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★始まりの場所、テトーンの樹の村編★

25:モキュモキュ

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「むっ!? また地響きがっ!?? 今度はこっちからだ!!!」

「皆の者! 隠れるのじゃ!!」

   俺が走って来た方角から、ザッザッザッという、明らかにピグモルでは無い足音が聞こえて来て、広場にいたみんなは散り散りになる。
   ある者は悲鳴をあげながら、またある者は泣き喚きながら。
   だがしかし、あの足音は間違いなく……

「モッモ~!? どこ行ったのぉ~!??」

   俺の名を呼び、探す声。
   うん、間違いなく、グレコだな。

「みんな! 慌てないで!! 敵じゃないから!!!」

   パニックになるみんなに声をかけて、グレコの声がした方へと走り出す俺。

「グレコ~! こっちこっち~!!」

   バタバタと手を振る俺の声が届き、グレコが木陰から姿を現した。

「あっ! そこかぁ!!」

   笑顔で、村に向かって走ってくるグレコ。

「きゃー! 化け物よぉっ!!?」

「うわあぁ~!!!」

「逃げろぉっ! 隠れろぉっ!!」

   よりパニックに陥る村のみんな。
   可哀想なくらいに怯えて、逃げ惑う。

   そうか、みんなはエルフなんて知らないか……
   俺もこの世界で見るのは初めてだしな。
   いや、前世でも見たことなかったけどさ。

「うわぁあっ! すごく沢山のピグモル!! こんなに生き残ってたのね!!! ほんと……、可愛らしいわねぇ~♪」

   自分の身長の三分の一ほどしかないピグモル達に対し、グレコは慈しむような視線を向ける。
 そして、ニコニコと微笑みながら、近くにしゃがみ込んでその様子を観察し始めた。

「ギャー!? 喰われるぞぉっ!!!」

 叫ぶピグモル達。
   まぁ……、その言葉はあながち間違ってないな。

「みんな! 落ち着いて!! この子は僕の仲間だから!!!」

   出来るだけ大きな声でそう言ってみるも、なかなか声が届きそうもない。
   俺の近くにいるピグモル達は、俺の言葉を聞いてなんとかその場に止まっているものの、離れた場所にいる奴らはほとんど家の中に隠れてしまった。

「……ふむ、ブラッドエルフか」

   長老が言った。
   さすが長老、ブラッドエルフを知っているようだ。

「そうです! 森で出会いました!! 僕が神から賜った使命を手伝ってくれる仲間です!!!」

   俺の言葉に、長老は眉根を寄せる。

「なんと!? あの冷徹で残忍な吸血種族であるブラッドエルフが、我らピグモルに力を貸すと!??」

   ありゃ? ブラッドエルフの印象最悪だなおい……

「モッモ、みんなどうしたの? どうして隠れたの??  それにここ、凄く荒らされた跡があるけど……。やっぱり何かあったの???」

   グレコの質問に、俺は先ほどみんなから聞いた事を説明した。

「そうだったのね。それでみんな、私を見て隠れちゃったのか……。ねぇモッモ、どうしてだか分からないけれど、ピグモル達の話している言葉が、私には理解出来ないみたいなの。なんだかこう、モキュモキュ、って鳴いてるようにしか聞こえないのよね。モッモの言葉はちゃんと分かるんだけど……」

   え? あれ?? そうなのか???
   やっぱり、種族が違うと言葉も違うという事だろうか……
   でも……、じゃあ何故俺は、グレコと普通に会話出来ているのだろう????
 もしかして、これも神様のおかげだろうか?????

「で、どうするのモッモ?」

   尋ねるグレコ。

 どうするも何も、どうしたらいいのか分からない……
   背後ではまだ、立ち上がれずに泣き続けている母ちゃん。
   周りには、グレコに怯えながらも立ち尽くす事しかできないピグモル達。
   家々に隠れた者は、先ほどの襲撃がよほどの恐怖だったのだろう、もうその気配を消し切っている。

「妹さん達を攫った犯人って……、もしかすると、闇の魔獣じゃないかしら?」

 ……いやいやいや、ちょっと待ってよ。
 おいグレコ、嘘だろ?
 闇の魔獣って、そんなそんな……、えええ??

「誰か、目撃者はいないの?」

 グレコの言葉に、俺はこの場に残っているみんなに問い掛ける。
 すると、一人の子ピグモルが、小刻みに震えながらも前に出てきた。
 彼の名前はスピー。
 俺より四つ年下の男の子で、よく妹達を可愛がってくれている良い子だ。

「僕……、あの時、マノンとハノンと一緒にいたんだ。だけど……、なんとかゆりかごを動かそうとしたんだけど、怖くて震えちゃって……、一人で茂みに隠れちゃって……、ぐすん、ごめんなさい……。うぅっ……、ごっ! ごめんなさいぃっ!!」

 可哀想にスピーは、妹達が攫われたのは自分のせいだと思っているようだ。
 嗚咽を漏らし、大きくてまん丸なその両の瞳から、大粒の涙をポロポロと零している。
 スピーは、何も悪く無いのに……

 泣きじゃくり、震えるスピーの背を、スピーの母親がそっと撫でる。
 そうしていくらか落ち着いたスピーは、ゆっくりと話し始めた。

「あいつは、真っ黒で、四本足で立ってて……、とにかく、すっごく大きかった。耳が尖ってて、目が光ってて、口には鋭い歯がいっぱい生えてて、僕、怖くて怖くて……。あいつ、何かを探しているかのようにキョロキョロしてた。それで、ゆりかごを見つけると、ゆりかごの取っ手を咥えて、二人を攫っていったんだ……、ぐすっ、ぐすん……」

 俺は、スピーの言葉をグレコに伝える。

「真っ黒で、四本足……、耳が尖っていて、口には鋭い歯……。うん、間違いなく闇の魔獣ね。確かな事は分かっていないけれど、襲われたエルフの仲間達は、闇の魔獣はヘルハウンドに似ていたと証言したのよ。ヘルハウンドって言うのは、伝説上の怪物だけど、黒くて巨大な狼の姿をしているの。四本足で立つし、耳も尖っていて、口には勿論牙もある。その子の目撃証言を信じるなら、村を襲ったのは、森の西側にいると言われている闇の魔獣で間違いないわ」

 へ……、ヘルハウンド……?
 なんかそれ、聞いた事あるぞ。
 前世の記憶の中に、黒くて獰猛なヘルハウンドの画像が、ちょびっとだけ残っているのだ。

 あんな恐ろしい奴が、この森の西にいて、俺達の村を襲ったっていうのか!?
 そんなの、俺達ピグモルじゃ太刀打ちできないに決まっている。
 妹達だって、今頃はきっと、もう……

 俺は、どうしようもない虚脱感に襲われて、何も言えなくなってしまった。
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