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★セシリアの森、エルフの隠れ里編★
36:地下牢のドワーフ
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ピチョン、ピチョンと、どこからともなく、雫の滴る音が聞こえてくる。
むわっとした空気が辺りを包み込み、明らかに湿度が高く、そこら中じめじめしてて、ずっとここにいると体にキノコが生えそうだ。
薄暗いこの場所は、地面も壁も天井も、なにやら黒い岩でできていて、明かりと言えば遠くにある松明の炎だけ。
「モッモ! 必ず助けるからねっ!! 待ってて!!!」
グレコがそう叫んだのはいつだったか……
随分と時間が経ったように感じられる。
後ろにあるのは小さな独房、目の前にあるのは等間隔に並んだ冷たい鉄製の棒。
……そうです。
俺は今、牢屋にいます。
「うっ……、ぐすん」
俺の大きなパッチリお目目には、大粒の涙が浮かんでいて、目の前の景色はボヤボヤに滲んでいます。
こんなことになるのなら、ついて来るんじゃなかったっ!!!
そう叫びたい気持ちをグッと堪えながらも、俺はポロリと涙を溢した。
時を遡る事、数十分前……
十人のハンサムエルフに囲まれて、ちょっぴりドキドキしたのも束の間。
頭に臭い袋を被せられ、ひょいと体を持ち上げられて、連れて来られたのは薄気味悪い地下牢でした。
俺の感覚が正しければ、セシリアの森のどこかにある洞窟の中に入ったような気がする。
袋を被っていてもわかった、周りが急に暗くなったし、空気がスッと冷たくなったし、水の滴る音が聞こえ始めたから。
その洞窟には下りの階段があって、俺を抱えた奴は、それをどんどん下って行って……
途中でグレコが先ほどのセリフを叫びながら遠ざかって行き、やっと地面に下ろされて、頭の袋を取ってもらえたかと思ったら、辿り着いたのは暗~い地下室。
怖い顔したハンサムエルフの男に、「荷物を渡せ!」と脅されて、アセアセと鞄などを渡し、剣で脅されながら言われるままに通路を歩かされ、最終的にポーンと投げ入れられたのがこの独房。
「僕は悪いピグモルじゃありませんっ!」
そう叫んだら、
「黙れっ! 低俗な獣めっ!! 軽々しく口を効くなっ!!! 今ここで始末するぞ!!?」
ハンサムエルフの男に物凄い剣幕で怒鳴られて、俺の心はポキリと折れました。
それからずっと、目の前の鉄格子を両手で握りしめたまま、俺は一人、この場に立ち尽くし続けているのです。
「うぅ~……、ぐすん、ぐすん、うえぇ~」
怖いよぅ、怖いよぅ……
無駄に目が良いために、見えてくるのは気味の悪い光景ばかり。
通路を挟んだ向こう側の独房には、もう事切れてそうな何かが横たわっていたり、その隣の独房では、ムカデのような大きな虫が壁を這っていたり……、気色悪いったらありゃしないっ!?
うぅ~、グレコ~……
助けてくれるなら、早く助けに来てぇ~!
「さっきからうるさいのぉ~」
ひゃんっ!?!?
背後から聞こえた声に、俺はビクッと体を震わせる。
ドキドキしながら、ゆっくり振り返ると、そこにいる者と目があった。
今の今まで気付かなかったのは、彼が黒い壁とほぼ同化しているせいだろうか……?
暗闇の中でも異様に目立つ、ツルツルと光るまぁ~るい頭。
肌の色は、定かでは無いが、薄暗い中では目立たない焦げ茶色をしているようだ。
ブスッとした表情の強面のお顔に、つぶらで小さいのに鋭く光る白い目。
その正体は、地面に敷かれた藁の敷物の上に、肩ひじをついて寝そべる人型の男。
堂々とし過ぎなその様に反比例して、服装は腰巻だけで、上半身は裸んぼう。
「あ……、え、うわっ……???」
驚きの余り、言葉にならない俺。
何っ!? 誰っ!!? いつから居たのっ!?!?
「なぁ~にを、じ~っと見とるんじゃぁ? そんなにわしが珍しいか??」
しゃっ!? 喋ったっ!!?
……いや、さっきも喋ってたわっ!
声掛けられただろうがっ!!
