上 下
710 / 800
★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

697:誕生日パーティー

しおりを挟む
「モッモ……、モッモや、朝だよ」

「んぁあ~???」

 優しい声に、俺は瞼を開く。
 薄暗い天井と、懐かしい匂い。
 そして、傍にいるのは、見覚えのある丸いフォルム……

「え? か、母ちゃん?? ……あれ??? なんで????」

 そこには母ちゃんが立っていた。
 訳が分からず、慌てて身を起こす俺。
 キョロキョロと周りを見渡して、現状を把握する。

 ここは……、間違いなく、俺の部屋だ。
 故郷であるテトーンの樹の村の、樹上に設けたツリーハウスの一室、ごちゃごちゃと色んなものが雑多に詰め込まれた、狭くて居心地の良い俺の部屋。
 その部屋の壁際にある、使い古して体にジャストフィットするベッドの上に、俺はいた。

「この子ったら、何寝ぼけてんだい? 早く起きて支度をしな」

 母ちゃんはそう言って、小窓にかかっているカーテンを開けた。
 眩しい太陽の光が射し込んできて、俺は思わず目を細める。

「支度? 支度って……、なんの??」

「あははは、決まってるだろう!? あんた達の誕生パーティーのだよ! コッコ、モッモ、トットの三人が生まれて、今日でちょうど15年目!! 今日からあんた達は大人の仲間入りだよ!!!」

 満面の笑みで、母ちゃんはそう言った。

 誕生日パーティー?
 え、それって……、あれ??

 起きたばかりでまだ覚醒していない頭の中が、グルグルと回り始める。
 なんだか心の中に、モヤモヤした感覚があるのだ。
 しかしながら、母ちゃんは待ってはくれず……

「さぁさっ! パーティーの前に顔洗っといで!! 主役がそんなんじゃ盛り上がらないよっ!!!」
 
 半ば放り出されるように、俺は自室を後にした。

 母ちゃんに言われるまま、顔を洗おうと家を出て、階段を下って樹から降り、近くの小川まで歩く俺。
 すると、小川に行くまでの道すがら、何匹もの顔見知りのピグモル達が、俺に声を掛けてきた。

「おはようモッモ! ようやくお目覚めかいっ!?」

「モッモ、お誕生日おめでとうっ!!」

「モッモも今日から大人だね!!!」

「モッモの為にクッキーを焼いたよ~♪ 後で食べてね♪」

「今日は盛り上がるよぉっ!!!」

「モッモ! ばんざーーーいっ!!」

 皆、笑顔で俺を祝福してくれる。

 そっか……、俺、今日で15歳なんだ。
 ピグモルは15歳で成人する。
 人じゃ無いから、成人っていうのは変だけど……、つまり、大人だ。

 でも、何だろうな……?
 何か、大事な事を忘れているような……??

 なんだか釈然としないままに、小川に辿り着いた俺は、静かに流れる清らかな水を手ですくい上げ、顔をパシャパシャと洗った。
 すると、モヤモヤしていた気持ちが、幾分かスッキリしたように感じた。
 
 正直、記憶が曖昧で、ハッキリしないけど……
 でも、今日から俺は大人なのだ!
 これまで以上に、村を発展させる為、頑張って働かないと!!

 朝靄の中、群生するテトーンの樹の隙間から、朝日が差し込んでいる。
 テトーンの樹特有の、スンとした匂いが鼻腔をかすめる。
 空は快晴、気候は爽やかで……
 今日も穏やかな一日になりそうだなと、俺は思った。
 





「モッモ! モッモ!! モッモ!!!」

「モッモを讃えよぉ~!」

「モッモ! モッモ!! モッモ!!!」

「モッモを崇めよぉ~!!」

「モッモ! モッモ!! モッモ!!!」

「神の子モッモに祝福をぉ~!!!」

「モッモーーーーーー!!!!」

 ……いや、全然穏やかじゃねぇなこりゃ。

 真昼間から始まったドンチャン騒ぎ!
 村の中央にある広場には、村中のピグモル達が集まって、飲めや歌えやでハッチャメチャッ!!
 大量に積まれた山の様な料理と、沢山のお酒。
 酒を煽り、食べて、騒いで、また酒を煽って、また食べて、踊って……

「モッモーーーーーーーーーー!!!!!」

 ……いや、うっせぇえわっ!!!

「コッコ、モッモ、トットの誕生日パーティー♪」で、史上最高に盛り上がるピグモル達。
 モッモコールの前は、コッココールがなされて、次は恐らくトットコールだろう。

「トット! トット!! トット!!!」

 ほらやっぱり、始まったよ……
 こういう時は決まって、必ずグレコも騒ぎ出すんだよな~。
 楽しいのが好きなのはいいけどさ、程々にしないと酔い潰れるぞ?

