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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
729:消滅
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よしっ!
ユディンは魔界へ帰ったぞ!!
これでひとまず、ミッションクリアだ!!!
あとはあの、ややこしいクトゥルーをどうするかだな。
万呪の枝を腰のベルトへと戻し、目の前でグルグルと回り続ける巨大な光の玉を見つめながら、そんな事を考えていると……
「モッモ君? い、な……、え?? 何を??? いったい……、何をしたんだ????」
「へぁ?????」
狼狽えるようなアイビーの問い掛けが聞こえて、俺は間抜けな声を出しながら振り向いた。
するとそこには、つい先程まで、全身から白い光を放ちながら封印結界に魔力を送り続けていたはずのアイビーが、その光を失い、青い顔をしながらフラフラと此方に向かって歩いてきているではないか。
唖然、呆然としたその表情に、俺は首を傾げる。
いったい何をって……、え?
ユディンを魔界に帰す為に、あの玉の中へ吹っ飛ばしたんだけど……、え??
「ポポッ!? ど、どうなったポッ!!?」
アイビーが持ち場を離れてもなお、一人必死な様子で封印結界に魔力を送りながら、此方を見ることなくノリリアが問うた。
「何をって……。ユディンを魔界に帰す為に、この光の玉の中へ、ユディンを吹っ飛ばして……」
光の玉を指差しながら、俺はそう説明した。
するとアイビーは、地面に残っている紫色の魔法陣の手前で、力が抜けたかのようにガクッと膝を折り、その場に座り込んでしまったでは無いか。
「えっ!? アイビー!??」
「どうしたポッ!?」
驚いた俺は、咄嗟に駆け出した。
シャリンシャリンと音を立てながら魔法陣の上を走り、項垂れた様子で膝をつくアイビーの元へと向かおうとして……
「もう、終わりだ」
アイビーがポツリと呟いた。
地面の一点を見つめて、魂が抜けてしまったかのような表情で……
その言葉、あからさまに絶望しているその様子に、俺は足を止める。
お……、終わりって……?
え、何が??
ユディンを魔界に帰すって、アイビーも言ってたんじゃ……???
「終わりって、どうして? 何が終わりなのさ?? ねぇアイビー……、ねぇ??? ……ねぇってばっ!」
アイビーの言葉、その絶望に満ちた表情の意味が分からず、俺は叫んでいた。
何が終わりなのっ!?
上手くいったんじゃないのっ!!?
だって、アイビーが言ったように……、アーレイク・ピタラスが望んだように、ユディンを魔界に帰したんだよ!!??
それの何が……、終わりなのさ?
そんなに絶望するほど、何が終わりなのさっ!!???
「それは、時空穴じゃないんだよ、モッモ君」
アイビーは、真っ直ぐに俺を見てそう言った。
…………は? え?? んんん???
言われた言葉の意味が分からず、俺はギュッと口を閉じる。
そしてゆっくりと振り向いて、ユディンを飲み込んだ光の玉を凝視した。
えっと……、あれ?
あの光の玉は、時空穴じゃない、とな??
……あ、そっか、時空穴はユディンが自分で作れるとか、そういう話だったっけ。
……え、じゃあ、あの玉は何???
いまいち事態が飲み込めず、沈黙する俺。
すると、アイビーが震える声で、説明してくれた。
「その光の玉は、謂わば魔力の塊のようなもので……。かつてアーレイク達はそれを、世界と世界を繋ぐ、時空穴を開く為の力場と呼んでいた。つまり、それが存在する場所でなら、ユディンのような異界の力を持つ者であれば、時空穴を開く事が出来る……、はずだったんだ……。なのに、今、君は……、そのユディンを……」
声が震え、言葉が途切れ途切れになるアイビー。
俺はようやく、何が起きたのか、何をしてしまったのか、事の重大さに気付き、全身の血が凍ってしまったかの様な冷たい感覚に襲われた。
つまり俺は……、ユディンを吹っ飛ばして……、その力場とやらに、ぶっつけてしまったと……?
えっと……、その場合、何がどうなるんだ??
ユディンは、何処へ……???
