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第5章 不穏すぎる乙女ゲーム
5. 攻略対象大集合
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「ほんっとうにすみませんでしたー!!」
勢いよく頭を下げたのはラギーだ。わたしは別に何も怒っていないし、むしろ食堂のど真ん中でやらないでほしい。けれどもラギーはわたしの背後にいる2人の圧によって依然頭を下げたまま。
「お前がついていれば安心だったが……途中で眠るなんて」
「まだまだ鍛錬が足りないね、僕のローズの護衛をするのは100年早かったんじゃないかな?」
呆れているのはジル、にこやかで怖いのが兄ナインだ。2人はこの前のロスト退治の件で、ラギーが護衛中に寝てしまってそのまま帰ってくるという無責任な行為についてだいぶお冠のようだった。
一応レイとの一悶着は内密にすることとなったため言わないが、たぶんラギーもポーションのせいで眠ってしまっただけだと思う。だからラギーは何も悪くはないのだけれど。
「まあまあ、わたしはこうして無事ですし。あんまりラギーを責めないであげてください」
「ローズがそう言ってもね、僕は安心できないよ」
擁護はするものの、このように跳ね返されてしまう。わたしが花の乙女となってから一層過保護になったような気がする。わたしがいない3日間かなり落ち込んでいたと母が言っていたし、相当だ。
「……で、お前はラギーがいないなか2日間仕事をこなしてきたんだろ。レイ王子と一緒だったんだよな」
「ええ、まあそうですけど」
ジルはごにょごにょと口籠る。一緒にはいましたね、殺しかけるというかなりまずい感じではあったけれども。なんにせよ知られたら色々とまずいので「特に何も」と顔を背けた。
「濃厚な夜でしたよね」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、レイがにこやかに笑っている。何言ってくれてんだ、とかなり般若顔で睨みつける。
「誤解するような発言はやめてください」
「ふふ、事実でしょう?」
全然笑えない。ちらりとジルたちに視線を戻せば、軽蔑するような目を向けている。わたしに……いや、レイにだろうか。
ていうか、ヒロインを囲む攻略対象の図ではないか。修羅場でしかないのだが。どう逃げ出そうか、ことを荒立てないためには、と考えを巡らせている中、ジルに先手を打たれてしまった。
「前々から思ってはおりましたが、婚約のことについても断られ続けているのですから、そろそろ諦めてはいかがです?」
だいぶ喧嘩腰で攻めている。今はクラスメイトだけれど、これからも長く付き合うはずなのだからあまり事を荒立てるのは得策ではないと思うのだけど。ジルだってそれくらいわかっているだろうに。
「ああ、安心して。もう婚約を迫ったりしない。形ばかりのものでは意味はなさないからね」
どうやら諦めてくれたらしい。兄弟仲が良くなって、上辺だけの関係性はいらなくなったということだろうか。元々レイはわたしに殺してほしかっただけだと言っていた。それもどうかと思うが。この発言にシスコン兄なんかはだいぶ喜んでいると思ったけれど、なんだか神妙な顔をしている。ジルもなんだか不機嫌だ。わたしがその様子に首を傾げていると、レイがかがみ込んできて耳打ちしてきた。
「君のおかげで、兄とも仲良くやっています。君には命も、家族も救ってもらってしまいましたね」
耳がこそばゆい。顔を離したレイに、耳を押さえながら見上げると「ありがとう」と微笑んだ。それはやっぱり乙女ゲームの王子にふさわしい笑顔で、思わずときめきそうになる。
監禁イベントはおそらくもうないだろうし、婚約は諦めてくれたみたいだし、あまり注意しなくてもいい気もするけれど。それでも先日の事件がシナリオ通りなら、ここから執着が始まるのだろうか。そう思っていると、レイはみんなを一瞥してから去っていってしまった。そして視線を戻すと、皆揃いも揃って蔑みの表情を浮かべていたのだった。
久しぶりに今日は植物園に行く。ウキウキしながら高等部の中庭を突っ切っていた。すると、制服の裾がツンっと引っ張られた。振り返るとラギーが俯いて立っている。裾を引いている姿はなんともいえない可愛らしさがある。
「ごめん、俺、護衛だったのに」
「もう、気にしなくていいって言ったじゃない」
「でも」
騎士団にも入っているのに情けないと思っているのか、よほど堪えているらしかった。ナインやジルがあんなに寄ってたかって責めるから、わたしの癒しが落ち込んでいるじゃないの! その場にいない2人を責めつつ、わたしはラギーに「大丈夫」と笑いかける。
「あの場にもしラギーじゃない子がいたとしても、きっとあの場で眠っちゃったんじゃないかな……」
レイのポーションでね。心の中で言って乾いた笑みを浮かべると、ラギーはきょとんとしている。
「俺じゃない誰かを護衛につけてたらってこと?」
「そうだね」
「…………俺のこと、嫌いになった?」
どうしてそうなった。ラギーはしょげた顔でそう尋ねてくる。やっぱりラギーは最近かなり内向的、というかネガティブになった気がする。出会った頃はもっとハキハキ明るくて、誰とでも喋っていた気がするけれど。
「ううん、嫌いになんてならないよ。ラギーはわたしの大事な友達だからね」
そう言えば、ラギーは少しホッと胸を撫で下ろした。そのまま手をとって、「帰りの馬車まで送って行くよ」と言う。
「わたし、今日はこのあと用事があるの。だから、せっかくだけど、ごめんね」
「そっか。大丈夫! 俺もやることあるしね」
