上 下
798 / 800
★パーラ・ドット大陸編★

785:死にたいの?

しおりを挟む
 ヒューーーーン…………、ポチャン。

 小さな雫が水面に落ちたかのような、小気味良い音が響く。
 しかしながら、落ちて来たのは雫ではなく、純白の尾鰭を持つ人魚。
 彼女は、長い髪と尾鰭を優雅に揺らめかせながら水中を移動して、人魚達の元へと向かった。

 び……、びっくりしたぁ~……
 いきなりあの高さからジャンプするんだもの、驚いたのなんのってもう……

 先程とは違う意味で、心臓がドキドキしてしまった俺は、両手を胸に当てて深く息を吐く。
 頭上遥か高いシャコ貝の開いた口のヘリから、飛び込み選手もビックリな、華麗なる飛び込みを彼女は披露したわけだが、もし自分があの高さから落ちてしまったら……、という良からぬ想像をして、俺は勝手にびびっていた。
 
「急にどうしたのよ? あの子……、何者なの??」

 グレコがこそこそと、俺に話し掛ける。
 それと同時にカービィが……

「なんだぁ? あのピラッピラな姉ちゃんは??」

 いつも通りヘラヘラしながら、彼女の事をそう言った。

「ふむ。あの者が、真なる人魚族の王であり、神の力を持つ者……。即ち、この世の全ての海を統べるという、【海王かいおう】なる者であろう」

 ギンロがそう言うと、グレコとカービィは驚いた顔をして、人魚達に囲まれている彼女に視線を向けた。

 おうん? カイオウ、とな??
 えっと……、それは………、何なの???

 人魚達は、先ほどまでとは明らかに違う畏まった様子で、彼女に対して深々と頭を下げている。
 人魚達の先頭にいる、さっきまで威圧的な態度でこちらに質問していたあのギョロ目の人魚ですら、恭しく頭を下げているではないか。
 彼女はかなり偉い人……、いや、偉い人魚なのであろう。
 つまり、ギンロの言う通り、彼女こそが本当の人魚族の王様、ということか?
 残念ながら、カイオウ、というものが何なのかは、俺にはよく分からないのだけど……

 ギョロ目の人魚は、その頭の上にあった冠を両手で取り、丁重に彼女へと差し出した。
 彼女は、差し出されたそれを、慣れた手つきで頭に乗せて、くるりとこちらを振り返った。

 なるほど……、彼女が被るとピッタリだな。
 最初から、あの冠は、ギョロ目の人魚が被るには小さ過ぎると思っていたんだ。

「カオス様の力を引き継ぎし者が、ようやく現れたと思って、わざわざ海外界マーレステルノまで来たっていうのに、もぉ………。とんだ無駄足だったわ!」

 冷たい視線を俺たちに向けながら、彼女はそう言い放った。
 見た目が美しく、周りの他の人魚に比べると体が小さく、お顔も可愛らしいので、さほど怖くは無い。
 けれども、神故の威圧感はあるので、俺はキュッと体を縮込めた。

 人魚達は数名で、後方何処からともなく、口の開いた大きな二枚貝を運んで来た。
 そして、その開いた二枚貝で、水に浮かぶ彼女をスーッと掬い上げたのだ。
 彼女は慣れた様子で、複数の人魚に支えられたその二枚貝の中にゆったりと収まり、先程のように尾鰭を靡かせる。
 その姿は正しく、玉座に鎮座する王そのものだった。

「慎んで、お尋ね申し上げます。貴方様は、人魚族の王、ひいては、この世界の海を束ねられているお方……。十二神王の一柱、海王様であらせられますのでしょうか?」

 グレコが、目一杯丁寧な物言いで、そう問い掛けた。
 シャンと伸びた背筋、真っ直ぐに前を見据える横顔は、とても頼もしく、且つ美しくて、俺は惚れ惚れしてしまう。
 加えて、めちゃくちゃ難しい言い回しを、噛まずに言えるなんて………
 あらせられます、なんて、俺には言えそうもないな。
 きっと舌を噛んじゃうよ……、うん、割とマジにね。

 凛としたグレコの問い掛けに、彼女の顔付きが少しばかり変化する。

「如何にも……。私は海王。この世界の全ての海を司る者であり、人魚族の王。名は流海るかい、覚えておきなさい」

 先程までとは打って変わって、威厳のある声色で、彼女はそう答えた。
 つまり彼女は、自分の事を、この世界に十二人いるという神王の一柱である海王だと、そう言ったのだ。

 なるほど、海を司るっていう意味の、海王なのね。
 つまり、海の王様って事なのね、ふむふむ……、って、え?
 それって、めっちゃ偉い人……、いやいや、偉い神様なんじゃないの??

 これまでの旅で俺は、いろんな神様に出会ってきたけれど、十二神王と呼ばれる神様に出会ったのは、光王レイアただ一人だ。
 世界に十二人存在するという神様の一人が、今、俺の目の前にいるこの美しい人魚だなんて…… 

 なんとも言えない表情で、純白の尾鰭を持つ人魚族の王、ルカイを見つめる俺。
 すると……

「畏れながら、女王陛下……。何処の誰とも知らぬ海外界の者共に、そう易々と御名を晒されては、余りに危険かと……」

 ギョロ目の人魚が、ボソボソっとそう忠告した。
 さっきから聞こえる、耳慣れない「マーレステルノ」という単語に、俺は軽く首を捻る。
 そして……

「うるっさいわねぇっ! あんた!! 誰に意見してんのっ!? 私の冠を少~し被ったくらいで、いい気になってんじゃないわよっ!!!」
 
 ひゃっ!? 急にめっちゃキレたぞっ!??

