上 下
140 / 800
★港町ジャネスコ編★

132:黒い荊の矢

しおりを挟む
「こう、指先に魔力を集めるイメージで……、そうそうそう、上手だ!  そのまま、ゆーっくりと後ろに引いて行く……、あ、ちょっとイメージが乱れたかな?   魔力で線を描く感じだぞ??  そこに矢を作るって、強く念じながら~、そうそうっ!!  いい感じっ!!!」

   カービィに言われるままに、弓を構えて、魔法で矢を作り出すグレコ。
   その手にあるのは、薄っすらと黄緑色の光を宿した、沢山の棘が生えた、黒い荊の矢だ。

「こ、これを放てばいいの?」

「おうっ!  的目掛けて!!  どうぞっ!!!」

「ん~……、えいっ!」

   ヒュッ……、ズバッ!

「おぉ……、真ん中に当たったぞ」

「ヒュ~!  さすがグレコさん!!  お上手っ!!!」

「……いいなぁ~、カッコいいなぁ~」

   ギンロの驚いた顔、カービィのよいしょに、俺の羨ましがる声。

「ふぅ~……。へへへ~♪」

   グレコは、額に汗を浮かべながらも、嬉しそうに笑った。

   ここは、モントリア公国国営軍のジャネスコ駐屯所内にある射的場。
   武器屋で武器を購入したギンロとグレコのために、町の中で唯一武器の訓練が出来るこの駐屯所へと、俺たちはやって来ていた。

   町の北に位置するこの駐屯所は、北側の鉄門の両端に建てられている巨大な鉄塔の周りに、ぐるっと半円形を描くように存在している。
   町の警備や周辺の治安維持のために国営軍が駐在している場所で、各種訓練場の他にも、クエストを求める冒険者のためのギルド出張所の役割も兼ねている。
   訓練場は、お金さえ払えば誰でも利用が可能で、射的場の他に、武術や剣術、馬術を訓練する場所などが設けられている。

   ギンロは魔法剣の試し切りの為、グレコはカービィに勧められて、魔力によって矢を生成する練習をする為に……、俺は、そんな二人を見守る為に、ここにいます。

   矢の生成に成功したグレコは、その後何度も、魔力で荊の矢を作っては撃ち、作っては撃ちを繰り返した。
   ほんと、さすがグレコだ。
   飲み込みが早いし、弓の腕もピカイチで、放った矢は全て的のど真ん中に命中している。
   ただ、魔力で生成したものだからだろうけど、的に当たった荊の矢は、数秒後にはパッ!  と、黄緑色の光が分散したかのように姿を消していた。

「これ、結構疲れるわね~……。魔法弓まほうきゅう、だっけ?」

   グレコは、手に持っている弓をしげしげと眺める。
   その弓は、先ほどの武器屋で、ギンロの魔法剣に便乗するかたちで購入した、グレコの新しい武器。
   魔法弓と呼ばれるその弓は、光沢を持つ真っ白な金属で出来た、とても美しい弓だ。
   持ち手の部分には、グレコの持つ魔力を最大限活かせるという、ブラッドガーネットという真っ赤な宝石と、黒くて微小な魔心石が散りばめられている。
   ……お値段は、360000センスでした。

「まぁ、慣れればどうってことないと思うぞ?  魔法弓は魔道武具の中では珍しい武器だ。おいらも使ってる奴を知らないしな。だけど、威力も射的距離も、魔力の大きさで自由自在だから、使いこなせればかなり便利な武器だと思うぞ。それに、本来なら矢に魔力を溜めて放つもんなんだけど、グレコさんの場合は属性が特殊だったからな。物質に魔力を流すのと、魔力で物質と同等の物を作り出すのとでは、魔力の消費はまるで違う。慣れるまでは疲労を感じる事も多いだろう。もしあまりに負担なら、普通の矢を使ってもいいと思うぞ?」

「う~ん……。でも、矢があると思うと、なかなか魔力を使わなさそうだから、頑張ってこのままでやってみるよ!」

   そう言って、グレコはもう一度、黒い荊の矢を的へと放った。

   グレコの持つ魔力の属性は、荊だった。
   手の平に魔力を集める感じで~、という、なんともアバウトなカービィの説明に、首を傾げつつも試したところ、グレコの手の平の上には、黄緑色の光を宿した黒い荊の玉が現れた。
   カービィも初めて見る属性らしく、目をまん丸にして驚いていた。
   どうやら、とってもとっても珍しいようだ。

   けどまぁ、俺としては納得というか……
   グレコの作る黒い荊の矢は、グレコの故郷であるエルフの村の周りを囲っていた、あのセシリアの木を彷彿とさせる。
   グレコは一応、あのエルフの村の次期巫女様だから、あの村を守るように生い茂るセシリアの木のような存在になりたいんだろうな……、なんて、俺は思っていた。

   ……しかしまぁ、冒険者って結構沢山いるんだな~。
   周りを見渡して、俺はほぉ~っと息を吐く。

   この駐屯所には、軍服を着た国営軍の兵士以外にも、沢山の私服の冒険者が、自らの腕を上げようと集まって来ているのだ。
   ある者は訓練場でそれぞれの技を磨く為、またある者はクエストで経験値を得る為に。
   周りには闘志を剥き出しにした猛者どもがわらわらといる。

   なんていうか、みんな堂々としているな~。
   体がでかいっていうのもあるけれど、こう、俺は強いぜ!  誰にも負けないぜ!!  って言いそうな奴ばっか。
   もちろん、俺やカービィのようなちびっ子はほぼいない。
   いたとしても、鎧やら兜やらを身につけていて、なんだかすっごく戦えそうな雰囲気を醸し出しているのだ。

   いいなぁ~、俺もあんな風に鎧とか着たいな~。

   そんな事を考えながら、辺りを観察していると、見覚えのあるシルエットが目に入った。

   訓練場の隣にある、様々なクエストが張り出されている掲示板の一つの前で、立ち止まっている二人組。
   真っ黒な癖毛のエルフと、少し背の低い白いラビー族。
   間違いないな、あれはユティナとサカピョンだ。

   関わるとややこしそうだと思い、目を逸らそうとした瞬間に、振り返ったユティナと目が合う俺。

「あ、モッモだ……」

   怪訝そうな顔をして、俺の名を呼んだユティナ。
   サカピョンは、にっこりと笑顔を向けてくれた。

   ……ユティナ、俺の名前、知っていたんだね、知らなかったよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

処理中です...