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今日からここが君の家だよ

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「ふんふんふ~ん♪ ふ~んふ、ふんふ~ん♪」

   鼻歌を歌いながら、荷物をまとめるスピー。
   滞在期間はたったの六日間ではあったが、居心地の良いギルド宿舎の宿泊部屋は、かなり散らかっていた。
   ここへ来た時には、鞄にすっぽり入っていたはずの荷物達が、なかなか収まってくれない。
   でも、そんな事は、今のスピーには何の問題でもなかった。

「これから一年間、この魔法王国フーガの王都に住めて、更には毎日魔法が見られるなんて……、うぅ~ん♪ 僕はなんて幸せ者なんだ♪  やっふぅ~うっ!!」

   思わず、大きな声で独り言を言ったスピー。

「ふふ、ご機嫌さんねぇ~?」

   不意に声が聞こえて振り返ると、そこには同室のラナの姿があった。

「あ、ラナ! 聞いてよっ! 僕、決まったんだよ! 研修先っ!」

「ふふふ、おめでとう♪」

「ありがとう! ……あれ? 驚かないの?」

「だって……、さっきまで私、会議室に居たんだけど、外からスピーの声が聞こえて来たから」

「あ……、へへへ、そうだったのか~」

   ヘラヘラと照れ笑いするスピー。
   そして気付いた。
   ラナが、ギルド本部の会議室に居たという事は……?

「もっ!? ラナも!? 決まったの!?」

「えへへ~♪ ……うん♪」

「うわぁっ!? おめでとうっ!!」

「ありがとぉ~♪」

   スピーとラナは手を取り合って喜ぶ。

「南地区の雑貨屋さんなんだけど、店主のお婆様が昔薬師をやっていたって聞いて。行ってみたら、ちょうど店番を探していたみたい。お願いしたら、快く引き受けてくださったの。それで、仕事の合間に、お婆様が薬作りを教えてくれるって♪」

「おぉっ!? 良かったじゃないっ!! 僕もね、魔導師ギルドではないけれど、魔導師の職業資格を持っている人が保護者になってくれたんだ! だから、毎日魔法が見られるんだよぅっ!!」

「本当に!? じゃあ私たち、二人とも夢が叶ったのね!?」

「うん! 叶ったんだ!! わぁ~いっ!!!」

「あははは! やったぁ~!!」

   可愛らしいピグモルが、手を取り合って喜ぶ姿のなんと愛らしい事。
   スピーとラナは、しばらくの間、そうして互いの門出を祝ったのだった。





「遅くなってごめんなさ~い!」

   スピーとラナは、大きな荷物を手に、揃って宿舎を出た。
   宿舎の前には、オーラスとヒロト、ラナの担当者であるシリカというエルフ族の女と、保護者となってくれたのであろう、恰幅の良いとても優しそうな男性が待っていた。

「遅かったね。忘れ物はないかい?」

「はいっ! 大丈夫ですっ!」

「スピー、君の研修先となるヒロト様の家まで、今から僕も一緒に行くからね」

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」

   ヒロトとオーラスの言葉に対し、ワクワクとした気持ちを抑えられず、声が弾むスピー。
   すると、少し離れた場所にいるラナが、こう言った。

「スピー! また会おうねぇ~!!」

   スピーは満面の笑みで手を振る。

「うん~! またねぇ~!!」

   こうしてスピーは、ラナにしばしの別れを告げて、ヒロトとオーラスと共に、白薔薇の騎士団の宿舎を後にした。





   王宮のある中央地区を出て、スピー達がやって来たのは東地区だ。
   中央地区に比べると、一つ一つの建物の規模は小さくなるものの、きちんと整備された街並みが広がっていた。

   東地区の特徴は、狩猟師ハンターギルドや採集師コレクターギルドの本部が多数ある事だ。
   その理由は、王都を出て東側、つまりこの東地区より東側には、広大な山々が広がっており、新米の狩猟師や採集師の仕事場には打って付けの場所であるからだった。   