ドキドキと煩い心臓の音を聞きながら、俺は目の前の生き物を尚も凝視する。
珍しいも何も、こんな生き物見た事ない。
記憶の中にもない。
な……、なんだこいつ?
「あ、あなたは……、あなたは誰っ!? ですか……?」
小さく拳を握りしめ、プルプルと震えながら、俺は問い掛けた。
「おめぇ、人に誰かと尋ねる時は、先に名乗るのが礼儀じゃろうが」
うっ!? お、仰る通りで……
「あ、えと……、ぼっ、僕はピグ」
相手に指摘されたので、ビビりつつも自己紹介をしようとする俺。
が、しかし……
「わしの名はテッチャ。ドワーフのテッチャ・ベナグフじゃ。おめぇは何もんじゃぁ?」
先に名乗るのかよおいっ!?
じゃあ最初からそうしてよっ!!?
……え? てか、ドワーフ??
ドワーフって言った今!?
ドワーフって……、こんなだっけっ!??
頭の中に、クエスチョンマークが多発する。
「ほれ、わしが名乗ったんじゃ、おめぇも名乗れ~」
なっ!? うっ!!? わ、分かったよ!!!
「ぼっ! 僕はっ!! ピグモルのモッモ!!! ……です」
「あぁ? ピグモルじゃと?? ピグモルっておめぇ、とうの昔に滅んだじゃろうが??? 何を寝惚けたことを……」
俺の言葉に、相手は小馬鹿にしたように顔を歪めた。
だけど……
「うっ! 嘘じゃない!! 僕はピグモルだっ!!!」
本当に本当の事だから、信じてくださいっ!
「あぁん?」
何やら不機嫌そうな声を出し、ゆっくりと体を起こし、立ち上がる焦げ茶色の生き物。
気怠そうな様子でのそのそと歩き、こちらに近付いてくる。
ひぃ!? 怖いぃっ!??
身長も横幅も、俺のおよそ1.5倍ほどで、かなり大きく見える。
体つきは似たような中肉中背で、ちょっぴりお腹が出ているけども……
「ん~???」
両手を腰巻の中に突っ込んで、首をぐいっと傾けて、俺の顔をまじまじと覗き込むその形相、その仕草はまるでどこぞのチンピラ。
ひょおぉっ!?
ピグモルとは比にならないほどの迫力をお持ちでっ!
かっ……、かつあげしたって、何も持ってませんよぉっ!!
ビクビクと体を震わせていると、相手の眉毛がピクリと動き、顔付きが変わった。
「おめぇ、まさか……、本当にピグモルか? こりゃあ~おったまげた……」
びっくりしつつも笑顔を零す相手に対し、俺はピクピクと引きつり笑いを返した。
「ガハハッ! さっきはすまんかったのぉ!! いや~、あんまりにも情けねぇ声で泣いとるから、ちょっち苛々してしもうたんじゃよぉ~!!!」
テッチャと名乗ったドワーフは、地面に敷かれた藁の敷物の上にドスッと腰を下ろすと、豪快に笑いながらそう言った。
俺も彼に習って、ちょこんと、藁の敷物の上に座る。
なんていうかこう、湿っていて、あまり長くは座っていたくないな。
「いやぁ~、まさかまさかじゃの。幻獣種族の生き残りと、こんなところで出会えるとはのぉ~。たまにはエルフに捕まってみるもんじゃな、ガハハハッ!」
言ってる事の意味は全く理解出来ないけれど……
そうか、ここにいるという事は、こいつもエルフに捕まっているのか。
「あの……、テッチャさんは、どうして捕まったんですか?」
まだちょっぴりビクつきながらも、問い掛ける俺。
「ん? いや~、南に行こうとしとったら、知らん間に東に進んでてのぉ。エルフの領地と知らんで森に入ってしもうたんじゃ。そしたらほれ、ここじゃよぉ~」
ヘラヘラ笑っているけれど、結構やばい状況ではないでしょうか? と問いたくなる。
「時におめぇ、モッモと言うたか?」
「あ……、はい」
「おめぇ、随分小さな体をしとるが、もしかしてそこの鉄格子の間、すり抜けられるんじゃ~ねぇんかの?」
テッチャはそう言って、先程までずっと、俺が握り締めていた牢屋の鉄格子を指差した。
「え……? はいぃ~??」
……え、嘘、……ほんと???
