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★ピタラス諸島第一、イゲンザ島編★

229:ローシ・マオス

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「じゃあまぁ、とりあえずポ……。明日の朝、長老に話を聞いてから、ここを発つことにするポね。里から追い出さずにいてくれた事には感謝しないといけないポ」

 と、言う事で……
 俺たちは明日、話があると言っていたモゴ族の長老と会った後に、ここを発つ事とした。

 ノリリアによると、この大空洞の先には東へと向かう洞窟が続いているはずだから、マンチニールの森の中を行くよりかは安全に進めるだろうとの事だ。
 洞窟を抜けた先にはまだ森が広がっているかも知れないが、その時はもう、有毒植物生物に気をつけながら進むしかないと……
 ただ、故意にこちらを襲ってくるような肉食魔物などはこの森にはいないとの事だったので、よほどの事がない限り、明日の夜までにはイゲンザの神殿へ到達でき、分かれてしまったグレコや北ルートを進んでいるアイビーグループのみんなとも合流できるだろう、との事だった。

「それにしても……、ちょっぴり拍子抜けしたかなぁ……」

 三人分の毛布を鞄から取り出し、眠る準備をしながら、俺はポツリと零した。

「何がポ?」

「いやほら……、カービィがさ、この洞窟には恐ろしい魔物が住んでいるって言っていたから……。ほら、船が遭難して、なんとか助かったのに、有尾人のせいで酷い目に遭った人の話を聞いたんだよ。だからここには、てっきりもっと大きな、狂暴な肉食魔獣でも住んでいるのかと思っていたんだけど……。まさか、あんなに可愛い植物魔物達がいただなんてね」

   モゴ族達の可愛らしい外見と、先ほどの逃げ惑う姿を思い出して、妙にニヤニヤしてしまう俺。
   今までは、どんな場面でも逃げ惑うのは自分だったから……
 こんな俺を見て、逃げ惑ってくれる種族がいただなんて……
   なんていうか……、初めて感じるな、こういう優越感、ふふん♪

「ポポポ、カービィちゃん……、まためちゃくちゃな事言ったポね……。恐らくそれは、ローシ・マオスの虚言を鵜呑みにいしているポ。八年前に起きたその事件は、フーガでも毎日新聞に取り上げられるほどの注目を浴びたポよ。ローシの言葉一つ一つを、学会が全国民に公表して……。だけど、結局のところ全て、ローシの虚言であったと学会は結論付けたポ」

   ほほう、先ほどのカービィの怖~いお話の主人公は、ローシ・マオスという方なのですね。

「その、ローシ・マオスとやらも、我らと同じように、この洞窟に入ったのか?」

「本人はそう言っていたポね。だけどローシは、船の難破と仲間を失ったショックで心身喪失に陥ったと、学会は発表したポ。でも、もしかすると……。ローシは、さっきまでのカービィちゃんと同じで、偶然出会った有尾人達に毒を盛られた可能性もあるポ。それで幻覚を見て……。まぁ、彼が言っていた事が全て、真実だとは限らないポが……」

「そのローシって人、研究施設に軟禁されて、いろいろ話を聞かれたんでしょ? 全国民に公表までされたって……。なのに、誰もその話を信じなかったって事??」

「ポポ……。ローシは帰国後、意味不明な言動ばかりしていたポね。その中にはもちろん、真実も含まれていたのかも知れないポが……、誰も信じなかったポ。今考えるとあれは、きっと何かの中毒症状だったのポね。マンチニールの森に生息する有毒植物生物の恐ろしいところは、致死性はないものの、一度口にすれば、解毒作用がある物を口にしない限り、ずっと症状が続く事ポね」

「……命からがら国へと帰り、誰にも話を信じてもらえなかったとなれば、さぞ胸の内は苦しかったであろうな」

「そうポね……。だけどモッモちゃんに聞いた限りでは、カービィちゃんも相当おかしくなっていたのポ? ローシには気の毒だったポが……。正直、そんな状態で帰って来られれば、みんな話をまともに聞かなくても普通ポね」

 まぁ、確かにそうだよな。
 カービィがお尻を壁に擦りつけている姿なんてもう、見るに堪えなかったわけだし……
 あれを見て、毒にやられているって即座に気付ける者なんて少ないだろう。
 俺だって、どっかで頭打ったなこいつ、くらいにしか思わなかったからね。

「ローシは時間感覚も失っていたポ。船が行方不明になってから一週間しか経っていないポに、自分は一か月間洞窟を彷徨っていた、とか供述してた記録が残っているポね。さすがに、誰が見ても、精神を病んだようにしか見えなかったのポよ~」

 ふむ、つまり……、この洞窟を彷徨っていた実際の期間は一週間で、一か月彷徨っていたっていうのはローシの妄想だったわけか……
 カービィの奴め、教えてくれた事が尽く真実と違っているじゃねぇかよおい。

「……ここから一週間でアンロークへ戻れるのか? 我は、アンロークまでの距離など到底知らぬが、とても一週間で帰る事が出来るとは思えぬのだが」

 ……ギンロにしては、いいとこついてくるね。
 俺も、それに関しては疑問に思っていたんだ。
 確かカービィは、なんとかペンダントを使って~、とか言っていたけど……、もしかしてそれも適当な事言っていただけか?