「スピー、今日からここが君の家だよ」

「うわぁあっ! 僕の家っ!? 凄ぉ~い……」

   スピーは思わず感嘆の声を上げた。
   『素材屋アルヨン』という看板を掲げる目の前の建物は、三階建の、白を基調としたパステルカラーの煉瓦造で、屋根はヒロトと同じく真っ黒だ。
   いくつもある窓には色ガラスがはめ込まれていて、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。

「立派なお店ですねぇ~」

   オーラスも、お世辞抜きにしてそう言った。

「まぁ、これを建てた当時は、お金は結構あったからね。今はないけど……、ははは」

   乾いた笑い方をするヒロト。
  
   東地区の端、最も山に近い場所に、ヒロトの家兼素材屋は存在していた。
   王都フゲッタには外壁が存在しない。
   その為に、三階建の建物が並ぶその裏には、既に森が広がっている。
   ヒロトの家、素材屋アルヨンの裏にも森が広がっており、そこも自分の土地なのだとヒロトは言った。

「いや~、当時はお金があったからね~。不動産屋の甘言に乗って、いろいろと買っちゃったよね~、はははは」

「いやしかし、素晴らしい。スピーにとっては、とても住みやすい環境だと思います。ピグモル族は本来、森の木々に囲まれた生活をしていますからね」

「お、そうなのかい?」

「はいっ! 木の上に家を造って暮らしています!!」

「そうかいそうかい。なら、暇な時は、いつでも裏の森で遊んでいいからね♪」

「わぁ~! ありがとうございますっ!!」

「それで……、今日はお店はお休みですか? もし良ければ、中を拝見させて頂きたいのですが」

「あぁ、構わないよ。どうぞどうぞ」

   ヒロトはローブの内側から鍵を取り出して、店の扉を開けた。
   ヒロトとオーラスに続いて、そわそわとしながら中に入るスピー。
   その視界の先に広がる光景に、息を飲んだ。

「これはまた……。なかなかに品揃えが豊富ですねぇ~!」

「そうかな? 王立ギルドの団員にそう言ってもらえると、なかなかに嬉しいよ」

   店の中は、天井がなく三階まで吹き抜けており、壁には巨大な作り付けの棚が設けられている。
   その棚には、数百……、いや、数千もの様々な種類の素材が並べられていて、想像以上に豊富な品揃えに、オーラスはとても驚いていた。

「個人営業だからね、大量発注には対応できないから、種類で勝負するしかないのさ」

「いや、それにしても……。あぁっ!? あれはもしかして、ミゾラール石ではっ!?」

   棚の上の方にある、黄緑色の透き通った石を指差して、オーラスが叫ぶ。

「おっと、あれに気付くとは……。さすが騎士団の幹部だね、お目が高い」

「どこで手に入れたんですっ!? 誰がっ!?」

「ははは、それはいくら何でも言えないよ。必要なら売るよ?」

「本当ですかっ!? いくらでっ!?」

「ん~、じゃあ~……。50000センスでどう?」

「五万っ!? 買いますっ!!」

「えぇっ!? ……もうちょい高値を言えば良かったかな、ははは」

   オーラスは、ここへ来た目的などすっかり忘れて、ヒロトに50000センスを支払い、満足気にミゾラール石を懐へしまった。

「いやぁ~、もう十年以上探していたものを、まさか王都内で見つけるとは……。また何かあった時は、真っ先にここへ来ますよ」

「ははは。その時までにはもう少し、最初の言い値を高く言えるように練習しておくよ」

「はっはっはっ! またまたご冗談を!」

   何やら、双方かなり上機嫌になっているが……
   二人とも、すっかりスピーの存在を忘れているようだ。

   当のスピーはというと、二人の会話を聞きながら、棚に並んでいる様々な素材を観察する事に夢中になっていた。
   今まで見た事のない、いろんな形、いろんな色、いろんな匂いがするそれらの素材に対し、とても強く興味を惹かれていた。
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