上 下
676 / 800
★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

663:我に続けぇえっ!!

しおりを挟む
 なっ!? 何あれっ!!?
 どっから湧いてっ!?!?
 てか……、数が多過ぎっ!!?!?

「キィッ! キィッ!! キィイィィィーーー!!!」

 甲高い奇声を上げながら、此方に向かってくる小鬼の群れ。
 言葉を使わない非言語種族故に、その声は猿などの獣の鳴き声のようにしか聞こえない。
 ただやはり、普通の獣よりかは少しばかり知性があるのだろう。
 棍棒を手にしている事もそうだが、みんな腰回りには下半身を隠す為のボロ布が巻かれている。

 その数およそ……、うん、多過ぎて分からん。
 多分、ゆうに百は超えていると思われる。
 体長は30センチほどなので、1体ずつならば俺でもなんとかなりそうだけど……
 あんなにも沢山、ワラワラと群がられては、とてもじゃないがどうにもならない。
 醜い顔にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、全力疾走してくる小鬼の大群に、俺は背筋がゾクゾクするほどの寒気を感じた。

「ねぇ! こっちで合ってるのかしら!?」

 走りながら、唐突に問い掛けるグレコ。
 こっちで合ってる……、とは?

「分からん! だけど、どう考えても、ありゃ興奮状態トランスだ!!」

 そう言ったカービィは、真っ直ぐに前を向いている。
 その視線の先にあるのは、轟々と燃え盛る青い炎。

「興奮状態の奴に道など分かりゃせんじゃろっ!?」

 背負っている荷物が重いのだろう、既にツルツル頭が汗だくのテッチャが叫んだ。

 なるほど、そういう事か。
 つまり、今先頭を突っ走っているマシコットの、燃え盛るあの青い炎は、彼が興奮状態である事を意味しているわけだ。
 そして、興奮状態故に、彼には道が分かってないと……

「えぇっ!? それってやばくないっ!!?」

 ようやく事の重大さに気付いた俺。
 ここは、幾つもの通路が入り組んでいる、迷路の様な洞窟なのだ。
 下手すりゃ迷って一生出られない、なんて事も起こり得る。
 というか……、そもそも、出口が何処にあるのかすら、俺達の誰も知らないのでは?

「モッモ、お主が行く先を指示せねば!」

 俺の体を小脇に抱えたまま走り続けているギンロがそう言った。

「はっ! それねっ!!」

 そうだよ!
 こういう時こそ、望みの羅針盤の出番じゃないか!!
 またピクシスに小馬鹿にされるところだったぜ!!!
 
 俺は、首から下げている望みの羅針盤を手に取って、方角を確かめる。
 銀の針が北を示し、金の針が俺の望むものを示す、のだが……

「ゲッ!? 後ろを指してるっ!!?」

 羅針盤の金色の針は、明らかに、俺達の後方を指している。
 つまりは、来た道を戻らなくちゃならない!

「何ぃいっ!?!?」
 
 お得意の変顔で驚いて、急ブレーキをかけるカービィ。

「ノリリア! そっちじゃないわ!!」

 前を行く騎士団メンバーに慌てて声を掛けるグレコ。

「ポッ!? こっちじゃないポか!??」

 グレコの言葉に、ノリリア達も急ブレーキ。
 しかしながら、先頭を行くマシコットは……

「マシコット! 止まれっ!! そっちじゃないっ!!!」

 興奮状態故に、ロビンズの制止も耳に届かず、更に先へと突っ走って行くではないか。

「くそっ!」

「ポポゥ!? まずいポッ!??」

 焦ってマシコットを追い掛けようとするノリリア。
 しかし、その体をライラックにガシッと掴まれて……

「駄目でさっ! 諦めやしょう!!」
 
「ポウッ!?!?」

 俺と同じ様な格好で、ライラックに小脇に抱えられてしまう。

「諦める!? そんなっ!!? マシコット~!!!」

 ノリリアの叫ぶ声も虚しく、マシコットである青い炎は、遥か遠くへと消えていってしまった。

「モッモ! 方向を指示するのだ!!」

 そう言ったギンロは、俺を自分の肩にヒョイと乗せた。

「ひゃあっ!? はっ! はいぃっ!!」

 突然の肩車に、俺はギンロの頭にしがみつく。
 落ちないようにと、逞しくて太い首に足をガッチリ回して、三角に尖った耳をぎゅっと握りしめた。
 するとギンロは、腰に装備していた二本の魔法剣を鞘から抜き出し、振り向いて、後方から迫っていた小鬼達に向かって……