むわっとした空気が辺りを包み込み、明らかに湿度が高く、そこら中じめじめしてて、ずっとここにいると体にキノコが生えそうだ。
薄暗いこの場所は、地面も壁も天井も、なにやら黒い岩でできていて、明かりと言えば遠くにある松明の炎だけ。
「モッモ! 必ず助けるからねっ!! 待ってて!!!」
グレコがそう叫んだのはいつだったか……
随分と時間が経ったように感じられる。
後ろにあるのは小さな独房、目の前にあるのは等間隔に並んだ冷たい鉄製の棒。
……そうです。
俺は今、牢屋にいます。
「うっ……、ぐすん」
俺の大きなパッチリお目目には、大粒の涙が浮かんでいて、目の前の景色はボヤボヤに滲んでいます。
こんなことになるのなら、ついて来るんじゃなかったっ!!!
そう叫びたい気持ちをグッと堪えながらも、俺はポロリと涙を溢した。
時を遡る事、数十分前……
十人のハンサムエルフに囲まれて、ちょっぴりドキドキしたのも束の間。
頭に臭い袋を被せられ、ひょいと体を持ち上げられて、連れて来られたのは薄気味悪い地下牢でした。
俺の感覚が正しければ、セシリアの森のどこかにある洞窟の中に入ったような気がする。
袋を被っていてもわかった、周りが急に暗くなったし、空気がスッと冷たくなったし、水の滴る音が聞こえ始めたから。
その洞窟には下りの階段があって、俺を抱えた奴は、それをどんどん下って行って……
途中でグレコが先ほどのセリフを叫びながら遠ざかって行き、やっと地面に下ろされて、頭の袋を取ってもらえたかと思ったら、辿り着いたのは暗~い地下室。
怖い顔したハンサムエルフの男に、「荷物を渡せ!」と脅されて、アセアセと鞄などを渡し、剣で脅されながら言われるままに通路を歩かされ、最終的にポーンと投げ入れられたのがこの独房。
「僕は悪いピグモルじゃありませんっ!」
そう叫んだら、
「黙れっ! 低俗な獣めっ!! 軽々しく口を効くなっ!!! 今ここで始末するぞ!!?」
ハンサムエルフの男に物凄い剣幕で怒鳴られて、俺の心はポキリと折れました。
それからずっと、目の前の鉄格子を両手で握りしめたまま、俺は一人、この場に立ち尽くし続けているのです。
「うぅ~……、ぐすん、ぐすん、うえぇ~」
怖いよぅ、怖いよぅ……
無駄に目が良いために、見えてくるのは気味の悪い光景ばかり。
通路を挟んだ向こう側の独房には、もう事切れてそうな何かが横たわっていたり、その隣の独房では、ムカデのような大きな虫が壁を這っていたり……、気色悪いったらありゃしないっ!?
うぅ~、グレコ~……
助けてくれるなら、早く助けに来てぇ~!
「さっきからうるさいのぉ~」
ひゃんっ!?!?
背後から聞こえた声に、俺はビクッと体を震わせる。
ドキドキしながら、ゆっくり振り返ると、そこにいる者と目があった。
今の今まで気付かなかったのは、彼が黒い壁とほぼ同化しているせいだろうか……?
暗闇の中でも異様に目立つ、ツルツルと光るまぁ~るい頭。
肌の色は、定かでは無いが、薄暗い中では目立たない焦げ茶色をしているようだ。
ブスッとした表情の強面のお顔に、つぶらで小さいのに鋭く光る白い目。
その正体は、地面に敷かれた藁の敷物の上に、肩ひじをついて寝そべる人型の男。
堂々とし過ぎなその様に反比例して、服装は腰巻だけで、上半身は裸んぼう。
「あ……、え、うわっ……???」
驚きの余り、言葉にならない俺。
何っ!? 誰っ!!? いつから居たのっ!?!?
「なぁ~にを、じ~っと見とるんじゃぁ? そんなにわしが珍しいか??」
しゃっ!? 喋ったっ!!?
……いや、さっきも喋ってたわっ!
声掛けられただろうがっ!!
