674 / 800
★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
661:あのさ
しおりを挟む
なななんっ!?
なんだこいつぅうっ!??
突如として目の前に現れた金色に輝く人型の何かは、推定身長3センチといったところだろうか、俺の掌よりも随分と小さい。
背に生えている四枚の羽は薄く透けていて、トンボなんかの昆虫のそれとよく似ている。
だけども勿論、虫などではない。
衣服を身につけ、靴を履き、頭には小さなとんがり帽子も被っているし……、そもそも言葉を話しているのだから、知的生命体ではあるのだろう。
しかしながら、こんなに小さな生き物は、それこそ虫以外では初めて見る。
妖精……、か、何かだろうか?
だとしても小さ過ぎやしないか??
てか、どっから現れたんだこいつ???
頭の中で、いろいろと思案する俺。
その間もそいつは……
『あのさ、聞いてんの? もしも~し?? はぁ~、面倒臭いなぁ……、フリーズしないでくださぁ~い!』
驚いて声も出せずにいる俺に対し、尚もヒラヒラと手を振り続けている。
その動作も、口調も、小馬鹿にしたような表情までもが、かな~り不愉快だ。
すると……
「何これっ!?」
俺の隣に座っていたグレコがそいつに気付き、慌てて立ち上がって、咄嗟にその場を離れた。
たぶん、大きさ的に、虫か何かと勘違いしたんだと思う。
グレコの顔は、いつになく珍妙な、「ゲッ!?」て感じの表情になっていた。
「ポッ!? 何ポッ!??」
グレコの言動に、ノリリアを始めとし、騎士団の皆もすぐさま異変に気付く。
「なんだそりゃ!?」
お決まりの変顔で、こちらへ近付いてくるカービィ。
するとそいつは、クルッと皆の方に向き直って……
『初めまして皆さん! 僕の名前はピクシス!! この間抜けなご主人様を助ける為に具現化した、望みの羅針盤の心です!!!』
丁寧かつどこか可愛らしい口調で自己紹介し、ペコリとお辞儀をした。
その様子は、俺を小馬鹿にしていたさっきまでの態度とは、余りにも違っていて……
おいおい、随分な変わり身じゃねぇかよおい。
なぁ~に可愛子ぶってんだよ!?
俺は眉間に皺を寄せて、そいつを睨み付けた。
が、すぐさまその言葉が引っかかって……
てか今、なんてった?
望みの羅針盤の心とか言った??
それって……、え???
「ポポ!? 羅針盤の心!??」
驚くノリリアと、ざわざわとする面々。
すると、俺とそいつとを交互に見ていたマシコットが、口を開いた。
「そうか……。つまり君は、精霊……? 物に宿る精霊【スピリット】、なんだね??」
その言葉に、ピクシスと名乗ったそいつが答える。
『ご名答! さすがはマシコットさん!! 【エレメンタル】の血を引くだけあるね!!!』
二人のやり取りに、それぞれに驚きつつも、なるほどなるほどと納得する面々。
しかしながら、世間知らずなグレコとギンロ、そして勿論俺も、何一つ状況が理解出来ず、首を傾げるしかなった。
-----+-----+-----
【精霊】
この世界における生命体の中で、実体を持たず、霊体のみで存在している者の総称。
自然界に宿る精霊を【エレメンタル】、人工的な物体に宿る精霊を【スピリット】と呼ぶ。
エレメンタルは、この世界とは別の次元に肉体を持ち、精霊召喚師の呼び掛けに応じる形で、何らかの方法を用いて霊体のみでこの世界に出現しているとされている。
スピリットは、物体そのものが肉体であり、その物体に宿る精神が具現化されたものであると考えられている。
どちらの精霊も霊体でのみ存在し、その身に魔力とは異なる力【霊力】を持している。
-----+-----+-----
「じゃあ、おまいはモッモの羅針盤に宿る精霊なんだな?」
『そういうこと~♪』
俺の頭の上を、虫特有のブンブンといった羽音を響かせながら、くるくると旋回するピクシス。
鬱陶しいったらありゃしない。
「ポポポゥ、スピリット……。初めて見るポよ」
何やら珍しいらしく、ノリリアもその他の面々も、興味津々でピクシスを見ている。
そんな皆の様子に、注目を浴びている事が嬉しいらしく、ピクシスはいろいろとポーズを取りながら空中を移動していた。
……いや、てかさ、何? 何なのよ??
