上 下
57 / 800
★セシリアの森、エルフの隠れ里編★

54:さすが守銭奴

しおりを挟む
「我らピグモルに、富と繁栄をもたらしてくださる福の神テッチャ様にぃ~! あ~、乾杯~!!」

「カンパーイ!!!」

「福の神テッチャ様ぁっ!!!」

「富と繁栄を我らにぃっ!!!」

   テトーンの樹の村では、盛大にテッチャの歓迎会が開かれている。 
   新しく作られた広場のど真ん中に、大きなキャンプファイアーを築き、酒を片手に、歌って踊って騒ぎまくるピグモルたち。
   なんと言うか……、こいつら本当にお気楽だなぁ。

   俺は長老に、テッチャの事を、ピグモルの繁栄の為に尽力してくれるドワーフで、しばらくここで暮らすことになった、とだけ説明したのだが……

「福の神テッチャ様を崇めよぉっ!!!」

   一番遠くの席でそう叫んでいる長老を見ると、改めて、奴の頭の中はぶっ飛んでいるなと感じた。

「いや~、一時はどうなることかと思ったが……。ここまで歓迎されるとはのぉ。明日から頑張らにゃ!」

   そう言ってテッチャは、グイッと酒を煽る。
 その飲みっぷりの良さと、貫禄のある体格を見て、ふと疑問に思う事。

 テッチャって、何歳なんだろう?

 グレコは、あぁ見えて四十歳らしいし……
 俺の前世の記憶では、ドワーフもエルフと同じく架空の存在であり、人とは歳のとり方が違うはずだ。
   テッチャは、見た感じ……、完全におっさんだ。
 頭に毛がないし、仕草も喋り方も古臭い。
 そして何より、お腹が出てる。(俺のお腹も出ているけどねっ!)
   けどこう、肌艶がいいし、動きはテキパキしていて元気そうだ。
 姿勢は悪く無いし、男臭い脂っぽい匂いはちょっとするけど、加齢臭では無いし……

 いろいろと考えてみるも、答えは勿論分からないので、直接聞いてみる事にした。

「ねぇ、テッチャって、歳はいくつなの? 僕は十五歳」

 一応、先に自分の年齢を伝える俺。
 すると……

「おお、言うとらんかったか? わしは今年で二十五じゃよ」

 おぉっ!? 思ったよりも若いぞっ!!?
 個人的には、グレコと同じくらいかと思ってましたよ!!!
 でも……、じゃあ、かなりの老け顔だな。
 いや、顔というか、存在が老けているって感じだな、ぶふっ。
   ……それにしても、そう考えるとだな、四十歳のグレコが相当おばさんに感じられるな。

 チラリ……

「ん? 何モッモ?? どうかした??」

「ううん、なんでもな~い♪ グレコ、今日は踊らないの?」

「もちろん踊るわよっ! ひゃっほいっ!!」

   は~い、行ってらっしゃい~。

   グレコは踊るピグモルの群れの中へ突っ込んで行った。
   言葉が通じないというのに、あの楽しみよう、馴染みよう……、さすがです、グレコさん。

「この村はええのう。なぁ~んもないが、温かい村じゃ~」

 楽しげに騒ぐピグモル達の様子を見て、テッチャはにこやかにそう言った。

「でしょ? 自慢の村だよ。みんな、いつも穏やかで、親切で……、良い村なんだ♪ だから……、ほんとは、あんまり変えたくはないんだ。外の物を持ち込んで、便利になって、みんなが助かるのならそれもいいけれど……。みんなの意識っていうか、生活っていうか、そういうのは変えたくない」

   生活が便利になると、それはそれで助かるだろう。
   けれど、それだけじゃないはずだ。
   今までなかった欲とか、業が、みんなの中に生まれれば、これまでの平和な村ではなくなるのでは? という不安が、俺の中にはあった。
   漠然としすぎていて、うまく説明できないけど……

「大丈夫じゃよ。その為に、おめぇがいるんじゃろ? モッモ、おめぇさは、皆の事をしっかり考えて、良いと思うものだけを持ち帰ればええ。わしは、その手伝いを少~しするだけじゃ」

 そう言ったテッチャのツルツル頭は、キャンプファイアーの炎に照らされて、テカテカと眩しく輝いている。
 でっぷりとした体に、ドーンと構えたデカい態度、そしてにこやかな笑顔。
 なるほど確かに、長老が言うように、テッチャは福の神っぽいな~と、俺は思う。

「けどさぁ、テッチャ。本当にいいの? その……、予言者の予言だとはいえ、こんなところで……」

   テトーンの樹の村を栄えさせる、というのは、別にテッチャにとっては何の利益もないはずだ。
   そんな事して、テッチャは楽しいのだろうか?

「なぁ~に、心配には及ばんよ。わしも、タダでそんな事しようとは思っとらんからの」

 んあ? どういう事??

