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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

740:永遠の牢獄

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『くっそぉ……。ユディンてめぇ、やりやがったなぁ……。魔剣ニーグレードだとぉ? よくもまぁ~そんな大層なものを持って来られたもんだなぁ。それも魔王故の特権か?? あぁ???』

 負け惜しみとも取れるような台詞を、クトゥルーが呟く。
 その声色からは、感情がまるで読み取れない。
 抑揚のないその声が、どこから発せられているのかも定かではない。
 何故ならば、クトゥルーの姿形は、先程まで擬態していたウルテル国王の姿とは似ても似つかない、濃い紫色の、醜い肉塊へと変貌しているから。

 あれは……、あの姿は、さっき見たぞ。
 最初、ライラックに化けていたクトゥルーが、タコ顔の人型になる前の姿。
 つまり、奴の第一形態である。

 所々から貧弱そうな細い触手を生やしたその肉塊には、不気味な光を放つ真っ黒な鎖が幾重にも巻き付いており、ギチギチと音を立てながら、その体を締め上げている。
 そして、身動きの取れないクトゥルーを尚も追い込むかの如く、そこには鎖と同じ真っ黒な檻が出現し、クトゥルーはその中に閉じ込められていた。
 
 何が、起きたんだろう?
 分からないけど、ユディンの持っていた大剣が、クトゥルーに刺さって、光を発して……
 光が収まったと思ったら、あの鎖と檻が出現していたのだ。
 つまり、あの大剣が、鎖と檻に変化したのだろうか??
 漆黒の魔剣とか言ってたけど……、めっちゃカッコいい名前だなおい。
 ……じゃなくて!
 えっと、えっと……、この後どうすれば……???

「モッモ君、奴を滅する方法は分かったのか!?」

「ひゃあっ!? うっ!!? あうんっ!!!」

 ユディンに声をかけられた俺は、超絶ビビりながらもなんとか返事をした。

「わわわわっ!? 怖ぇ怖ぇえっ! やべぇよっ!! 降ろしてグレコさんっ!!!」

「何言ってんのよ!? 早くっ!!!」

 声が聞こえて振り向くと、そこにはカービィを抱っこしたグレコと、おまけのテッチャが、此方に向かって走ってくる姿が見えた。
 魔法陣の上を、シャンシャンと音を立てて走るグレコとテッチャに対し、何故だか魔法陣を怖がっているカービィは、必死にグレコにしがみついている。
 いつものカービィなら、グレコに抱っこなんてしてもらおうもんなら泣いて喜ぶだろうに、今は魔法陣に対する恐怖で、下心というか、邪な思いは何も感じてないらしい。

「モッモ! 行くわよっ!!」

「へっ!? あっ!!? うんっ!」

 俺の真横をピューッと通り過ぎて行ったグレコを、慌てて追う俺とテッチャ。
 グレコはカービィを抱えたまま、魔法陣の外側へと走り出て、黒い檻の中にいる肉塊と化したクトゥルーへと近付いて行く。

 あああっ!? あんまり近付かない方が良いんじゃなくてっ!!?
 檻に入れられているし、今の姿は見るからに弱そうだけど、相手は曲がりなりにも旧世界の神……、恐ろしい神代の悪霊なのだ。
 下手に近付くと、何されるか分からないぞぉっ!!??

 しかし、グレコも馬鹿ではない。
 クトゥルーが閉じ込められている黒い檻から数メートル手前で足を止め、抱えていたカービィをポイッと地面に降ろした。
 俺とテッチャがグレコに追い付き、離れた場所に立っていたギンロとティカ、そしてユディンも、此方に集まってきた。

「あれは何なの!? あなた、一体何をしたのよ!!?」

 醜い肉塊と化したクトゥルーをビシッと指差しながら、臆する事なくユディンに詰め寄るグレコ、さすがです。

「あれは、永遠の牢獄エテールヌ・カルケルと呼ばれるものだ。遥か昔に、魔界に封印されし邪悪の象徴、漆黒の魔剣ニーグレード。その魔剣でもって、古代の術式を用いて奴の動きを封じた。いくら神代の悪霊といえど、奴らの一部から創成したニーグレードの力には、そう易々と抗えぬはず……。長い間、過去に奴と戦った時の記憶を辿り、何が敗因だったのかを考えてきた。結論として、奴には無限大の再生能力と変化の力、そして並外れた瞬発力が備わっているのだと理解した。それを防げぬ限り、我々に勝機はないと……。だからああして、永久の牢獄に閉じ込め、身動きが取れぬようにしたのだ」

 ユディンの説明は、少々長くて分かり辛い。
 だから、つまり……、クトゥルーが動けないように閉じ込めた、って事だよね、うん。

「しかし、このままでは埒があかぬ! トドメを刺さねば!!」

 両手に双剣を握りしめ、威嚇するが如くグルルル~っと喉を鳴らしながら、ギンロがそう言った。

「待つんじゃギンロ! 奴の弱点は水じゃて!! ここはカービィに任せぇ!!!」

 今にも走り出しそうなギンロを宥めるテッチャ。

「水!? あいつの弱点、水なのかっ!!? 水なんかなのかっ!?!?」

 ようやく意味が分かったらしいカービィが、いつもの変顔で驚く。

「えぇそう。モッモが手に入れた邪滅の書アポクティ・ビブリオに、そう書いてあるんですって」

 グレコに言われて、俺はサッとみんなの前に邪滅の書を掲げた。
 
「正しい、のか? 水で、あれを、倒せる?? 本当か???」

 冷静な口調で疑問を呈すティカは、邪滅の書を見る目が非常に訝しげである。

「少なくとも、そこに書かれている事は真実だ。邪滅の書は、僕とアーレイクで手に入れた、この世でただ一つの武器……。神代の悪霊を滅するには、そこに書かれている方法しか無い」

 邪滅の書に対して、厚い信頼を置くユディン。
 そして、その目は真っ直ぐに、俺を見つめていて……

「モッモ君、終わらせよう。クトゥルーを葬り、五百年前から続くこの戦いに、終止符を打ってくれ」

 ユディンの言葉に俺は、口をキュッと結んで、こくんと頷いた。
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