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二十一話目 暴虐王とその娘
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グロス王国、王都にある大勢の観客がいる決闘場、15人の男たちと、1人の男が向かい合っている。
15人の男たちは、それぞれ豪華な鎧や、高価な剣を装備している。顔中に刻まれた傷から歴戦の勇士たちであるということがうかがい知れる。
男達に対峙する1人の男は、2mはあろうかという巨漢だった。
威圧感のある目つきに、女らしさを一切感じない、これぞ男という感じの顔。無造作に髭を生やしている。
その男は裸の上半身に直接マントを羽織っており、隆々とした筋肉を見せ付けていた。
彼は15人の勇士たちを相手にしているのにも関わらず、腕を組み余裕のある態度を取っていた。
「暴虐王バグダムド! 貴様の支配も今日ここまでだ! 貴様は俺達が打ち倒してやる!」
15人の先頭にいた騎士のような格好をした男がそう叫んだ。
暴虐王バグダムド。この上半身裸の男はそう呼ばれていた。
王と言われている通り、彼はグロス王国の国王であった。
バグダムドは国王でありながら、決闘をしたいのであらばいつでも受け付ける。人数は問わないというお触れを出していた。
何故彼がそんな事をしているのか。
それは暇つぶしだ。
「お前らは、少しは楽しませてくれるか?」
そう言われて男達はバグダムドを睨みつける。
「楽しませるんじゃない。殺してやるよ」
「そうかそうか。よし、お前らにハンデをくれてやろう。俺様は30分間ここから動かない。好きに攻撃していいぞ」
「何!?」
「さあ来い。俺を楽しませろ」
そういいながら、バグダムドはその場で胡坐をかく。
バグダムドの態度に男達は怒りの形相を浮かべ、
「殺してやる!」
1人が剣を抜き、バグダムドに斬りかかった。決闘の始まりを観客達は祈るような目で見ていた。観客達は皆、勇士たちを応援していた。バグダムドに勝ってくれと祈りながら決闘を見ていた。
しかし、その祈りは今回も無駄だったのだと、剣がバグダムドの肩に当たったとき、すべての観客は落胆した。
剣が当たりバグダムドの肩が斬れるどころか、男の剣のほうがポキりと折れていた。
バグダムドのほうは完全な無傷。かすり傷一つ付いていない。
その後、ほかの男達がバグダムドに次々に斬りかかる。しかし、結果は同じ。剣が折れバグダムドにはかすり傷一つ付かない。すべての剣が折れると、攻撃手段がなくなる。
迷った男達は素手や足で攻撃する。しかし、逆に蹴る殴るしたほうが怪我をしていった。
もはやどうすることもできないと判断した勇士達は、攻撃をやめ、ゆっくりと後ずさり、そして逃亡を試みる。
「何だ逃げるのかよ。決闘を挑んだ奴は逃げてはいけないと、お触れに書いたはずだよな。そっちからルールを破ったんだから俺様もルールを破らせてもらうぜ」
バグダムドは立ち上がる。
すると、その瞬間、逃げていた男達の頭が一瞬にしてはじけ飛んだ。
1秒もかからない時間で勇士達は全滅した。観客はあっけに取られたような表情でそのようすを見ていた。何が起こったのか理解している者はいない。
バグダムドとしては別に特別な事をしたわけではなかった。ただ速く動いて、殴る。それだけだ。15人の頭を殴って潰すだけなら、彼の速度なら1秒もかからなかった。それだけの話だった。
「つまらん。もうちょっと強い奴は来ないものかな」
そう言って彼は決闘場をあとにする。言葉ではそうは言うが彼の心は充実していた。
自分の圧倒的な強さを他人に見せ付ける、そのこの上ない優越感、彼の心はそれに満たされていた。
「戦いのあとだし、女でも抱くか。今日もあいつを抱こう。あれは人間でなくドラゴンだから俺様が抱いても壊れないのがいい。姿も美しいしな」
彼はそう言って、自分の城に向かった。
暴虐王バグダムド。
その圧倒的な強さで王族を皆殺しにし、自分が王を名乗り、その後、自分を攻めてくる軍を次々と単独で撃破。国のすべてを手中に収める。彼を心から国王だと認めている者は誰もいない。しかし、その圧倒的強さに逆らえない。何をしてもどうやってもどれだけの数で攻めても、彼は殺せない。逆に返り討ちにされる。
本気で世界を征服しようと動き出したら瞬く間に、成功してしまうだろう。そう思っている者は多かった。彼は今のところ現状に大満足していたので、他国に攻め入る事はここ十年なかったのだが、隣国はいつ攻めてくるのかと、戦々恐々としていた。
○
とある山奥にある、とある小屋。
家を出ようとする娘に、老人が話しかけていた。
「マシャ、本当に行くのか?」
「はい」
「そうか。わしからお前に教える事はもうない。今のお前は最強じゃ。誰にも負けるまいよ」
老人は信頼しきった目で娘を見ていた。
彼女の名はマシャ。
金色の短い髪、凛々しい顔が印象的な女だ。
彼女の背中からは翼が生えている。ドラゴンの翼だ。彼女は人間とドラゴンのハーフだった。
「行ってきます師匠」
「ああ、行って来い」
マシャはそう宣言して歩き出した。後ろは振り返らない。
彼女にはどうしても果たさなければならない目的があった。
(待っていて母さん)
それは母を助ける事だった。ドラゴンである自分の母を。
マシャの母親は、暴虐王と呼ばれる非道な王によって、苦しめられていた。
その暴虐王を倒して母を助け出すことが、彼女の目的であった。
しかし、それは簡単なことではない。
暴虐王は異常な強さを持っているということで有名だ。それを倒すのは並大抵の事ではない。
ただし、暴虐王の血を引いているマシャも、彼に近いくらい異常な強さを持っていた。
自分なら倒せる。彼女はそう信じていた。
あとは、自分と血の繋がった父親を殺せるかという懸念もあった。だが、
(あれは父親なんかじゃない。あんな奴は一刻も早く殺すべきだ。絶対に私は戸惑わないぞ)
彼女はそう心に誓い、暴虐王バグダムドがいるグロス王国、王都へと向かった。
15人の男たちは、それぞれ豪華な鎧や、高価な剣を装備している。顔中に刻まれた傷から歴戦の勇士たちであるということがうかがい知れる。
男達に対峙する1人の男は、2mはあろうかという巨漢だった。
威圧感のある目つきに、女らしさを一切感じない、これぞ男という感じの顔。無造作に髭を生やしている。
その男は裸の上半身に直接マントを羽織っており、隆々とした筋肉を見せ付けていた。
彼は15人の勇士たちを相手にしているのにも関わらず、腕を組み余裕のある態度を取っていた。
「暴虐王バグダムド! 貴様の支配も今日ここまでだ! 貴様は俺達が打ち倒してやる!」
15人の先頭にいた騎士のような格好をした男がそう叫んだ。
暴虐王バグダムド。この上半身裸の男はそう呼ばれていた。
王と言われている通り、彼はグロス王国の国王であった。
バグダムドは国王でありながら、決闘をしたいのであらばいつでも受け付ける。人数は問わないというお触れを出していた。
何故彼がそんな事をしているのか。
それは暇つぶしだ。
「お前らは、少しは楽しませてくれるか?」
そう言われて男達はバグダムドを睨みつける。
「楽しませるんじゃない。殺してやるよ」
「そうかそうか。よし、お前らにハンデをくれてやろう。俺様は30分間ここから動かない。好きに攻撃していいぞ」
「何!?」
「さあ来い。俺を楽しませろ」
そういいながら、バグダムドはその場で胡坐をかく。
バグダムドの態度に男達は怒りの形相を浮かべ、
「殺してやる!」
1人が剣を抜き、バグダムドに斬りかかった。決闘の始まりを観客達は祈るような目で見ていた。観客達は皆、勇士たちを応援していた。バグダムドに勝ってくれと祈りながら決闘を見ていた。
しかし、その祈りは今回も無駄だったのだと、剣がバグダムドの肩に当たったとき、すべての観客は落胆した。
