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★港町ジャネスコ編★

186:くすぐりの刑

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「ほらぁ!  ザサークがしつこいから、客人に勘違いされたじゃないかぁ!?」

   黄緑色の肌と三つの黒い角以外は、ほぼほぼ人間の子供と変わらない少女が、ザサークの膝の上から飛び降りてそう言った。
   服装はタンクトップに短パンとかなりラフで、ともすれば男の子に間違えてしまいそうだが、声の感じやふとした仕草を見る限りでは女の子で間違いないだろう。

「何がだっ!?  てめぇら誰だって聞いてんだっ!??  ノックもなしに俺様の部屋に入るとはいい度胸だなぁおいっ!!!」

   全身の鱗を黒光りさせて、ザサークが立ち上がる。
   小汚いランニングシャツに、ダボっとしたズボン。
   しかし、肩に引っ掛けている赤く長い上着はちゃんとした感じのもので、どことなく船長感が漂っている。

   そんなザサークの怒号を受けて、俺はササッとギンロの後ろに隠れた。

   俺が太刀打ちできる相手ではなさそうだから、君たちなんとかしてくれたまえ。
   特にカービィ君、君のせいでこうなっているんだから……、なんとかしてくれたまえ。

「あ~っと……、この商船に乗せてもらいたくて、直談判に来ました!」

   ……うん、正直なのはいい事だよカービィ君。
   けどさ、もうちょっと説明の仕方ってものがあるじゃない?
   何をしていたかは知らないけれど、何かの最中だった事は事実で、それを中断させてしまったわけだから、謝罪の言葉を言うのが先決ではないかな??

「あぁっ!?  んなもん知るかぁっ!!  誰だって聞いてんだよこらぁっ!!!」

   ひぃいぃぃっ!?  怖いっ!  怖すぎるぅっ!!
   こんな人が船長の船に乗るだなんて、ヤダヤダ、無理無理無理!!!

「あっ!  ザサーク!!  ほら、この人カービィだよ!!!   虹の魔導師カービィ!!!!!」

   黄緑色の肌の少女が、興奮気味にカービィを指差す。

「何っ!?   本当かてめぇっ!??」

   ザサークの声色が、少しばかり変わった。

「ん、おいらは虹の魔導師カービィだっ!!!」

   両腰に手を当てて、偉そうに胸を張るカービィ。
   その姿に、ザサークと少女の目がキラキラと輝いた。

   ……いったい、何だって言うんだよおい。





「いやぁ~、まさか虹の魔導師カービィさんだとはつゆ知らず……。すまねぇな、怒鳴ったりしてよ」

   ニコニコと笑いながら、船長椅子にゆったりと腰掛けるザサーク。

「いやぁ~、おいらも悪かったさ。てっきりお取り込み中かと思って……。興味本位で勢い余って入っちまったんだ。悪かった!」

   ヘラヘラと笑いながら、ソファーに寄りかかるカービィ。

「お取り込み中って、てめぇ……、あんなガキンチョ相手に俺様が欲情するわけねぇだろうが?  俺様はこう、はち切れんばかりのムチムチボディーがお好みだぜぇ」

「ははははっ!  おいらもそっちの方が好みだっ!!」

「ギャハハハッ!  虹の魔導師が俺様と同じ趣向とは、光栄だぜっ!!」

   大きな声を出して、笑い合うカービィとザサーク。

   ……何だろうな、馬があってるのかこの二人は?

   ソファーにちょこんと腰掛けて、ザサークとカービィのやり取りを眺める俺たち三人。
   黄緑色の肌の少女に勧められるままに、船長室の大きなソファーに座っているわけだが……
   この二人の会話には混ざりたくない……、きっと三人共そう思っているはずだ、誰も声を出さないでいる。

「お待たせしました~」

   船長室の扉が開いて、先程の少女が入ってきた。
   手にはコーヒーカップのようなものが四つ乗ったお盆を持って、俺たちにそれを配ってくれた。
   中には温かい飲み物が入っている。

「おう、ライラ。俺様の分はどうした?」

   少女の事を、ザサークはライラと呼んだ。

「ザサークの分はないよ!  俺をくすぐりまくった罰だっ!!」

   俺って……、女の子じゃないのだろうか?
   そして、さっきの悲鳴は、くすぐられていたからだったのか。
   良かった、もっと大人なアレを想像していたもんだから……
   
「てめぇっ!?  それはてめぇが訳わかんねぇ事をぬかしたからだろうがぁっ!??」

「新しい服が欲しいって言うののどこが訳わかんねぇのさぁっ!?」

   おぉ?  なんだなんだ、喧嘩かぁ??

「欲しがる服がおかしいからだろうがっ!?  何だってまたあんなフリフリしたもん欲しがるんだっ!??」

「悪いかよっ!?  俺だってな、お洒落したい年頃なんだよぉっ!!」

「お洒落だぁ~?  んなもん、言葉遣いを直してからにするこったなぁっ!!  自分の事を俺なんて言う女がどこにいるってんだぁっ!??」

「うるせぇっ!  こうでもしないと、野郎共に示しがつかねぇんだよぉっ!!」

「馬鹿かっ!  男のフリしたっててめぇは女だろうがっ!!  女なら女らしく、しおらしくしてやがれってんだ!!!」

「だったら!  あの服買ってくれりゃいいじゃねぇかっ!?  あれを着りゃ、俺だってちっとは女らしくしてやるよっ!!!」

「ばっ!?  てめぇあんなもん着て船に乗る気かぁっ!??  それこそ野朗共が色めき立つだろうがっ!???  そんな事はこの俺様が許さねぇぞっ!!!!!」

「だから……、てめぇと話したって堂々巡りなんだよっ!  この、馬鹿ザサーク!!」

「なっ!?  親父に向かって馬鹿とはなんだぁっ!!?」

「馬鹿は馬鹿だっ!  何度でも言ってやるよ!!  馬鹿ザサーク!!!」

「てっめぇ~……。もう一度くすぐりの刑だぁっ!!!!!」

「ぎゃあっ!?  やめっ!!?  やめろぉっ!!??」

   あ~、あ~なるほど、こういう事か……

   突如として始まった罵声の応酬と、くすぐりの刑を目の当たりにして、先程扉の外で聞いていた声の正体がようやく理解出来た。
   そして、どうやら俺たちの存在を忘れてしまっているザサークとライラを、俺たち四人は、事が収束するまで黙って見守るしかないようだ。

   う~ん、何だろうな……
   先行きが非常に不安になってきたぞこれは……
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