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★始まりの場所、テトーンの樹の村編★

24:黒く大きな影

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「……ん? モッモ?? モッモじゃないか!?」

「モッモ! おおモッモ、よくぞ無事で!!」

「モッモ! 良かった!!」

「モッモだ……。みんなっ! モッモが帰って来たぞっ!!」

   俺に気付いた村のみんなが駆け寄って来た。
   長老を初めとし、顔馴染みのピグモル達が俺の周りに輪を作る。

「みんな……。これ、いったい……、何があったの?」

 唖然茫然として問い掛ける俺。

   村は、大惨事だった。
 いやもう、大惨事なんて言葉じゃ足りないくらい……、壊滅状態なのである。
   みんなで協力して耕した畑が、育てていた野菜や果物たちが、見る方もなく荒らされて、もうグッチャグッチャだ。
   これじゃあ、今年の収穫は無理だろう……

「何が起きたのか、わしらにもよく分からないんだ」

「ほんの一時間前だ、いつものようにみんなで仕事をしとったら、遠くから妙な音を感じてな……」

「みんな慌てて家に戻って、身を隠して……、そしたらどこからともなく、地響きが襲って来た!」

「家の窓から見えたのは、黒く大きな影だ。ゆっくりとこう、村を観察するように動いてたかと思うと、急に大きな鳴き声を上げて暴れ始めたんだ!」

「聞いたことのない恐ろしい声だった……。あいつ、何度も何度も吠えながら、俺達の畑を荒らしまくりやがった!」

   畑があるのは、巨大なテトーンの樹が周りをぐるっと囲った、村の中心にある大広場だ。
   俺の旅立ちの前に宴を行なったのは、その大広場の一角にある小広場なのだが、そこも跡形もなく無くなっている。
   小広場の向こうに生えていたはずのテトーンの樹は薙ぎ倒され、まるでそこを何か巨大な生物が通ったかのように、森の中には大きな獣道が出来てしまっていた。

   あそこを、黒く大きな影の奴が通った、ということか……

「不幸中の幸いか、樹の上の私達の家には気付かなかったみたいで……」

「薙ぎ倒された樹の家の者は、怪我を負ったものの、なんとか無事だ。今は別の家に避難して手当を受けているよ」

「幸い今のところ、死者は出てない。だが……」

   そこまで話して、みんなが一様に押し黙る。
   
   ……なんだ? どうしたんだ??

「モッモなのかい?」

   離れた場所から名前を呼ばれ、振り返るとそこには、コッコとトット、父ちゃんと、父ちゃんに支えられてなんとか立っているといった雰囲気の母ちゃんが。

「母ちゃん! 無事で良かった!!」

   笑顔になる俺。
   しかし母ちゃんは、わあっ! と泣き出し、その場に崩れ落ちてしまった。

「母ちゃん……?」

   俺は急いで、母ちゃんに駆け寄る。
   みんなが、居た堪れなさそうに、目を伏せる。

「モッモよ、落ち着いて聞いてくれ……。妹達が、攫われた」

   父ちゃんの言葉に、俺は目の前が真っ白になる。

「え? ど……、どうして……?」

「母ちゃんが、母ちゃんが悪いんだ……。畑仕事をしてる間、外のゆりかごで日向ぼっこさせてたのを、置いて来ちまったんだよぉ……、ううぅ……、マノン……、ハノン……。うああぁ~!」

 母ちゃんはそう言って、両手で顔を覆い、大きな嗚咽を漏らし始める。

「マノン、ハノンって……?」

 まさか、妹達の名前……?
 まだ決まってなかったんじゃ……??

「母ちゃんがな、ようやくあの子達の名前を決めたんだ。お前が旅立ったあの日の夜にな。お前が帰ってきたら、驚かせてやろうって……、なのに……。こんなことになっちまって……、うぅうっ……。キノン! お前は悪くないっ!! 悪くないんだっ!!!」

 父ちゃんが、俺が生まれて此の方、一度も見せたことのない涙を流し、母ちゃんの肩を強く持つ。
 しかしながら、その手は酷く震えていた。

 そう、だったのか……
 名前……、やっと、決まったのに……
 俺の、可愛い妹達は、もう……?

 訳が分からなさ過ぎて、頭の中がごちゃごちゃで、混乱していく俺。
 悲しいとか、悔しいとか、感情が全くついていかなくて……、涙も出ない。
 ただ、目の前で泣き崩れている母ちゃんの姿を見る事が、とても辛い。

 母ちゃんは、嗚咽を止める事なく、泣き続ける。
 呼吸も出来ないほどに声を上げ、涙で顔をグチャグチャにしながら……

   母ちゃんは、ずっと、女の子が欲しいと言っていた。
   だけど、俺たち三つ子の世話で手一杯で、ようやく子供を授かることができたのが一年前。
   半年前に生まれた双子は、母ちゃんが望んでいた、待望の女の子だった。
   大事にするあまり、母ちゃんはなかなか名前が決められずにいたのだ。
 そうして、ようやく決まった名前。
 マノンに、ハノン……、凄く可愛くて、素敵な名前だ。
 なのに…………

 俺はもう、二人には会えないのか?

「獣の咆哮が聞こえた途端、村中がパニックになって、とてもゆりかごを取りに行ける状態じゃなかったんだ」

「みんな、誰の家でもいいからとりあえず中に入って、息を殺して……。母ちゃんが外に飛び出そうとするのを必死で止めて……、うぅ~」

   コッコもトットも、その目に涙を浮かべている。

   俺が村を離れている間に、まさかこんな事が起きていただなんて、全く思いもよらず……
   あまりの出来事に、俺は言葉を失った。
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