上 下
2 / 800
★始まりの場所、テトーンの樹の村編★

1:最弱種族【ピグモル】

しおりを挟む
【ピグモル】という種族をご存知だろうか?
 知らない人間がほとんどだろうな、俺だって自分がピグモルになるまでは全く知らなかったんだから。

 ピグモルは、深い森の奥に暮らす、獣人型の生き物だ。
 風貌は、げっ歯目によく似ており、大きな二つの目と小さな鼻、耳は個体差があるものの比較的大きい。
 げっ歯目というくらいだから、前歯はとても頑丈。
 体には毛が生えていて、毛色は白と黒を基調とし、その濃淡はまた個体差がある。
 中にはグレーやブラウン、クリーム色に近いもの、ぶち模様が入ったものなどもいる。
 獣人型というくらいだから、もちろん二足歩行だし、手足の指は五本ずつ存在する。

 この説明を受けて、どんな生き物を想像しただろうか。
 おそらく、ウサギやネズミ、ハムスターやチンチラ、モルモットのような、可愛らしい小動物を想像することだろう。
 しかし、驚くことなかれ。
 ピグモルは、それらと比べ物にならないほど、もっともっと、愛らしいのだ!

 いくら鍛えても筋肉がつかない丸みを帯びた体。
 自分の頭のてっぺんを触るのがやっとなほどの短い手と、同じく短い足。
 長い尻尾はお尻の上でクルンッと丸まっており、歩くと自然と左右に揺れる。
   それらに加えて、身体中に生えている毛が柔らかいのなんのってもう……、モッフモフのモッフモフなのだ!
 これを愛らしいと言わずになんとする!?

 ピグモルの体長は平均しておよそ70センチ、体重は8キロ程度、太ってて重いやつでも12キロほどだろう。
 しかしこれは、この森にあるリリコの実を使った簡易的かつ非常に曖昧な計算方法で算出した結果なので、全くもって定かではないことを先に伝えておこう!

 ピグモルの生態は、ほぼほぼ人間と同じだ。
 朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、着替えて、朝食をとり、働きに出て、昼飯を食って、昼寝して、また働いて……
 日暮れまでには家に戻り、夕食を平らげ、水浴びをして、歯を磨いて、そして寝床に入る。
 文化水準はかなりの低さだが、まぁ気にするほどの事ではない。

 肝心の家はというと、以前は、ここいらに群生する、高さが20メートル近くもあるテトーンの樹の根元に、小さな丸い粘土の家を造って住んでいた。
 これがもう、とっても粗雑な造りの家だもんで、雨が三日も続くと途端に崩れる始末。
 だから、俺が二歳になる前に、大人たちに樹の上に住んではどうかと提案し、それからはテトーンの樹の上に家を造るようになった。
 いわゆるツリーハウスだ。
 今ではそれが、この村では主流の家だ。

 俺が住むこの村は、そのまんま、【テトーンの樹の村】と言う。
 日当たりの良い、畑の作物がよく育つ豊かな村だ。
 少し離れた場所に清らかな小川が流れ、遥か北の方角には巨大な白い山脈が連なっている。
 テトーンの樹は、もともとその葉に毒性を持つ為に、凶暴な他種族の魔物は近寄ってこないらしい。
 そのおかげで、産まれて此の方、村には平和しかない。

 村には、全部で三百八匹のピグモルが暮らしており、一家族がだいたい五~十匹の家族構成だ。
 で、俺の家族は、父ちゃん母ちゃん、俺と同じ日に産まれた三つ子の兄弟と、後で産まれた双子の姉妹とで、七匹家族だ。
 みんな、とっても明るく優しくて、毎日が楽しくてとっても幸せだ!

 ……とまぁ、都合の良い情報はここまでにしておこう。
 なぜピグモルが、どこぞの森の奥深くなどに住んでいるのか、それを説明しなければならないだろう。
 何を隠そうピグモルは、この世界で一番愛らしく、そして、最弱の種族なのだ。

 その最弱さ加減を物語る歴史がピグモルにはある。
 およそ百年前、ピグモルは絶滅の危機に瀕していた。
 原因は、他種族からの乱獲である。
 その理由は勿論、ピグモルが世界で一番愛らしい種族であるからだった。
 今でこそ、森の奥深くで平和に暮らしているピグモルだが、昔は愛玩用の奴隷として、市場でその命を売買されていたらしい。

 ピグモルは小さく、魔力もなければ腕力もない。
 種族性とでも言えようか、みんな揃って性格は穏やかで、戦う術も意思もない。
 あるのは愛らしさだけ……
 襲いくる強欲な他種族を前に、ピグモル達は抵抗出来ず、ただ怯える事しか出来ずに、少しずつその数を減らしていったという。
 
 しかしながら、救いの手は差し伸べられた。
 ある高名な魔法使いによって、ピグモルを奴隷とする事が禁じられたのがおよそ百年前。
 以来、乱獲の魔の手を振り切り、他種族から逃げるように各地を転々として、なんとか生き残ったピグモルたちが、この森の奥深くに村を築き、ひっそりと、幸せに暮らしているのだった。

 そしてそして、ようやく俺の話ができるな!

 俺はピグモルのモッモ。
 黄土色の毛を持つ、明日で十五歳となる若者だ。
 なにやら神様の要望で、前世の人間から、この世界最弱の種族ピグモルに転生させられたらしいが……
 正直、人間だった頃の記憶というか、思い出というか、容姿とか性格とか家族構成とか、どんな風に生きていたのかとか、詳細な事は何一つ覚えていない。
 地球の、日本で、人間だった、はず……、この程度だ。

 でも今のところ、な~んの不自由もなく暮らしている!
 世界最弱とか関係ねぇ!!
 ピグモル最高!!!
 ヒャッホーウ!!!!





 とか、昨日までは思っていたのにな……

 十五歳となった今日、俺に告げられた言葉は、あまりに酷な内容だった。

「モッモよ、お前は神に選ばれし者じゃ。北の山々にある聖地を目指し、神のお告げを賜りに行け」

 えっ!?

 え~まじか……
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

役立たず王女のサバイバル生活〜島流しにされましたが今日も強く生きていきます!〜

●やきいもほくほく●
ファンタジー
──目が覚めると海の上だった!? 長年、虐げられてきた『役立たず王女』メイジーは異母姉妹であるジャシンスに嵌められて島流しにされている最中に前世の記憶を取り戻す。 前世でも家族に裏切られて死んだメイジーは諦めて死のうとするものの、最後まで足掻こうと決意する。 「く~~やぁ~しいいぃっ~~~~ばっかやろおぉぉっ!」 奮起したメイジーはなりふり構わず生き残るために行動をする。 そして……メイジーが辿り着いた島にいたのは島民に神様と祀られるガブリエーレだった。 この出会いがメイジーの運命を大きく変える!? 言葉が通じないため食われそうになり、生け贄にされそうになり、海に流されそうになり、死にかけながらもサバイバル生活を開始する。 ガブリエーレの世話をしつつ、メイジーは〝あるもの〟を見つけて成り上がりを決意。 ガブリエーレに振り回されつつ、彼の〝本来の姿〟を知ったメイジーは──。 これは気弱で争いに負けた王女が逞しく島で生き抜き、神様と運を味方につけて無双する爽快ストーリー! *カクヨム先行配信中です *誤字報告、内容が噛み合わない等ございましたら感想からどしどしとお願いいたします!

処理中です...