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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

285:異形な怪物の討伐を命じる!

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「妾は長ったらしい説明は苦手じゃ。志垣、代わりに話してたもれ」

   姫巫女様は、何やら面倒臭そうな素振りでシガキに命令した。

「承知仕りました。では……。順序立ててお話し致しましょう。本日の午前、姫巫女様は、雨乞いの儀を終えてお住まいに戻られる道中で、時の神の使者であるモッモ様と、過去、我らの救世主となられた琴子様に瓜二つのグレコ様、お二人のお姿をご覧になられました。その後、お住まいに戻られて間もなく、西の村の老齢会の者より伝令が届いたのです。なんでも、火の山の麓の泉に古の獣が現れて、泉守りの者が慌てて帰ってきたと……。それを受けて、西の村の首長雄丸は、戦闘団長の佐倉に戦士召集を命じたとか。そして自らは東の村へ、外者である御二方を伴って赴いた……。それ即ち、只ならぬ事態故、二十年前に起きた惨劇が今、再び起ころうとしているのではないか……、と我らは考えております。二十年前、我ら紫族を襲いしは、得体の知れぬ異形な怪物。戦闘に長ける我ら紫族の力を持ってしても、太刀打ち出来なかった相手。しかしながら、我らには持ち得ぬ力を、時の神の使者様はお持ちのはず……。と、いう事で、今に至るので御座います」

   姿勢を正して一気に話したシガキの言葉に、俺もグレコも、その内容を頭の中で整理する事でいっぱいいっぱいだ。

   だから……、えっとぉ……、んん?

「簡単な話じゃ。紫族の者共の手に負えぬ怪物を、そなたらで倒してたもれ。さすれば妾は、そなたらが求める琴子の遺産の在り処を教えて進ぜようぞ」

   うん、姫巫女様、とっても分かりやすい説明ありがとう。
   最初からあんたが話した方が早かったんじゃないかい?
   ……けどさ、その交換条件はちょっと、難しすぎやしないだろうか。

「その条件は飲めません。だって……、私もモッモも、さほど戦闘に長けてません。特にモッモは……、見ての通りです」

   おいっ! グレコっ!!
   見ての通りって何だよそれぇっ!??
   俺に対して失礼じゃないかぁっ!?!?

「何じゃと? 妾の要求が飲めぬと言うのかえ??」

   あからさまに、不機嫌な声色になる姫巫女様。

   あ……、そういや、確かネフェが、姫巫女様に対して「いいえ」って言ってはいけないって言ってたな。
   それってつまり、逆らっちゃ駄目って事だよね?
   ……逆鱗に触れたかしら??

「姫巫女様の要求が飲めないのではなくて、異形な怪物などと言う恐ろしい者を相手取って戦えるほど、私もモッモも強くないと言っているんです! 絶対に命を落とします!! 特にモッモは!!!」

   おおいっ! おいおいっ!! グレコぉっ!!?
   特にモッモは……、って強調するなぁっ!!!!
   確かに一発でやられるだろうけどもさぁあっ!!???

「ぬぬぬ……、ならば! そなたらの求める物は手に入らぬぞっ!? 良いのじゃなぁっ!??」

   大層ご立腹なされたらしい姫巫女様は、立ち上がって声を荒げた。

   やっぱりというか……、姫巫女様はとても背が低い。
   俺より頭一つ分大きいかな? くらいの背丈だ。
   物言いが古臭いし、周りの者に対してとても偉そうだから、年齢は分からないけれど……
   その見た目と声の高さのせいで、怒っていても全然怖くない。
   と言うか、ベンザとかシガキとか、ヤグサの方が断然怖いから、姫巫女様の怒り方は可愛らしくさえ見えてしまう。

   だがしかし、怒っておられる事は事実。
   このままだと、もし本当に姫巫女様の言うように、コニーデ火山の麓の洞窟が偽物だとしたら……、アーレイク・ピタラスの墓塔攻略の為の鍵が得られない。
   それは困る、すこぶる困るぞ。

   すると、グレコが思いついたようにこう言った。

「私たちの仲間を、ここへ呼んでも良いですか?」

   その言葉に、周りがざわつく。
   これまで、まるで飾り物のように一言も発せずに壁際に座っていた巫女守りの者達が、何やらヒソヒソと耳打ちし合っているのだ。

「仲間? まだ仲間が……、この近くにおるのかえ??」

「はい。おそらく……、ちょうど今頃は、ここより南の、コニーデ火山の麓に着いている頃かと。仲間が加勢してくれれば、異形な怪物というものを、なんとか出来るかも知れません」

   グレコの言葉に、巫女守り達は更にざわつく。
   まだ仲間がいたのか? まさか侵略?? 何かの罠か??? などなど……、かなり物騒な事を皆さん口走っていらっしゃる。

   いくら外部の者を嫌うとはいえ、酷い言い草だなまったく。
   こんな、文明も文化もほぼほぼ底辺な、何にも無い村を襲う物好きな奴なんて、そうそういないよ?
   しかも、そこに暮らしているのが野蛮な鬼族ときたら、襲うも何も……、逆に襲われる事を想定して、普通の者なら避けて通るような場所ですよここは??
   自分達に襲われるほどの価値があると、その理由があると、皆さん揃って思っておいでなのが逆に凄いですなっ!
   どんな自意識過剰やねぇ~んっ!!