望みの羅針盤の心とか言っていたけど、何なのよそれは???
疑問に思うと同時に、俺は彼女の事を思い出していた。
ニベルー島で悪魔テジーに捕まった際と、先日のハーピー襲撃時の二度に渡って、ピンチの俺を助けてくれた、彼女の名前はマーテル。
彼女は自身の事を、俺が所持しているエルフの盾の心だと言っていた。
つまりあれか?
今目の前にいる、自らを羅針盤の心だと言うピクシスと、盾の心だと言うマーテルは、同じ存在……??
二人共、精霊の中でも物に宿るというスピリット……、だという事なのだろうか???
「物に宿る精霊って事は、この子の本体は、モッモが首から下げている羅針盤なのね?」
問い掛けるグレコ。
「彼の言葉を信じるのなら、そういう事になるね……。しかしまぁ、彼の言葉は真実だ。彼は精霊で間違い無い。エレメンタルほどでは無いけれど、彼からも精霊の力、霊力が感じられるからね」
答えるマシコット。
「けどよぉ、スピリットって確か……、何十年とか何百年とか、めちゃくちゃ長い年月を使い込まれた道具とかにしか宿らねぇはずだよな? モッモがこの羅針盤を手に入れたのは最近だろ?? 見た感じだと、そこまで年季物にも見えねぇし……???」
俺の首に下げられたままの羅針盤を、遠慮なく手に取ってしげしげと観察しながら、カービィが言った。
カービィの言葉通り、俺がこの羅針盤を手に入れたのはおよそ二ヶ月前。
神様から、他の神様アイテムと一緒に授かったもので……、つまり最近だ。
それに、羅針盤は新品同然で、傷の一つも無ければ汚れてもいないし、色がくすんでもない。
自らを盾の心だと言うマーテルが宿るエルフの盾は、確か凄く昔に作られた物のはずだ。
初めてマーテルに出会った時に、マーテル自身が「この世に生まれて幾千年」とかなんとか言っていたしな。
それがたまたま、港町ジャネスコの防具屋さんで売られていて……、気に入ったので買いました、はい。
つまり、ずっと昔に作られたであろうエルフの盾に、マーテルのような心が宿る事は、まぁ考えられなくもない。
しかしながら、カービィの言う通り、この新品同然の望みの羅針盤に心が宿るという事は、ちょっと考えにくいような気がするのだが……?
「そうですね。本来ならば、スピリットが宿る物は古き物……、数十年前の思い出の品とか、古代の遺物などです。しかし、風の噂で聞いた事があるんです。ある者達ならば、意図的に物体に精霊を宿らせる事が可能だと」
マシコットの言葉に、ロビンズがピクリと眉を動かす。
「なるほどそうか。そやつが出現したのは、モッモの召喚師としての力なのだな?」
ふぁっつ?
俺の、召喚師としての力??
……とは???
「そう考えるのが妥当でしょう。長い歴史を誇るフーガにおいても、特級召喚師の称号を得た者は過去に数名しか存在しませんが……、彼らは物に精霊を宿す術を持ち合わせていた。それは、霊力の強さ故に成せる技でした。そしてモッモ君は、その身に、特級召喚師をも超えるであろう絶大なる霊力を秘めている。恐らく、その霊力の影響で、身に付けている物に精霊が宿ったのだと考えられます」
お、おぉ……、そうだったのか……?
