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第1章 執着逆ハーに備えて
Side ナイン・アメリア
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最近、ローズの様子がどこかおかしい。
僕は中庭で剣の素振りをする可愛い義妹を見つめていた。一生懸命剣を振るっている。あの持ち方では振りづらいだろうに。でも言ってあげない。これ以上、僕の元から離れていってほしくないから。
ローズ・アメリアが僕の義妹になったのは5歳の頃だった。
3人家族仲良く暮らしているのに、どうして他人の子の面倒を見ないといけないのだろう、と思った。初めて会ったとき、ローズは酷く萎縮していた。両親と離され、家は没落して、ひとりぼっちだ。無理もない。なんだか子鹿のようだと思った。義妹に対して抱いていた苛立ちは無くなった。たぶん、庇護欲みたいなものだと思う。
僕の後ろを追いかけてくる感じが可愛くて、笑いかけてくれるのが好きだった。7年も一緒に過ごしているうちに少しずつ、『ああ、ローズとは血が繋がっていないんだったなあ』と認識することが増えた。でもだからといって、関係性を変えようと思っていたわけではない。ローズが僕を兄として慕ってくれる限り、僕は良いお兄さんでいようと思っていた。
少し、その考えが変わったのはつい最近だ。
お淑やかで、可愛らしいものが好きな女の子だった。運動は苦手で、部屋で物語を読むのが好きな典型的なお嬢さまって感じで。だけど、今、義妹は日中は剣を振るって、夜は部屋に篭って物語ではなく魔法書を読み耽っている。
「最近変わったね」とかまをかけてみた。そうしたら案の定ローズはしどろもどろになった。たぶん、ローズは僕を避けるために剣術や魔法を学んでいるのだと思う。なぜだかは分からないし、どうしてその考えに至ったのかも分からないけど。
ああ、離れていこうとしているんだ、と思った。
ローズはずっと僕を兄として慕ってくれるものだと思っていた。だけど「血のつながっていない妹」は僕の元から簡単に離れていける。
簡単で当たり前のことだった。だけどそれがものすごく怖い。
「あーあ、直ってる」
数日後、見たらローズの剣の持ち方は直っていた。
たぶん最近できたという友達のどちらかが優しく教えてくれたのだと思う。そのときローズは一体どんなふうに対応したのだろう。
ローズの13歳の誕生日、ローズの魔法陣が滅多にない測定不能の白を表したとき、ほっとした。
これから学園で魔法を学んでいく上で自分の魔力量を知らないのは致命的なことだ。困ることも多いと思う。同じ一年生では対処できない。そうしたら友達に頼ることなく、きっと僕を頼ってくれるはず。それでも不安が消しきれなかった僕は生徒会長の立場を生かして学園の『風紀』を正したり、杖に細工をした。渡した杖の型版は僕が中等部始めの頃に使用していたものだ。杖は本人じゃないと作ることができないため、面倒だったが一手間加えることにした。
まさか、あの杖の型版に追跡魔法が付与してあるとは思わないだろうなあ。
でもこれで学園に入ってから、ローズの動向が分かる。もしどこかで困っていても助けてあげられる。立派な良いお兄さん、だ。
「ね、ローズ。明日から一緒に登校しようか」
目の前でお菓子を頬張る妹に笑いかける。最近の妹はお菓子をやたら美味しそうに食べる。とても笑顔で、幸せそうに。そんな妹の顔がわずかに歪む。
「あーっと……一緒に、ですか?」
「うん。何かまずい?」
「いいえ、そんなことないですけれど……ほら、おにいさまは生徒会長ですし、お忙しいのでは?」
理由をこじつけられているな。生徒会長をしているからって、妹と登校することが苦になるわけないのに。
「それに、おにいさまは女子生徒からも人気でしょうし。わたし、早々に目をつけられたくないですよ……」
もし、いじめのようなことがあったら……いや、それは僕が起こらないようにしたんだった。
「大丈夫だよ。それにローズは僕の妹なんだから、ご令嬢たちもその辺りは分かっていると思うよ」
にこりと笑えば、ローズはしぶしぶ、といった様子で頷いた。
