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★港町ジャネスコ編★

137:負け犬ほどよく吠える

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「それでは!  今からこちらの窓口で、魔物一斉討伐の参加受付を行います!!  参加希望者は身分証明書をお手元にご用意の上、一列に並んでくださ~い!!!」

   港町ジャネスコの北の地区にある国営軍駐屯所内、ギルド出張所の窓口の一つに立つラビー族のお姉さんが、この場に集まった沢山の冒険者に向かって声を掛けた。

   俺たちは、総合管理局で身分証明書を受け取って、隣の雑貨屋でパスケースを購入し、適当な小料理屋で昼食を済ませた後、ここへやって来ていた。
   時刻は午後一時。
   いよいよ、俺のピグモル生初のクエストである、プラト・ジャコール一斉討伐の参加受付が始まる。

   冒険者の数は、ざっと見ただけでも二十はいそうだ。
   屈強な体付きの、戦闘には自信があります!  的な雰囲気を醸し出した冒険者たちが、我先にと軽く押し合いながら列を成す。

「思っていたより数が多いなぁ~。こりゃ、なかなか厳しいかも知れん……」

「厳しいって、何が?」

   前に並んで居るグレコとギンロに気付かれないようにと、身を縮めてヒソヒソ声で話すカービィ。
   何やら周りに目を配って、難しい顔をしている。

「これだけの冒険者がいれば、一斉討伐は対象の取り合いになるかも知れねぇってことだよ」

「あ~、なるほどそういうことか……。オンラインゲームで言うとあれだな、シンボルの取り合い」

「……何のこっちゃサッパリだが。……とにかく、この数だと間違いなく、一度に全員がフィールドへ出れば、プラト・ジャコールの取り合いになるだろうな。つまり、一人頭で数えると、あんまり沢山は狩れないだろうってこと」

   ふむふむ、それは非常に困るんだけども……
   沢山狩って、沢山報酬を貰わないと、商船に乗せてもらえないし、何よりグレコに怒られるぞ?
   それだけは避けたい、何としても避けたいっ!

   そんな俺の思いを読み取ったかのように、カービィはその小さな手をポンッと、俺の肩に置いた。

「そう心配しなくてもいい……。もし、このクエストが思わしくない結果だったとしても、金はおいらが何とかしてやる!」

「え……。でも、どうやって?  貯金でもあるの??」

「貯金はないっ!  だけど、何とかしてみせるっ!!  道の真ん中で裸踊りをしてでも金を稼いで、モッモたちを商船に乗せてやるからなっ!!!」

   キラーン!  と、真っ白な歯を光らせて、キメ顔スマイルを見せるカービィだったが……
   そんな、道の真ん中で裸踊りだなんて、何を考えているんだこいつは?
   いったい、誰に需要があるんだそれ??
   俺の中の、カービィに対する懐疑心が深まっただけであった。





   窓口のラビー族のお姉さんに身分証明書であるカードを手渡すと、お姉さんはそれを、窓口の机の上に置かれている小さな紫色の水晶玉のような物にかざした。
   するとそこから、何やらプワーンと間抜けな音が鳴って、ほんの一瞬だったが、水晶玉と身分証明書のカードが紫色の光を宿したように見えた。

「はい、ヌート族のモッモ様ですね、当クエストにご参加頂きましてありがとうございます。それでは、登録は完了しましたので、詳しい説明が行われるまでの間、あちらのテーブルコーナーでお待ちくださいませ」

   言われるままに、先にテーブルコーナーの椅子に座っているグレコたちの元へと向かう俺。
   するとそこでは、何やら小さないざこざが起きていた。

「安心しなさい!  あなたの負けはもはや決まったも同然なんだからっ!!」

   黒髪の癖っ毛エルフ、ユティナが、結構なボリュームの声で言い放つ。
   その背には、ユティナの背丈と同じほどの、巨大な斧を背負っている。

   うひゃ~!?
   ユティナって斧使いだったのかっ!??
   あんなに小さくて細い体で、どうやって斧を振り回すわけっ!???
   性格と同じく、なんておっかねぇっ!!!

「あぁ、負け犬ほどよく吠える……。安心しろ、我はこの中の誰よりも多くの獲物を仕留めて見せる。貴様など眼中にない」

   見た目こそ冷静さを保っているものの、言葉がかなり好戦的なギンロ。
   胸の前で腕組みをして、これでもかと言うほどの見下し目線でユティナを見ている。

   ……なんていうかもう、二人とも、やめようよぉ~。
   ほら、周りの人たちが不思議そうに見ているよ?
   こんなに大勢の中で妙に目立つなんて、格好悪いし、恥ずかしいよ??

「まぁまぁ、さぁ~ギンロ!  おいらたちは討伐の作戦でも立てような~!!」

   カービィが、ギンロの視線を、強制的にユティナから逸らさせる。

「ははは、ごめんねユティナ。ギンロってちょっと……、子供なのよ」

   ギンロに聞こえないように、小さな小さな声でユティナに謝るグレコ。
   しかし、頭に血が上っているらしいユティナは聞いちゃいない。

「ユティナ、ミーたちも最終打ち合わせをしよう。そして、あそこの売店で軽食を買おう♪」

   ニコニコと、ユティナに話し掛けるサカピョン。
   思ったんだけど、このユティナとずっと一緒に居られるなんて、サカピョンもなかなかの神経の持ち主なんだろうな。
   今日は、アコーディオンではなくて、何やらバイオリンのようなものを背負っているし、服装もどこか戦闘向けのものだ。

「ふんっ!  グレコ!!  私はあんたにも負けないんだからねっ!!!」

   捨て台詞を残して、ユティナとサカピョンは去って行った。

「ふ~……。一触即発だったわね」

   椅子の陰に隠れて居た俺に目配せをして、囁くグレコ。
   ギンロとカービィは、何やらテーブルに地図を広げて、本当に作戦会議中のようだ。

「ユティナとギンロって、本当に馬が合わないんだね」

   ギンロに聞こえないように、俺も小声で返す。

「ん~、たぶんだけど……。ギンロは、ユティナのサカティスさんに対する態度が気に喰わないんだと思うのよ。なんて言うかこう、偉そうでしょ?  まぁ、ユティナは結構誰にでも偉そうなんだけど……。ほら、ギンロの産まれた場所では、人間やその他の種族が獣人や魔獣を差別していた、みたいな事、前にギンロが言っていたでしょ?  きっと、ユティナの言動が、それを思い起こさせるから、ギンロはユティナが苦手なんだと思うの」

   あ~、なるほどそう言うことか。
   まぁ、そういう理由があるなら納得も……、いや、納得は出来ないけどね?
   どんな理由があるにしろ、喧嘩腰なのは良くないよ。
   平和にいこうよ、平和にね。

   カービィと作戦を立てるギンロの後ろ姿を見ながら、そんな事を思っていると……

   チョンチョン

   誰かが俺の背を、優しく突いた。

「うはぉおぉっ!??」

   例によって敏感すぎる俺は、そのちょっとした刺激に過剰に反応してしまい、両手を上にバッ!  と上げて、変な叫び声を上げてしまう。

   グレコとギンロとカービィが、驚いて俺を見る。
   今度はいったい何事だ?  と、周りの冒険者たちからの視線が痛い。
   すると、背後から声をかけられて……

「おっと、こりゃ失礼。ちょっとお話をと思いまして」

   ゾクゾクする体をさすりながら振り返ると、そこには三匹のラビー族が立っていた。
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