マシコットの説明は、少々小難しくて、正直何が何だかよく分かってないが、納得出来た部分が一つあった。
俺には、精霊に匹敵するほどの霊力があると、以前カービィが言っていた。
つまり、この目の前のピクシスとかいうめちゃんこ小さい妖精紛いな精霊は、俺の中にあるその霊力が原因で、こんな風に具現化したのだと……
『あのさ、ちょっといいかな?』
俺の頭の上で旋回していたピクシスが、俺の頭の上にちょこんと腰掛けて(精霊だからか、感触はありませんでした)、言った。
『僕がどういう存在で、どうしてここにいるのか、ってのはもういいでしょう? 大事なのは、何故僕が姿を現したのか、って事じゃない??』
なかなかに短気なのだろうピクシスは、先程までのかわい子ぶりっ子を即座にやめて、俺に対してそうであったように、ここにいる全員に向かって面倒臭そうにそう言った。
あんた達みんな頭悪いね~、って言いたげな表情で。
「それもそうね。どうして出て来たの?」
素晴らしく切り替えの早いグレコが問い掛けた。
たぶん、ピクシスが何なのかはどうでもいいって思ってるのだろう、顔にそう書いてある。
『あんた達の探している物を、僕が見つけてあげる。どう考えても、この中から小さい宝石一個を探し出すなんて……、無理でしょ?』
これまた小馬鹿にした微笑を浮かべつつ、ピクシスは言った。
その態度に、ノリリアとロビンズは少々ムッとした顔付きになったが……
「んだな! さっさと見つけてくれ!!」
こちらも切り替えが早いと言うか、小馬鹿にされても全く動じてないカービィが、ヘラヘラと答えた。
『よしきた! じゃあ……、ご主人様、出番ですよ~』
「はへ? 僕??」
急に話を振られて、間抜けな声を出す俺。
するとピクシスは、分かりやすく大きく溜息をつき……
『あのさ、僕は望みの羅針盤の心だって、さっきそう言ったよね? 聞いてた?? 聞いてなかったの???』
「きっ!? 聞いてたよっ!!」
『じゃあさ、どうやったら僕が作用するか、説明しなくても分かるでしょ? え、もしかして分かんないの?? 一から説明しなきゃ駄目???』
くっ!? こいつぅ~……
どこまでも小馬鹿にしやがってぇえっ!!?
ワナワナと震える心を押さえつつ、俺は大きな声でこう言った。
「鍵となる宝石はどこですかぁっ!?!?」
すると、ピクシスはニヤリと笑った。
次の瞬間、体から金色の光を放ちながら、ブンブンと羽を羽ばたかせて、ピクシスは空中を高速移動し始めた。
そして、この広い部屋の中を何周も、クルクルクルクルと回っていたかと思うと、ある場所でピタリと動きを止めた。
『さあ、誰がこれを開ける?』
そう言って、ゆっくりと下降し、ピクシスが腰掛けたのは、沢山ある宝物の中にあって、一際地味で存在感のない小さな壺だ。
部屋の隅に置かれているその壺は、薄汚い焦げ茶色をしていて、側面にはいくつかヒビが入っている。
口は蓋の代わりに何かの皮で閉じられており、その皮も毛羽立っていて……、とてもじゃないが、わざわざその中身を確かめようとは誰も思うまい。
『あんた達の探し物は、この中にあるよ』
ピクシスはそう言い残して、光がパーンと弾け飛ぶように、その場から姿を消した。
なんだこいつぅうっ!??
突如として目の前に現れた金色に輝く人型の何かは、推定身長3センチといったところだろうか、俺の掌よりも随分と小さい。
背に生えている四枚の羽は薄く透けていて、トンボなんかの昆虫のそれとよく似ている。
だけども勿論、虫などではない。
衣服を身につけ、靴を履き、頭には小さなとんがり帽子も被っているし……、そもそも言葉を話しているのだから、知的生命体ではあるのだろう。
しかしながら、こんなに小さな生き物は、それこそ虫以外では初めて見る。
妖精……、か、何かだろうか?
だとしても小さ過ぎやしないか??
