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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
707:写真
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「ポポポポポ……、ポポォ~。なんとも無いポ」
「本当にっ!? 凄いなライラック!!」
「あんな事が出来るなんて知らなかったポよ。猛虎人に伝わる秘術か何かポか……? 今まで筋肉馬鹿とか思っていて申し訳なかったポね、後で謝っておくポ」
再び金の扉の向こう側へと足を踏み入れた俺とノリリア。
俺はまたしても、こめかみ辺りにグニャッとした気持ち悪い感覚を覚えたものの、体の具合が悪くなる事は無さそうだ。
ノリリアも、ライラックの秘密の技によって、空間の歪みによる体調不良を克服したらしい、いつも通りの様子である。
「とりあえず……、ざっとこの部屋を見てみるポよ」
「了解!」
俺とノリリアは、部屋の中を見て回る事にした。
まぁ、見て回ると言っても、見るべきところは本棚と机くらいしかないのだけどね。
しかしながら、少々問題が……
「うっ!? こ、これは……」
「ポポゥ……、上までは届かないポね」
俺とノリリアは本棚の前に立ち、揃って上を見上げて、軽く絶望した。
俺達は二人とも、身長が70センチほどしかないのである。
よって、どんなに頑張って背伸びをしても、目の前の天井近くまで続く高い本棚の、下から三段目までしか手が届かない。
つまり、あまり調べられない……
「ポ~、魔法さえ使えれば~」
歯を食いしばって悔しがるノリリア。
「でも……、そこまで重要な本は無さそうだけど? 背表紙に大した事が書かれてないよ」
上の方の段に並べられている本の題名を見ながら、俺はそう呟いた。
そこに並んでいる本は、『一人でもなんとかなるサバイバル術!』とか、『憧れの体型に近づく為の100の心得!!』とか、『好かれる話し方』とか……
解呪の方法とは、絶対的に無縁な言葉が並んでいる。
「ポポ、確かに……。あまりめぼしい物は無さそうポね。じゃあ、机の方を見てみるポよ」
ノリリアと俺は、回れ右して、反対側の壁際にある大きな書斎机に向かう。
円柱のよう奇妙な形をした立体的な世界地図と、ペン立てと、そこに立つ羽ペンが三本と……、照明に使うのであろう真鍮製のランプが一つ、机の上に置かれている。
焦茶色をした、かなり重厚な造りのその机には、左右に引き出しが三つずつあり、俺はそこが怪しいと見た。
ノリリアも同じ事を考えたのだろう、その一つに、そっと手をかけて開けてみた。
すると……
「ポ? これはなんだポ??」
そう言ってノリリアが取り出したのは、セピアに色褪せた写真だ。
この世界にカメラは存在しないので、恐らく念写魔法によって作られた物だろう。
大判サイズのそれは、かなり年季の入ったものらしく、四隅が破れかけている。
そしてそこには、前世で言うところの学校行事の際によく撮る集合写真のように、十数人の様々な種族の者達が並んで写っていた。
「あれ? これ……、グレコ??」
真ん中に程近い位置に立つ、ウェーブのかかった黒髪の女性は、グレコにそっくりだ。
だけど、老けているわけでは無いのだが、その表情が何処となく、グレコよりも随分歳上に見える。
「こっちはホーリーさんポね。イゲンザ島で出会った、アーレイク・ピタラスの弟子の一人ポ」
ノリリアが指さす箇所には、キラーン☆って感じのキメキメスマイルでポーズをとっている、梟獣人のホーリーの姿があった。
そして……
「あっ!? この人はきっとロリアンさんだよっ!!? 僕、ロリアン島の泉の底で、彼の影に出会ったんだ!!!」
胸の前で腕組みをし、可愛いらしく笑う、スラリとした体型の半獣人。
三角の垂れ下がった獣耳を持つ彼は、間違い無くロリアンだ。
「じゃあこれは……、生前のアーレイク・ピタラスとその仲間達の写真、という事になるポが……。この真ん中の人物が、アーレイク・ピタラス……、ポか?」
そう言ってノリリアは、写真の中央に立つ、何処にでもいそうな塩顔の、黒髪の人間の青年を指差した。
ニッコリと笑う彼は、魔導師のローブに身を包み、大きく両手を上に広げている。
彼を中心として、他の者達が集まっているように見えるので、恐らくこの男性がアーレイク・ピタラスなんだろうが……
「なんだか、想像していたのと随分違うポね。アーレイク・ピタラスは、なんと言うか……、もっと威厳のある、これぞ大魔導師!って感じを想像していたポ。けど……、こう言っちゃなんだポが、全然緊張感が無いというか……、普通、って感じポね」
ノリリアの意見に、俺は同感だ。
こんな塩顔で黒髪の男性なら、前世の世界にチラホラいたはず。
だけどなんだろうな、この男性……、どっかで出会った事があるような気が……?
