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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

738:スマホ

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「うっ!? で、でもっ! 本物なんだ!! これがクトゥルーを倒す事のできる唯一の武器……、邪滅の書アポクティ・ビブリオなんだよ!!!」

 黒革の手帖……、真の名を邪滅の書を手に、俺は叫ぶ。
 縦15センチ弱、横8センチ弱、厚さ2センチ未満のそれを前に、グレコとテッチャはなんとも言えない不安気な表情で目をパチパチさせた。
 
 封魔の塔の最上階にて俺は、謎エルフのプラティック・リバイザデットにこれを託された。
 他でも無い、目の前にいる恐ろしい化け物、神代の悪霊クトゥルーを倒す為の必殺アイテムとして。
 そして俺は確信していた。
 今この場にいる者で邪滅の書を扱えるのは、俺ただ一人であると。
 何故ならば……、何故ならば、この邪滅の書は……

 カチリ、パカッ

 邪滅の書の背表紙にある妙な突起をスライドさせ、ロックを解除した俺は、その中身を開いた。
 現れたのは、薄らとした水色の光を放つ、液晶パネルのような面だ。
 そしてそこには、何やら見覚えのある虫眼鏡のような検索マークと、見慣れぬ文字列が浮かび上がっていた。

「これは……? 書物では無いの??」

「な……、なんじゃ、こりゃあ……?」

 困惑するグレコとテッチャ。
 無理も無い話だ。
 これは、二人にとっては見た事のない、この世界にあるはずの無い物なのだから。

「これはね、スマホって言って……。いろんな情報が詰まっている、機械なんだよ」

 半信半疑ながらも、俺はそう答えた。
 それ以外に説明の仕様が無かった。
 俺だってまだ、心底驚いていて……、意味不明なんだから。

 邪滅の書は、前世の世界で見た事のある(或いは前世の俺も使っていたかも知れない……)、スマートフォン、略してスマホにそっくりだった。
 外側を覆う黒いドラゴンの鱗は、さながらちょっと高価な雰囲気のスマホケース。
 中身は先ほど説明したように、紙だと思っていたその場所に、光を放つ液晶パネルのようなものがはめ込まれている。
 そしてその画面とも言えよう場所に、インターネット紛いの虫眼鏡を模した検索マークと文字入力欄(Yahooとか Googleでよくあるあれね)、その下にタッチパネル式の文字ボタンが並んでいるのだ。
 つまり、どこからどう見ても、スマホなのである。

 これがいったい何を意味するのか……
 邪滅の書がスマホにそっくりな理由は、俺にはさっぱり分からないが……

「とりあえず、検索してみよう」

 俺はそう言って、画面に浮かび上がる見慣れぬ文字を見つめる。
 例によって、見た事のない文字なのだが、時の神の使者パワーによって理解出来ている!

「け、んさく?」

「………ん??」

 グレコもテッチャも、表情がめちゃくちゃ険しい。
 意味不明、理解不能、何する気なのモッモ?って感じだ。
 だけども俺には分かるのだ。
 この邪滅の書には、必ず、クトゥルーに関するなんらかの情報が詰まっているのだと。

 ゆっくりと指を動かして、俺は画面の文字を一文字ずつ、そっとタッチしていった。
 すると予想通りに、検索マークの横にある入力欄に文字が浮かび上がり、並んでいって……

【クトゥルー】

 そう打ち込んだ俺は、虫眼鏡を模した検索マークを、最後にポチッと押した。
 すると次の瞬間!

 パラパラパラパラ~

 邪滅の書は眩い光を放ちながら、ひとりでにページをめくり始めたではないか。

「わわわわっ!?」

 スマホじゃなかったんかい!?
 やっぱり書物やったんかい!??
 え、検索できる書物って……、何やねんそれぇえっ!!??