てか、どっから現れたんだこいつ???
頭の中で、いろいろと思案する俺。
その間もそいつは……
『あのさ、聞いてんの? もしも~し?? はぁ~、面倒臭いなぁ……、フリーズしないでくださぁ~い!』
驚いて声も出せずにいる俺に対し、尚もヒラヒラと手を振り続けている。
その動作も、口調も、小馬鹿にしたような表情までもが、かな~り不愉快だ。
すると……
「何これっ!?」
俺の隣に座っていたグレコがそいつに気付き、慌てて立ち上がって、咄嗟にその場を離れた。
たぶん、大きさ的に、虫か何かと勘違いしたんだと思う。
グレコの顔は、いつになく珍妙な、「ゲッ!?」て感じの表情になっていた。
「ポッ!? 何ポッ!??」
グレコの言動に、ノリリアを始めとし、騎士団の皆もすぐさま異変に気付く。
「なんだそりゃ!?」
お決まりの変顔で、こちらへ近付いてくるカービィ。
するとそいつは、クルッと皆の方に向き直って……
『初めまして皆さん! 僕の名前はピクシス!! この間抜けなご主人様を助ける為に具現化した、望みの羅針盤の心です!!!』
丁寧かつどこか可愛らしい口調で自己紹介し、ペコリとお辞儀をした。
その様子は、俺を小馬鹿にしていたさっきまでの態度とは、余りにも違っていて……
おいおい、随分な変わり身じゃねぇかよおい。
なぁ~に可愛子ぶってんだよ!?
俺は眉間に皺を寄せて、そいつを睨み付けた。
が、すぐさまその言葉が引っかかって……
てか今、なんてった?
望みの羅針盤の心とか言った??
それって……、え???
「ポポ!? 羅針盤の心!??」
驚くノリリアと、ざわざわとする面々。
すると、俺とそいつとを交互に見ていたマシコットが、口を開いた。
「そうか……。つまり君は、精霊……? 物に宿る精霊【スピリット】、なんだね??」
その言葉に、ピクシスと名乗ったそいつが答える。
『ご名答! さすがはマシコットさん!! 【エレメンタル】の血を引くだけあるね!!!』
二人のやり取りに、それぞれに驚きつつも、なるほどなるほどと納得する面々。
しかしながら、世間知らずなグレコとギンロ、そして勿論俺も、何一つ状況が理解出来ず、首を傾げるしかなった。
-----+-----+-----
【精霊】
この世界における生命体の中で、実体を持たず、霊体のみで存在している者の総称。
自然界に宿る精霊を【エレメンタル】、人工的な物体に宿る精霊を【スピリット】と呼ぶ。
エレメンタルは、この世界とは別の次元に肉体を持ち、精霊召喚師の呼び掛けに応じる形で、何らかの方法を用いて霊体のみでこの世界に出現しているとされている。
スピリットは、物体そのものが肉体であり、その物体に宿る精神が具現化されたものであると考えられている。
どちらの精霊も霊体でのみ存在し、その身に魔力とは異なる力【霊力】を持している。
-----+-----+-----
「じゃあ、おまいはモッモの羅針盤に宿る精霊なんだな?」
『そういうこと~♪』
俺の頭の上を、虫特有のブンブンといった羽音を響かせながら、くるくると旋回するピクシス。
鬱陶しいったらありゃしない。
「ポポポゥ、スピリット……。初めて見るポよ」
何やら珍しいらしく、ノリリアもその他の面々も、興味津々でピクシスを見ている。
そんな皆の様子に、注目を浴びている事が嬉しいらしく、ピクシスはいろいろとポーズを取りながら空中を移動していた。
……いや、てかさ、何? 何なのよ??
望みの羅針盤の心とか言っていたけど、何なのよそれは???
疑問に思うと同時に、俺は彼女の事を思い出していた。
ニベルー島で悪魔テジーに捕まった際と、先日のハーピー襲撃時の二度に渡って、ピンチの俺を助けてくれた、彼女の名前はマーテル。
彼女は自身の事を、俺が所持しているエルフの盾の心だと言っていた。
つまりあれか?
