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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

671:巨大な鏡

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「ポポポ。これだけじゃ、どんな試練か分からないポが……。とにかく、一人ずつここに立って鏡を見てみるポよ!」

「じゃあ、僕が最初に」

 ノリリアの言葉に、先陣切って石の上に立ったのはマシコットだ。
 その他はみんな、地面の石より数歩下がった位置に待機した。

 石の上に立ち、巨大な鏡に向き合うマシコット。
 すると、それまで普通に俺達の姿を映し出していた鏡が、その表面をウネウネとうねらせ始めたではないか。
 水の中で絵の具を混ぜたかのように、鏡の中の景色は酷く歪んでいく。
 しかしながら、それは徐々に収まっていき……
 次に映ったのは、石の上に立つマシコット……、ではなく、真っ赤な炎に全身を包まれた、見知らぬ精霊らしき者の姿だった。

「これは、いったい……?」

「どうなってるんだ??」

 口々に疑問を呟く俺達。
 鏡に映ったその者は、口を一文字に結んだ厳しい顔付きで、こちらを睨みつけている。
 人型のそれは、どこぞのボディービルダーの如く筋肉隆々の身体を持ち、全身から燃え上がる炎の勢いはマシコットの比では無い。
 その迫力といったらもう……、本気モードのバルン並みにおっかないのだ。

 すると、石の上に立ったまま、マシコットがポツリと呟いた。

「そんな……、お父、さん?」

 え? お父さん?? ……えっ!?

「ポッ!? お父さん!!? ……マシコットの!?!?」

 驚く一同。
 当のマシコットはというと、ヨロヨロと力無く石の上から地面に降りた。
 その額には珍しく、何故か自らの炎でも蒸発しない、大粒の汗をかいている。

「おいおい、大丈夫か?」

 心配気に、俯くマシコットを覗き込むカービィ。
 マシコットは額に手を当てながらこう言った。

「僕の父は、僕が小さい頃に亡くなってて……。今の今まで、ほとんどその姿形さえ忘れていたくらいなのですが、何故ああもハッキリと父の姿が……? それに、さっきの言葉……」

「言葉? 言葉なんて、我々には何も聞こえませんでしたが??」

 パロット学士がそう言うと、マシコットは驚いた表情になり……

「本当ですか? じゃあ、僕にだけ聞こえたのか……、どうして……??」

 かなり困惑しているようだ、視線が一所に定まっていない。
  
「どんな言葉が聞こえたんだ?」

 ロビンズの問い掛けに、マシコットは少しばかり顔を青くして答える。

「それは……。僕を、恨んでなどいない、と……。僕の父は、僕を守る為に、自らを犠牲にして、この世を去ったので……」

 振り絞るようにそう言ったマシコットに対し、俺達は返す言葉が見当たらなかった。
 巨大な鏡にはもう、マシコットの父だという精霊の姿は、映っていなかった。

「ポポポゥ……。どういう事なのか、さっぱり分からないポが……。鍵が手に入っていないという事は、試練はまだ続いているという事ポ。加えて今現在、マシコットの姿がこの場から消えていない事を考えると、鏡に自分以外の者の姿が映った事は、試練に敗れた事にはならないという事ポね」

 ふむ、なるほど。

「では、次は私が試してみましょう」

 そう言って、パロット学士が前に進み出る。
 かなり緊張しているらしく、その表情はいつになくカチコチで、真剣だ。
 石の上に立ち、真っ直ぐに巨大な鏡を見つめるパロット学士。
 するとすぐさま、先程と同じように、鏡の表面がウネウネとうねり始めて……

「ぬ? むむ?? なっ!? んとっ!!?」

 鏡に映し出された見知らぬ者を前に、パロット学士は驚愕の表情を浮かべている。
 その者は、めちゃくちゃ気難しそうな雰囲気の、オランウータンみたいな顔をした、猿型の獣人だ。
 眼鏡をかけて、白衣を身に付けているからして、何やら研究者のようだが……

 それにしても、なんだろうな?
 前世の記憶の中に、こいつによく似た猿の姿があるのだが……
 あ、そうか、映画に出てたなこういうの。
 確か、《猿の惑星》とかいうやつだ、うん。

「んあ? 誰だそいつ??」

 カービィがヘラヘラとしながら、間抜けな声で尋ねた。
 するとパロット学士は、バッ!とこちらを振り返って……

「そっ!? そいつとは無礼なっ!!? この方は、フーガの考古学界では超有名な、ディアノ・メノス学士ですよ!!?? そいつとは無礼なっ!!?!?」

 カービィの言葉と態度に、よほど憤慨しているのであろう、同じ事を二回言った。
 ていうか、パロット学士の口から「超有名」なんて言葉が出るなんて……、ちょっと意外で面白いな、ぷふっ。

「ディアノ・メノス学士……。聞いた事がありますわ。確か、アンローク大陸南端より海を越えて、南に位置する原生的な諸島群、シッポリアス諸島。そこに生息する原始的な獣人族、ポンゴ族。その出身だというのに、あらゆる知識をその頭脳に宿した、フーガにおける歴代最高の識者であり、奇跡の考古学士と呼ばれた者……、でしたわよね?」

 インディゴの解説に、パロット学士は胸の前で腕を組み、コクコクと深く頷く。

「如何にも! このディアノ・メノス学士の出現無くして今のフーガの考古学界は存在しない……、とまで言われるほどの、我々考古学士にとっては、超超超超重要人物なのですよ!! それを……、そいつとは無礼なっ!!!」

 だいぶ怒っているらしい、パロット学士は鼻息荒く、同じ事を三回言った。
 ていうか、超超超超って……、パロット学士よ、興奮し過ぎてキャラ崩壊してるぞ?

「悪かったよ、おいらの勉強不足だ~」

 カービィにしては珍しく、アセアセと謝っている。
 分かるよその気持ち、普段怒らない人が怒るとビックリするもんね、うん。

「しかし、何故そのような者が……? パロット学士、何か言葉はかけられていないのか??」

 ロビンズに尋ねられて、パロット学士は巨大な鏡に向き直る。
 そして……

「お……、おぉ、そんな……。なんという、勿体無いお言葉……」

 全身をプルプルと震えさせながら、鏡の中にいるオランウータンに向かって、ゆっくりとお辞儀をするパロット学士。
 石の上から降り、ゆっくりとこちらに戻ってきたパロット学士は、感嘆の表情を浮かべ、興奮冷めやらぬ様子でこう言った。

「ディアノ・メノス学士は、私に……。この私に! フーガの考古学界を率いていけと、仰られた!!」

 鼻息荒くそう言ったパロット学士は、まるで夢見る少年のように、キラキラと目を輝かせていた。
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