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第一幕
Vlll
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○みっかめ
ここ数日改めて脱出を目的に生活する中で気づいたことがある。
それは、この施設、全くもって出口が見当たらない!
お風呂に行くときとか、トイレ行くときとか研究員さんに案内してもらってるけど、全く隙が見当たらない!
どこかに移動するときは前と後ろに一人ずつついて逃げる隙なんてないし、お風呂場やトイレには小さな窓はあるものの、格子状に塞がれていて人が入れる穴などはない。
もちろん、部屋にいるときは何をするにも見られて聞かれているため、何も出来ないのだ!
「唯斗?かわいい顔が台無しだぞ」
言いながら僕の眉間をぐるぐると人差し指で触ってくる奏斗の手を払い、再び腕を組んで塾考する。
一体、どうしたものか。
脱出する目処が立たなければ、計画が立てられない。
「何そんな難しい顔してるの。」
壁を壊すという手もあるが、その場合何を武器に壁を壊せばいいのか。イルリガードル台は細すぎるし、椅子は重くて上手く壁に命中しないだろう。
「またくだらないこと考えてるのかー?」
やっぱり、ガラスをイルリガードル台で壊して場外サヨナラホームラン!みたいな...
「ゆいとー」
「さっきからうるさい奏斗。」
僕のほっぺをむにむにといじっていた奏斗と手をバシッとはたいた。
「ごめんごめん。それで、何考えてたの?」
僕の座っている背後を陣取り、腰を抱えられ抱きしめてくる。
脱出のこと、やはり言うべきだろうか。
「...ねぇ、奏斗」
奏斗の僕を抱きしめる手が温かい。それをいじってそうだ!と、あることを思い付き手のひらを指でなぞった。
「...?」
奏斗はよく分かってないようだが、ちゃんと見てというように手のひらを弱く引っ張ってから、その細い手のひらに【だっしゅつ】と指でかいた。
ここなら、奏斗の上背に隠れてカメラでは捉えきれないだろう。
奏斗は内容を理解したのか、「だっ...」と口走る自分の口を塞いだ。
そして奏斗は自身の手に【まじ?】と書き、【まじ】と僕が書く。
【どうやって脱出するんだ?】
【いま決めてるの】
奏斗は少し考えるような素振りをした後、困ったように眉を下げて書いた。
【むりだよ】
その一言が書かれたとき、僕は奏斗の手をはたいた。
今日で一体、何回奏斗の手を叩いたのだろうか。
「...むりじゃない」
その声は酷く細く、震えていた。
無理じゃない。
本当だろうか。自分がこんな弱気ではだめなのに。
もしかしたら脱出は無理なのではないかと考える自分がいないわけではなかった。頭の片隅にはずっとその考えがあって、でも奏斗にはずっと生きていて欲しかったから、その考えは捨てていたのに。
奏斗が無理だっていったなら、もう...。
「......」
無性にムカついた。言ってしまえば僕は奏斗のために考えていたのだ。奏斗に死んで欲しくなかったから。
なのに!
「ばか...!奏斗のばか!なんでそんな事言うの!」
怒って立ち上がる僕に驚く奏斗は、僕がなにに起こったのか分からないだろう。
奏斗が無理だって言った理由なんて分かっている。
僕が頭の中で作った計画。
○みんなで脱出する計画!!
1. 研究所からでる
2. 警察に連絡する
3. 奏斗を病院に届ける
4. 警察官が研究所に到着!奴らを一人残らず倒してくれる!
