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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

674:そこには沢山の……

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「残るはモッモちゃんと、カービィちゃんポね」

 ノリリアがそう言うと、騎士団メンバー及びグレコとギンロが、ジッとこちらを見つめてきた。
 みんなから、期待ともプレッシャーとも取れる視線を向けられる俺。

「じゃ、じゃあ……、カービィが先に行く?」

「いんや、おまいが先行け」

 くっ……、先に行ってよ!!!

 全く感じ取ってくれないカービィを、キッと睨み付ける俺。
 俺には、みんなの気持ちがひしひしと伝わっているのだ。
 モッモは時の神の使者なんだから、きっと何かが起こるはず……、とかなんとか、みんな思っているに決まってる。
 だけど、もし何も起きなかったら?
 次の階層に向かう為の鍵が、どこからも現れなかったら??
 心の中が、不安一色に染まっていく。

 すると、遅ればせながら、それを知ってか知らずか……

「やっぱ、おいらが先に行こ~っと♪」

 気分屋全開のカービィが、テクテクと鏡の前へと歩いて行く。
 ホッとする俺。
 しかしながら、次の瞬間に、俺は気付いてしまう。
 最後に残された方が、もっとプレッシャーなのでは? と……

 しっ!? しまったぁあぁぁっ!!?

 しかしながら、時既に遅し。
 カービィはもう、石の上に立って鏡に向かい合っている。
 ウネウネと鏡の表面がうねり、そこに映し出されたのは……

「んお? なんだ??」

 間抜けな声を出すカービィ。
 何故なら、鏡に映っているのは、そのまんまカービィなのだ。
 
「ポ? カービィちゃん?? ……それとも、カービィちゃんのご両親のどちらかポか???」

 ノリリアが推測するも、それは恐らく違うだろう。
 何故ならカービィは、幼少期に悪魔に呪われたせいで、体の成長が止まっているのである。
 即ち、鏡に映っているのがカービィの両親ならば、もっと大人なマーゲイ族でなくてはならない。
 それに……、カービィみたいにドピンク色のマーゲイ族など、他にいるはずが無いのである。

「いいえノリリア、あれはきっとカービィ自身よ。あんな締まりの無い顔の獣人は、きっと他にはいないもの」

 失礼極まりない分析で、グレコは鏡に映っているのがカービィ自身だと言い切った。
 ……まぁ、言いたい事は分からんでもないよ。
 あの緊張感の無いヘラヘラ顔は、カービィを除いてはこの世に存在しないだろう。

「んだ! 了解!!」

 鏡の自分に向かって敬礼するカービィ。
 そしてクルリとこちらを向いて、テクテクと戻ってくると……

「みんなで舟に乗って、来た場所へ戻れだとよ~」

 え? は?? ……うん???

「ポポ? どういう事ポ?? それは……、鏡の中のカービィちゃんが、そう言ったのポ???」

「んだ! なんでか分かんねぇけど、おいらは選ばれたらしい。鍵はこの後ちゃんと手に入るって、あっちのおいらが言ってた!!」

 ま、マジ、か……????

「俄かに信じ難い話ですが……。カービィさんだけが、鏡に映った者がご自身のままでした。本当に選ばれたというのなら、その言葉通りに、元の場所に戻ると鍵が手に入るのでは?」

 むむむと考えるパロット学士。

「他には何か言っていなかったのか?」

 ロビンズが問い掛ける。

「な~んも♪」

 ふざけた返事をするカービィ。

「どうしてカービィだけ、自分自身が映ったの? 何かしたの??」

 不審な目を向けるグレコ。

「な~んも♪」

 ふざけた返事をするカービィ(2回目)。

「もしやと思うが……。カービィ、お主には尊敬に値する他者がおらぬというのか?」

 険しい顔のギンロ。

「いんや、そんな事ねぇよ。すげぇな~って思う奴は沢山いるさ。けど……、なはは! 誰も出てこなかったな!!」

 駄目だ、意味が分からん。
 この鏡は、映った者の真の望みを映す鏡で、これまでの結果を踏まえて、自分が尊敬する人物より望む言葉を貰えるというのが、俺達の見解だったのだ。
 なのに、何故、カービィだけ……?