 すると、今の今まで福の神のような柔和な笑顔を讃えていたテッチャの顔が、突然悪代官のような、悪~い顔付きになって……

「そこでじゃモッモ、相談なんじゃがな……。取り分は半分ずつでどうじゃ?」

 低くて、小さな声で、ヒソヒソ話を始めるテッチャ。

 と? 取り分??

「えと……、え? 何の取り分??」

 テッチャの突然の変貌ぶりに、ドキドキしながら尋ねる俺。

「そんなもん決まっとろうが、ウルトラマリン・サファイアのじゃよ! ほれ、これ見てみぃ? さっき小川でちぃっと拾ってみたんじゃが、それはそれは質がええ! 粒もでかいっ!! こりゃ~、磨けば化けるぞ!??」

   あ……、あ~、なるほどその話か!
 すっかり忘れていたというか、ちゃんと考えていなかったよ。
 小川に落ちてるウルトラマリン・サファイアをテッチャが加工して売り捌き、俺とグレコの旅の資金と村の繁栄資金に充てる……、と言う話だったんだ。
 そりゃそうだよね、タダで村の繁栄を手伝うなんて、ボランティアにも程があるものね!!
 テッチャに取り分があるのは、当たり前の事だよな!!!

「うん、いいよ! テッチャだって仕事があるもんね!!」

 すぐさま快諾する俺。

「お!? 良いかのっ!!? いや~、そうなんじゃよっ!  採掘ギルドのゴッド級マスターの資格を維持しようとするとな、やはりそれなりの実績が必要なんじゃて!! それに、こんなに質のいいウルトラマリン・サファイアは世界中探してもここにしかないじゃろう。こりゃもう、大儲けの匂いがプンプンじゃよっ!!!  ガハハハッ!!!!」

   ふふふ、さすが守銭奴、ぬかりないな……

「けど、他の採掘マスターに狙われたりしないかなぁ? そんなに珍しいものを市場に出して、ここにあるって分かったら……。みんな採りにくるんじゃないの??」

   今の所、俺が一番心配しているのはそこだ。
   ウルトラマリン・サファイアの出所を嗅ぎ付けて、他のドワーフ、強いては他の種族の者達が、ここへやって来やしないだろうか?
   まぁ、ガディスがいるから、そうそうピグモルたちが危険に晒される事はないとは思うけど……

「その心配は無用じゃよ、モッモ。わしはここをばらさんし、例えばれても、この幻獣の森に挑もうなどという骨のあるドワーフは、他にはおらん!」

   ……え~ほんとかなぁ??

「なんじゃ? 疑っているのか?? まぁそう心配するな、モッモよ。次にわしが採掘ギルドに顔を出した時に、幻獣の森には恐ろしいフェンリルがおったと言うておこう。さすがにそれなら、誰も来ないじゃろうて、な?」

   ……うん、まぁ、それならいいかな?

「分かった。僕、テッチャの言う事を信じるよ」

 とりあえず、一度やってみよう。
 もし問題が起きたら、その時に対処すればいい。
 テッチャは悪い奴じゃ無さそうだし……、まぁ、ちょっとお金にはがめつそうだけど、きっと大丈夫だろう!

「そうか! そうかそうか!! 良かった!!! ではモッモよ、盃を交わすぞ。友として。そして、仲間としての盃じゃっ!!!!」

「うんっ! これからよろしくね!!」

   俺とテッチャは、改めて乾杯した。

「ピグモルの繁栄に! この出会いに、乾杯っ!!」

「ガハハハッ!!!」

   こうして、ドワーフのテッチャが、俺の仲間になったのだった!

   チャラララ~ン♪
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

役立たず王女のサバイバル生活〜島流しにされましたが今日も強く生きていきます!〜

●やきいもほくほく●
ファンタジー
──目が覚めると海の上だった!? 長年、虐げられてきた『役立たず王女』メイジーは異母姉妹であるジャシンスに嵌められて島流しにされている最中に前世の記憶を取り戻す。 前世でも家族に裏切られて死んだメイジーは諦めて死のうとするものの、最後まで足掻こうと決意する。 「く~~やぁ~しいいぃっ~~~~ばっかやろおぉぉっ!」 奮起したメイジーはなりふり構わず生き残るために行動をする。 そして……メイジーが辿り着いた島にいたのは島民に神様と祀られるガブリエーレだった。 この出会いがメイジーの運命を大きく変える!? 言葉が通じないため食われそうになり、生け贄にされそうになり、海に流されそうになり、死にかけながらもサバイバル生活を開始する。 ガブリエーレの世話をしつつ、メイジーは〝あるもの〟を見つけて成り上がりを決意。 ガブリエーレに振り回されつつ、彼の〝本来の姿〟を知ったメイジーは──。 これは気弱で争いに負けた王女が逞しく島で生き抜き、神様と運を味方につけて無双する爽快ストーリー! *カクヨム先行配信中です *誤字報告、内容が噛み合わない等ございましたら感想からどしどしとお願いいたします!

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...