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第10章 花の祝祭

2. 来たるエンディングに向けて

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「それにしても、ローズと手合わせなんて久しぶりだなあ!」

 ラギーは学園内の訓練場に大の字になってにこにこ笑う。そうだね、とわたしもつられて笑いながら水分補給をする。
 エンディングが迫る今、何があってもいいように剣の特訓をしているのだ。とはいえ騎士団のトップクラスの成績を誇るラギーとは比べものにならないのだけど。ラギーは多少加減してくれているだろうがなんだかんだ楽しそうでわたしも嬉しくなってしまう。

「やっぱ、ローズは筋がいいんだよな。剣はたしかにしばらくやってなかったけど、ずっと筋トレはしてたし。さすがだな!」
「ありがとう、そんなふうに言われると照れちゃうな」
「いーや! そもそもあのときローズに会ってなかったら今俺騎士団に入ってなかったんじゃないかなって思うよ」

 だからケンソン? しないで、とラギーは言う。相変わらずちょっとお勉強ができないところは変わりない。ラギーがいうあのとき、とは初めて会った剣術訓練のことだろう。たしかにあの日ラギーは剣術に対して子供ながらの不安を教えてくれていた。今思えば軽い気持ちで参加したそれが、色んなひとの運命を変えていたのかと思うと申し訳なくなる。セオドアはもちろん、ラギーも。もしかしたらラギーとジルが仲良くなることもなかったかもしれない。
 そんなふうにしみじみ思っていると、「稽古ですか」と声がした。見ればセオドアがこちらに向かって少々遠いところから声をかけてきていた。

「あの、セオドア様、いつも言ってますが近づいてくれていいんですよ……?」
「いや、それはあなたに失礼ですから」

 セオドアは様付けもはずしてください、と要求する。彼はわたしに多大な期待をしているらしかった。だからといってそんなに自分を卑下することなどないのに。わたしはこほん、と咳払いをして「話しづらいので近づいてください」と言う。出来るだけ高慢な態度で。それを見てラギーは「放っておけばいいのに」と少し不機嫌そうに言う。ラギーとセオドアはおそらくシナリオでは仲が良いはずなのだ。自分のせいで仲良くなるきっかけを失ったに等しいのだから仲良くしてもらいたいけれど。
 ラギー曰く「わたしを困らせるようなひととは仲良くなりたくない」とのことだった。明確に否、というのはなかなかないことだったから驚いた。だけどセオドアを放って置いてまた面倒なことを起こされたら困る。いそいそと近づいてきたセオドアを見ながら「仲良くしてあげてよ」とラギーを嗜めた。

「稽古のお邪魔をしてしまって申し訳ございません……」
「謝らないでください。ちょうど休憩していたところですから。ね、ラギー」
「…………うん」

 セオドアはラギーの様子を見て少し気まずそうにした。セオドアとしては騎士団に入るラギーを尊敬しているようなので、まるでしょんぼりする大型犬に見えてしまって仕方がない。わたしから見たら可愛いワンちゃんが2人いるみたいに見えてしまったり。わたしはなんとかこの雰囲気を変えようと「2人で稽古してみてほしいです」と伝えた。

「ええ、ちょっとローズ……」

 嫌なんだけど、という目で見てきたラギーには気がつかないふりをしてわたしはそれらしく「見ていて学べることもあるから」と言ってみる。セオドアは乗り気でラギーを見る。一押しお願いすればラギーは渋々、と言ったように立ち上がった。

「言っておくけど、手加減はしないよ」
「は、はい! お願いします」

 剣を持って向かい合う2人を応援しながら見守る。そうこうして始まった稽古には苦笑いをしてしまう。ラギー、全力すぎる。セオドアは嬉しそうだけど。そうくすりと笑っていると。

「ああ、ローズさん。こんなところにいましたか」
「ウィルさん、こんにちは」

 訓練場を囲っていた金網の向こうからウィルが声をかけてきた。

「花の祝祭の頼まれていた件のことでお話がありまして」
「……早いですね!?」

 ウィルの言わんとしていることが分かりわたしは駆け寄っていく。ちらりと戦う2人を見て放って置いてもまあいいか、と思ったわたしはウィルと一緒に植物園に向かうことにした。


「これ、試作段階ですが……」
「…………か、可愛い」

 植物園でゆったりお茶を飲み一息ついたところで、ウィルはおずおずと頼んでいたものを差し出してきた。それは花の祝祭で身につけるアクセサリーだった。ドレスは伝統重視で王宮側が用意したものを着ることになっているのだが、せっかくならアクセサリーはウィルが育てたお花で作りたいと思ったのだ。
 その話をしたのは兄と一緒に当日の飾り付けや花を使った魔法での演出、その他諸々を頼みに行った2、3日前のことだ。わたしはウィルの仕事の早さに驚きつつアクセサリーを見る。
 それは、花冠。花冠といっても幼い頃作る簡単なものではなくて、編まれた花にキラキラしたビジューがあしらわれ、ベールが取り付けられたれっきとしたアクセサリーだ。

「ローズさんはやはりピンクがお似合いですので……ピンク色や白色のお花を中心に作ってみましたが……」
「もう、すっごく素敵です。こんなに早く作ってしまうなんてやっぱりウィルさんは器用ですね!」
「あ、ありがとうございます……!」

 これで試作だなんて信じられない。売り出せるレベルだ。
 ウィルはハロイベのドレスの時も思ったけれど、才能が豊かすぎる。もしかして売店で売っている虹色クッキーなんかも手作りなのでは……いや、それはないと信じてる。さすがサポートキャラ、と言うべきか。

「ローズさんが花の乙女として1番輝く日に、僕なんかの花冠をかぶって、みんなの前に出て頂けるなんて、これほど名誉なことはありません……!」

 ウィルが泣き出す勢いでそう言うので、わたしは慌ててウィルを宥めた。

「当日はウィルさんの育てたお花で町中がいっぱいになるんですから。たくさんのひとにウィルさんの綺麗なお花が見てもらえるなんて、わたしも嬉しいです!」

 わたしは花の祝祭のことを思い浮かべて笑みをこぼす。さぞかし綺麗なんだろうな。ウィルの才能が認められたらきっと町中でウィルの花が売れてしまって一気に有名人になってしまいそうだ。なんて伝えてみるとウィルは少し照れつつも「1番はローズさんなので、ローズさんにプレゼントしたあとでなら」と割と乗り気な返答をしてくれた。
 ウィルのお花屋さん構想を展開しつつわたしは花の祝祭の飾り付けについて話を進めていくのだった。
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