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★ピタラス諸島、後日譚★

767:良い考えがあるポッ!!

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「あ~……、それでは~……。クエストの受理を賜りたい。捜索隊の編成は済んでいるかね?」

 ずり落ちてくる丸眼鏡を何度もくいくいっと上げながら、亀ことガラパゴ老師が尋ねた。
 
「いや、隊の編成はこれからだ。すぐ済む、そこで待たれよ」

 そう返事をしたのはジオーナだ。
 冷静を取り戻そうとするかのように、彼女はフーッと大きく息を吐いた。
 そして……

「やはり、行方不明者にネヴァンが含まれていた。よって、私も捜索隊に加わり、パーラ・ドット大陸に向かう」

 えぇえぇぇっ!?
 やっぱりそうなるのぉおっ!!?

 ジオーナの言葉に、全身に寒気を覚える俺。

 別に、ジオーナの事が嫌いなわけでは無い。
 ただそう……、ただただ無性に、怖いのだ!
 小動物の勘とでも言えようか、絶対にそんな事無いって、頭では分かっているんだけど……
 彼女に近付くと、頭の天辺からパクッて食べられちゃいそうな、そんな恐怖心を抱いてしまうのだ!!
 そんな彼女と、この先一緒に旅をする……?
 いやいや無理だよ、てか……、嫌だよっ!!!

「俺も行くぜっ! グレイが行方不明になるくらいだ、何が待ち構えているか分からん。それなりに戦力はあった方がいいだろう?」

 此方も、同行する気満々なトゥエガ。

 トゥエガは別に良いか……、いや、良くないな。
 こんなワサワサした奴(樹木人間だから、頭には髪の毛の代わりに葉っぱが大量に生い茂っている)、きっと目立ってしょうがない。
 パーラ・ドット大陸がどんな場所なのか知らないけど、知らない土地で変に目立つのは、非常によくないと思うんだ、うん。

「僕もっ! 僕も行きたいっ!! お願い団長っ!!!」

 此方は、今回の件には特段の接点が無さそうなウィル。
 行方不明者の名前を聞いても、その表情は全く変わらない。
 変わらないどころか、何故かさっきまでより声が大きいし、なんなら表情も明るい。

 外見的には、ウィルは普通の人間の少年だし、目立つ心配は無いけれど……
 なんだろうな、これまで見てきた限りでは、ちょっと性格に難があるような気がする。
 
 三者三様の、希望を口にするお三方。
 全く引き下がる気配の無い彼らに対し、俺は思う。

 正直、誰がついて来ても、ややこしくなるような気がするんだけど……、ねぇ?

「そうねぇ……。コニー、どう思う?」

 驚いた事に、ローズはその決定権をコニーちゃんに託したではないか。
 コニーちゃんって、そんなに偉かったのか!?

 一方、さっきまでローズにギリギリと雑巾のように絞られていた哀れなコニーちゃんは、まだ皺の残る顔で三人をじっと見つめて、さらっとこう言った。

「ウィルはいいが、ジオーナとトゥエガは駄目だ」

 その言葉に、三人は……

「なっ!? 何故だっ!!?」
「なんだとっ!?!?」
「やったぁ~!!!」

 キレるジオーナ、驚くトゥエガ、喜ぶウィル。
 コニーちゃんは、ジオーナとトゥエガをジロジロと交互に見て、フッと笑った。

「まさかとは思うが……。あんたら二人とも、ギルド総会のこと、忘れちゃいないよなぁ?」

 いやらしい笑みと、その言い方が、かなり任侠っぽいコニーちゃん。
 そしてその言葉に、ジオーナとトゥエガは、分かり易くピシッ!と固まった。

「あぁ~そうね、それがあったわね! どうなの? ジオーナ、トゥエガ、準備は終わってるの??」

 問い掛けるローズに対し、ジオーナは視線をあらぬ方へとずらし、トゥエガはまたしても頭上を仰ぎ見る。

「終わってるわけがない……。ジオーナは今年の初めから、トゥエガはヨルヨの月(7月)から、調査報告書の月間総括を出してねぇよな? 例年通り、年末に開かれるギルド総会に向けて、ここから必死になって報告書をまとめなきゃならねぇはずだ。つまり、あんたら二人は、呑気にパーラ・ドット大陸なんかに行ってる場合じゃねぇんだよっ!」

 お口の悪いコニーちゃんは、所々で舌を巻きながらそう言って、人形特有の指の無い丸い手で、ジオーナとトゥエガの二人をビシィッ!とさした。
 無表情で視線をずらしたままのジオーナと、頭上を見上げたままのポーズで、静かに目を閉じるトゥエガ。
 
 つまり、えっと……、ジオーナとトゥエガは、参加不可???

「じゃあ決まりね。ジオーナとトゥエガは本部に。ウィルは捜索隊に加わってちょうだい」

 ローズの決定が下り、一件落着……、と思いきや……?

