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第一章 相田一郎
帰宅
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嫌な気分を引きずったままショッピングセンター付近へ着くと渋滞にハマり信号待ちとなった。
対向車が連なるこの密集地帯で右折しなければならないが、幸いこの信号には右折信号が備わっている。
どれだけ交通量が多かろうが安全に確実に右折できるというわけだ。
待ち時間の間、考え事をして思い出す。今日、いや今日から俺にはやらなければならないことがある。そうだ、決めたんだ。
ああ早く家へ帰って小説を書きたい。
順番に車が右折してゆき、やがて俺が先頭となった。ツイてないことにギリギリ間に合わなかったが次の右折信号でようやく行けるな。
もう一度信号を待ち、正面の青いランプは点滅し黄色へと変わる。
その間にも対向車の群れはどんどん信号を突破してゆく。
そしていよいよ右矢印だ。
おいおいおいおい……
握ったハンドルに力が入る。舌打ちが飛ぶ。
「ふっざっけんなよ! 行けるわけねえだろ!」
もうそっちは赤だろうが! 俺が今、正に曲がろうとしているのに対向車が慌てる様子もなく我が物顔で突っ込んでくる。しかも三台もだ!
軽自動車、コンパクトカー、ミニバン……
何だこいつらは? ヤンキーの車ならまだしもこんな普通の車がそれをやるか?
くそっ、オンボロ軽だからとナメやがって!
三台連続は地方都市へ行った際たまにあるが、この町では初めて体験するシチュエーションだ。きっとよそ者に違いない。さっきのクラクションといい今日はよそ者が多いようだ。
これ以上車が来ないのを確認すると、ようやく右折を行う。
とりあえず怒りを抑えよう。イライラ運転は事故の元、何事にも平常心が大切だ。
その後、これ以上は何もトラブルはなく俺は我が家へと着いた――
「ただいま~」
「お帰りー!」
間髪入れず、すぐに母さんの大きな返事が返ってくる。相変わらず母さんは元気だ。それに比べて今日はいろいろあって俺は疲れているようだ。
「あら一郎、なんだか疲れてるようね。何か変わったことでもあったの?」
さすが母さんだ。俺の様子の変化を見逃さない。
変わったことね……
ああ、あったよ。今日の帰りは妙にマナーの悪い車が多かった。
いや、違う。それじゃない。もっと盛り上がる面白いネタがあったじゃないか。とっておきのやつが。
「ああ、そうそう今日、会社行く時に海岸沿いで変なものを見たよ」
「変なものって?」
「すごく変な形をした木を見たんだよ。胴体が捻れてて枝がタコみたいでさー」
「へぇー、それは変わってるわね」
「で、さらに凄いことに帰りにもそれを見たんだけどさー……倍ぐらいの大きさになってたんだよ!」
「本当に!? そんなことってあるの? 見間違いじゃないの?」
「いや、本当なんだって! 今度見せてあげるから!」
「分かったわ。楽しみにしてるわよ」
母さんは子供の作り話だと信じていないようだが、俺は確かにそれを見た。今に見てろよ…ビックリさせてやるからな。
対向車が連なるこの密集地帯で右折しなければならないが、幸いこの信号には右折信号が備わっている。
どれだけ交通量が多かろうが安全に確実に右折できるというわけだ。
待ち時間の間、考え事をして思い出す。今日、いや今日から俺にはやらなければならないことがある。そうだ、決めたんだ。
ああ早く家へ帰って小説を書きたい。
順番に車が右折してゆき、やがて俺が先頭となった。ツイてないことにギリギリ間に合わなかったが次の右折信号でようやく行けるな。
もう一度信号を待ち、正面の青いランプは点滅し黄色へと変わる。
その間にも対向車の群れはどんどん信号を突破してゆく。
そしていよいよ右矢印だ。
おいおいおいおい……
握ったハンドルに力が入る。舌打ちが飛ぶ。
「ふっざっけんなよ! 行けるわけねえだろ!」
もうそっちは赤だろうが! 俺が今、正に曲がろうとしているのに対向車が慌てる様子もなく我が物顔で突っ込んでくる。しかも三台もだ!
軽自動車、コンパクトカー、ミニバン……
何だこいつらは? ヤンキーの車ならまだしもこんな普通の車がそれをやるか?
くそっ、オンボロ軽だからとナメやがって!
三台連続は地方都市へ行った際たまにあるが、この町では初めて体験するシチュエーションだ。きっとよそ者に違いない。さっきのクラクションといい今日はよそ者が多いようだ。
これ以上車が来ないのを確認すると、ようやく右折を行う。
とりあえず怒りを抑えよう。イライラ運転は事故の元、何事にも平常心が大切だ。
その後、これ以上は何もトラブルはなく俺は我が家へと着いた――
「ただいま~」
「お帰りー!」
間髪入れず、すぐに母さんの大きな返事が返ってくる。相変わらず母さんは元気だ。それに比べて今日はいろいろあって俺は疲れているようだ。
「あら一郎、なんだか疲れてるようね。何か変わったことでもあったの?」
さすが母さんだ。俺の様子の変化を見逃さない。
変わったことね……
ああ、あったよ。今日の帰りは妙にマナーの悪い車が多かった。
いや、違う。それじゃない。もっと盛り上がる面白いネタがあったじゃないか。とっておきのやつが。
「ああ、そうそう今日、会社行く時に海岸沿いで変なものを見たよ」
「変なものって?」
「すごく変な形をした木を見たんだよ。胴体が捻れてて枝がタコみたいでさー」
「へぇー、それは変わってるわね」
「で、さらに凄いことに帰りにもそれを見たんだけどさー……倍ぐらいの大きさになってたんだよ!」
「本当に!? そんなことってあるの? 見間違いじゃないの?」
「いや、本当なんだって! 今度見せてあげるから!」
「分かったわ。楽しみにしてるわよ」
母さんは子供の作り話だと信じていないようだが、俺は確かにそれを見た。今に見てろよ…ビックリさせてやるからな。
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