見覚えがあるような、無いようなぁ~??
いや、そう思ってしまうくらい、何処にでもいそうな顔だという事かも知れない、うん。
そして俺は気付く、彼らが写っているその場所が何処なのかに……
「んん? ねぇ、よく見るとこれ、封魔の塔じゃない??」
「ポポッ!? ほんとポッ! 色褪せてて分かり辛いポが……、きっとそうポねっ!!」
此方に向かって微笑む十数人の者達の背後には、塔らしきものが薄らと写っている。
そして、その周りを飛び交うハーピー達の姿も写っているのだ。
「ポポゥ、つまりこの写真は、五百余年前の昔に、この封魔の塔の完成を記念して撮られた念写に違いないポ。グレコちゃんそっくりのこの女性は、アーレイク・ピタラスの弟子の一人、コトコ・レクサンガスだろうポね。……それにしても、思っていた以上の人数ポね。これ全部、アーレイク・ピタラスの弟子ポ?」
写真の一人一人を指差しながら、数を数えていくノリリア。
「ポポゥ、十二人もいるポよ。アーレイク・ピタラスの弟子は四人だったっていう説は、完全に覆されたポね」
アーレイク・ピタラスと思われる男性の周りを、ぐるりと取り囲む十二人の様々な種族の者達。
人間、獣人、半獣人に竜人、エルフにドワーフまでいる。
その中の一人、ちょうどアーレイク・ピタラスの足元に座り込む、小さな者の存在に俺は気付いた。
「これ……? あ、これがもしかして、リュフトが言っていた五人目の弟子じゃない!?」
「ポポゥ、きっとそうだポ。悪魔の角と翼があるポね。だけど……、こっちも、想像とは少し違っているポ。蘑菇神様も、子供だったとは言っていたポが……」
額に生える、歪にうねった二本の角。
背には折り畳んではいるものの、悪魔のそれと思しき禍々しい形の翼が一対。
だけどもその体は随分と小さくて、人間で言えば十歳未満の子供のように華奢だ。
そしてその表情は、とても彼が悪魔だとは思えないほどに、屈託の無い純粋な笑顔だった。
ノリリアと俺は、写真に写るその悪魔であるはずの少年を見つめながら、しばしの間沈黙した。
「本当にっ!? 凄いなライラック!!」
「あんな事が出来るなんて知らなかったポよ。猛虎人に伝わる秘術か何かポか……? 今まで筋肉馬鹿とか思っていて申し訳なかったポね、後で謝っておくポ」
再び金の扉の向こう側へと足を踏み入れた俺とノリリア。
俺はまたしても、こめかみ辺りにグニャッとした気持ち悪い感覚を覚えたものの、体の具合が悪くなる事は無さそうだ。
ノリリアも、ライラックの秘密の技によって、空間の歪みによる体調不良を克服したらしい、いつも通りの様子である。
「とりあえず……、ざっとこの部屋を見てみるポよ」
「了解!」
俺とノリリアは、部屋の中を見て回る事にした。
まぁ、見て回ると言っても、見るべきところは本棚と机くらいしかないのだけどね。
しかしながら、少々問題が……
「うっ!? こ、これは……」
「ポポゥ……、上までは届かないポね」
俺とノリリアは本棚の前に立ち、揃って上を見上げて、軽く絶望した。
俺達は二人とも、身長が70センチほどしかないのである。
よって、どんなに頑張って背伸びをしても、目の前の天井近くまで続く高い本棚の、下から三段目までしか手が届かない。
つまり、あまり調べられない……
「ポ~、魔法さえ使えれば~」
歯を食いしばって悔しがるノリリア。
「でも……、そこまで重要な本は無さそうだけど? 背表紙に大した事が書かれてないよ」
上の方の段に並べられている本の題名を見ながら、俺はそう呟いた。
そこに並んでいる本は、『一人でもなんとかなるサバイバル術!』とか、『憧れの体型に近づく為の100の心得!!』とか、『好かれる話し方』とか……
解呪の方法とは、絶対的に無縁な言葉が並んでいる。
「ポポ、確かに……。あまりめぼしい物は無さそうポね。じゃあ、机の方を見てみるポよ」
ノリリアと俺は、回れ右して、反対側の壁際にある大きな書斎机に向かう。
円柱のよう奇妙な形をした立体的な世界地図と、ペン立てと、そこに立つ羽ペンが三本と……、照明に使うのであろう真鍮製のランプが一つ、机の上に置かれている。
焦茶色をした、かなり重厚な造りのその机には、左右に引き出しが三つずつあり、俺はそこが怪しいと見た。
ノリリアも同じ事を考えたのだろう、その一つに、そっと手をかけて開けてみた。
すると……
「ポ? これはなんだポ??」
