その輝きを失わないで

茶碗蒸し

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依存

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「只今戻りました、父上。」

黒塗りできらびやかな装飾が施された王室の最上段にある豪華な椅子に王が悠然と腰を下ろしている。横には正妃から順に何人もの側室が、さらに王の下に第2位からの王太子達、その下には貴族や文官達が控えていた。

「よくぞ戻った。」

「はっ!」

セルシウス達一行は王の言葉に膝を床につき頭を垂れた。ある一人の男を除いて…。

「貴様っ!!人質の分際でっ!!無礼にもほどがあるぞ!早く跪かぬかっ!」

一人突っ立ったままの青年に文官やら貴族やらが大声で罵声を浴びせる。だが青年はそれに動じることなく王を見据えた。鳴り止まぬ喧騒に王は鬱陶しげに目を細め、静まれとつぶやいた。たったその一言に場に静寂がもたらされる。王は憎悪を瞳に宿した青年に満足気に舌なめずりした。青年はローブを羽織っております顔までは見えないが…。

「よく来たな、紫輝」

「馴れ馴れしく俺の名を呼ぶな」

「貴様っ!またしても!」

「良い。こやつの多少の無礼は許す。」

「……」

パサッと青年は自身の顔を覆っていたベールを脱いだ。青年ー紫輝の顔が全貌を表した途端、王室内に息を呑む音が響き渡る。紫輝の容姿は神と言ってもいいほど美しい顔立ちをしていた。老若男女問わず虜にし、その頬を染めさせた。そして同時にこう思わせた。最強紫輝と。



「ふふ…ふ…はははははっ!セルシウスよ、全ての任務を遂行するのは無理だったようだが戦利品紫輝は手に入れられたようだな」



「同盟並びに条約締結まで不可能だと判断した結果、多少の無理はありましたが捕らえる方に切り替えさせて頂きました。」


「良い良い。お前は良くやった。」


黒妖国王ナタリア・オリバー。若い頃は王族としてではなく軍人として名を馳せた将軍である。紫灯国との戦いにおいてもその残虐性を危険視されていた。さらに紫灯国民である幼児を戦火に紛れて誘拐し、自分の所有物として幽閉する等、猟奇的な人物として紫輝は記憶していた。紫輝がまだ幼い頃ナタリアが幼児施設を狙ってきたのも覚えている。その頃から紫輝は特別だったため、多くの使用人達が紫輝と朱輝を庇って亡くなった。奥歯でぎりりと音を立てて歯ぎしりする。苦い思い出が紫輝の脳内を占拠する。


「そうだ。お前に見せたいものがあるんだ、」

ゲラゲラと笑い転げるナタリアは目に浮かんだ涙を吹きながら、側にいる武官に合図をした。紫輝は次の瞬間、目を見開いて固まった。眼の前に連れてこられた自分と同じ翼が生えた子供達。翼を鎖で繋がれ、口には猿ぐつわをされ、腕には手錠が、足には足枷が、当然のように自由は奪われていた。それだけじゃなかった。彼らは衣服が与えられておらず裸体だった。だがそんな生ぬるいものではないことを紫輝は嫌でも感じさせられた。


少年少女達の胸部には2つボディピアスが…突起に取り付けられている。これだけじゃなく口にするのもおぞましい玩具も…。当の本人達の瞳に意思はなく朦朧とした目でナタリアを見つめている。


「どうだ?お前のかつての同胞達の変貌っぷりは」


ー許せない…ゆ、るせ…ナイ

「捕らえてから随分と苦労させられたが今ではこの通り自ら快楽を求めて悦ぶだ」



ーもう良くないか?殺してもコロシテモ殺すコロス


「だが私が必要としていたのはこんなありふれたではないのだよ。お前のようなの代用品だ。やっと捕まってくれたねぇぇぇぇ」



ーおいでシヴァ神、あいつを殺そう?






きゃぁぁぁぁっ!