今目の前にいる、自らを羅針盤の心だと言うピクシスと、盾の心だと言うマーテルは、同じ存在……??
二人共、精霊の中でも物に宿るというスピリット……、だという事なのだろうか???
「物に宿る精霊って事は、この子の本体は、モッモが首から下げている羅針盤なのね?」
問い掛けるグレコ。
「彼の言葉を信じるのなら、そういう事になるね……。しかしまぁ、彼の言葉は真実だ。彼は精霊で間違い無い。エレメンタルほどでは無いけれど、彼からも精霊の力、霊力が感じられるからね」
答えるマシコット。
「けどよぉ、スピリットって確か……、何十年とか何百年とか、めちゃくちゃ長い年月を使い込まれた道具とかにしか宿らねぇはずだよな? モッモがこの羅針盤を手に入れたのは最近だろ?? 見た感じだと、そこまで年季物にも見えねぇし……???」
俺の首に下げられたままの羅針盤を、遠慮なく手に取ってしげしげと観察しながら、カービィが言った。
カービィの言葉通り、俺がこの羅針盤を手に入れたのはおよそ二ヶ月前。
神様から、他の神様アイテムと一緒に授かったもので……、つまり最近だ。
それに、羅針盤は新品同然で、傷の一つも無ければ汚れてもいないし、色がくすんでもない。
自らを盾の心だと言うマーテルが宿るエルフの盾は、確か凄く昔に作られた物のはずだ。
初めてマーテルに出会った時に、マーテル自身が「この世に生まれて幾千年」とかなんとか言っていたしな。
それがたまたま、港町ジャネスコの防具屋さんで売られていて……、気に入ったので買いました、はい。
つまり、ずっと昔に作られたであろうエルフの盾に、マーテルのような心が宿る事は、まぁ考えられなくもない。
しかしながら、カービィの言う通り、この新品同然の望みの羅針盤に心が宿るという事は、ちょっと考えにくいような気がするのだが……?
「そうですね。本来ならば、スピリットが宿る物は古き物……、数十年前の思い出の品とか、古代の遺物などです。しかし、風の噂で聞いた事があるんです。ある者達ならば、意図的に物体に精霊を宿らせる事が可能だと」
マシコットの言葉に、ロビンズがピクリと眉を動かす。
「なるほどそうか。そやつが出現したのは、モッモの召喚師としての力なのだな?」
ふぁっつ?
俺の、召喚師としての力??
……とは???
「そう考えるのが妥当でしょう。長い歴史を誇るフーガにおいても、特級召喚師の称号を得た者は過去に数名しか存在しませんが……、彼らは物に精霊を宿す術を持ち合わせていた。それは、霊力の強さ故に成せる技でした。そしてモッモ君は、その身に、特級召喚師をも超えるであろう絶大なる霊力を秘めている。恐らく、その霊力の影響で、身に付けている物に精霊が宿ったのだと考えられます」
お、おぉ……、そうだったのか……?