「フーガの王立ギルドに所属する者は皆、この星雲のペンダントを授与されるポ」

 そう言ってノリリアは、首から下げている土星のような形をしたペンダントを手に取って、俺たちに見せた。
 土星は、その中に七色の光を宿しており、輪っかの部分は独りでにゆっくりと回転している。
 カービィも同じものを首から下げているし、確か、白薔薇の騎士団の皆さんも持っていたはずだ。

「これは、フーガの王都に存在する、【星雲の光玉】と呼ばれる巨大な魔力蓄積装置と繋がっているんだポ。ペンダントの魔力を解き放つと、どんなに離れた場所にいても、光玉の所まで帰る事ができる魔道具なのポね。けどまぁ、空間移動魔法とは少し違っていて、一方通行しかできないポね。一度に移動可能な積載量も上限があるポし……。真っ直ぐ国に戻りたい時か、あるいはよっぽどの緊急時にしか使わないポよ」

 ふむふむ、つまり……、俺の導きの腕輪が、ちょっと不便になった感じかな?
 俺の腕輪は、導きの石碑さえ立てておけば元の場所にも戻れるし、決して一方通行なんかじゃないもんね!
 なんだかちょっと、これまた優越感だな、ふふふん♪

 けど、これで謎が解けたぞ。
 ノリリア達は、パーラ・ドット大陸へは行かないと言っていたから、どうやって帰るのだろうと不思議に思っていたのだけれど……
 きっとその星雲のペンダントを使って、ここから真っ直ぐ、フーガまで帰るつもりなのだろうな。

「なるほど……。しかし今回の事で、ローシ殿の話は真実であったと明らかになったな。我らが猿共に襲われたのは、紛れもない事実である故」

「そうポね……。今回は目撃者が多数いるポから、フーガへ帰ったら、有尾人に対する危険度の見直しを学会に進言しておくポ。デスゲームなんていう恐ろしい事を行っている以上、それが今回のみとはかぎらないポ。ローシも同じ目に遭った被害者かも知れないポね。それに……、あたちにこんな大怪我を負わせたのポ。短剣を投げつけてきた奴の顔はハッキリと覚えているポね。次に会ったらただじゃおかないポよ~」

 おぉっ……、怖いお顔だこと……
 ノリリアでも、そんな風に怒ったりするのね……

 メラメラと闘志を燃やすノリリアの目に、俺はちょっぴりビビってしまった。

「とは言っても、こんな辺境の地にやってくるのは、よっぽど物好きな冒険家か、あたち達みたいな研究者だけだポ。危険度の見直しをしたところで、何かの役に立つとも思えないポが……。けれどもしかしたら、ローシへの聞き取りは再度行われるかも知れないポね。彼の名誉にも関わる事ポから……。まぁローシの事だポ、そんなの全然気にしてないと思うポがね~」

 ……え? あれ??

「その、ローシ・マオスって人……、生きてるの?」

「ポ? 生きているポよ??」

「なんっ!??」

 マジかっ!? え……、ちょっと待て待て。
 カービィこの野郎っ!!
 ローシは、軟禁されていた部屋で頭カチ割って自害した、とか言ってなかったかっ!??

 隣でスースーと寝息を立てるカービィを、俺はキッ! と睨みつけた。

「……死んだって聞いていたポか?」

「うんっ! カービィからねっ!!」

 またまたいい加減な事を教えられていたという事と、先ほど思いっ切りびびらされた事を思い出して腹が立ち、ノリリアに対する返事の語尾が少々きつくなってしまう俺。

 くっそぉおぉ……、カービィめぇ~……

「ポポポ……、ごめんねモッモちゃん、カービィちゃんが適当な事を言ったばっかりに……」

「え……、あっ! いやっ!! ノリリアが悪いんじゃないから、ね!!!」

 ちょっぴり悲しげな表情になったノリリアに対し、俺はアセアセする。

「カービィちゃんはこう、何にでも興味を持って調べたり、新しい事を試したりするのはいいんだポが、なかなかにキッチリしていないポね……。頭の中で情報がごっちゃになっているんだポよ。確かにローシは、軟禁状態に嫌気が差して、自分の頭を真っ二つに割ろうとしたポが……。一命を取り留めて今も生きているポ。というか、その体験を面白可笑しく書いて、自伝として出版しているような奴ポから、元々頭がおかしいポね。あ……、もしかしてカービィちゃん、その自伝を鵜呑みにしているのかも知れないポね!」

 わぉ……、なんてこった……
 頭おかしい奴が、頭おかしい奴の書いた本を読んで、その内容を鵜呑みにしているって事か?
 なんかもう、どこをどう突っ込んでいいやらわからんわ!

 てか、本当に頭カチ割っていたとは……、ローシって奴も大概だなおい。
 そりゃ、誰にも話を信じて貰えなくても納得だわ、うんうん。
 結局俺は、この数時間、頭のおかしいローシと、そいつの自伝とやらを信じていたカービィに振り回されていたわけか……

 ふ~っと大きく息を吐いて、隣で眠るカービィを、俺は細い目で睨んだ。

「ま、まぁまぁ、とにかくポ……。もう夜も遅いポね、明日の為にも、もう寝た方がいいポ」

 ノリリアに促されて、俺は諦めたかのように毛布にくるまった。
 魔道具であろう照明具の明かりをそっと消して、ノリリアも毛布にくるまる。
 ギンロは、膝の上に毛布を掛けて、座禅を組んだままの格好で静かに目を閉じた。

 ふぅ……、それにしても、大変な一日だったな……
 明日からもきっと、大変なんだろうな……
 先が思いやられるぜっ!

 心の中でそんな事を思いながら、俺はゆっくりと瞼を下ろした。

 こうして、ピタラス諸島の冒険第一日目は、無事に幕を閉じたのであった。
 
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