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4話 悪夢

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「ところで師匠の手紙に、お前が聖女の力を持つ特別な少女だって、聖女の力って何だ?」

 正直、ミリアについては分からない事だらけなので、少し情報を得ようと思い尋ねた。
 確か聖女は宗教的な何かだったはず。
 何の神も信仰していない俺には、よくわからない話だ。

「……よくわかりません」

 まだ幼いし、自分の持つ力について教えてもらってないのか。

「呪文をひとつおしえてもらいました」
「呪文? 何の呪文だ」
「おしえません」

 ミリアは口を閉ざす。
 俺の事、まだ信用していないみたいだし、そんなにベラベラ喋らないか。
 そのうち師匠が迎えに来るみたいだし、聖女の力について詳しく知らなくてもいいか。
 ただの無愛想な子供をしばらく預かる事になったと思っておこう。

 ふわ~~。

 突如ミリアが大きなあくびをした。
 気付けば目は半開きで、うつらうつらしており半分寝ているような状態である。
 時刻は昼だが、飯を食べたあと昼寝をしたくなっているのかもしれない。

「眠いのか?」
「ムニャ…………ハッ! ね、眠くありません」
「いや、半分寝ていただろ」
「寝ていません! 男の人の前で寝ると食べられてしまいます。寝るわけにはいきません」

 ミョーなこと口走ってんな。誰だよそんなこと教えたのは。
 食べられるってのは、たぶんそのままの意味で使っているんだろうけどな。

「食べねーよ。子供は眠い時に寝るもんだ」
「ね、寝ません……」

 何とか眠気に抵抗しようとするが、最終的に座りながら寝た。
 そういえばこの家には、ベットが一つしかなかったな。
 小さいベッドだから一緒に寝ることは不可能だ。
 俺が床で寝るか。
 冒険者は粗悪な環境でも、寝ることが出来ないと務まらんから、床で寝るくらいは何ら問題ない。
 一応、敷くものもあるしな。

 ミリアをベッドに寝かせるため、抱きかかえる。

 軽い。

 まだ七歳の子供だから当然か。
 普通なら親と一緒に幸せに暮らしているような年齢なんだよな。

 それがなぜか俺の家に預けられた。

 どんな事情があるんだろうか。
 親はいるのだろうか。
 師匠が親、ということはないか。
 姓が違うし、何よりまったく似ていない。
 どういう関係なんだろうか。

 ……あまり考えすぎない方がいいか。
 深入りしすぎると、とんでもないことに巻き込まれる気がする。
 何となくそう思った。

 ミリアをベットに寝かせる。

 スースーと寝息を立てて寝ている。
 こうしてみると可愛いもんだな。
 起きているときはツンツンしているところしか見ていないからな。
 子供はもっと笑うもんだと思っていたけどな。

 ……まあ、俺も子供の頃、心から笑った経験ってのは少ないけどな。

「はぁ……はぁ……」

 ん?
 ミリアの息が荒くなった。
 顔中から汗を流し、苦しそうな表情をしている。体は小刻みに震えていた。
 悪い夢を見ているのか。
 起こした方がいいか?

「はぁ……はぁ……お母さん…………お父さん…………行かないで……行かないで……」

 ミリアはそう寝言を言った。彼女の目からは涙があふれ出ている。
 ボロボロと流れて止まらない。

 両親と何かあったのだろうか。
 俺も子供の頃は、嫌な夢をよく見ていた。
 何だか自分とダブって見てしまう。
 黙って見てられないと思ったので、ミリアの髪を俺はそっと撫でならがら、

「大丈夫だ」

 なるべく優しい声を出すように心がけて囁いた。
 すると、徐々に震えと涙が止まりだす。
 しばらくすると完全に止まり、ミリアは安らかな表情で寝息を立て始めた。

 俺はミリアから手を離す。
 この子がどんな人生を歩んできたかは分からない。
 だが今、何らかの理由で苦しんでいるというのは分かった。
 師匠が引き取りに来るのがいつになるか分からないが、その時までこの子の力になりたいと思った。

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