マシコットの説明は、少々小難しくて、正直何が何だかよく分かってないが、納得出来た部分が一つあった。
俺には、精霊に匹敵するほどの霊力があると、以前カービィが言っていた。
つまり、この目の前のピクシスとかいうめちゃんこ小さい妖精紛いな精霊は、俺の中にあるその霊力が原因で、こんな風に具現化したのだと……
『あのさ、ちょっといいかな?』
俺の頭の上で旋回していたピクシスが、俺の頭の上にちょこんと腰掛けて(精霊だからか、感触はありませんでした)、言った。
『僕がどういう存在で、どうしてここにいるのか、ってのはもういいでしょう? 大事なのは、何故僕が姿を現したのか、って事じゃない??』
なかなかに短気なのだろうピクシスは、先程までのかわい子ぶりっ子を即座にやめて、俺に対してそうであったように、ここにいる全員に向かって面倒臭そうにそう言った。
あんた達みんな頭悪いね~、って言いたげな表情で。
「それもそうね。どうして出て来たの?」
素晴らしく切り替えの早いグレコが問い掛けた。
たぶん、ピクシスが何なのかはどうでもいいって思ってるのだろう、顔にそう書いてある。
『あんた達の探している物を、僕が見つけてあげる。どう考えても、この中から小さい宝石一個を探し出すなんて……、無理でしょ?』
これまた小馬鹿にした微笑を浮かべつつ、ピクシスは言った。
その態度に、ノリリアとロビンズは少々ムッとした顔付きになったが……
「んだな! さっさと見つけてくれ!!」
こちらも切り替えが早いと言うか、小馬鹿にされても全く動じてないカービィが、ヘラヘラと答えた。
『よしきた! じゃあ……、ご主人様、出番ですよ~』
「はへ? 僕??」
急に話を振られて、間抜けな声を出す俺。
するとピクシスは、分かりやすく大きく溜息をつき……
『あのさ、僕は望みの羅針盤の心だって、さっきそう言ったよね? 聞いてた?? 聞いてなかったの???』
「きっ!? 聞いてたよっ!!」
『じゃあさ、どうやったら僕が作用するか、説明しなくても分かるでしょ? え、もしかして分かんないの?? 一から説明しなきゃ駄目???』
くっ!? こいつぅ~……
どこまでも小馬鹿にしやがってぇえっ!!?
ワナワナと震える心を押さえつつ、俺は大きな声でこう言った。
「鍵となる宝石はどこですかぁっ!?!?」
すると、ピクシスはニヤリと笑った。
次の瞬間、体から金色の光を放ちながら、ブンブンと羽を羽ばたかせて、ピクシスは空中を高速移動し始めた。
そして、この広い部屋の中を何周も、クルクルクルクルと回っていたかと思うと、ある場所でピタリと動きを止めた。
『さあ、誰がこれを開ける?』
そう言って、ゆっくりと下降し、ピクシスが腰掛けたのは、沢山ある宝物の中にあって、一際地味で存在感のない小さな壺だ。
部屋の隅に置かれているその壺は、薄汚い焦げ茶色をしていて、側面にはいくつかヒビが入っている。
口は蓋の代わりに何かの皮で閉じられており、その皮も毛羽立っていて……、とてもじゃないが、わざわざその中身を確かめようとは誰も思うまい。
『あんた達の探し物は、この中にあるよ』
ピクシスはそう言い残して、光がパーンと弾け飛ぶように、その場から姿を消した。
0
お気に入りに追加
495
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~
うみ
ファンタジー
馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。
錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。
スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。
冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。
俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。
ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。
居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。
爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!
一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。
でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。
そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
素材鑑定士見習いの徒然なる日常 〜愛されスピーの村外研修〜
玉美-tamami-
ファンタジー
「素材鑑定士って、何ですか?」
「名前のまんまさ。素材を鑑定する者の事だよ♪」
魔法王国フーガを舞台に、可愛いピグモル族の青年スピーが、個性溢れる仲間たちと織り成す、ほのぼの日常系ストーリー♪
***およそ60年前に、この世界から絶滅したとされていた、可愛らしいだけが取り柄の愛玩種族であるピグモルは、辺境の地で密かに生き延びていた。
その後、長い年月を経て、ある事をキッカケに村を飛び出した一人の若いピグモルの活躍が、彼らを世界へと羽ばたかせるきっかけとなったのだった。
そして今日もまた、新たなピグモルたちが、その小さな胸に大きな勇気と希望を持って、外の世界へと一歩を踏み出すのであった。***
作者の他作『最弱種族に異世界転生!? 〜小さなモッモの大冒険♪〜』の舞台より、約10年後の世界のお話です(๑>◡<๑) 読んでなくても全く支障は無いですが、読んでいた方が若干面白い部分もあるとは思います←(笑)
*現在休載中です。続報をお待ちください*
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる