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2024春の特別編
お義父様の大きな古い金庫
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「あなたの金庫を開けまSHOW!」
蝶ネクタイをつけ派手なスーツを着たタレントの方がそう叫ぶと番組の収録が始まりました。
タイトルの通り、鍵がかかって開けられなくなった金庫を鍵師の方が出張して解錠し、中身を公開するという番組です。
私は歴史あるこの大きな古い屋敷に嫁いだ者です。
先日、お義父様が亡くなられました。
お義父様は名のある教授であり、たいへんに立派なお方でございました。
どんな時も優しい笑顔を絶やさず、そして時には厳しく、金銭的にも精神的にも支えになってくれた教養高い紳士でした。
私はこの番組を何度か観たことがあるのですが、せっかく開けた金庫の中には何も入っていなかったということが多かったのです。
しかし私には感じるのです。
あの素晴らしいお義父様の残したこの古くて大きな金庫、きっと素晴らしいものが残されていることでしょう。
なにも私は残されている物に対して金銭的な価値を求めているわけではありません。
あのお義父様が大事に保管していた宝物の正体を知りたいのです。
そしてそれをこの家の家宝として受け継がせてゆきたいのです。
「うーん、この金庫なかなか手強いね」
「先生、イケそうですか?」
「ちょっと分からないねー、かなり時間がかかるよコレは」
鍵師の方とタレントの方がそんなやり取りをしています。もしかすれば駄目なのかもしれない……ますます金庫の中にあるものが気になってしまいます。
それから半日ほど経過した頃です。
「イッたよ!!」
鍵師の方が興奮気味にそう叫ぶと『ガチャッ』という音が聞こえました。
遂に鍵は開いたのです。私は鍵師の方に感謝の念を抱かずにはいられませんでした。
そして鍵師の方は演出のためか勿体ぶった様子でゆっくりとその封印されていた扉を開けてゆくのです。
「あーこれはー……」
ほんの少しだけ開けたかと思えば、すぐにその手が止まりました。
どうも鍵師の方の様子がおかしいです。振り返った表情に曇りが見られます。
何があったのだろう? と思いましたが何かを察したスタッフが金庫の周りに集まっており、私からは中の様子がよく分かりません。
「これイケますかね? 放送」
「うーん……ボカシ入れればまあコンプラ的にセーフだと思うんだけどねぇ、家族の方がどう判断するか……」
スタッフの方たちが何やら険しい表情をしています。
「何があったんですか!?」
私は思わず大きな声を上げてしまいました。
「あー奥さん、これね」
スタッフの方が金庫を全開にして中身をはっきりと見せてくださいました。
「何なのこれ……」
そこにはあったのです。
大量のポルノでした。
DVD、ビニ本、VHS、USBメモリー…
ギッシリと詰まっていたのです。あんな大きな金庫にギッシリと!
こんなもの恥ずかしくてとても公にできるはずがありません!
「帰って下さい!!」
「お、奥さん落ち着いてください!」
結局この収録は打ち切られ、闇に葬られたのでした。
その後私は念の為、金庫のUSBメモリーに何が記録されていたのかを確認しました。
浴室やトイレが映っていました。この家の。
被写体は私……そして娘までも!
最っ低ーーーーーー!
ああ何と穢らわしい!!
あのろくでなしの老いぼれが!
地獄へ堕ちろ、ド畜生!
ありがとう、本当に……
死んでくれてありがとう。
――――――――――――――――――
喪田「人には何かしらの宝物が存在します。しかし本人にとって価値のあるものでも他人にとってそうとは限らないこともあるようですね」
―お義父様の大きな古い金庫 完―
蝶ネクタイをつけ派手なスーツを着たタレントの方がそう叫ぶと番組の収録が始まりました。
タイトルの通り、鍵がかかって開けられなくなった金庫を鍵師の方が出張して解錠し、中身を公開するという番組です。
私は歴史あるこの大きな古い屋敷に嫁いだ者です。
先日、お義父様が亡くなられました。
お義父様は名のある教授であり、たいへんに立派なお方でございました。
どんな時も優しい笑顔を絶やさず、そして時には厳しく、金銭的にも精神的にも支えになってくれた教養高い紳士でした。
私はこの番組を何度か観たことがあるのですが、せっかく開けた金庫の中には何も入っていなかったということが多かったのです。
しかし私には感じるのです。
あの素晴らしいお義父様の残したこの古くて大きな金庫、きっと素晴らしいものが残されていることでしょう。
なにも私は残されている物に対して金銭的な価値を求めているわけではありません。
あのお義父様が大事に保管していた宝物の正体を知りたいのです。
そしてそれをこの家の家宝として受け継がせてゆきたいのです。
「うーん、この金庫なかなか手強いね」
「先生、イケそうですか?」
「ちょっと分からないねー、かなり時間がかかるよコレは」
鍵師の方とタレントの方がそんなやり取りをしています。もしかすれば駄目なのかもしれない……ますます金庫の中にあるものが気になってしまいます。
それから半日ほど経過した頃です。
「イッたよ!!」
鍵師の方が興奮気味にそう叫ぶと『ガチャッ』という音が聞こえました。
遂に鍵は開いたのです。私は鍵師の方に感謝の念を抱かずにはいられませんでした。
そして鍵師の方は演出のためか勿体ぶった様子でゆっくりとその封印されていた扉を開けてゆくのです。
「あーこれはー……」
ほんの少しだけ開けたかと思えば、すぐにその手が止まりました。
どうも鍵師の方の様子がおかしいです。振り返った表情に曇りが見られます。
何があったのだろう? と思いましたが何かを察したスタッフが金庫の周りに集まっており、私からは中の様子がよく分かりません。
「これイケますかね? 放送」
「うーん……ボカシ入れればまあコンプラ的にセーフだと思うんだけどねぇ、家族の方がどう判断するか……」
スタッフの方たちが何やら険しい表情をしています。
「何があったんですか!?」
私は思わず大きな声を上げてしまいました。
「あー奥さん、これね」
スタッフの方が金庫を全開にして中身をはっきりと見せてくださいました。
「何なのこれ……」
そこにはあったのです。
大量のポルノでした。
DVD、ビニ本、VHS、USBメモリー…
ギッシリと詰まっていたのです。あんな大きな金庫にギッシリと!
こんなもの恥ずかしくてとても公にできるはずがありません!
「帰って下さい!!」
「お、奥さん落ち着いてください!」
結局この収録は打ち切られ、闇に葬られたのでした。
その後私は念の為、金庫のUSBメモリーに何が記録されていたのかを確認しました。
浴室やトイレが映っていました。この家の。
被写体は私……そして娘までも!
最っ低ーーーーーー!
ああ何と穢らわしい!!
あのろくでなしの老いぼれが!
地獄へ堕ちろ、ド畜生!
ありがとう、本当に……
死んでくれてありがとう。
――――――――――――――――――
喪田「人には何かしらの宝物が存在します。しかし本人にとって価値のあるものでも他人にとってそうとは限らないこともあるようですね」
―お義父様の大きな古い金庫 完―
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