   眉間に皺を寄せ、ヒソヒソ話をやめない巫女守り達を横目に見て、俺は心の中で悪態をついていた。

「なるほどのぉ……。そやつらもエルフかえ?」

「あ、いえ、種族はバラバラです。中にはエルフもいますが……」

「ふむ……。志垣、如何様に思う?」

   姫巫女様は、黙って話を聞いていたシガキに助言を求めた。
   すると途端に、他の巫女守り達がヒソヒソ話を止めて、辺りはシーンとなった。

「謹んで申し上げます、姫巫女様。我ら紫族の掟では、過度に外者と関わる事は禁じられております」

   至極当たり前だと言わんばかりに、シガキは言った。
   この言葉には、周りの巫女守り達が大きく頷く。
   けれど……

「しかしながら、仮にもし、近々あの恐ろしい異形な怪物が再び姿を現すとなれば……。かつての惨劇を繰り返さぬよう、外者の力を借りる事も致し方ないかと」

   と、シガキは付け加えた。
   その言葉を聞いて、衝撃を受けたらしい巫女守り達は、またヒソヒソ話を再開させた。

「うむ、妾もそう思う。もう、七日七晩踊り続けるなどという苦行は、金輪際ごめんじゃ……」

   ポツリと零す姫巫女様。

   ん? あれ??

   俺は、姫巫女様の言葉に違和感を覚えた。 

   姫巫女様って……、今目の前にいるあなたは、当時の姫巫女様とは別の人なんでしょ?
   ベンザは確か、当時の姫巫女様は亡くなって、代替わりしたって言っていたし……
   なのにこの姫巫女様、まるで自分が経験したみたいな物言いだな。

「しっ! しかし姫巫女様!! 外者を我らが村へ自ら招くというのは前代未聞ではっ!??」

「老齢会の者共が黙っておりませぬぞっ!」

「今一度、お考え直しをっ!!!」

   シガキ以外の巫女守り達が、口々にそんな事を言い始めた。
  
「静まれっ! 姫巫女様に口答えをするなど言語道断っ!!」

   額に青筋を立てながら、ヤグサが怒鳴る。

   ひぃっ!? やっぱり、このヤグサも相当怖いぞぉっ!??
   怒った顔が、シガキやベンザにそっくりぃっ!!!

「よし、決めたぞよ。妾は雨乞いの巫女の権限にて、時の神の使者モッモ、その守護者グレコ、この双方に異形な怪物の討伐を命じる! その方法は何でも良い。仲間を呼ぶなりなんなり、好きにしろ。兎に角、何が何でも、何処ぞより現れるであろう異形な怪物が、再び火の雨を振らさぬよう、仕留めるのじゃ!! さすれば妾は、琴子の遺産の在り処をそなたらに教えようぞっ!!!」

   ババーンッ! という効果音が付きそうな具合で、姫巫女様がそう言って……
   その言葉を最後に、この場はお開きとなった。

   ヤグサに抱えられ、部屋を後にする姫巫女様。
   続いて、シガキを先頭に、ゾロゾロと部屋を出て行く巫女守り達。
   俺とグレコをチラチラと見て、何か言いたそうにしながら……
   そんな彼らの視線を感じつつ、俺はグレコに問い掛ける。

「ねぇ、どうする気? 仲間を呼ぶって、ノリリア達をだよね??」

「そうよ。もうこれは、私とモッモだけの手に負える話じゃないでしょ? コトコの洞窟が偽物だったなんて……。早くノリリア達に知らせなきゃ」

「あ、そっか……、そうだったね。でも……。異形な怪物なんて、どうやって……? そもそも、本当に現れるかどうかもわかんないでしょ??」

「そこが大事なのよ!」

   ……どこが?

「現れるかも知れないという事は、今は現れてない。じゃあ、現れる前に、現れられないようにするのよ!」

「あらわれ、られられ? ……え、どうやって??」

「とりあえず、急いでベンザさんの所へ戻りましょう! 話はそれからよっ!!」

   何やら鼻息が荒くなってらっしゃいますが、勝算があるのでしょうねぇ? グレコさん??
   
   訝しげな目をグレコに向けつつ、姫巫女様の使用人の案内に従って、俺とグレコは姫巫女様のお住まいを後にした。
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