俺の頭は正常に考えられなくなってしまっていて、本能で動いた。そこには憎しみしかなく、その対象となるナタリアを殺すだけ。俺が呼んだ破壊神シヴァの能力で王都グラントフィリオンは豪雨に包まれた。その激しさに王室の窓ガラスは耐えきれずパリンパリンといともたやすく割れていく。突然の天候の変化に周囲は混乱に包まれた。その騒ぎ声に乗じて俺は自身の翼につけられている拘束具を力で剥ぎ取り、翼を開放する。走り出した俺を止めようと何人かの騎士やら呪術師が攻撃を放つ。それを翼で防ぎナタリアのもとへ飛ぶ。もう少しで攻撃が届く、とらえた、と思った瞬間。    




ドンッー






「がっ!……」



何らかの壁に阻まれて俺は攻撃ごと跳ね返った。


「なるほどな…俺達の力を解析し結界術を展開していたから、俺から逃げなかったんだな」



「はははっ!そうだ!ご明察!その通りだよ!」



無様に数メートルふっ飛ばされた俺をくすくすと何人かが嘲笑う。「情けない」「これが6代神なの?」「お気の毒」様々な声が耳に流れ込む。


「どうした?それが6代神最強かあっ?!弱くなったものだ…な?!!」
   

「誰が?」   



ナタリアの余裕はすぐに崩れ落ちた。形勢逆転である。結界に跳ね返されたと思っていた俺がナタリアの真後ろに立ちにこにこと微笑んでいるのだから驚くのも無理はない。夢でも見ているかのように目をぱちくりぱちくりと瞬かせ、声にならない音で何で?と疑問をとばしている。


「あは、生温いですねーほんと。俺はこの国の首都を壊滅に追い込んだ張本人ですよ??忘れてました?俺にとっては国を一国滅ぼすことくらい訳ないんですよー?」


「な、なぜっ!?結界がっ!!」


「あ、勘違いしないでくださいね。これくらいの結界、うちの国では幼児が普通にできて当たり前なんです。そんなものがトップの俺に効くわけないでしょう。」


「貴、様ぁぁっ!!」


「アンタなんて俺が殺すまでの価値ないですから」



結界の内に入り込んだ俺に怯え、ナタリア達は今度こそ逃げ惑った。俺はそんな中で呆然と状況を見つめる捕われた少年少女達に近づいた。


「カナタ、ルンジョン、千夏、ルンビ……」


一人一人の顔を見ながら彼らの名前をぽつりぽつりと呟く。だが自分の名前を呼ばれているのにも関わらず彼らは無反応だった。それでも…


「良かった…。これでシフォン達が安心できる」


彼らは数年前に誘拐された幼子達だった。シフォン…彼らの親は必死に自分の子供達を守ろうとした。中には亡くなってしまった人もいる。生き残った親もずっとずっと探し続けた。あらゆる情報網を使って。俺達も手は尽くしたけれど結局見つけることはできなかった。だけどここで見つけた。まだ幼い彼らの人生はこれからだ。こんなところで摘み取られていい命じゃない。


ーユイノア ピアヒ ダッカルン……

彼らの心と身体を癒やし、時を戻して記憶を目覚めさせよ。




彼らに触れて俺の気を送り込んでやる。この方法で正気に戻ってくれるのかわからないけれど。玩具やピアス、奴隷の証である入墨をなくし全てを無にしたまっさらな状態へ戻す。薬物投与によって歪んだ感覚を元に戻し、依存から脱させる。俺の気が彼らの周りを囲み淡く光っている。その光が収束して飛散した瞬間、彼らの目に光が灯った。


「なんで?!っしきさまがっここに?!」


「わたしたち生きてるの?」

 
「しきさまがたすけてくれたの?」


正気を取り戻した彼ら…カナタ達が俺の姿を確認した途端わあわぁと泣き喚きながら抱きついてきた。


「遅くなってごめんな。待っててくれてありがとう」


ぎゅううっと抱きしめながらもう大丈夫だって温もりで伝える。綺麗な命がそこに戻ったことに俺も安堵していた。


「お前の狙いは私の命だと思っていたのだが?」



束の間の和んだ時間はここでおしまい。カナタ達を後ろに下がらせて俺はゆっくり声がした方へ振り返った。そこには激怒したナタリアがぶるぶると震えてこちらを睨みつけている。

「俺の狙いは最初からこの子たちですよ。さっき結界に跳ね返された俺は貴方達…黒妖国が得意とする幻術です。守るべき俺の子供達がいるのに我を忘れて復讐にはしる愚か者だと思いましたか?」