「ちょ、ちょっと待って……、えっと……、え? じゃあ、ユディンは何処に行ったの?? 僕、てっきりこの玉が、ユディンを魔界に帰してくれるとばかり思って……。さっきユディンは、この中に、吸い込まれたんだけど……???」
俺の言葉に、アイビーは無表情のまま、こう答えた。
「恐らくユディンは……。力場の凄まじい力に抗えずに、その中で、消滅した」
…………しょ、………………消滅、した?
頭の中が真っ白になって、身も心も沈黙する俺。
つまり……、俺が、ユディンを、殺した……?
「もう、この世界は終わりだ。ユディンが無事に魔界へ帰らなければ、魔王が率いる悪魔の軍勢が、こちらの世界へと侵攻してくるはずだ。近い将来、この世界は、滅びるだろう」
ま、魔王?
悪魔の軍勢??
世界が、滅びる……、だと???
「ど……、どうして? そんな、だって……?? ユディン一人が魔界に帰らなかったからって、なんでそんな……???」
もはや、何が何だか、全くもって理解不能だ。
ここまでだって、何が何だか、全く分かっていないってのに……
そもそも、ユディンは何者なんだ?
アーレイク・ピタラスは、何故ここまでして、ユディンを魔界に帰そうとしたんだ??
弟子であり、大切な友達だから……、それだけが理由じゃ無かったのか???
「ユディンは恐らく、魔界を統べる者の血族……。魔王の子息、もしくは子孫に当たる者なんだよ」
おおう……、そ、そうだったんだ……
どおりであの、見るからに恐ろしい、半端ない悪魔感を放っていたわけね。
それで……、え?
じゃあ俺は、魔王のお子さん、もしくはお孫さんを、消滅させてしまったと……??
う……、そ……、だろ???
ようやく事態の把握が完了した俺は、全身からダラダラと冷や汗が流れ始める。
先程まで沈黙し、静かだった脳内が、フル回転でパニック状態になっていく。
ヤ、ヤバイ……、ヤバイヤバイヤバイ!
ヤバ過ぎだろうが俺ってばよ!!
か、勘違い、していたとはいえ、魔王の親族を葬り去ってしまったわけだよな!?
絶対の絶対に、命を狙われるよなっ!!?
……てか、魔王とかいたのねっ!?!?
もうっ、もうっ、何が何だかっ、うわぁあぁああぁぁぁっ!?!!?
絶望し、全身の力が抜けてしまい、その場に座り込んだままのアイビー。
脳内パニックに陥って、完全にフリーズしてしまっている俺。
そして…………
「アイビー! モッモちゃんっ!! 結界が……、結界がっ!!! 崩壊するポッ!!!!」
ぬ……?
ぬぁ~~~にぃいぃぃ~~~~~!?!?!?
たった一人で、クトゥルーが中にいる岩の小山の封印結界を支えていたノリリアが、大声で叫んだ。
ハッとした俺とアイビーが視線を向けると、小山の表面は今にも崩れ落ちそうなほどにバキバキにひび割れて、結界はグニャグニャに溶けている。
……と、次の瞬間!
『ユディンを……、何処にやったってぇえっ!?』
ドッガァーーーーン!!!
クトゥルーの怒号と共に、岩の小山は結界もろとも激しく吹き飛んだ。
真っ白い煙のような爆風が、周囲に吹き荒れる。
「ポォオッ!?!?」
「ノリリア!?」
一番近くにいたノリリアは、爆風をもろに身に受けて、後ろに転がった。
それを咄嗟にアイビーが支える。
離れた場所に立っている俺は、なんとか耐えて、何が起きたのかと視線を巡らせた。
明かり一つない、真っ暗な洞窟の中。
漂う白い煙は、クトゥルーの、あのなんとも言えない強烈な磯の香りを放っている。
そして、徐々に煙が収まっていくと、岩の小山があったその場所に、何かが現れた。
ウネウネと蠢く、幾本もの太い触手。
表面にヌメり気のあるそれらは、ズュロズュロと、気味の悪い音を立てている。
それらが生え出ている本体は、先程までの、見知ったライラックの体ではない。
そこに立っている者の姿は、海に棲む蛸のような、或いは得体の知れない宇宙生物のような、この世のものとは思えないほどに醜く、恐ろしい……
四つもある小さな虹色の瞳をキラリと光らせ、魔獣のそれよりも大きく裂けた口でニヤリと笑い、奴はこう言った。
『さぁ……、誰から死ぬぅ~?』
ユディンは魔界へ帰ったぞ!!