そもそも、1の時点で無理なことだったのだ。
この施設を脱出するのは、不可能。最初から分かっていたこと。でも、夢を見たかった。
奏斗と二人で、普通の生活がしたかっただけなのだ。
でも、どんな手を使ったって、奴らに勝てはしない。
「ちょっと、唯斗。見られてるから...。」
焦ったように立ち上がる奏斗は僕を抑えようと必死だ。ガラスの向こうに訝しげにこちらを見つめる研究員を睨みながら。
でも、僕は止まらなかった。
「僕と奏斗はずっと一緒なの!死ぬときも一緒じゃなきゃだめなの!!」
だから、こんな場所から脱出したい。
「一緒だよら死ぬときも。だから唯斗、おちつい...」
「嘘だ!だって奏斗は、僕より先に死んじゃうんだよ!!」
怒りに任せた言葉は、どんな刃物よりも鋭く心を貫く。
死という言葉を聞いたとき、奏斗は時が止まったように動かなくなった。
そして、いつもの眉尻を下げて困ったような笑い方じゃない、彼の見た事のない表情に僕は息を飲んだ。
奏斗は自身の右耳に触れながら言った。
「....そんなこと、あるわけないじゃん」
無理やり笑った、顔。
「やだなぁ、もう。そんな物騒なこと言わないでよ。」
無理やり作ったような、声。
「俺は、まだまだ生きるよ?」
あぁ、奏斗は分かっていたんだ。
自分が、もうすぐ死ぬって。
「....唯斗、おいで」
僕の顔はきっと、ぐずぐずになっているだろう。それでも、奏斗の胸に飛び込んだ。
堪えていた涙が、奏斗を前にするととめどなく溢れてくる。
「......ごめんね、」
奏斗は、僕を強く抱きしめた。
奏斗もきっと怖かったのだろう。辛かったのだろう。
だんだんと弱っていく自分の体を見て、何も思わないわけがない。何をしていても、今死んでしまうかもしれないという恐怖が常に着いてきて、それでも誰にも言わずずっとずっと1人で、僕を不安にさせないようにって心の内に閉じ込めて。
「っ、...かなと、かなと...いかないでよぉ...。」
嗚咽をもらしながら言った声。
「...約束、守れなくてごめんね。」
ずっとそばにいる。
少なくとも、奏斗が死ぬまでは、ずっと一緒。
ここ数日改めて脱出を目的に生活する中で気づいたことがある。
それは、この施設、全くもって出口が見当たらない!
お風呂に行くときとか、トイレ行くときとか研究員さんに案内してもらってるけど、全く隙が見当たらない!
どこかに移動するときは前と後ろに一人ずつついて逃げる隙なんてないし、お風呂場やトイレには小さな窓はあるものの、格子状に塞がれていて人が入れる穴などはない。
もちろん、部屋にいるときは何をするにも見られて聞かれているため、何も出来ないのだ!
「唯斗?かわいい顔が台無しだぞ」
言いながら僕の眉間をぐるぐると人差し指で触ってくる奏斗の手を払い、再び腕を組んで塾考する。
一体、どうしたものか。
脱出する目処が立たなければ、計画が立てられない。
「何そんな難しい顔してるの。」
壁を壊すという手もあるが、その場合何を武器に壁を壊せばいいのか。イルリガードル台は細すぎるし、椅子は重くて上手く壁に命中しないだろう。
「またくだらないこと考えてるのかー?」
やっぱり、ガラスをイルリガードル台で壊して場外サヨナラホームラン!みたいな...
