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★セシリアの森、エルフの隠れ里編★

55:絶好の旅立ち日和だっ!!!

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「ふぅ~。よっし! こんなもんかなぁ~!!」

   テトーンの樹の上にある、俺の家の俺の部屋で、俺は神様仕様の魔法の鞄に荷物を詰めていた。
   いくら、導きの腕輪ですぐに帰って来られるとはいえ、旅に出るのだ、それなりの準備をしなければ!
   ……まぁ、詰め込んだのは主にお菓子なんだけどね。

   窓を開けて、朝日の中で輝く木々の朝露を撫でる。
   地上では、グレコがいつものテントを片付けている最中だ。
   新しく耕した畑には、エルフの隠れ里からもらってきた野菜や果物の苗が、イキイキと育っている。

   俺は大きく息を吸って、ふんっ! と鼻を鳴らした。

   空は快晴!
   気分は上々!!
   絶好の旅立ち日和だっ!!!

   テッチャがテトーンの樹の村に住み着いて、はや三日が経っていた。
   その間、村のピグモルたち総出でテッチャの家を建てたり、採掘に必要な道具を作ったりしていたのだ。
   さすがにそれを無視して旅に出るわけにもいくまい。
   グレコは何やら終始ぶつぶつと文句を言っていたが、ちゃんと最後まで手伝ってくれた。
   偉いぞグレコ! さすが四十路!! 大人だなっ!!!

   テッチャが、採掘作業をする上で、家を建てるなら小川に近い場所の方がいいと言ったので、テトーンの樹の村からは少し離れるが、小川を越えた、あのテッチャが埋められていた場所に家を建てる事になった。
   まさか、自らあの場所を選ぶとは……、テッチャは見た目通り、タワシの心臓の持ち主だったようだ。

「モッモが次に帰ってくるまでにゃあ、たっくさんのウルトラマリン・サファイアの宝石が磨き上がってるはずじゃ! 楽しみにしておけぇっ!! ガハハハッ!!!」

   大口開けて、笑っていたテッチャを思い出す。
   やる気満々なのは頼もしいが、あのただの青い石を、宝石と言えるまでに磨くのは、かなり大変な作業だと思う。
   あんまり無理はしないようにね、テッチャ……

「モッモ、これも持っていきな」

   母ちゃんが部屋に入ってきて、何やら皮の小袋を俺に手渡した。
   中には、森で採れる薬草で作った、切り傷や擦り傷などに使う塗り薬が入っている。

「こないだ待たせたものはもう古いだろうからね、こっちを持っていくといいよ」

   ニコッと笑う母ちゃん。

「うん! ありがとう、母ちゃん!!」







   家の外に出て、テトーンの樹を降りると、既に出発の準備を終えたグレコが待っていた。  
   背には新しい弓を背負い、腰には短剣を装備して……、俺の鞄のおかげで、グレコの荷物は軽そうだ。

「さっ! いよいよ旅立ちね、モッモ!!」

   グレコのわくわくした表情に、俺はニカっと笑う。

   村中のみんなが広場に集まって、俺たちを見送ってくれる。
   母ちゃん、父ちゃん、コッコにトット、マノンにハノン、長老に隣のおじちゃんおばちゃん、他にも大勢集まってくれた。

「神に選ばれしピグモルの子、モッモよ! 己の使命を果たす為にっ!! さぁ行くのじゃ!!!」
 
   長老の言葉に、みんなが歓声をあげる。

「モッモ、いってらっしゃい!」

「気をつけてねっ!!」

「畑の事は任せろっ!」

「楽しんでなぁ~!!!」

 みんなの声援に、俺は大きく息を吸って、叫ぶ。

「みんなぁっ! 行ってきま~すっ!!」

   大手を振りながら、俺とグレコは村を後にした。

   しばらく歩いて行くと、道の先で、テッチャとガディスが待っていた。

「モッモよ、気をつけて行くのだぞ。村の事は案ずるな、我がしかと守る」

   ガディスの言葉に、大きく頷く俺。

 テトーンの樹の村の守護神ガディス!
 留守は頼んだよ!!
 だけど、無闇に生き物を土に埋めちゃ駄目だからねっ!!!

「モッモ、これを渡しておこう」

   そう言って、テッチャは俺に、四つ折りにした紙切れを手渡した。
   中を開くと、そこには見慣れない文字が並び、右下には捺印のような、何やら複雑な幾何学模様の赤い印が押されている。
   不思議と読めてしまうその文章の内容は……

《この手形を持った者に、ドワーフ族の統治する土地への立ち入り、および貿易商会各地域支部への入所を許可されたし。デタラッタ王国次期国王、採掘ギルドゴッド級マスター:テッチャ・ベナグフ・デタラッタ38世》

「テッチャ、これって……?」

「見ての通り、許可証じゃ。ここに押してある印は、デタラッタの王族のみ使う事を許された印じゃから、これを見せればドワーフ族の管理する土地、及び建物に、容易に立ち入る事ができるじゃろう」

   おおおっ! 
 エルフに続きドワーフまでもが、俺の旅をバックアップしてくれるとっ!?
   これはありがたいっ!!

「ありがとう! 助かるよっ!!」

「うむ。それとな、ドワーフは世界のあらゆる場所で、様々な物を手に入れて、国に持ち帰り、それらを加工して世に送り出しているんじゃが……、あ~、説明が難しいのぅ……。モッモよ、貿易という言葉を知っておるかの?」

「貿易? うん、分かるよ」

「おぉ、分かるのか、こりゃ~たまげたのぅ。つまりの、ドワーフは世界各地で貿易を行っとるんじゃよ。その名もドワーフ貿易商会。この商会は、あちこち支部を設けておっての。ここから一番近い場所なら、クロノス山脈の北側の麓の洞窟に支部がある。わしは今後、そこに、出来上がったウルトラマリン・サファイアを届ける予定なんじゃが……。モッモ、これは頼み事になるんじゃが、もし時間が許すなら、一度その支部に足を運んでくれんかの。ここに来る前、その支部の連中には世話になっての。わしは、皆の反対を押し切ってクロノス山脈に入った。じゃから、心配しておると思うんじゃ。テッチャは無事だと、元気に生きておると、皆に伝えてくれんかの?」

「うん、分かった! お安い御用だよっ!!」

 クロノス山脈の向こう側にある、ドワーフの貿易商会の支部(?)とやらに行って、テッチャが無事である事を伝える……、簡単簡単♪

   俺の言葉に、テッチャはニカっと笑った。

「じゃあ……、行ってくるね!」

 ピシッと敬礼ポーズをとる俺。

「おうっ! 気をつけてのっ!!」

「武運を祈っているぞ、モッモよ」

   テッチャとガディスに見送られ、グレコと俺は歩き出した。







   しばらく森を歩いていると、グレコが言った。

「あ……、ねぇモッモ。導きの腕輪、使えばいいんじゃないの?」

「あぁっ!? そうだねっ! すっかり忘れてたっ!!」

   間抜けな俺の返答に対し、仕方ないな~という風に笑うグレコ。
   そっと、手を繋いで……

   ああああんっ!?
 ゾクゾクするぅっ!??、

「さっ、早く行こ?」

「はっ! はひぃいぃぃ~!!」

   俺は、グレコと手を繋ぎながら、小刻みに震えるもう片方の手を、導きの腕輪の青い石にかざした。
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