これでひとまず、ミッションクリアだ!!!
あとはあの、ややこしいクトゥルーをどうするかだな。
万呪の枝を腰のベルトへと戻し、目の前でグルグルと回り続ける巨大な光の玉を見つめながら、そんな事を考えていると……
「モッモ君? い、な……、え?? 何を??? いったい……、何をしたんだ????」
「へぁ?????」
狼狽えるようなアイビーの問い掛けが聞こえて、俺は間抜けな声を出しながら振り向いた。
するとそこには、つい先程まで、全身から白い光を放ちながら封印結界に魔力を送り続けていたはずのアイビーが、その光を失い、青い顔をしながらフラフラと此方に向かって歩いてきているではないか。
唖然、呆然としたその表情に、俺は首を傾げる。
いったい何をって……、え?
ユディンを魔界に帰す為に、あの玉の中へ吹っ飛ばしたんだけど……、え??
「ポポッ!? ど、どうなったポッ!!?」
アイビーが持ち場を離れてもなお、一人必死な様子で封印結界に魔力を送りながら、此方を見ることなくノリリアが問うた。
「何をって……。ユディンを魔界に帰す為に、この光の玉の中へ、ユディンを吹っ飛ばして……」
光の玉を指差しながら、俺はそう説明した。
するとアイビーは、地面に残っている紫色の魔法陣の手前で、力が抜けたかのようにガクッと膝を折り、その場に座り込んでしまったでは無いか。
「えっ!? アイビー!??」
「どうしたポッ!?」
驚いた俺は、咄嗟に駆け出した。
シャリンシャリンと音を立てながら魔法陣の上を走り、項垂れた様子で膝をつくアイビーの元へと向かおうとして……
「もう、終わりだ」
アイビーがポツリと呟いた。
地面の一点を見つめて、魂が抜けてしまったかのような表情で……
その言葉、あからさまに絶望しているその様子に、俺は足を止める。
お……、終わりって……?
え、何が??
ユディンを魔界に帰すって、アイビーも言ってたんじゃ……???
「終わりって、どうして? 何が終わりなのさ?? ねぇアイビー……、ねぇ??? ……ねぇってばっ!」
アイビーの言葉、その絶望に満ちた表情の意味が分からず、俺は叫んでいた。
何が終わりなのっ!?
上手くいったんじゃないのっ!!?
だって、アイビーが言ったように……、アーレイク・ピタラスが望んだように、ユディンを魔界に帰したんだよ!!??
それの何が……、終わりなのさ?
そんなに絶望するほど、何が終わりなのさっ!!???
「それは、時空穴じゃないんだよ、モッモ君」
アイビーは、真っ直ぐに俺を見てそう言った。
…………は? え?? んんん???
言われた言葉の意味が分からず、俺はギュッと口を閉じる。
そしてゆっくりと振り向いて、ユディンを飲み込んだ光の玉を凝視した。
えっと……、あれ?
あの光の玉は、時空穴じゃない、とな??
……あ、そっか、時空穴はユディンが自分で作れるとか、そういう話だったっけ。
……え、じゃあ、あの玉は何???
いまいち事態が飲み込めず、沈黙する俺。
すると、アイビーが震える声で、説明してくれた。
「その光の玉は、謂わば魔力の塊のようなもので……。かつてアーレイク達はそれを、世界と世界を繋ぐ、時空穴を開く為の力場と呼んでいた。つまり、それが存在する場所でなら、ユディンのような異界の力を持つ者であれば、時空穴を開く事が出来る……、はずだったんだ……。なのに、今、君は……、そのユディンを……」
声が震え、言葉が途切れ途切れになるアイビー。
俺はようやく、何が起きたのか、何をしてしまったのか、事の重大さに気付き、全身の血が凍ってしまったかの様な冷たい感覚に襲われた。
つまり俺は……、ユディンを吹っ飛ばして……、その力場とやらに、ぶっつけてしまったと……?
えっと……、その場合、何がどうなるんだ??
ユディンは、何処へ……???
