上 下
7 / 9
2024春の特別編

開かずの扉

しおりを挟む
 私は優菜ゆな
 都内に住むそこそこ可愛い女子高生です。
 ゴールデンウィークへ入り、私達は父の実家のある田舎町へと帰郷することとなりました。
 
 電車を乗り継ぎ、駅から出るとそこは自然豊かで長閑な景色が広がっています。
 野鳥たちの美しいさえずりがまるで私達を歓迎しているかのようです。
 タクシーを呼んでしばらくの間、山道を進んでゆくと開けた土地が見えてきました。
 そこには大きな古い木造の屋敷があるのです。

 この屋敷こそが父の実家なのです。

 家の前には祖父と祖母が待っており、こちらのタクシーを見つけると嬉しそうに大きく手を振りました。
 二人とも私達の到着を歓迎しています。

 「よう来たねタカシ。優菜ゆなちゃんもこんなに大きくなって」
 
 「ただいま父さん、元気そうで何よりだよ。何か変わったこと●●●●●●はない?」
 
 「ああ、いつも通り●●●●●だよ。まあゆっくりしていってくれ」

 それから私達は普段は食べられないようなご馳走を振る舞われ、楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき夜となり一階の座敷で眠りにつきました。

 しかし私は目覚めてしまったのです。
 それは尿意でした。

 みんなを起こさないように気を遣い用を足すと、ふととある事を思い出したのです。

 何度かこの屋敷へ訪れているものの一度も入ったことのない謎の部屋が二階の奥にあるのです。
 その部屋はいつも障子窓で閉ざされており、外から中の様子を確認することはできませんでした。

 私がまだ幼い頃、好奇心でその部屋の扉を開けようとしたことがあるですが寸前のところで父に見つかってしまったのです。

 「そこは絶対に開けるな!!」

 こんな怖い表情の父は未だかつて見たことがありませんでした。

 『そこには何があるんだろう?』

 いけない事だとは分かります。しかし私はどうしても気になって仕方ないのです。
 幸い今はみんな眠っています。
 今なら誰にも気付かれずにあの秘密の部屋の内部をこの目で確認できるのです。

 足音を立てないように静かにゆっくりと階段を上がっていきます。
 窓から差し込んだ月明かりが私を導いてくれます。
 そして長い廊下を抜けると、目の前には全面木製の古い扉があります。
 あの開かずの扉の前へと着いたのです。

 『この奥には一体何が……?』

 金属製のドアノブに手を掛けると私は怖くなりました。
 もしかするとこの奥には幽霊が潜んでいるのではないのだろうか? と。

 鼓動が高まり手が震えます。怖い…でも見たい。
 こんなチャンスもうないかもしれない。

 私は思いきってドアを開けたのです!

 「キャアアアアアーーーーーッ!!」

 思わず悲鳴を上げてしまいました。

 その和室には誰なのか全く分からない小太り中年男性の姿、そして壁じゅうに美少女アニメのポスターが貼ってありました。

 その男と目が合ったのです!
 男はこちらを見て驚いた様子でした。

 気が付くと私は家族で眠る座敷の布団の中にいました。

 後に父から聞いた話なのですが、父に兄がいたそうです。それがあの男でした。
 定職に就かず部屋に籠もってアニメばかり見ていたので、家族ぐるみで存在を抹消して『いなかった子』扱いしていたというのです。

 その後、社会人となった私は今はもうあの屋敷へは帰っていません。
 あの男は今もまだ無職のままあの部屋でアニメを見続けているのでしょうか?


――――――――――――――――――

喪田「一見、何事もなく上手くいっている家庭のように見えても他人からは分からない闇を抱えている場合があります。ほらあなたの近所にも…」

―開かずの間 完―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編ギフト

Mar
ミステリー
貴方の日常に、非日常という名のスパイスが届くでしょう…。

オチのある話

Mar
ミステリー
3つのオチが非日常を演出する

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

授業

高木解緒 (たかぎ ときお)
ミステリー
 2020年に投稿した折、すべて投稿して完結したつもりでおりましたが、最終章とその前の章を投稿し忘れていたことに2024年10月になってやっと気が付きました。覗いてくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。  中学校に入学したその日〝私〟は最高の先生に出会った――、はずだった。学校を舞台に綴る小編ミステリ。  ※ この物語はAmazonKDPで販売している作品を投稿用に改稿したものです。  ※ この作品はセンシティブなテーマを扱っています。これは作品の主題が実社会における問題に即しているためです。作品内の事象は全て実際の人物、組織、国家等になんら関りはなく、また断じて非法行為、反倫理、人権侵害を推奨するものではありません。

ワルバイトの粛清

不調会長
ミステリー
定職に就かずフリーター生活の 青年・大森は牛丼屋でのバイトが終わり、いつも通り夜道を徒歩で帰宅していた。 ところが、なぜか尾行されていた大森は数名の黒服に突如襲われボックスカーに引きずりこまれる。 車内で手首を拘束され、抗うことができない。 あまりの突然の出来事に呆然とする大森。 車に乗せられ30分ほど 林の中の古い倉庫の前に停車した。 大森は、手首を拘束されたままその倉庫の中に入る。 倉庫の中には、中央に円卓があり、 大森と同様に手首が拘束されている男が7人座っていた。 大森も1席だけ空いていた円卓の椅子に座らせられた。 間もなくして、不敵な笑みを浮かべた老人が倉庫内に入ってきた。 老人は円卓の8人に白紙の小切手を配った。 これから何が行われるというのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...