「グルルルル……、ガルルラァアァァァッ!!!」

「ひぃいぃぃ~~~!?!!?」

 威嚇するかの如く、吠えた!
 洞窟中に響き渡りそうなほどの、魔獣の咆哮。
 驚いた俺は小さく悲鳴を上げて、周りのみんなは思わず耳を塞いだ。
 小鬼達はビックリして動きを止め、中には腰を抜かして地面に這いつくばっている奴もチラホラいる。

「皆の者! 我に続けぇえっ!!」

 若干中二病な掛け声と共に、ギンロは走り出した。
 二本の魔法剣で、前方に迎え撃つ小鬼達を次々に斬り捨てながら。

 きゃあぁぁ~!?
 虐殺っ!!?
 小鬼の大量虐殺!!??

「キィッ!? キィイィィィーーー!!?」

 悲鳴を上げながら、ギンロの魔法剣の餌食となっていく小鬼達。
 切り裂かれる胴体、空を舞う手足、苦痛に歪む顔。
 飛び散る血飛沫は濃い紫色で、なんとも言えない悪臭を放っている。

 いっつぁ……、ベリーベリー、グロテッスクゥウッ!!!

 目を覆いたくなるのを我慢して、俺は望みの羅針盤に視線を向ける。
 すると、金色の針は少しばかり、進行方向より右側へとズレている。

「やべ……、ギンロ! こっちだよ!!」

 そう言って俺は、ギンロの右耳をグイグイと引っ張った。
 するとギンロは、ロボットのようにグルン! と、勢いよく体を右へと回した。

 ……何その動き、面白い。

 そして、目の前で枝分かれしている通路の右側を選び、突進して行く。
 道の先にはまたもや小鬼が待ち構えていた、が……、大丈夫、問題無い。
 世界最強の魔獣フェンリルには、敵など存在しないのであ~る!

「行け行けぇ~!」

 背後から聞こえる、ノリノリなカービィの声。
 ふと後ろを振り返ると、凄く楽しそうな顔でキャッキャ言いながら走っているカービィと、引き攣り笑いをしながら走るグレコの姿が見えた。
 バラバラになった小鬼の残骸を避けつつ、はぐれてしまったマシコット以外は、皆ちゃんと着いてきているようだ。
 ただ、すぐ後ろにいたはずのテッチャは、何故だかノリリアを抱えて走るライラックよりも更に後ろ、隊列の最後尾を、汗だくだくでヒーヒー言いながら走っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

素材鑑定士見習いの徒然なる日常 〜愛されスピーの村外研修〜

玉美-tamami-
ファンタジー
「素材鑑定士って、何ですか?」 「名前のまんまさ。素材を鑑定する者の事だよ♪」 魔法王国フーガを舞台に、可愛いピグモル族の青年スピーが、個性溢れる仲間たちと織り成す、ほのぼの日常系ストーリー♪ ***およそ60年前に、この世界から絶滅したとされていた、可愛らしいだけが取り柄の愛玩種族であるピグモルは、辺境の地で密かに生き延びていた。 その後、長い年月を経て、ある事をキッカケに村を飛び出した一人の若いピグモルの活躍が、彼らを世界へと羽ばたかせるきっかけとなったのだった。 そして今日もまた、新たなピグモルたちが、その小さな胸に大きな勇気と希望を持って、外の世界へと一歩を踏み出すのであった。*** 作者の他作『最弱種族に異世界転生!? 〜小さなモッモの大冒険♪〜』の舞台より、約10年後の世界のお話です(๑>◡<๑) 読んでなくても全く支障は無いですが、読んでいた方が若干面白い部分もあるとは思います←(笑) *現在休載中です。続報をお待ちください*

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

処理中です...