「待ってくれローズ。おいらは、ジオーナとトゥエガにも来てもらいてぇ」

 おおうっ!? なんだとぅっ!??
 ちょっと静かになったと思っていたら、いきなり何言い出すんだカービィこの野郎っ!?!?

 いつになく真剣な表情で、手をピシッと上に挙げて、カービィがそう言った。

「あら意外……、何故?」

 ローズが冷めた目でカービィを見る。

「こう言っちゃなんだが、おいら達のパーティーには、おいらしか白魔導師がいねぇ。つまり、回復手がいねぇんだ。ギンロもティカも、勿論グレコさんも、戦力としては申し分ねぇが……、いざって時に役立つのは白魔法だ。ウィルは確か、白魔導師のジョブ資格はねぇよな?」

 カービィの問い掛けに、ウィルは微笑みを讃えたまま頷く。

「なら尚の事、ジオーナとトゥエガが必要だ。二人とも専門は黒魔法だけど、白魔導師のジョブ資格も持ってる。パーティーには戦力も重要だけど、回復力も必要だ。本当はライネルに来て欲しいけど、体質的に無理だろう? パーラ砂漠は過酷な環境だしな。だから、ジオーナとトゥエガに……、二人が行きてぇのなら、おいらは同行して欲しい」

 ふむ、なるほど。
 つまり、俺達のパーティーには、回復魔法が使える者がカービィしか居ないから、それだと不安だと言いたいわけだな?
 なんというか……、珍しいな、カービィが弱気だ。

「なるほどね……。どうするコニー?」

 またしても、決定権をコニーちゃんに託すローズ。
 まさかとは思うけど……、重要な事を自分で決めたく無いだけじゃなかろうな?

「そうは言ってもなぁ……。ギルド総会は待っちゃくれない。年間調査報告書を出さなきゃ、今年度分の実績が記録されずに、ギルドの地位が落ちる事になる。それは困る」

 うん、分かったぞ。
 コニーちゃんはつまり、秘書なわけだな。
 社長のローズが、秘書のコニーちゃんをこき使ってるって事だな。

「それもそうね。さぁ……、二人とも、どうしたい?」

 今度はジオーナとトゥエガの二人に話を振るローズ。
 思ったよりも、ローズは周りの意見を尊重するようだ。
 まぁ……、自分で決めるのが面倒臭いだけかも知れないけど。

 しかしながら、ジオーナとトゥエガは答えない。
 二人とも、さっきまでの勢いが嘘のように、沈黙してしまっている。
 それほどまでに、やらなければならない仕事が、山ほど残っているという事だろう。
 こりゃもう、二人の同行は無し、かな……?

「ポポポッ! 良い考えがあるポッ!!」

 ノリリアが、パァッ! と笑顔になって言った事、それは……

「現在アーレイク島に滞在している商船タイニック号は、16日の朝に出港するポよ。モッモちゃん達は、その船に乗って、パーラ・ドット大陸を目指すのポよね?」

 ノリリアに問われて、俺、カービィ、グレコの三人は、コクコクと頷く。
(よく分かってないギンロと、全く分かってないティカと、行く気が無いテッチャは、ボーッとしてます)

「だったら、まだ時間はあるポッ! アーレイク島からパーラ・ドット大陸までは、六~八日間……、間をとって、およそ七日間の航海になると、ザサーク船長から聞いているポね。つまり、ジオーナさんとトゥエガさんは、モッモちゃん達がパーラ・ドット大陸に到着するまでのその七日間で、やらなきゃいけない報告書を、全部片付けてしまえばいいポッ!!」

 ドーン! と、胸を張って提案するノリリア。
 その言葉に、ジオーナは分かりやすく眉間に皺を寄せて拒否感を顕にし、トゥエガは閉じたままの目を開きもせずに直立している。

「でもノリリア、それは無理じゃなくて? フーガからパーラ・ドット大陸に行くには、ビーシェントの港町ボテリアンから出港する快速直行船に乗っても、十日はかかる距離よ?? ジオーナは、飛んでいけばまぁ……、五日で到着出来るでしょうけど、着いた頃にはボロボロよね。それに、トゥエガは無理じゃなくて??? 移動手段が船しかないもの。到底あなた達には追いつけないわよ。クエスト内容が、行方不明者の捜索である以上、それは時間との勝負だわ。ダラダラ待っているわけにもいかないでしょうに」

 ローズが、至極まともな事を言っている。
 出会い方があれだったから知らなかったけど、ローズってば、ちゃんと団長できるんだなぁ~。
 なんて、俺が油断していると……

「ポポポッ! そこで、モッモちゃんの出番ポよっ!!」

 バーンッ! ていう効果音が似合いそうなドヤ顔で、ノリリアがそう言った。
 不意に出番を任された俺は、もちろん……

「へぁ? ぼ……?? 僕???」

 訳が分からず、間抜けな声を出してしまった。
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