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★ピタラス諸島、後日譚★

749:邪滅の書について

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邪滅の書アポクティ・ビブリオとは即ち、旧世界において、神の力を持つシーラの一族が、敵対する悪霊共を滅ぼす為に創り上げた戦術書のような物だと、僕は認識している。神代の悪霊、またの名を旧世界の神……、奴らは僕達とは全く異なる生き物で、その弱点を知らずに対峙すれば、倒す事は愚か、逃げる事すら不可能に近い。つまりモッモ君、これから後、調停者となった君の前に立ち塞がるであろう数多の悪霊達を滅する為には、その邪滅の書が必要不可欠なんだよ」

 真剣な眼差しのアイビーの言葉に、俺は手に持っている黒革の手帖……、真の名を邪滅の書に視線を落としながら、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 





 時を遡る事、数十分前。
 自室でグレコと一緒に居た俺の元にテッチャがやって来て、明日の予定を勝手に決めた挙げ句、アイビーが呼んでいるから元気なら顔を出して来いと言われ、せっかちなグレコにどやされて、仕方なくアイビーの待つテントへとやって来たわけだが……
 うん、重い腰を上げて来て正解だったわ。
 テント一階の談話室にて、かな~り重要なお話を、先程から沢山聞いてます、はい。

「ポポ、その……、《ちきゅうがいせいめいたい》という言葉の意味が、まだよく分からないのポが……。モッモちゃんの説明だと、つまり……、この世界とは別の世界から来た侵略者、という解釈でいいポか?」

「むむむ、異世界とは別ものなのでは? 先程モッモさんは、空の向こう側に広がる宇宙という空間の、その更にず~っと先にある別の星から来た者、と説明されていたからして……、むぅ~……。そもそも、この世界が一つの星であるという事が、俄に信じ難いのですが……。そもそも星とは、いったい?? むむむむ???」

 アイビーは、ノリリアとパロット学士と同じテントを使っており、だからこの場には、ノリリアとパロット学士が同席しております。
 なので俺は、話が円滑に進むように、クトゥルーを含め、神代の悪霊と呼ばれる者達がいったい何者なのかという事を、邪滅の書に記載された内容を元に、ざっくりと説明したのだが……
 ノリリアとパロット学士は、初めて聞く《地球外生命体》という言葉に対して、先程からずーっと頭を捻っております。
 アイビーは、なんとな~く理解しているっぽい顔をしているけれど、たぶんちゃんとは分かっていない。
 けど、そこを掘り下げ過ぎると話が進まないと分かっているのだろう、あまり深くは追求しないスタンスのようだ。
 そして、俺の隣に座るグレコに至っては、意味不明過ぎるのだろう、私には関係無い話だわって感じで、完全スルー状態です、はい。

 ここが地球で(そもそも本当に地球なのか?)、地球は星で、空に輝く星と同じ存在なんだって事が、みんなにはちんぷんかんぷんなんだと思う。
 まぁ、仕方がないよね、この世界には科学が存在しないわけだから、いきなり星とか宇宙とか言われても理解出来ないだろう。
 だから、この場で唯一それらが理解できている俺が、頑張って説明しようとしたのだが……

「ここは地球という星で(たぶんね)、星の外には宇宙と呼ばれる広大な空間が広がっていて、その宇宙にはこの地球とは別の沢山の星が存在しているんだ」

 これが精一杯ですね、うん。
 そもそもが、俺は宇宙のなんたるかについて、そこまで詳しいわけでは無いし、何より物事の説明が下手なのだ。
 予備知識も何も無い相手に、それらを一から説明するなんて……、無理無理、絶対無理!