ドキドキと煩い心臓の音を聞きながら、俺は目の前の生き物を尚も凝視する。
珍しいも何も、こんな生き物見た事ない。
記憶の中にもない。
な……、なんだこいつ?
「あ、あなたは……、あなたは誰っ!? ですか……?」
小さく拳を握りしめ、プルプルと震えながら、俺は問い掛けた。
「おめぇ、人に誰かと尋ねる時は、先に名乗るのが礼儀じゃろうが」
うっ!? お、仰る通りで……
「あ、えと……、ぼっ、僕はピグ」
相手に指摘されたので、ビビりつつも自己紹介をしようとする俺。
が、しかし……
「わしの名はテッチャ。ドワーフのテッチャ・ベナグフじゃ。おめぇは何もんじゃぁ?」
先に名乗るのかよおいっ!?
じゃあ最初からそうしてよっ!!?
……え? てか、ドワーフ??
ドワーフって言った今!?
ドワーフって……、こんなだっけっ!??
頭の中に、クエスチョンマークが多発する。
「ほれ、わしが名乗ったんじゃ、おめぇも名乗れ~」
なっ!? うっ!!? わ、分かったよ!!!
「ぼっ! 僕はっ!! ピグモルのモッモ!!! ……です」
「あぁ? ピグモルじゃと?? ピグモルっておめぇ、とうの昔に滅んだじゃろうが??? 何を寝惚けたことを……」
俺の言葉に、相手は小馬鹿にしたように顔を歪めた。
だけど……
「うっ! 嘘じゃない!! 僕はピグモルだっ!!!」
本当に本当の事だから、信じてくださいっ!
「あぁん?」
何やら不機嫌そうな声を出し、ゆっくりと体を起こし、立ち上がる焦げ茶色の生き物。
気怠そうな様子でのそのそと歩き、こちらに近付いてくる。
ひぃ!? 怖いぃっ!??
身長も横幅も、俺のおよそ1.5倍ほどで、かなり大きく見える。
体つきは似たような中肉中背で、ちょっぴりお腹が出ているけども……
「ん~???」
両手を腰巻の中に突っ込んで、首をぐいっと傾けて、俺の顔をまじまじと覗き込むその形相、その仕草はまるでどこぞのチンピラ。
ひょおぉっ!?
ピグモルとは比にならないほどの迫力をお持ちでっ!
かっ……、かつあげしたって、何も持ってませんよぉっ!!
ビクビクと体を震わせていると、相手の眉毛がピクリと動き、顔付きが変わった。
「おめぇ、まさか……、本当にピグモルか? こりゃあ~おったまげた……」
びっくりしつつも笑顔を零す相手に対し、俺はピクピクと引きつり笑いを返した。
「ガハハッ! さっきはすまんかったのぉ!! いや~、あんまりにも情けねぇ声で泣いとるから、ちょっち苛々してしもうたんじゃよぉ~!!!」
テッチャと名乗ったドワーフは、地面に敷かれた藁の敷物の上にドスッと腰を下ろすと、豪快に笑いながらそう言った。
俺も彼に習って、ちょこんと、藁の敷物の上に座る。
なんていうかこう、湿っていて、あまり長くは座っていたくないな。
「いやぁ~、まさかまさかじゃの。幻獣種族の生き残りと、こんなところで出会えるとはのぉ~。たまにはエルフに捕まってみるもんじゃな、ガハハハッ!」
言ってる事の意味は全く理解出来ないけれど……
そうか、ここにいるという事は、こいつもエルフに捕まっているのか。
「あの……、テッチャさんは、どうして捕まったんですか?」
まだちょっぴりビクつきながらも、問い掛ける俺。
「ん? いや~、南に行こうとしとったら、知らん間に東に進んでてのぉ。エルフの領地と知らんで森に入ってしもうたんじゃ。そしたらほれ、ここじゃよぉ~」
ヘラヘラ笑っているけれど、結構やばい状況ではないでしょうか? と問いたくなる。
「時におめぇ、モッモと言うたか?」
「あ……、はい」
「おめぇ、随分小さな体をしとるが、もしかしてそこの鉄格子の間、すり抜けられるんじゃ~ねぇんかの?」
テッチャはそう言って、先程までずっと、俺が握り締めていた牢屋の鉄格子を指差した。
「え……? はいぃ~??」
……え、嘘、……ほんと???
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