 まるで、瞬間湯沸かし器である。
 ルカイはギョロ目の人魚を、これでもか!というほどの見開いた目で睨み、恫喝した。
 見た目からして、どう見てもギョロ目の人魚の方が怖いのだが……
 ルカイの存在そのものから溢れ出る威圧感に気圧されて、ギョロ目の人魚は気不味そうに俯いたまま後ろに下がった。
 
(しかしまぁ、なんだ…… 誰とは言わないが、この物語、可愛い外見なのにお口が悪いとか、性格がキツイとか、歪んでる美少女キャラが渋滞してやしないか? 作者の趣味なのか、それとも………??)

「海王ルカイ様にお尋ねします。何故、今日……、貴方様のような方が、私達の前においで下さったのですか? 何か訳がおありなのですか??」

 グレコが至極丁寧に質問をする。
 するとルカイは、怖い顔をやめて、こちらに向き直った。
 そして……

「感じたのよ。カオス様の、力の波動をね……。時を同じくして、ここにいるフェイアが、海外界で時の神の使者と呼ばれる者と出会ったと言うものだから、もしかしてと思って……、こうしてわざわざ会いに来たのよ。でもまさか、こんなに小さくて、私の存在すら感知できない無力な生き物が、カオス様のお力を秘めしその神木を携えているなんてね……。あの時空神を名乗る坊やは、いったい何を考えているのかしら?」

 可愛いお顔を酷く歪ませて、皮肉たっぷりに、ルカイはそう言った。

 いろいろと、突っ込みどころ満載のセリフをお吐きになられているが……
 とりあえず、俺がディスられた事は忘れよう、いつもの事だ。
 それより何より、なんとルカイは、俺の直属の上司である(?)、かの有名な時の神クロノシア・レアの事を、坊や呼ばわりしたではないか!?
 未だかつて、時の神の事を坊や呼ばわりした不届者など、他にいただろうか!??
 …‥否っ! いないっ!! 

 これにはグレコも驚きを隠せないようで、目をまん丸にしてルカイを見つめている。
 すると今度は、カービィが……

「なはははっ! 顔に似合わず、粋の良い姉ちゃんだなぁっ!! おいら苦手~!!!」

 何故か大爆笑しながら、どう考えても言わない方がいい失礼な事を、大声で発言したではないか。
 これには俺のみならず、隣のグレコも、フェイアを含むルカイの周りにいる人魚達みんなも、ギョッとした顔つきになる。
 しかしながら、ルカイはピクリと眉根を動かしたものの、カービィに対して怒りを露わにする事は無いようだ。
 代わりに、先程から話しているグレコではなく、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
 
「フェイアから話を聞いていたから、ある程度は予想していたけれど、まさかここまでとはね……。あなた、名前はなんていったかしら?」

「え? あ……、モ、モッモ……、です」

 ルカイの問い掛けに、俺はモゴモゴと答えた。
 
「モッモ……。あなた、自分がどういう状況に置かれているか分かっていないみたいだから、私が教えてあげる」

 そう言うとルカイは、右手を前に出して、その人差し指を真っ直ぐにこちらに向けた。
 その指がさしているものは、俺……、ではなく、俺の腰のベルトに引っかかっている、例のあの木の棒だ。
 俺が、故郷であるテトーンの樹の村を旅立つ際に、長老から授かった、一見すると普通の、どこにでもあるようなただの木の棒。
 だけど本当は、【命の樹の枝】という名前だったり、【自由の剣】と呼ばれたり、はたまた【万呪の枝】なんていう物騒な名前までついている、あれだ。

「あなたが持っているその神木……、その昔、カオス様がお使いになられていたその力はね、命を削る諸刃の刃なの。カオス様ですら、その力を使った事によって、その御身を痛められ、永き眠りにつかれたのだと、先代の海王から伝え聞いているわ。つまり、何が言いたいのかというとね……。あなたのような、何の力も無い小さな生き物が、面白半分で振り回してもいいものではないのよ。あなた、まさかとは思うけど……、死にたいの?」

 ルカイは、呆れた様に、半笑いでそう言った。
 その言葉の意味を、俺がすぐさま理解出来るわけもなく……

 えっと……、え?
 何が??
 これを、使っていると……???
 え???? 
 俺、死んじゃうの?????

 しばしの沈黙の後、嫌~な汗が、背中を伝っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転移は定員オーバーらしいです

家具屋ふふみに
ファンタジー
ある日、転校した学校で自己紹介を行い、席に着こうとしたら突如光に飲まれ目を閉じた。 そして目を開けるとそこは白いような灰色のような空間で…土下座した人らしき物がいて…? どうやら神様が定員を間違えたせいで元の世界に戻れず、かと言って転移先にもそのままではいけないらしく……? 帰れないのなら、こっちで自由に生きてやる! 地球では容姿で色々あって虐められてたけど、こっちなら虐められることもない!…はず! え?他の召喚組?……まぁ大丈夫でしょ! そんなこんなで少女?は健気に自由に異世界を生きる! ………でもさぁ。『龍』はないでしょうよ… ほのぼの書いていきますので、ゆっくり目の更新になると思います。長い目で見ていただけると嬉しいです。 小説家になろう様でも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...