これが強い兄妹愛なのか、それとも別の感情なのかはまだ分からない。僕が中等部に在籍している1年間でそれをはっきりさせようと思う。
僕はローズの頭を優しく撫でた。
僕は中庭で剣の素振りをする可愛い義妹を見つめていた。一生懸命剣を振るっている。あの持ち方では振りづらいだろうに。でも言ってあげない。これ以上、僕の元から離れていってほしくないから。
ローズ・アメリアが僕の義妹になったのは5歳の頃だった。
3人家族仲良く暮らしているのに、どうして他人の子の面倒を見ないといけないのだろう、と思った。初めて会ったとき、ローズは酷く萎縮していた。両親と離され、家は没落して、ひとりぼっちだ。無理もない。なんだか子鹿のようだと思った。義妹に対して抱いていた苛立ちは無くなった。たぶん、庇護欲みたいなものだと思う。
僕の後ろを追いかけてくる感じが可愛くて、笑いかけてくれるのが好きだった。7年も一緒に過ごしているうちに少しずつ、『ああ、ローズとは血が繋がっていないんだったなあ』と認識することが増えた。でもだからといって、関係性を変えようと思っていたわけではない。ローズが僕を兄として慕ってくれる限り、僕は良いお兄さんでいようと思っていた。
少し、その考えが変わったのはつい最近だ。
お淑やかで、可愛らしいものが好きな女の子だった。運動は苦手で、部屋で物語を読むのが好きな典型的なお嬢さまって感じで。だけど、今、義妹は日中は剣を振るって、夜は部屋に篭って物語ではなく魔法書を読み耽っている。
「最近変わったね」とかまをかけてみた。そうしたら案の定ローズはしどろもどろになった。たぶん、ローズは僕を避けるために剣術や魔法を学んでいるのだと思う。なぜだかは分からないし、どうしてその考えに至ったのかも分からないけど。
ああ、離れていこうとしているんだ、と思った。
ローズはずっと僕を兄として慕ってくれるものだと思っていた。だけど「血のつながっていない妹」は僕の元から簡単に離れていける。
簡単で当たり前のことだった。だけどそれがものすごく怖い。
「あーあ、直ってる」
数日後、見たらローズの剣の持ち方は直っていた。
たぶん最近できたという友達のどちらかが優しく教えてくれたのだと思う。そのときローズは一体どんなふうに対応したのだろう。
ローズの13歳の誕生日、ローズの魔法陣が滅多にない測定不能の白を表したとき、ほっとした。
これから学園で魔法を学んでいく上で自分の魔力量を知らないのは致命的なことだ。困ることも多いと思う。同じ一年生では対処できない。そうしたら友達に頼ることなく、きっと僕を頼ってくれるはず。それでも不安が消しきれなかった僕は生徒会長の立場を生かして学園の『風紀』を正したり、杖に細工をした。渡した杖の型版は僕が中等部始めの頃に使用していたものだ。杖は本人じゃないと作ることができないため、面倒だったが一手間加えることにした。
まさか、あの杖の型版に追跡魔法が付与してあるとは思わないだろうなあ。
でもこれで学園に入ってから、ローズの動向が分かる。もしどこかで困っていても助けてあげられる。立派な良いお兄さん、だ。
「ね、ローズ。明日から一緒に登校しようか」
目の前でお菓子を頬張る妹に笑いかける。最近の妹はお菓子をやたら美味しそうに食べる。とても笑顔で、幸せそうに。そんな妹の顔がわずかに歪む。
「あーっと……一緒に、ですか?」
「うん。何かまずい?」
「いいえ、そんなことないですけれど……ほら、おにいさまは生徒会長ですし、お忙しいのでは?」
理由をこじつけられているな。生徒会長をしているからって、妹と登校することが苦になるわけないのに。
「それに、おにいさまは女子生徒からも人気でしょうし。わたし、早々に目をつけられたくないですよ……」
もし、いじめのようなことがあったら……いや、それは僕が起こらないようにしたんだった。
「大丈夫だよ。それにローズは僕の妹なんだから、ご令嬢たちもその辺りは分かっていると思うよ」
にこりと笑えば、ローズはしぶしぶ、といった様子で頷いた。
これが強い兄妹愛なのか、それとも別の感情なのかはまだ分からない。僕が中等部に在籍している1年間でそれをはっきりさせようと思う。
僕はローズの頭を優しく撫でた。
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