「その玩具を元に戻した所で現状は何も変わらんぞ。私はまた、何度でもそいつらを躾ける。お前のしたことに意味はない」



「いいえ。例えお前に何度虐げられ辱められたとしても俺がこの子を何度でも何度でも治します。」



「ッ…おい、セルシウス!」


「!」


ナタリアの声に呼応するように先程まで傍観していたセルシウスが俺に向かって近づく。その背後にリーも控えている。こうなることはわかっていたので俺は渋々降伏のポーズとして両手を広げた。もちろんカナタ達みんなには防御と保護魔法をかけてから。単純な火力勝負なら俺は多分二人にも勝てると思う。だけど今の俺はセルシウスには勝てない。奴のもつ『』の能力を使われれば何もできない無能同然なのだ。


「早く躾を完了させろっ!」



「了解」


「おい、もう降伏してやってるだろ。普通に縄に捉えて連れてけよ」


『』さえ使わなければいいのだが、。そんな抗議も虚しく、、



『跪け』



「くっ!…、」



かくんと音を立てて膝から崩れ落ちる。対策する隙もなく一瞬で服従させられてしまう。急に地に這いつくばった俺に後のカナタ達が心配そうに騒ぎ立てる。「逃げて!」「俺たちのことはいいからあっ!」だって、。どこまでも優しい子達だ、ほんとに。俺は何とか彼らに大丈夫だって笑ってみせる。まあ、全然良い状況ではないけど。膝に力を入れてなんとか立ち上がろうとするも体が震える程度で全く力が入らない。


「ほう、どうやら上手く効いているようだな。ははは、見ろ。我らに忠義の姿勢をとっておるぞ。先程までの威勢はどうした?紫輝よ」


「……」


「はは、何も言えぬか。良い良い。ようやく私に従う気になったのだな」


「誰がっ!お前みたいな糞にっ…ぐぁっ!」


俺とナタリアが口論をしている間に、セルシウスが俺を拘束。這いつくばっているところを急に首を掴まれる。そのままぐっと上に持っていかれ、足がつかなくなる。気道が締め付けられ空気が入ってこない。セルシウスの腕を外そうと懸命にもがき爪をたてるが奴はびくともしなかった。


「はは、いずれそんな口も聞けなくなる。」


「うっ……あっ……」


「セルシウス、D-21を投与しろ。濃度は濃いままでかまわん。」


「承知しました。」


酸素の足りなさに視界が歪み前が見えなくなる。だけど奴らが何かの薬剤を俺に入れ込もうとしてるのはわかった。わかってるのに逃げ出せない俺。セルシウスは『力を抜け』と俺に命令して注射針を懐から取り出し、俺の首筋に突き立てた。容赦のないやり方に多少の痛みには動じない俺でもびくりと身体が反応する。



「やめっ!…ろ」



抵抗も虚しくすべての薬剤は俺の体内に押し込まれた。セルシウスは投与し終わった瞬間にぱっと俺の首を掴んでいた手を離したため俺は地面に倒れ込む。はぁはぁと呼吸を整える。だけど俺の呼吸はいつまでたっても荒いままだった。それどころか身体がかっと熱を持ち始める。

「何?」


ー疼く疼く疼くー


「媚薬だ」


「び?…やく?」


朦朧とし始める意識の中何とか正気を保とうともがくけれど熱を持った身体は何かを欲していてろくに動けなかった。ナタリアはセルシウスに今日中にステージ2へ進めとか何とか支持して部下を引き連れて去っていった。その時にカナタ達も引きずられるようにして連れて行かれた。


「しきっ!しきっ!」



俺を心配そうに見つめ必死に助けようと奴らに抵抗するカナタ達。


「ごめ…ん。絶対助け…るから…かな…た、るんじょ…ん……」






「少しは自分の身の心配をしたらどうだ?」




「助け…て。リアン。しゅ…き…ソンリェ…ン」



「聞こえてませんよセルシウス様」


「そのようだな。」


「まぁ、D-21を原液でいれましたからね。」


「こういったことに不慣れそうだ。今夜中にステージ2まで進めるのは余裕だろうな。…」


「…じゃあ部屋を手配しときます。」


シュンッと移動術を使いリーは姿を消した。



「りあん…いや…忘れたくな…いよ」


眼の前でリーとセルシウスが話している、その状況と内容もわかってるのに勝手に口が違うことを話す。そんな俺をセルシウスは抱きかかえ、何処かへ向かった。






    
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