 とりあえず、地球外生命体というのは、地球の外から来た生き物の事なのだと、ザックリ説明したのだが、やはり伝わらなかった。
 もう、いろいろと面倒臭いから、「神代の悪霊は、たぶんエイリアンだよ」って言っちゃいたいところなんだけど……
 もっと訳が分からなくなるだろうから、これ以上の説明は俺には無理です、はい。

 さて……、話を戻そう。
 俺はアイビーから、邪滅の書にまつわる様々な事を教えてもらった。

 まず、邪滅の書の存在そのものについて。
 アイビーの言葉通りだとすると、ず~っと昔に、シーラ族と呼ばれる神力を持っていたとかいう人類(人類なのか?)が、宇宙からやって来た地球外生命体であるクトゥルーなどなどと戦って、その弱点や倒し方を研究し、それらの情報を後世に残す為に作り上げた書物……、それが即ち、邪滅の書なのだそうな。
(たぶん、プラティックも同じような事をチラッと言っていたような気がする)
 そして、アイビーの中にあるという故アーレイク・ピタラスの記憶によると、邪滅の書は、シーラ族の興したアストレア王国跡地の地下深く、王家の墓地に隠されていたそうな。
 そこには神代の悪霊の一柱ニョグタが待ち構えており、アーレイク・ピタラスと彼に同行していた小さな悪魔ユディンは、いわゆる禁忌の術とやらを犯して、ニョグタをアーレイクの体内に封印し、邪滅の書を手に入れたそうな。
(禁忌の術とやらの詳細は不明です、きっと聞いても分かんないから聞きませんでした)

 そもそもが、何故アーレイク・ピタラスは邪滅の書の存在を知っていたのか、という謎については、彼の生家が魔法王国フーガの五大貴族であるビダ家であった事が理由らしい。
 その、フーガの五大貴族とやらが、俺には正直、なんのこっちゃらさっぱりなのだが……
 アイビーの簡単な説明では、五大貴族というのは、フーガの建国に携わった五人の魔導師が祖であるそうな。
 そして各々の家には、フーガ建国時、或いはそれよりずっと昔からの、とてもとても古い歴史が残されているとかなんとか……
 つまりは、そのビダ家に残されていた歴史やらなんやらの古文書とかを読んだ事で、アーレイク・ピタラスは邪滅の書の存在を知ったのだということです。
 ……ちなみに、そこら辺の詳細は、アイビーの中には記憶が残って無いそうです。
 アーレイク・ピタラスの記憶が全て、アイビーの中に残っているわけではない、という事です、はい。

 そして、邪滅の書の使い道について。
 アイビーの言うように、邪滅の書には、戦術書と呼ぶに相応しい内容が詰まっているそうな。
 神代の悪霊は、それぞれに弱点が異なるらしく、クトゥルーは水だったけど、ニョグタの場合は光が弱点だったとか。
 そういう弱点や、身体的特徴といった細かな情報が、邪滅の書には残されていると……
 ただ俺としては、戦術書というよりかは、どちらかというと辞書というか、広辞苑的な感じなのかなと考えています、はい。
(もっと言うと、Yahoo!先生とか、Google先生みたいな感じだと思ってます、はい)

 アイビーの要望で、今現在、邪滅の書は開かれた状態でテーブルの上に置かれているのだが……
 その中身は、依然としてスマホのようだ。
 プラティックは、世界樹の幹から生成した紙で作った~とかなんとか言っていたけど、どこからどう見ても紙には見えない。
 だけど、何かを検索する際には、書物のようにパラパラとページがめくれていたわけで……
 とすると、極薄の液晶画面が何十枚も重なっている、としか思えない。
 ……まぁ、考えても分からないので、この物質が何なのかは、今はもう謎のままでも良いだろう、うん。

 アイビー曰く、アーレイク・ピタラスも、俺と同じように時の神の使者であった頃は、神力がその身に宿っていた為に、画面のような紙面に浮かぶその文字を理解出来たそうな。
 だけど、ムームー大陸を分断した後、時の神と決別して神力を失った後は、その文字が理解出来なくなったそうな。
 パロット学士が言うには、これらの文字は、古代アストレア語の、アストレア文字であるとの事。
 つまり、それらの研究をしてきたパロット学士なら、邪滅の書が使えそうだ、と思ったのだが……

「むむむ? 私が触れても……、何も反応しませんね」

 そう、パロット学士がその指で、画面紛いな紙面にタッチしても、邪滅の書は全く反応しなかった。
 つまり、古代アストレア語を理解出来る者であったとしても、神力を持っていなければ邪滅の書は使えない、という事らしい。
 という事は……、うん。
 結論として、《神力を持っていない者は、邪滅の書は使えない》って事ですね、は~い。
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