 楽しそうなピグモル達を前に、やれやれといった様子で、俺はそう思った。
 が、しかし……

「ん? グレコって……、誰だっけ??」

 ふと心に浮かんだ名前だったが、それが誰なのか思い出せない。
 確か、可愛くて、でもちょっと怖くて……、凄く頼りになる女の子だったような気がするが……
 んん~? 前世の記憶だろうか??

「モッモ! 僕らも踊ろう!!」

「あ……、うん!!!」

 コッコとトットに手を引かれ、踊り狂うピグモル達の輪の中心に入る俺達三人。
 
「ひゃっふ~! 今日から大人だぁっ!!」

「イェーーーイ!!!」

 テンション上げ上げのコッコとトット。
 俺も負けじと、お尻をフリフリして踊ってみる。
 そしたら……

「なんだその踊り!? おまい、踊りのセンスねぇぞっ!!? おいら様のラブリーダンスを見よっ!!!」

 えっ!?!?

 見知らぬ誰かの声が聞こえた気がして、俺は動きを止めた。
 辺りを見回してみるものの、そこにいるのは顔見知りのピグモル達ばかり。

 さっきの声は……?
 そういや、ずっと前に、誰かと一緒にドンチャン騒ぎの中で踊った様な気が……??

「モッモ~!」

 すると今度は、幼なじみのロアラとソアラの二人組が、少し離れた場所から手を振っているのが見えた。

「新作の料理が出来たの! 食べてみて!!」

 そう言って、木の皿に盛られた何かをこちらに見せている。

「あ……、うん! 今行く!!」

 そう返事をして、歩き出そうとした時……

「甘味であると良いな」

 んんっ!?!?

 低くて渋い口調の誰かの声が聞こえた気がして、俺は立ち止まった。
 再度辺りを見回してみるものの、やっぱりそこにいるのは顔見知りのピグモル達ばかりだ。
 
 俺は……、俺も、甘い物は好きだけど……
 もっと大好物な奴が、他にいたような……?
 
 なんだか不思議なモヤモヤした感覚に襲われて、俺は頭をポリポリと掻きながら、みんなの輪からそっと離れた。






 静かな小川へと戻ってきた俺は、ふと水面を見やる。
 そこに映るのは、いつもの俺。
 身体中が艶のある黄土色の毛に覆われた、クリクリお目目の、可愛らしい顔をした鼠型獣人、ピグモルの俺だ。
 ただ一点、いつもと違うところが……

 ん? なんだこれ??

 いつ付けたのか分からない、青い宝石の様な装飾がついた耳飾りを一つ、身に付けているのだ。
 しかも、触っても取れそうに無い。
 というか、取っちゃいけない気がするのだ。
 これは、とてもとても大事な何か……、だったような気がする。
 
 なんだろう? どうしたんだろう俺??
 疲れてるのかなぁ……???

 穏やかなせせらぎと、吹き抜ける風の音を聞きながら、俺は一人、ぼんやりと時を過ごしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~

物太郎
ファンタジー
 “彼女”は死後、一枚のカードを手に取った。  そこに書かれていたのは「役:悪役令嬢」。 『いいかい? 君はそこに書かれた君の役目を果たせばいい。失敗すれば死。一つでも取りこぼせば死。分かった?』  彼女を転生させるという謎の少年はそう言った。  アルベラ・ディオールとして転生した彼女は時に頼れる仲間を作り、時に誰かを敵に回し、“悪役令嬢”という役を成し遂げるべく二度目の人生を奔走する。 ※「追放」「復讐」主体の話ではありません ※◆=イラストありページ ・「アスタッテ」って何? 転生の目的は何? をさくっと知りたい方は「65話」と「151話」をどうぞ 第一章、怪しいお薬 十歳偏  ―完―  5年後に迎える学園生活&悪役業に備えるべくアルベラは模索する。そんな中、10歳時のヒーロー達と出会ったり、父の領地で売られている怪しげな薬の事を知ったり、町で恐れられてるファミリーと出会ったり……。※少しずつ文章を修正中 第二章、水底に沈む玉 十三歳偏  ―完―  高等学園入学まであと2年。アルベラは行き倒れの奴隷の少年を見つける。それから少しして魔族の奴隷も拾い……。  彼らの出会いとアルベラの悪役令嬢としてのクエストが関わり何かが起きる? 第三章、エイヴィの翼 前編 学園入学編  高等学園の入学前に、とある他人種の少女と出会ったアルベラ。少女にもらった地図が切っ掛けで、学園一度目の長期休暇は十日前後の冒険に出ることに。  ヒロインやヒーローとも新たに出会い、自分を転生させた少年とも再会し、アルベラの悪役業も本番に。彼女の賑やかで慌ただし学園生活が始まる。 第三章、エイヴィの翼 後編 一年生長期休暇と冒険編  学園入学後の初の長期休暇。入学前に出会った他人種の少女の里観光を口実に、手に入れた地図を辿りお宝探しへ。その先でアルベラ達一行はダークエルフの双子の企てに巻き込まれる事に。

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...