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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

660:気付きなよ

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「はぁ、はぁ、はぁ……、はぁあぁぁ~……。これではキリがありませんわね」

 額の汗を拭いながら、インディゴが呟いた。

「確かに……。この部屋は広いし、物が多過ぎる。このままでは、たかが鍵一つの為に、何日かかるか……」

 ロビンズも、なかなかに参った様子でそう言った。

「ポポゥ、さすがに疲れたポね。みんな、一旦休憩にするポよ!」

 畑仕事を終えたおばあさんみたいに、腰を拳でトントンとしながら、ノリリアが言った。

 封魔の塔の第二階層にて、第二の試練の場に続く扉の先に出現した謎の洞窟ダンジョン。
 その最奥に位置する宝物庫に辿り着いた俺たちは、次の試練に向かう為の鍵を探すべく、溢れんばかりの金銀財宝の山の中を、かれこれ数時間、捜索していた。
 しかし、作業は難航……
 右を見ても左を見ても財宝だらけのこの空間で、たった一つの小さな宝石を探すのは、想像以上に困難であった。

 部屋の中央の台座付近に集まり、疲れた様子で腰を下ろす騎士団メンバーとモッモ様御一行。
 皆ぐったりとして下を向き、誰も口を開こうとしない。
 そんな中、パロット学士が……

「ふぅ~……。そもそもが、どのような宝玉かも分からないのに、果たして見つかるのでしょうか?」

 そんな、元も子もないような事を、探し始めて数時間も経つのに今更言うなよ……、と、俺だけじゃなく周りの皆も思うに違いない事を口にした。
 だけども、彼の言葉を否定する者はいない。
 皆、口にしないだけで、同じ事を思っているに違いないから。
 
「リブロ・プラタが言うには、第一の試練で手に入れたあの白い宝玉と同じような……、それでいて色の違う宝玉という事でしたが……。今のところ、それらしき物は一つも見つかりませんね」

 肩が凝ったらしい、首をぐるぐると回すマシコット。
 此方はいつもより、少々お顔の炎の勢いが弱い。

「むむむ、小さな宝石なら沢山あるんですがね、形が違う……。あんなに真ん丸なのは無いでさ」

 休憩中だというのに、あぐらをかいた足の上に小さな宝石を沢山乗せて、あれやこれやと見比べているライラック。
 此方はまだまだ元気そうだ。

 ライラックの言うように、宝石ならば、ここにはごまんとある。
 しかしながら、大きさ、形……、第一の試練の後、リブロ・プラタから与えられた、あの白い小さな丸い宝石と同じ様なものは、今のところ一つも見つかっていない。
 
「なはは! このまま見つからずに、ここから出る事も出来ないで、おいら達み~んな、爺さん婆さんになっちまうかもな~!!」

 呑気に馬鹿みたいな事を言って笑うカービィ。

「がはは! これだけのお宝に囲まれて死ぬのも悪くねぇの!!」

 爺さん婆さん通り越して、死んじゃう宣言をするテッチャ。

「馬鹿な事言わないで! こんな所で何千年もなんて真っ平御免よ!!」

 さすがはエルフ、死ぬまでの年月の設定がやたらと長いグレコ。
 
「我は甘味が食べたい」

 甘い物をご所望のギンロ。
 その言葉を最後に、辺りはシーンと静まり返った。

 ……なんていうか、八方塞がりだなこりゃ。
 みんな疲れてて、思考が停止してしまっているようだ。
 各々に何かを考えているのだろうが、誰も口を開こうとしない。
 かく言う俺も、台座で煌々と燃える炎を見つめながら、ぼんやりとしていた。

 この大量の財宝の中から、どんな色なのかも分からない、手の平にすっぽり収まるような小さな宝石を探せだなんて……、ほんと、かなり無理ゲー。
 せめて色さえ分かれば……、いや、色が分かったとて同じかも知れない。
 積み上げられているのが財宝だからまだいいけど、物が違えばここはゴミ屋敷同然なのだ。
 ぜ~んぶ一掃しないと、探し物なんて出てこないんじゃ無かろうか?

 そう考えた俺は、ハタと思い出した。
 そう言えば以前、同じような事があったのではないか?と……
 そして思い浮かぶ、あの陰険な顔。

 あ~……、あいつ呼べば、解決するんじゃね?

「ねぇ、闇の精霊を呼ぼうか?」

 徐に提案する俺。

「ポ? 闇の精霊?? どうしてポ???」

 怪訝な顔をするノリリア。

「えっと……、前にね、探し物をしている時に、助けてくれたんだよ」

 俺の説明は、ざっくりし過ぎていたらしい。
 皆は一様に首を傾げている。

「あっ!? そっか!!? ニベルー島で!!??」

 思い出したらしいカービィが、満面の笑みでニカっと笑って声を上げた。
 
 そう……、闇の精霊ドゥンケルのイヤミーは、周囲の物を吸い込む技を持っている。
 その名も虚無の穴ブラックホール
 文字通り、真っ暗な異空間への穴を発現させ、そこになんでも吸い込んでしまうという、恐ろしい技である。
 以前、ニベルー島のタウラウの森にあったケンタウロスの廃村で、アルテニースの赤い小箱を探す際に、崩壊した家屋の廃材を吸い込んでもらった事があった。
 おかげで赤い小箱は無事に見つかり、俺達は目的を達成出来たのである。

「闇の精霊は、精霊の力で周囲の邪魔なもんを吸い込んじまうんだよ! ここの財宝全部吸い込んでもらってさ、鍵となる宝玉だけ残してもらおうぜ!?」

 カービィの言葉に皆は、なるほど!といった顔になる。

 正直、イヤミーを召喚すると毎回嫌味を言われるので、呼びたくは無いのだが……
 この際だから仕方がない、我慢しよう。
 他に取れる選択肢が無いのだから!