「ゆいとー」
「さっきからうるさい奏斗。」
僕のほっぺをむにむにといじっていた奏斗と手をバシッとはたいた。
「ごめんごめん。それで、何考えてたの?」
僕の座っている背後を陣取り、腰を抱えられ抱きしめてくる。
脱出のこと、やはり言うべきだろうか。
「...ねぇ、奏斗」
奏斗の僕を抱きしめる手が温かい。それをいじってそうだ!と、あることを思い付き手のひらを指でなぞった。
「...?」
奏斗はよく分かってないようだが、ちゃんと見てというように手のひらを弱く引っ張ってから、その細い手のひらに【だっしゅつ】と指でかいた。
ここなら、奏斗の上背に隠れてカメラでは捉えきれないだろう。
奏斗は内容を理解したのか、「だっ...」と口走る自分の口を塞いだ。
そして奏斗は自身の手に【まじ?】と書き、【まじ】と僕が書く。
【どうやって脱出するんだ?】
【いま決めてるの】
奏斗は少し考えるような素振りをした後、困ったように眉を下げて書いた。
【むりだよ】
その一言が書かれたとき、僕は奏斗の手をはたいた。
今日で一体、何回奏斗の手を叩いたのだろうか。
「...むりじゃない」
その声は酷く細く、震えていた。
無理じゃない。
本当だろうか。自分がこんな弱気ではだめなのに。
もしかしたら脱出は無理なのではないかと考える自分がいないわけではなかった。頭の片隅にはずっとその考えがあって、でも奏斗にはずっと生きていて欲しかったから、その考えは捨てていたのに。
奏斗が無理だっていったなら、もう...。
「......」
無性にムカついた。言ってしまえば僕は奏斗のために考えていたのだ。奏斗に死んで欲しくなかったから。
なのに!
「ばか...!奏斗のばか!なんでそんな事言うの!」
怒って立ち上がる僕に驚く奏斗は、僕がなにに起こったのか分からないだろう。
奏斗が無理だって言った理由なんて分かっている。
僕が頭の中で作った計画。
○みんなで脱出する計画!!
1. 研究所からでる
2. 警察に連絡する
3. 奏斗を病院に届ける
4. 警察官が研究所に到着!奴らを一人残らず倒してくれる!
そもそも、1の時点で無理なことだったのだ。
この施設を脱出するのは、不可能。最初から分かっていたこと。でも、夢を見たかった。
奏斗と二人で、普通の生活がしたかっただけなのだ。
でも、どんな手を使ったって、奴らに勝てはしない。
「ちょっと、唯斗。見られてるから...。」
焦ったように立ち上がる奏斗は僕を抑えようと必死だ。ガラスの向こうに訝しげにこちらを見つめる研究員を睨みながら。
でも、僕は止まらなかった。
「僕と奏斗はずっと一緒なの!死ぬときも一緒じゃなきゃだめなの!!」
だから、こんな場所から脱出したい。
「一緒だよら死ぬときも。だから唯斗、おちつい...」
「嘘だ!だって奏斗は、僕より先に死んじゃうんだよ!!」
怒りに任せた言葉は、どんな刃物よりも鋭く心を貫く。
死という言葉を聞いたとき、奏斗は時が止まったように動かなくなった。
そして、いつもの眉尻を下げて困ったような笑い方じゃない、彼の見た事のない表情に僕は息を飲んだ。
奏斗は自身の右耳に触れながら言った。
「....そんなこと、あるわけないじゃん」
無理やり笑った、顔。
「やだなぁ、もう。そんな物騒なこと言わないでよ。」
無理やり作ったような、声。
「俺は、まだまだ生きるよ?」
あぁ、奏斗は分かっていたんだ。
自分が、もうすぐ死ぬって。
「....唯斗、おいで」
僕の顔はきっと、ぐずぐずになっているだろう。それでも、奏斗の胸に飛び込んだ。
堪えていた涙が、奏斗を前にするととめどなく溢れてくる。
「......ごめんね、」
奏斗は、僕を強く抱きしめた。
奏斗もきっと怖かったのだろう。辛かったのだろう。
だんだんと弱っていく自分の体を見て、何も思わないわけがない。何をしていても、今死んでしまうかもしれないという恐怖が常に着いてきて、それでも誰にも言わずずっとずっと1人で、僕を不安にさせないようにって心の内に閉じ込めて。
「っ、...かなと、かなと...いかないでよぉ...。」
嗚咽をもらしながら言った声。
「...約束、守れなくてごめんね。」
ずっとそばにいる。
少なくとも、奏斗が死ぬまでは、ずっと一緒。
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