やることって何、と聞こうとしたけれどラギーはパッと手を離して手をぶんぶん振って駆けていってしまった。
勢いよく頭を下げたのはラギーだ。わたしは別に何も怒っていないし、むしろ食堂のど真ん中でやらないでほしい。けれどもラギーはわたしの背後にいる2人の圧によって依然頭を下げたまま。
「お前がついていれば安心だったが……途中で眠るなんて」
「まだまだ鍛錬が足りないね、僕のローズの護衛をするのは100年早かったんじゃないかな?」
呆れているのはジル、にこやかで怖いのが兄ナインだ。2人はこの前のロスト退治の件で、ラギーが護衛中に寝てしまってそのまま帰ってくるという無責任な行為についてだいぶお冠のようだった。
一応レイとの一悶着は内密にすることとなったため言わないが、たぶんラギーもポーションのせいで眠ってしまっただけだと思う。だからラギーは何も悪くはないのだけれど。
「まあまあ、わたしはこうして無事ですし。あんまりラギーを責めないであげてください」
「ローズがそう言ってもね、僕は安心できないよ」
擁護はするものの、このように跳ね返されてしまう。わたしが花の乙女となってから一層過保護になったような気がする。わたしがいない3日間かなり落ち込んでいたと母が言っていたし、相当だ。
「……で、お前はラギーがいないなか2日間仕事をこなしてきたんだろ。レイ王子と一緒だったんだよな」
「ええ、まあそうですけど」
ジルはごにょごにょと口籠る。一緒にはいましたね、殺しかけるというかなりまずい感じではあったけれども。なんにせよ知られたら色々とまずいので「特に何も」と顔を背けた。
「濃厚な夜でしたよね」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、レイがにこやかに笑っている。何言ってくれてんだ、とかなり般若顔で睨みつける。
「誤解するような発言はやめてください」
「ふふ、事実でしょう?」
全然笑えない。ちらりとジルたちに視線を戻せば、軽蔑するような目を向けている。わたしに……いや、レイにだろうか。
ていうか、ヒロインを囲む攻略対象の図ではないか。修羅場でしかないのだが。どう逃げ出そうか、ことを荒立てないためには、と考えを巡らせている中、ジルに先手を打たれてしまった。
「前々から思ってはおりましたが、婚約のことについても断られ続けているのですから、そろそろ諦めてはいかがです?」
だいぶ喧嘩腰で攻めている。今はクラスメイトだけれど、これからも長く付き合うはずなのだからあまり事を荒立てるのは得策ではないと思うのだけど。ジルだってそれくらいわかっているだろうに。
「ああ、安心して。もう婚約を迫ったりしない。形ばかりのものでは意味はなさないからね」
どうやら諦めてくれたらしい。兄弟仲が良くなって、上辺だけの関係性はいらなくなったということだろうか。元々レイはわたしに殺してほしかっただけだと言っていた。それもどうかと思うが。この発言にシスコン兄なんかはだいぶ喜んでいると思ったけれど、なんだか神妙な顔をしている。ジルもなんだか不機嫌だ。わたしがその様子に首を傾げていると、レイがかがみ込んできて耳打ちしてきた。
「君のおかげで、兄とも仲良くやっています。君には命も、家族も救ってもらってしまいましたね」
耳がこそばゆい。顔を離したレイに、耳を押さえながら見上げると「ありがとう」と微笑んだ。それはやっぱり乙女ゲームの王子にふさわしい笑顔で、思わずときめきそうになる。
監禁イベントはおそらくもうないだろうし、婚約は諦めてくれたみたいだし、あまり注意しなくてもいい気もするけれど。それでも先日の事件がシナリオ通りなら、ここから執着が始まるのだろうか。そう思っていると、レイはみんなを一瞥してから去っていってしまった。そして視線を戻すと、皆揃いも揃って蔑みの表情を浮かべていたのだった。
久しぶりに今日は植物園に行く。ウキウキしながら高等部の中庭を突っ切っていた。すると、制服の裾がツンっと引っ張られた。振り返るとラギーが俯いて立っている。裾を引いている姿はなんともいえない可愛らしさがある。
「ごめん、俺、護衛だったのに」
「もう、気にしなくていいって言ったじゃない」
「でも」
騎士団にも入っているのに情けないと思っているのか、よほど堪えているらしかった。ナインやジルがあんなに寄ってたかって責めるから、わたしの癒しが落ち込んでいるじゃないの! その場にいない2人を責めつつ、わたしはラギーに「大丈夫」と笑いかける。
「あの場にもしラギーじゃない子がいたとしても、きっとあの場で眠っちゃったんじゃないかな……」
レイのポーションでね。心の中で言って乾いた笑みを浮かべると、ラギーはきょとんとしている。
「俺じゃない誰かを護衛につけてたらってこと?」
「そうだね」
「…………俺のこと、嫌いになった?」
どうしてそうなった。ラギーはしょげた顔でそう尋ねてくる。やっぱりラギーは最近かなり内向的、というかネガティブになった気がする。出会った頃はもっとハキハキ明るくて、誰とでも喋っていた気がするけれど。
「ううん、嫌いになんてならないよ。ラギーはわたしの大事な友達だからね」
そう言えば、ラギーは少しホッと胸を撫で下ろした。そのまま手をとって、「帰りの馬車まで送って行くよ」と言う。
「わたし、今日はこのあと用事があるの。だから、せっかくだけど、ごめんね」
「そっか。大丈夫! 俺もやることあるしね」
やることって何、と聞こうとしたけれどラギーはパッと手を離して手をぶんぶん振って駆けていってしまった。
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