そう言ってノリリアが取り出したのは、セピアに色褪せた写真だ。
この世界にカメラは存在しないので、恐らく念写魔法によって作られた物だろう。
大判サイズのそれは、かなり年季の入ったものらしく、四隅が破れかけている。
そしてそこには、前世で言うところの学校行事の際によく撮る集合写真のように、十数人の様々な種族の者達が並んで写っていた。
「あれ? これ……、グレコ??」
真ん中に程近い位置に立つ、ウェーブのかかった黒髪の女性は、グレコにそっくりだ。
だけど、老けているわけでは無いのだが、その表情が何処となく、グレコよりも随分歳上に見える。
「こっちはホーリーさんポね。イゲンザ島で出会った、アーレイク・ピタラスの弟子の一人ポ」
ノリリアが指さす箇所には、キラーン☆って感じのキメキメスマイルでポーズをとっている、梟獣人のホーリーの姿があった。
そして……
「あっ!? この人はきっとロリアンさんだよっ!!? 僕、ロリアン島の泉の底で、彼の影に出会ったんだ!!!」
胸の前で腕組みをし、可愛いらしく笑う、スラリとした体型の半獣人。
三角の垂れ下がった獣耳を持つ彼は、間違い無くロリアンだ。
「じゃあこれは……、生前のアーレイク・ピタラスとその仲間達の写真、という事になるポが……。この真ん中の人物が、アーレイク・ピタラス……、ポか?」
そう言ってノリリアは、写真の中央に立つ、何処にでもいそうな塩顔の、黒髪の人間の青年を指差した。
ニッコリと笑う彼は、魔導師のローブに身を包み、大きく両手を上に広げている。
彼を中心として、他の者達が集まっているように見えるので、恐らくこの男性がアーレイク・ピタラスなんだろうが……
「なんだか、想像していたのと随分違うポね。アーレイク・ピタラスは、なんと言うか……、もっと威厳のある、これぞ大魔導師!って感じを想像していたポ。けど……、こう言っちゃなんだポが、全然緊張感が無いというか……、普通、って感じポね」
ノリリアの意見に、俺は同感だ。
こんな塩顔で黒髪の男性なら、前世の世界にチラホラいたはず。
だけどなんだろうな、この男性……、どっかで出会った事があるような気が……?
見覚えがあるような、無いようなぁ~??
いや、そう思ってしまうくらい、何処にでもいそうな顔だという事かも知れない、うん。
そして俺は気付く、彼らが写っているその場所が何処なのかに……
「んん? ねぇ、よく見るとこれ、封魔の塔じゃない??」
「ポポッ!? ほんとポッ! 色褪せてて分かり辛いポが……、きっとそうポねっ!!」
此方に向かって微笑む十数人の者達の背後には、塔らしきものが薄らと写っている。
そして、その周りを飛び交うハーピー達の姿も写っているのだ。
「ポポゥ、つまりこの写真は、五百余年前の昔に、この封魔の塔の完成を記念して撮られた念写に違いないポ。グレコちゃんそっくりのこの女性は、アーレイク・ピタラスの弟子の一人、コトコ・レクサンガスだろうポね。……それにしても、思っていた以上の人数ポね。これ全部、アーレイク・ピタラスの弟子ポ?」
写真の一人一人を指差しながら、数を数えていくノリリア。
「ポポゥ、十二人もいるポよ。アーレイク・ピタラスの弟子は四人だったっていう説は、完全に覆されたポね」
アーレイク・ピタラスと思われる男性の周りを、ぐるりと取り囲む十二人の様々な種族の者達。
人間、獣人、半獣人に竜人、エルフにドワーフまでいる。
その中の一人、ちょうどアーレイク・ピタラスの足元に座り込む、小さな者の存在に俺は気付いた。
「これ……? あ、これがもしかして、リュフトが言っていた五人目の弟子じゃない!?」
「ポポゥ、きっとそうだポ。悪魔の角と翼があるポね。だけど……、こっちも、想像とは少し違っているポ。蘑菇神様も、子供だったとは言っていたポが……」
額に生える、歪にうねった二本の角。
背には折り畳んではいるものの、悪魔のそれと思しき禍々しい形の翼が一対。
だけどもその体は随分と小さくて、人間で言えば十歳未満の子供のように華奢だ。
そしてその表情は、とても彼が悪魔だとは思えないほどに、屈託の無い純粋な笑顔だった。
ノリリアと俺は、写真に写るその悪魔であるはずの少年を見つめながら、しばしの間沈黙した。
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