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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

687:他のみんなは??

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「私ね、モッモとなら……、いいよ」

 何やらエロティックな雰囲気を醸し出しながら、グレコは微笑んだ。

 ひゃはぁあぁぁっ!?
 なんだなんだっ!!?
 なんなんだこの展開はぁあっ!!??

 潤んだ瞳で、じっと俺を見つめるグレコ。
 その美しいお顔までの距離、およそ30センチ。
 地面に膝をつき、女豹のような前傾姿勢で此方に近付いてきたグレコは、もはや吐息が髭に当たる近さに迫っていて……

 天国!?
 ここは天国なのっ!!?
 グレコが、俺を……、俺の事を……、天国なのぉっ!?!?

 嬉しいやら、ビックリしたやらで、脳内がお祭り大パニックだ。
 ドキがムネムネしていて、破裂寸前である。
 だけどもしかし……

「やっ!? ちょっ!!? 待っ!?!?」

 喜びとは裏腹に、俺の意思とは関係なく、俺の体は無意識に後ずさっていた。
 これは、お色気ムンムンなグレコに気圧された故ではなくて、グレコがしてくる行為故であった。

 さっきからずっと、グレコは俺の手を、スリスリと両手で撫でくりまわしているのだ。
 神経過敏な俺にとっては、それがもう、気持ち悪いのなんのって……、気を抜けば胃の中の物を全て吐き出してしまいそうなほどだ。
 全身がピリピリのゾワゾワで、立っている事すらままならない状態なのである。

 やめへぇえっ!
 その手をやめへぇえぇえっ!!
 ふぉおおおおおっ!!!

 為す術なく、心の中で絶叫する俺。
 本来ならば、女の子に(しかもちょっと好きかも知れない女の子に)手を握られるなんて、まさに至福の極み! のはずである。
 しかしながら、悲しい哉、俺はピグモルなのだ。
 他者との触れ合い……、とりわけ、体表に毛のない他種族との肌の触れ合いなぞ、拷問以外の何ものでも無い。
 だけども、俺がそんな状態だとは全く気付いていないらしいグレコは、そっと目を閉じ、小さく窄ませた唇を近付けてくるではないか!

 ひぃいっ!?
 これはまさか、キッス!??
 なんでか分からんけど、グレコは俺にキッスをしようとしているのかぁあっ!?!?

 再び、脳内がお祭り大パニックに陥る俺。
 頭の中で、いくつもいくつも、お祝いの花火が上がっている。

 ……嬉しい、嬉しいぞこの野郎っ!
 全然知らなかったけど、グレコは俺の事が好きだったんだ!!
 お、俺も……、グレコとなら、その……、だぁああああああああああっ!!!

「無理ぃいぃぃぃ~~~!!!!!」

 俺は、半ベソをかきながら、グレコを突き飛ばした、……つもりだったけど、体格差が激しいので、俺の手が突っ張った事によって飛んだのは、俺自身だった。
 斜め横に向かって勢いよくぶっ飛んだ俺は、激しく尻もちをつく。

 いぃっ、痛いぃ~~~。
 けど……、良かった、ふぅ。

 グレコの手から逃れられた事によって、全身のピリピリとゾワゾワが治ったのだ。
 安堵した俺は、大きく深呼吸をした。
 
「……どうして?」

 突き飛ばされた事がショックだったのだろう(あ、飛んだの俺だけどね、グレコは全く微動だにしてないけどね)、グレコは悲し気な表情で、震えながらそう言った。

「あぁっ!? ごっ! ごめんグレコ!! その、僕、なんていうか……、えと……」

 言い訳が思いつかない俺は、しどろもどろになる。
 悲しむグレコの顔を、直視できない。
 勇気を出して告白してくれたグレコを、こんな形で傷付けてしまうなんて……

 俺だって、グレコの事……
 グレコの気持ちに、応えたかった……
 なのに、なのに……
 ぐわぁあぁあああっ!!!!!

