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★港町ジャネスコ編★

157:すやぁ~

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「あっ!  モッモさん!!  お帰りなさい、皆さん心配されていたよ」

   港町ジャネスコの、東門の門衛である犬型獣人のおじさんが、俺の姿を見てそう言った。
   その口振りから、どうやらみんなここまで探しに来てくれたらしい。

「す、すみません、遅くなって……」

   彼に謝る必要は決して無いのだが、もはや俺は謝罪モードなのである。  
   この先に待つ、尋問と言う名のグレコの説教に耐える為に……

「いえいえ。さ、中にお入りになって。夜は肉食の魔物が活発になるので、危ないからね」

   ニッコリと笑って、特に身分証明書を確認する事もなく、鉄門を開けてくれるおじさん。
  
「ありがとうございます!  さよならっ!!」

「お気をつけて~」

   ぺこりと頭を下げて、くるりと向きを変え、東大通りをダッシュする。

   急げっ!  急げっ!! 
   一秒でも早く帰らないとぉっ!!!

   東大通りは、昼間の賑わいが嘘かのように、獣人や人の行き交いが少ない。
   街灯には既に火が灯っており、建物の窓からは柔らかな明かりが漏れている。
   たぶん、御飯時なのだろうな、良い匂いがそこかしこから漂ってくる。

   昼間と同様の、いや、それ以上に賑わっている、町の中心部にある商店街の料理屋が立ち並ぶ通りを抜けて、西大通りに入った俺はようやく走るのをやめた。
   というか、走り過ぎて息が切れ、足が止まってしまったのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……、うえ~、ダッシュし過ぎた~」

   今日は朝からなかなかハードだったし、テトーンの樹の村へ帰ったものの、みんなと話し過ぎてあまりゆっくりも出来なかったものだから、もう疲れがピークに来ている。

「ふぅ~。もうここまで来たら急いでも同じだろう……」

   自分に言い聞かせるようにそう言って、俺はテクテクと歩き始めた。
   
   西大通りは、まだ国営ギルドの魔道士たちが街灯に火を灯していないらしく、かなり薄暗い。
   とは言っても、ピグモルは夜目に強いので、見えないなんて事はなく、むしろ昼間よりよく見える。
   そんな俺のよく見える目が、前方から来る怪しげな男達を捉えた。

   ガタイの良い、大きなラビー族だ。
   毛並みは茶色で、二匹いる。
   どこかで見たような輩だが……、どこで見たんだっけな?

   関わると面倒そうなので、俺は道の端スレスレを歩き、1ミリたりとも彼らに触れないように、また視界の端にも残らないように身を小さくして横を通り過ぎた。
   ……つもりだったのだが。

「おい、ちょっと待て」

   低い声で呼び止められて、俺はピタッと動きを止めた。

   ……ん?  俺の、事かな??
   いやいや、違うだろう。

   そう思い直し、スーッと歩き出すと……

「待てって言ってんだろうがっ!?」

   今度は罵声が飛んで来た!
   ビクゥッ!  と体を震わせて、再び動きを止める俺。

   やっぱ俺かぁっ!??
   うわ~、不運だっ!  こんな夜道でガラの悪い奴らに絡まれるなんてぇっ!!

「お前だよな?  モーンの所で、自分はピグモルだとか言っていた奴はぁ??」

   ザッザッザッ、と足音を立てて、二匹のラビー族が背後から近づいて来る。

   モーンの所でって……、あぁっ!?  あの時、店に入って来た客かこいつっ!??
   なんだってまたそんな奴がっ!???

   ……ん?  いや待てよ、今こいつなんて言った?
   俺の事、ピグモルだって知ってて呼び止めたのか??
   なんで???  どうして????

   ……なんだか、嫌~な予感がしてきた。

   質問に答えないまま、振り返りもせずに、どうするべきか思案する俺。
   隠れ家オディロンはこの道を真っ直ぐ行って、二つ目の角を左に曲がった先にある。

   走ればこいつら、撒けるんじゃないか?

「おい、答えろって、あぁっ!?  逃すかぁっ!!」

   ピグモルダーシュッ!!!

   ひえぇえぇぇ~!? 
   にっ、逃げろぉおぉぉっ!!!

   無我夢中で走る俺。
   背後から迫るラビー族たち。
   しかし、俺の体は既に体力の限界を越えていて……

「あっ!?  はぐぅっ!??」

   足がもつれて豪快に転んだ俺は、顔から地面にダイブした。

   うぅ~、い、痛いよぅ~。
   歯が折れちゃうぅ~。

   すると、後ろの首元をグイッと掴まれて、ヒョイと持ち上げられ、バサッ!  と頭から袋を被せられたではないかっ!?

「なっ!?  何するんだっ!??」

   全身袋の中に収まってしまった俺は、暗闇の中でジタバタともがく。
   しかし、袋の口はキュッと閉じられていて、中でいくら暴れても開きそうにない。

   フワッと宙に浮いた感覚の後、ユッサユッサと揺れる袋。
   どうやら俺は、ラビー族たちに拉致されたらしい。
   袋に入れられたまま、どこかへ運ばれるようだ。

   くっそぉ……、なんだってこんな事に……
   早く帰らないと、グレコに怒られるんだよこの野郎っ!!!

「出せっ!  出せぇっ!!」

   めちゃくちゃに手足を動かして、袋を抱えているであろうラビー族の脇腹を攻撃する。
   微々たる攻撃ではあるが、今の俺に出来る事をやらねばならない。
   じゃないと、なんで逃げなかったの!?  って、またグレコに怒られる口実ができちゃうじゃないかよぅっ!

「痛っ!?  こいつぅ~。おい、あれ貸せ!」

   俺の最弱キックが効いたらしい、ラビー族が歩みを止めた。

   なんだっ!?  今度は何をしてくるつもりだっ!??

   すると、袋が地面に降ろされて、入り口を開ける気配が。

   このまま拉致されて堪るかってんだ!
   そうだっ!!  呪いをかけてやるっ!!!

   万呪の枝を取り出して、袋の入り口に向かって構える俺。
   ラビー族の顔が見えたら、腹痛の呪いをかけてやろう!  そう思っていたのだが……

   シュッ、シュッ

「うわぁっ!?  なんだぁっ!??」

   何か、細い管のような物が見えたと思ったら、霧状の液体を吹きかけられた俺。
   顔面が湿って気持ち悪い。

   まさか、毒液かぁっ!??

   ババババッ!  と、顔を拭う俺。
   しかし、痛くも痒くもないし、無臭だし。
   それに、なんだかちょっと……、眠くなって……

「ん?  んん??  ん~……、くそぉ~、グレコに、怒られちゃう~……、すやぁ~」

   袋が地面から持ち上げられて、ユッサユッサと揺れる中、俺は意識を失ってしまった。
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