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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

702:終了

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 パチリ……、ムクリ……、ゴシゴシゴシ……

 瞼を開いた俺が見たものは、真っ青な空の青だった。
 ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。

 白い石柱が立ち並ぶ不思議な場所で、石柱の向こう側にはモクモクとした白い雲海が広がっている。
 側にある一本の樹の葉が、サワサワと音を立てて揺れており、辺りはどこか神聖な空気に満ちていた。

 見慣れない風景に、寝ぼけ眼の俺は、はて? ここはどこだったかな?? と、目を擦った。

「ポポッ!? モッモちゃん!!!」

 声がして振り向くと、隣に並ぶ、俺が乗っているのと同じような白い石の台の上に、安堵の表情を浮かべながらちょこんと座っているノリリアの姿があった。

「あれ? ノリリア?? ……ここはぁ???」

 まだ頭の中がボヤッとしている俺は、間抜けな声でそう言った。

「ポ? 覚えてないポか?? ここはほら、第七の試練の間ポよ」

 ノリリアは、軽蔑するような目で俺を見ながらそう言った。

 第七の試練~?
 んんん~??
 なんだったっけか……???

 ぽりぽりと頭を掻きながら、賢明に記憶を辿る俺。
 
 え~っとぉ~……
 確か、神様のお使いで旅に出る事になって、光王レイアの導きで、ずっと南にある大陸まで行かなくちゃならなくなって……
 だから、港町ジャネスコから船に乗って、その船でピタラス諸島を巡ってて……
 あ~、そうだよ、白薔薇の騎士団と一緒に、大魔導師アーレイク・ピタラスの墓塔に上る為の鍵を探して……
 鍵は無事、全部見つかったから、最後の島で塔に登る事になって……
 そうそう、今、その塔に登ってるんだった。

 ボンヤリとだが、徐々に現状を思い出していく俺。
 さっきまで見ていた夢が、あまりにリアルだった為に、一瞬何が何だか分からなくなってしまったのだ。
 でも……

 よし、思い出したぞ!
 ここは、アーレイク・ピタラスの墓塔、その名も封魔の塔で、塔の内部には試練が沢山あって、今いるこの場所での試練が最後の試練だったのだ!!
 危うく夢の中に囚われそうになったが、ゴラの助けもあって、なんとか帰ってこられたようだ。
 うん、思い出したぞ!!!

 腰のベルトには、いつもと変わらず万呪の枝が引っかかっている。
 ついさっき、燃える万呪の枝を長老に手渡されたところで、俺は目を覚ましたようだ。
 この分だと恐らく、試練はクリア出来た事になるだろう。

 俺はそっと、ズボンのポケットに手を入れる。
 そこにはちゃんと、紫ウンコゴラがいた。
 夢の中みたいに、言葉を発する事は今のところ無さそうだけど……
 ほんわりと温かい、ゴツゴツとした手触りのそれを撫でながら、俺は心の中で「ありがとう」と言った。
 
「ポポゥ……、眠り過ぎて完全にボケているポね。無理も無いポ、丸一日と半日、ずーっと眠り続けていたのポから」

 溜息混じりで、軽く俺をディスるノリリア。

「えぇっ!? そんなにっ!!?」

 驚く俺。
 けれどもまぁ、夢の中のテトーンの樹の村で俺は、丸一日と半日、過ごしていたのである。
 つまり……
 
「夢の中と現実とでは、時間の流れが一緒……、って事なのかな?」

「そうらしいポね。まぁ……、あたちは数時間で目が覚めたポ」

 ドヤ顔でそう言ったノリリアの背後には、同じような石の台の上で、ライラックがあぐらをかいて座っている。
 どうやらライラックも、無事に試練に打ち勝てたようだ。
 
「あとは……、グレコちゃんだけポね」

「え?」

 ノリリアの視線は、俺の背後へと向けられている。
 慌ててそちらを見ると、そこには同じような石の台の上に横たわり、目を閉じて眠るグレコの姿があった。

 まさか、グレコがまだ起きていないとは……、予想外である。
 そして、グレコより先に目覚められた事に俺は若干の優越感を感じていた。

「あと、残り半日と一日……。早く目覚めてポよ、グレコちゃん」

 心配そうに、グレコを見つめるノリリア。

 グレコなら大丈夫だよきっと。
 それより、後で目を覚ました時が楽しみだ。
 俺が先に起きていたら、グレコのやつきっと驚くぞぉ~♪
 
 この時の俺は、ノリリアの心配を他所に、ニマニマとした表情でそんな事を考えながら、呑気に構えていた。






 夜になった。
 空に浮かぶ神殿を取り囲む雲海は、夕日のオレンジ色に染まった後、静かな夜の薄紫色へと変わっていった。
 頭上には変わらず光り輝く星々と、まん丸で少し青みがかった月が姿を現した。

「……まだ、起きないね」

 石の寝台の端に齧り付くようにして立ち、美しいグレコの寝顔をジッと見ながら、俺は言った。

 グレコはエルフだから、普通の人間よりも肌が白くて当たり前なのだが……
 辺りが暗くなった事で、よりその白さが際立っている。
 そして、横たわっている場所が石の上なので、なんていうかこう……、死人のように見えるのだ。
 勿論、ちゃんと息はしているし、手に触れると温かいので、生きてはいるのだが……
 俺、ちょっぴり心配です、はい。

「ポポゥ、また夜になってしまったポね。ライラック、何か食べ物は無いポか?」

 ノリリアの問い掛けに、ライラックは無言で首を横に振るう。

「あ、僕まだ食べ物あるよ。食べる?」

「ポポ、助かるポ」

 俺は鞄の中を漁って、テトーンの樹の村産のムギュのパンと、リリコの実のジャムを取り出した。
 あと、塩漬けにして干しておいたタイニーボアーの肉も少々。
 飲み物は、さすがにここでお茶を沸かす事は出来ないので、皮袋に入っている水をそのまま三つのコップに注いだ。
 自分の分と、ノリリアとライラックにそれらを手渡し、夕食とする事にした。

「グレコちゃん……、起きないポね」

 ムギュのパンをもそもそと咀嚼しながら、ノリリアが呟く。

「ふん……、なんのゆへ、見へんだほうへ?」

 同じく、ムギュのパンを口いっぱいに頬張りながら、グレコが何の夢を見ているのか気になる俺。

「まさかとは思うポが……、グレコちゃん、戻って来れないんじゃ……?」

 不安気な声を出すノリリア。

「まはか!? ぐへこに限っへ、そんなほほはなひほ!」

 笑い混じりに返す俺。

 そう、グレコに限ってそんな事、あるはずない。
 自分の夢に囚われて、現実に戻って来られ無いなんて事、しっかり者のグレコに限って、あるはずが無かった。
 しかし……






 三日目の、真夜中。

『第七の試練は、これにて終了する』

 空から舞い戻ってきたフェニックスが、無情にも、試練終了を宣言した。
 石の寝台に横たわったままのグレコは、最後まで、目を覚ます事は無かった。
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