 心の底から悔やみ、反省し、何か言わなければとテンパる俺。
 と、その時だった。
 視界の端に、妙なものが写り込んだのだ。

「ん?」

 俺は思考を止めて、それを注視する。
 悲し気な顔で俺を見つめ続けるグレコの、女豹ポーズなままのお尻の上辺りから、何かが生えているのだ。
 それはピンと上を向いた、見覚えのある茶色い尻尾。
 そして……

「おめでとう。あんたは合格っす」

「ふぁ??」

 目の前のグレコが、グレコじゃ無い声でそう言った。
 その声には聞き覚えがあった。
 独特な語尾のその声は、間違いなく……

「さ……、サテュ、ロス……???」

 グレコは、ニッコリと笑うと、その体がウニャウニャと蜃気楼の様に揺めき始める。

 あれ? なんだ?? え???

 しかしながら、揺らめいているのはグレコでは無く、俺の視界の方のようだ。
 ピンク色一色の森の景色が、だんだんと渦を巻く様に回転し始めて……
 謎の現象に、ゴシゴシと両手で目を擦る俺。
 そして、次に前を向いた時にはもう、森は消えて無くなっていた。

「……え? ここは??」

 目の前にあるのは、サテュロスのレリーフが象られた金色の扉。
 足元には赤銅色の床、壁も同じ色で……、明らかに、今いる場所は、さっきまでのピンク色の森ではない。
 頭上には、フワフワと浮かぶ銀の書物、リブロ・プラタの姿があった。

『よくぞ戻った、愚かなる挑戦者達よ!』

「どうなってるポ!?」

 はっ!? ノリリア!!?

 慌てて振り返ると、そこにはノリリアとライラック。
 そしてついさっきまで、俺にキッスをくれようとしていたグレコの姿がある。

 キャアッ! グレコ!?
 どうしよう……、なんだか恥ずかしいっ!!!

 するとグレコは、いつになくニヤニヤした表情で、サッと右手を前に出した。
 その手の平には、紫色の小さな宝玉が握られている。

「ポポッ!? それは鍵っ!!?」

 驚き、喜ぶノリリア。
 グレコはしたり顔でこう言った。

「ふふふ。あのサテュロス、私が捕まえたの♪」
 
 おおうっ! マジかっ!?
 あのバリバリ野生児のサテュロスを捕まえたとっ!!!

「さすがポ! グレコちゃん!!」

 喜ぶノリリア。

「これで次の階に行けるわね! でも……? 他のみんなは??」

 グレコの問い掛けに、俺とノリリア、ライラックは周りに目を向ける。
 どう見ても、昇降機内には俺達四人しかいない。

 あれ? みんなは??
 カービィに、ロビンズに、パロット学士も……、え???

『第五の試練! 終了~!!』

 リブロ・プラタが叫ぶ。

 まさかとは思うが……、そんなまさかっ!?

「ポポポッ!? ちょっと待ってポッ!!? あとの三人はどこ行ったポか!?!?」

 焦るノリリア。
 無言のライラック。
 そして、俺と同じく最悪の事態を把握したらしいグレコは、険しい顔でリブロ・プラタを睨んでいる。

『ここに戻らぬという事は、即ち、試練に敗れたという事! 試練に敗れし者共は、この塔より存在を抹消された!! 果たして、貴様達だけで、残る試練を攻略する事が出来るか?』

 フワフワと空中で揺れながら、表紙の目を細めて、厭らしい笑みを浮かべているかの様に見えるリブロ・プラタ。

 嘘だろ?
 試練に打ち勝ったのは、俺達四人だけ??
 そんな、そんな事って……???

 余りに予想外の結果、余りに衝撃的な現状に、俺達は四人共、言葉を失う。
 これまで感じた事のない焦りと動揺から、ビビって体が震えないようにと、俺は拳を強く握りしめた。
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