上 下
8 / 66
第1章 執着逆ハーに備えて

Side ナイン・アメリア

しおりを挟む
 最近、ローズの様子がどこかおかしい。
 僕は中庭で剣の素振りをする可愛い義妹を見つめていた。一生懸命剣を振るっている。あの持ち方では振りづらいだろうに。でも言ってあげない。これ以上、僕の元から離れていってほしくないから。

 ローズ・アメリアが僕の義妹になったのは5歳の頃だった。
 3人家族仲良く暮らしているのに、どうして他人の子の面倒を見ないといけないのだろう、と思った。初めて会ったとき、ローズは酷く萎縮していた。両親と離され、家は没落して、ひとりぼっちだ。無理もない。なんだか子鹿のようだと思った。義妹に対して抱いていた苛立ちは無くなった。たぶん、庇護欲みたいなものだと思う。
 僕の後ろを追いかけてくる感じが可愛くて、笑いかけてくれるのが好きだった。7年も一緒に過ごしているうちに少しずつ、『ああ、ローズとは血が繋がっていないんだったなあ』と認識することが増えた。でもだからといって、関係性を変えようと思っていたわけではない。ローズが僕を兄として慕ってくれる限り、僕は良いお兄さんでいようと思っていた。

 少し、その考えが変わったのはつい最近だ。
 お淑やかで、可愛らしいものが好きな女の子だった。運動は苦手で、部屋で物語を読むのが好きな典型的なお嬢さまって感じで。だけど、今、義妹は日中は剣を振るって、夜は部屋に篭って物語ではなく魔法書を読み耽っている。
「最近変わったね」とかまをかけてみた。そうしたら案の定ローズはしどろもどろになった。たぶん、ローズは僕を避けるために剣術や魔法を学んでいるのだと思う。なぜだかは分からないし、どうしてその考えに至ったのかも分からないけど。
 ああ、離れていこうとしているんだ、と思った。
 ローズはずっと僕を兄として慕ってくれるものだと思っていた。だけど「血のつながっていない妹」は僕の元から簡単に離れていける。

 簡単で当たり前のことだった。だけどそれがものすごく怖い。


「あーあ、直ってる」

 数日後、見たらローズの剣の持ち方は直っていた。
 たぶん最近できたという友達のどちらかが優しく教えてくれたのだと思う。そのときローズは一体どんなふうに対応したのだろう。
 ローズの13歳の誕生日、ローズの魔法陣が滅多にない測定不能の白を表したとき、ほっとした。
 これから学園で魔法を学んでいく上で自分の魔力量を知らないのは致命的なことだ。困ることも多いと思う。同じ一年生では対処できない。そうしたら友達に頼ることなく、きっと僕を頼ってくれるはず。それでも不安が消しきれなかった僕は生徒会長の立場を生かして学園の『風紀』を正したり、杖に細工をした。渡した杖の型版は僕が中等部始めの頃に使用していたものだ。杖は本人じゃないと作ることができないため、面倒だったが一手間加えることにした。
 まさか、あの杖の型版に追跡魔法が付与してあるとは思わないだろうなあ。
 でもこれで学園に入ってから、ローズの動向が分かる。もしどこかで困っていても助けてあげられる。立派な良いお兄さん、だ。

「ね、ローズ。明日から一緒に登校しようか」

 目の前でお菓子を頬張る妹に笑いかける。最近の妹はお菓子をやたら美味しそうに食べる。とても笑顔で、幸せそうに。そんな妹の顔がわずかに歪む。

「あーっと……一緒に、ですか?」
「うん。何かまずい?」
「いいえ、そんなことないですけれど……ほら、おにいさまは生徒会長ですし、お忙しいのでは?」

 理由をこじつけられているな。生徒会長をしているからって、妹と登校することが苦になるわけないのに。

「それに、おにいさまは女子生徒からも人気でしょうし。わたし、早々に目をつけられたくないですよ……」

 もし、いじめのようなことがあったら……いや、それは僕が起こらないようにしたんだった。

「大丈夫だよ。それにローズは僕の妹なんだから、ご令嬢たちもその辺りは分かっていると思うよ」

 にこりと笑えば、ローズはしぶしぶ、といった様子で頷いた。
 これが強い兄妹愛なのか、それとも別の感情なのかはまだ分からない。僕が中等部に在籍している1年間でそれをはっきりさせようと思う。
 僕はローズの頭を優しく撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!

青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』 なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。 それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。 そしてその瞬間に前世を思い出した。 この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。 や、やばい……。 何故なら既にゲームは開始されている。 そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった! しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし! どうしよう、どうしよう……。 どうやったら生き延びる事ができる?! 何とか生き延びる為に頑張ります!

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで…… ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。 ※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。 完結感謝。後日続編投稿予定です。 ※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 表紙は、綾切なお先生にいただきました!

無理やり婚約したはずの王子さまに、なぜかめちゃくちゃ溺愛されています!

夕立悠理
恋愛
──はやく、この手の中に堕ちてきてくれたらいいのに。  第二王子のノルツに一目惚れをした公爵令嬢のリンカは、父親に頼み込み、無理矢理婚約を結ばせる。  その数年後。  リンカは、ノルツが自分の悪口を言っているのを聞いてしまう。  そこで初めて自分の傲慢さに気づいたリンカは、ノルツと婚約解消を試みる。けれど、なぜかリンカを嫌っているはずのノルツは急に溺愛してきて──!? ※小説家になろう様にも投稿しています

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

処理中です...