「完全に意味不明ポね」

 ノリリアが、みんなの気持ちを代弁してくれた。
 うん、マジで、意味不明だわ。

「えと……、モッモくんはどうする? 一応、やってみる??」

 マシコットがそう言った。

「あ……、いや、僕は……」

 どうしよう……、やるべきなのか?
 カービィの言葉を信じるのなら、このまま戻ればいいわけで、俺が鏡の前に立つ必要は無いのでは??

「ポポゥ、モッモちゃん、やってみてくれるポ?」

「へ!? そ……、そう?」

 ノリリアは、どうもカービィの事を信用しきれないらしい。
 
「そうね、モッモもやっておきなさい。もしかしたら、何かもっと別の……、何かが起きるかも」

 別の何かって、なんですかグレコさん?
 真剣な表情が逆に怖いですよ、グレコさん。

 正直なところ、試してみたい気持ち半分、試したく無い気持ち半分である。
 自分の本当の望みを知りたいような、知りたく無いような……
 誰が出てくるのかも楽しみだったり、ちょっぴり怖かったり……

 しかしながら、俺に決定権は無さそうだ。
 ここにいる全員が、さぁ行け! と言わんばかりの眼差しを、俺に向けているのである。
 うむ……、行くしかないっ!

 俺はゆっくりと歩き出す。
 白い砂の上をサクサクと歩き、そうろっと、鏡の前にある石の上に立った。
 人魚のレリーフが象られた、薄らとピンク色がかったその石の上に立つと、何かがスーッと、心臓の辺りを通り抜けて行った感じがした。

 ドキドキドキドキ

 緊張からか、小ちゃなマイハートが鼓動を早める。
 手には汗がビッチョリだし、前歯は震える寸前だ。
 ゆっくりと前を見据えて、そして……

「え? な?? えぇえっ!?」

 鏡を見た俺は驚いた。
 ウネウネとうねる鏡の表面が落ち着いたかと思うと、そこには沢山の……、本当に沢山の者が、映り込んでいたからである。
 彼らは、これまでの旅路で出会ってきた、様々な種族の、様々な間柄の者達。
 テトーンの樹の村の守護者ガディスに、ブラッドエルフのユティナとその相棒サカピョン。
 タイニック号の船長ザサーク、イゲンザ島で封印を解いた梟獣人のホーリー、コトコ島で出会った祢笛に雄丸に勉座、それに騎士団のみんな。
 勿論、グレコやカービィ、ギンロも、ティカも映っている(テッチャはいないな)。
 
「ポポポッ!? これはっ!!?」

「何これ!? どういう事っ!!?」

 背後では、みんなが騒いでいる。
 無理もないな、みんなは一人しか映らなかったのに、俺のはざっと見ただけでも数十人だものね。
 なんだってこんな事に……?
 ここに映っている全員の事を、俺は尊敬しているというのか??

 すると、鏡の中のみんなが、口々にこんな事を言い始めた。

「モッモは強いよ!」

「モッモならやれる!!」

「頼りにしてるよモッモ!!!」

 みんなが俺を、強い、出来る、頑張れ、などなど、鼓舞してくれているのだ。
 それは、とても心強くて、心地良くて、俺は自然と笑顔になる。

 でもさ、ちょっと待てよ……
 これってさ、俺の望みなんだよね?
 俺が、心の奥底で願っている、真の望みなんだよね??
 つまりさ、俺の望みって、みんなに認められたい、褒められたいって事なのかしら???
 なんかさ、それってさ……、ちょっと幼稚な気がする。

 俺は、複雑な気持ちで石から降りた。
 そして、くるりと振り向くと、みんなが気不味そうな顔でこちらを見ているではないか。
 まるで、何が起きたのか、みんな知っているかのような雰囲気で。

「あ~っと……、どうだった?」

 周りの空気を察してか、グレコが問い掛けてきた。
 どうだった? と聞かれても……

「みんなが、励ましてくれた」

 ポツリとそう言った俺に対し、みんなはあからさまに、笑うまいと顔に力を入れる。
 しかしカービィだけは……

「ぶはっ!? おまい、みんなに励まして欲しいのかっ!??」

 遠慮なく吹き出して、大笑いし始めた。

 くぅ~……、くっそぉおぉぉ~……
 穴があったら入りたいっ!
 恥ずかしすぎるぜっ!!
 ちっくしょおぉぉおっ!!!
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