「ちょ、ちょっと待って……、えっと……、え? じゃあ、ユディンは何処に行ったの?? 僕、てっきりこの玉が、ユディンを魔界に帰してくれるとばかり思って……。さっきユディンは、この中に、吸い込まれたんだけど……???」
俺の言葉に、アイビーは無表情のまま、こう答えた。
「恐らくユディンは……。力場の凄まじい力に抗えずに、その中で、消滅した」
…………しょ、………………消滅、した?
頭の中が真っ白になって、身も心も沈黙する俺。
つまり……、俺が、ユディンを、殺した……?
「もう、この世界は終わりだ。ユディンが無事に魔界へ帰らなければ、魔王が率いる悪魔の軍勢が、こちらの世界へと侵攻してくるはずだ。近い将来、この世界は、滅びるだろう」
ま、魔王?
悪魔の軍勢??
世界が、滅びる……、だと???
「ど……、どうして? そんな、だって……?? ユディン一人が魔界に帰らなかったからって、なんでそんな……???」
もはや、何が何だか、全くもって理解不能だ。
ここまでだって、何が何だか、全く分かっていないってのに……
そもそも、ユディンは何者なんだ?
アーレイク・ピタラスは、何故ここまでして、ユディンを魔界に帰そうとしたんだ??
弟子であり、大切な友達だから……、それだけが理由じゃ無かったのか???
「ユディンは恐らく、魔界を統べる者の血族……。魔王の子息、もしくは子孫に当たる者なんだよ」
おおう……、そ、そうだったんだ……
どおりであの、見るからに恐ろしい、半端ない悪魔感を放っていたわけね。
それで……、え?
じゃあ俺は、魔王のお子さん、もしくはお孫さんを、消滅させてしまったと……??
う……、そ……、だろ???
ようやく事態の把握が完了した俺は、全身からダラダラと冷や汗が流れ始める。
先程まで沈黙し、静かだった脳内が、フル回転でパニック状態になっていく。
ヤ、ヤバイ……、ヤバイヤバイヤバイ!
ヤバ過ぎだろうが俺ってばよ!!
か、勘違い、していたとはいえ、魔王の親族を葬り去ってしまったわけだよな!?
絶対の絶対に、命を狙われるよなっ!!?
……てか、魔王とかいたのねっ!?!?
もうっ、もうっ、何が何だかっ、うわぁあぁああぁぁぁっ!?!!?
絶望し、全身の力が抜けてしまい、その場に座り込んだままのアイビー。
脳内パニックに陥って、完全にフリーズしてしまっている俺。
そして…………
「アイビー! モッモちゃんっ!! 結界が……、結界がっ!!! 崩壊するポッ!!!!」
ぬ……?
ぬぁ~~~にぃいぃぃ~~~~~!?!?!?
たった一人で、クトゥルーが中にいる岩の小山の封印結界を支えていたノリリアが、大声で叫んだ。
ハッとした俺とアイビーが視線を向けると、小山の表面は今にも崩れ落ちそうなほどにバキバキにひび割れて、結界はグニャグニャに溶けている。
……と、次の瞬間!
『ユディンを……、何処にやったってぇえっ!?』
ドッガァーーーーン!!!
クトゥルーの怒号と共に、岩の小山は結界もろとも激しく吹き飛んだ。
真っ白い煙のような爆風が、周囲に吹き荒れる。
「ポォオッ!?!?」
「ノリリア!?」
一番近くにいたノリリアは、爆風をもろに身に受けて、後ろに転がった。
それを咄嗟にアイビーが支える。
離れた場所に立っている俺は、なんとか耐えて、何が起きたのかと視線を巡らせた。
明かり一つない、真っ暗な洞窟の中。
漂う白い煙は、クトゥルーの、あのなんとも言えない強烈な磯の香りを放っている。
そして、徐々に煙が収まっていくと、岩の小山があったその場所に、何かが現れた。
ウネウネと蠢く、幾本もの太い触手。
表面にヌメり気のあるそれらは、ズュロズュロと、気味の悪い音を立てている。
それらが生え出ている本体は、先程までの、見知ったライラックの体ではない。
そこに立っている者の姿は、海に棲む蛸のような、或いは得体の知れない宇宙生物のような、この世のものとは思えないほどに醜く、恐ろしい……
四つもある小さな虹色の瞳をキラリと光らせ、魔獣のそれよりも大きく裂けた口でニヤリと笑い、奴はこう言った。
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