員皆が無言でモニターに向かってキーボードを入力し続けている。

 呼吸が荒れる中、何を打ち込んでいるのか? と画面を確認する。

 「駄目だ、狂ってやがる……」

 そこには意味のない目茶苦茶な文字列が大量に入力されていた。

 最後のダメ押しで事務所の奥へと進み、椅子に座っている社長に対して直接大声で叫ぶ。

 「社長!」

 「おはよう」

 「このハゲ!」

 「オハヨウ」

 クソッやはり駄目なものは駄目か。あの社長でさえもこの有り様だ。
 それにこのやり取りに誰も反応していない。
 これで確定だ。間違いなく全員おかしくなっているようだ。
 それもそうだ、もし正常な人間が一人でも居るならば俺と同じように慌てふためくことだろう。

 こういう時はどうすればいい?
 そう、119番に電話すればいい。

 きっと脳が何らかの原因でやられているのだろうし、もしそうなら治療する必要がある。
 これは大量の救急車が必要になりそうだ。

 すぐ側にある電話から救急へと繋いだ。
 繰り返される待機音。

 その間、この有り得ない奇妙な現象についてどのように伝えればいいのかを考えた。
 イタズラだと思われたら大変だ。うまく話が伝わるのだろうか?

 何回か音が鳴るとオペレーターが電話に出た。

 「はい、119番消防署です。火事ですか? 救急ですか?」

 よしっ、これで一応は何とかなりそうだな。

 「救急です」

 「はい、119番消防署です。火事ですか? 救急ですか?」

 何故もう一度聞く?
 うまく聞き取れなかったのか?

 「救急です!」

 「はい、119番消防署です。火事ですか? 救急ですか?」

 「救急だって言ってるでしょ!!」

 「ハイ、119番消防署デス。火事デスカ? 救急デスカ?」
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