「しっかしのぉ~……。これだけの財宝を吸い込んじまうっちゅ~んは、勿体ねぇのぉ~。後で元に戻せるんか?」
 
 物惜しそうに周囲を見渡すテッチャ。

 しのごの言わないのっ!
 他に方法が無いんだから仕方がないでしょっ!?

「戻す? いや~、そいつはちょっと無理じゃねぇかな。あの闇の精霊の力は、全てを無にする! って感じだしなぁ」

 うむ、カービィの言う通り、元に戻すのは絶対的に無理だろうな。
 イヤミーの創り出す虚無の穴は、イヤミーしか知り得ない異空間に繋がっているはず。
 そしてその異空間には、今まで吸い込んできた色んなものが、ごちゃ混ぜに入っているはず。
 そんな場所に吸い込んだ物を、元に戻して~♪ なんて……、そんな要望にはきっと答えてくれないだろう。

「ふむ……、それならば、闇の精霊の力は借りられませんな」

 ふぇ? なんで??

 パロット学士が、難しい顔でそう言った。

「どうしてポ?」

「ここに入る前、扉に注意書きがあったでは無いですか。必要な物のみ持ち出せ、と……。闇の精霊を呼び出し、ここにある財宝を一掃してしまえば、恐らく我々は試練に敗れた事になるでしょう」

 おぉおっ!? そ、そうなるのかっ!!?

「ポポポ!? それは困るポよっ!!?」

「となると……、闇の精霊は使えねぇなぁ~」

 言葉とは裏腹に、ヘラヘラと笑うカービィ。
 そして、俺達は振り出しに戻り、沈黙が続いた。
 
 えぇ~……、じゃあ、どうすりゃいいんだよぉ~?

 その時だった。
 何処からか、不思議な声が聞こえてきた。

『あのさ、気付きなよ』

 ふぁっ!?

『さっきも仲間に言われてたじゃんか』

 何っ!? 誰っ!!?

『あんたさ、もうちょいこう……、頭使ったらどう?』

 なっ!? 失礼なっ!!?
 何処にいる!!??
 出てこいっ!!!!!

『出てこいって……、はぁ~。分かったよ』

 おぉおぅっ!?!!?

 声の主を探して、キョロキョロする俺。

 なんだなんだ? 何なんだ??
 何かこう、ずっと遠くから、直接頭に響いてくるような感じで聞こえていたが……???

 すると隣に座っているグレコが、

「あら? モッモ……、それ、なんだか変よ??」

 そう言って、俺の胸元を指さした。
 
 変? 何がさ!?

 慌てて視線を下に向けると、そこにはいつも首から下げている神様アイテムの一つ、望みの羅針盤が。
 しかも、グレコの言った通り、変になっている。
 二本ある指針のうち、金色の針の方が、光を放ちながらグルグルと狂った様に盤の上を回り続けているのだ。
 
 なっ!? なんだっ!!?
 まさか壊れたのかっ!!??
 ……いや待てよ、この現象は前にも見たような気がするぞ。

『あんたってほんと、肝心な所で間抜けだよね』

 はっ!? さっきの声が!??

「何? 何か声が聞こえた気が……??」

 グレコにも声が聞こえたらしい、辺りをキョロキョロと見回している。
 その間にも、羅針盤の金色の針は、回転速度を増していって……

『な~んで神様は、あんたなんかを選んだんだろう?』

 そう聞こえた、次の瞬間。
 俺の首に下げられている望みの羅針盤から、眩いばかりの光が放たれた。

「ぬぉあっ!?」

「何っ!??」

「ポポポゥ!?!?」

 突然の出来事に、驚き構える皆。
 眩しくて目を閉じてしまう俺。
 そして……

『あのさ、いつも思うんだけどさ……。もうちょい賢くなれないの?』

 心底失礼な言葉が、先程までと違って間近で聞こえた気がして、俺はそっと目を開けた。
 そこには何やら、全身が金色に光っている、背中に羽の生えた、めちゃくちゃ小さい人型の、少年のような可愛らしい顔をした生き物が浮かんでいて……

『聞こえてる? もしも~し?? はぁ……、頭が悪いだけじゃなくて、耳も遠いわけ???』

 めちゃくちゃ小馬鹿にした表情でこちらを見ながら、ビックリして何も言えない俺の顔の真ん前で、ヒラヒラと手を振っていた。
 
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