 全くもって予想外の出来事に、焦り戸惑う俺。

「何なのっ!?」

「ぬぉおぉぉっ!??」
 
 何が何だか分からず、同様に驚くグレコとテッチャ。

 しばらくすると、邪滅の書は光を弱めて、あるページを開いた。
 またしても薄い水色を帯びた液晶パネルのような面が現れたそこには、何やら見覚えのある怪物の姿が映し出されている。
 それは、つい先程俺の前に立っていた、ウルテル国王に化ける前の、第二形態であるタコ面のクトゥルーだ。
 画像の上には《クトゥルー》という表記があり、画像の下には何やら説明文のようなものがあって……

「これ、なんて書いてあるかしら?」

「わしにはサッパリじゃ……」

 ふむ、どうやらこの文字は、グレコとテッチャには読めないらしい。
 仕方がない……、俺が読もう!
 ちょっぴり優越感に浸りながら、俺はそれを読んだ。

「えっとね~、《宇宙から飛来した地球外生命体群のうち、知能を持った個体の一つ、自らの名をクトゥルーと称す》って書いてある。…………え???」

 自ら声に出して読んだこの一文に、またしても俺の頭の中は、大量のクエスチョンマークで埋め尽くされた。

 ちょっ……、は……、え?
 宇宙から飛来した、地球外生命体、群だと??
 てか、そもそもの話、ここって地球だったの???

 ま、待って待って……、え、SF?
 ここにきて、SF的展開になるの??
 そんな事って……、あり???

(この物語は、魔法や精霊が出てくる異世界における、所謂ハイファンタジーに分類されるはずなのに……。こんな場面で、意味不明なSF感出すなんて、作者のやつはいったい何考えてんだ!?)
 
 全くもって、訳が、分からん…………

「モッモ、続きは!?」

「他には何か書かれておらんのか!??」

 困惑する俺の手元で開かれたままの邪滅の書を、興味津々に覗き込むグレコとテッチャ。
 最初の一文が意味不明である事など、どうでもいいらしい。
 とりあえず俺は、諸々の疑問をグッと押し込めて、映し出されている文章の続きを読んだ。

「え、えと……。《この個体は他の個体と違い、生命維持に必要な【コア】を9つ所有しており、その全てを破壊しない限り絶命する事は無い。尚、体内のどの位置に核が存在するかは定かではなく、また体内で自在に核を移動させる事ができる可能性もある為に、その位置の特定は困難である。また体表及び体内を硬化する性質を持ち合わせている為に、核の破壊は難しく、困難を極める。しかしながら、水属性の魔力には一定の効果を認めた為に、弱点である可能性が高い》って……、水!?」

 ややこしくてチンプンカンプンな部分は一旦置いておいて……
 どうやら水が苦手なようだ!
 水が苦手とか……、めっちゃ陳腐な弱点だなおいっ!?

「水ですって!? 水なんてここには……、カービィ!!?」

「じゃなっ! カービィを起こすぞっ!!」

 俺と同じく、複雑な説明など一切無視して、クトゥルーの弱点である水を求めて、走り出すグレコとテッチャ。
 魔法陣の外側で倒れたままのカービィに向かって、一直線である。

 だが俺は、その場から動けずにいた。
 何故ならば、邪滅の書に映し出された文章の続きを読んでいたから。

「《クトゥルーを絶命させる方法は、水属性の魔法で攻撃を仕掛けつつ、9つの核の位置を暴き出し、その全ての核を神力でもって破壊する事である。尚、核の位置の特定は不可能であると前述したが、【命の樹の枝ビオス・クラディ】を使えば、その位置を特定する事が可能となるであろう》………命の、樹の枝?」

 まさかとは思う……、まさかとは思うけど、もしかして……?

 俺は徐に、映し出された文章の《命の樹の枝》の部分をタップした。
 すると、またしても邪滅の書は光を放ちながらパラパラとページをめくり……、そしてピタリとその動きを止めた。
 液晶パネルまがいなそのページには、見た事のある、何の変哲もない木の棒が映し出されている。

 うわぁ~……、ま、マジかぁ……

 俺は、腰にぶら下げている万呪の枝、またの名を自由の剣、それにそっと手を添えた。
 ドキドキと、心臓の鼓動が速くなっていた。
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