剣が当たりバグダムドの肩が斬れるどころか、男の剣のほうがポキりと折れていた。
バグダムドのほうは完全な無傷。かすり傷一つ付いていない。
その後、ほかの男達がバグダムドに次々に斬りかかる。しかし、結果は同じ。剣が折れバグダムドにはかすり傷一つ付かない。すべての剣が折れると、攻撃手段がなくなる。
迷った男達は素手や足で攻撃する。しかし、逆に蹴る殴るしたほうが怪我をしていった。
もはやどうすることもできないと判断した勇士達は、攻撃をやめ、ゆっくりと後ずさり、そして逃亡を試みる。
「何だ逃げるのかよ。決闘を挑んだ奴は逃げてはいけないと、お触れに書いたはずだよな。そっちからルールを破ったんだから俺様もルールを破らせてもらうぜ」
バグダムドは立ち上がる。
すると、その瞬間、逃げていた男達の頭が一瞬にしてはじけ飛んだ。
1秒もかからない時間で勇士達は全滅した。観客はあっけに取られたような表情でそのようすを見ていた。何が起こったのか理解している者はいない。
バグダムドとしては別に特別な事をしたわけではなかった。ただ速く動いて、殴る。それだけだ。15人の頭を殴って潰すだけなら、彼の速度なら1秒もかからなかった。それだけの話だった。
「つまらん。もうちょっと強い奴は来ないものかな」
そう言って彼は決闘場をあとにする。言葉ではそうは言うが彼の心は充実していた。
自分の圧倒的な強さを他人に見せ付ける、そのこの上ない優越感、彼の心はそれに満たされていた。
「戦いのあとだし、女でも抱くか。今日もあいつを抱こう。あれは人間でなくドラゴンだから俺様が抱いても壊れないのがいい。姿も美しいしな」
彼はそう言って、自分の城に向かった。
暴虐王バグダムド。
その圧倒的な強さで王族を皆殺しにし、自分が王を名乗り、その後、自分を攻めてくる軍を次々と単独で撃破。国のすべてを手中に収める。彼を心から国王だと認めている者は誰もいない。しかし、その圧倒的強さに逆らえない。何をしてもどうやってもどれだけの数で攻めても、彼は殺せない。逆に返り討ちにされる。
本気で世界を征服しようと動き出したら瞬く間に、成功してしまうだろう。そう思っている者は多かった。彼は今のところ現状に大満足していたので、他国に攻め入る事はここ十年なかったのだが、隣国はいつ攻めてくるのかと、戦々恐々としていた。
○
とある山奥にある、とある小屋。
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「マシャ、本当に行くのか?」
「はい」
「そうか。わしからお前に教える事はもうない。今のお前は最強じゃ。誰にも負けるまいよ」
老人は信頼しきった目で娘を見ていた。
彼女の名はマシャ。
金色の短い髪、凛々しい顔が印象的な女だ。
彼女の背中からは翼が生えている。ドラゴンの翼だ。彼女は人間とドラゴンのハーフだった。
「行ってきます師匠」
「ああ、行って来い」
マシャはそう宣言して歩き出した。後ろは振り返らない。
彼女にはどうしても果たさなければならない目的があった。
(待っていて母さん)
それは母を助ける事だった。ドラゴンである自分の母を。
マシャの母親は、暴虐王と呼ばれる非道な王によって、苦しめられていた。
その暴虐王を倒して母を助け出すことが、彼女の目的であった。
しかし、それは簡単なことではない。
暴虐王は異常な強さを持っているということで有名だ。それを倒すのは並大抵の事ではない。
ただし、暴虐王の血を引いているマシャも、彼に近いくらい異常な強さを持っていた。
自分なら倒せる。彼女はそう信じていた。
あとは、自分と血の繋がった父親を殺せるかという懸念もあった。だが、
(あれは父親なんかじゃない。あんな奴は一刻も早く殺すべきだ。絶対に私は戸惑わないぞ)
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