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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

648:塔を守る番人

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 全ての魔法が、封じられる……、だと?
 え?? 待って、それってつまり……???

発光フォース!」
 
 誰よりも先に魔導書を開き、呪文を唱えたのはノリリアだ。
 それは、これまで幾度となく騎士団のみんなが行使してきた、杖の先に光を灯す魔法なのだが……

「ポポッ!? なんでポッ!!?」

 杖の先端に、光が灯ることはなく……

浮遊ペテスティ!」

 続いてインディゴが、自らの荷物を急いで床に下ろし、浮遊魔法をかけるも、それが浮かび上がる事はなく……

「だ……、駄目ですわ」

 絶望的な表情でそう言って、力なく杖を下ろした。

「こちらも駄目だ」

 落下による軽傷を負ったパロット学士とライラックを治癒魔法で介抱しようとしていたロビンズは、そう言って頭上の銀の書物をキッと睨み付けた。
 銀の書物は、その表紙に現れた水色の一つ目を細めており、それがまるでほくそ笑んでいるかのように俺には見えた。
 
「魔法が無効化される……、封魔の塔……。つまり、僕達はこの先、魔法無しで塔の攻略に挑まなければならない、と……?」

 マシコットの言葉に、銀の書物はユラユラと空中で揺れる。

『その通りだ、若き精霊よ。さて……、どうする? ここはまだ塔の入り口。貴様らが望むのならば、我が後方の扉の封印を解き、来た道を戻らせてやろう。その代わり、二度とここへは戻って来られなくなるがな』

 二度と戻って来られない、だと?
 あ、そうか……、塔の入り口の鍵は、消えてしまったんだった。

「ど、どうすりゃええんじゃ? 魔法が使えんとなると……」

 いつになく不安気な声を出したのはテッチャだ。
 その視線は、興奮状態から冷めて、床にへたり込んでいるカービィに向けられている。

 カービィはというと、どうやら先程の魔法で魔力を使い果たしてしまったらしく、完全にもぬけの殻になってしまっているようだ。
 ぼんやりとしたその目には、精気がまるで感じられない。

「何故、突然言葉を変えたの?」

 ……え? グレコ??

 胸の前で両腕を組んだ大層偉そうな仁王立ちの格好で、グレコは問うた。
 絶対に今、そこはどうでもいいだろ?って、みんなが思うであろう質問を、銀の書物に投げ掛けた。

『塔の封印が解けると同時に、我が使命は発動する。即ち、我は貴様らを導かねばならない。見たところ……、女、純血のエルフは貴様だけであるな? 他の者が我が言葉を理解出来ぬは甚だ遺憾であるが、それも時の定めだ、仕方あるまい。我はこの塔の番人である故、低能な貴様ら愚者にも理解出来よう言葉を、わざわざ使うてやっているのだ。感謝するのだな』

 なんか、ややこしい言い回しだけど……
 とりあえず、奴が今公用語で話しているのは、俺達に対する優しさらしいな。
 態度はめちゃくちゃ偉そうなのに、結構親切なんだな。

「ポポゥ……、封魔の塔の番人……? 確か名前を、リブロ・プラタと仰いましたポ?? あなたがあたち達を、最上階まで導いて下さる、と……。つまり、敵ではないポか???」

 理解の早いノリリアは、諦めたように魔導書と杖をローブの内側に仕舞って、丁寧な口調で銀の書物に話し掛けた。

『無論、我は貴様らの敵ではない。しかし、味方でもない。我は塔を守る番人、兼案内役であるからして、即ち中立的立場である。この封魔の塔を攻略せんとする挑戦者共を導き、試練を与えるが我の役目である』

 ふむ、つまり……、なんだ???

「ポポ、つまり……、裁定者という事ポか?」

『否! 我は裁定者にあらず!! 貴様らがこの塔を攻略するに相応しいか否か、それを判断するのは我ではない!!!』

 ふむ、なるほど……、じゃあ本当に、ただの道案内係って事か。
 例えるならば、ゲームによくある、ダンジョンの攻略に必要なヒントが書かれた石碑とか、標識とか……、そういう位置付けなわけだな。
 それが何故か今回は、偉そうに喋る書物である、と……
 
「ポポゥ、ややこしいポね……」

 思わず本音が漏れるノリリア。
 俺も今、心の中で同じ事を思いましたよ、はい。

 とりあえず、敵ではない(味方でもないらしいが)と言う、銀の書物改めリブロ・プラタの言葉を信じ、騎士団のメンバーは皆、使い物にならない杖と魔導書を仕舞った。
 そして俺達は全員でノリリアの元へと集まり、相談を始めた。

「どうしましょう? 魔法が使えないとなると……、この先に待ち構えているであろう試練とやらに、太刀打ち出来ないのでは??」

 心底不安気な様子のパロット学士。
 そもそも彼は魔法が使えないから、ここでは俺の次にお荷物な存在だったわけだけど……、全員魔法が使えないとなると、その順位が少し変わってきそうだな。

「しかし、ここを出ると二度と戻れないというのも、あながち嘘ではあるまい。現に塔の鍵は消失してしまっているのだからな」

 魔法が行使出来ない事が心底悔しいらしいロビンズは、先程からずっと眉間に皺が寄っている。
 しかし、怒りながらもロビンズは、鞄から鎮痛ポーションの瓶を取り出して、落下するパロット学士を庇ったばかりに床に背中を強打したライラックに手渡し、白魔導師としての責務を全うしていた。

「先に進みやしょう。せっかくここまで来たんでさ、行けるとこまで行きやしょうや」

 鎮痛ポーションを一気飲みして、ライラックはそう言った。

「僕もライラックと同意見です。魔法は無効化されますが、魔力を吸い取られたわけではなさそうですし……。僕の場合、まだ霊力が残っているので、いざという時は炎を出せます」

 今日もお顔が熱いマシコットは、手のひらの上に真っ赤な炎を発生させてみせた。
 それは魔力によって作られた炎ではなくて、火の精霊とのパントゥーであるマシコットの持つ精霊の力、霊力によって作られたもののようだ。
 
「じゃが、試練とやらがのぉ……。万が一にも危険なものじゃと、命が危ねぇぞ?」

 意外にも、小心者な台詞を吐くテッチャ。
 いつもはもっとこう、豪快にガハガハ笑っているイメージだから……、うん、意外だ。

「皆、ここへ来た時点で覚悟は決まっているはずだ。如何に危険な試練であろうとも、挑み、先に進む……。そうではないのか?」

 ギンロはまた……、カッコつけちゃって……
 
「同意。進もう、先へ。引き返す、ことは、考えるな。戦士の、名が、廃るぞ」

 ティカまでもう……、やめてよ恥ずかしい……

「これは可能性の話ですけれど……。魔法が封じられているのであれば、試練と呼ばれるものも、魔法が必要なものでは無いのかも知れませんわ。でないと、いくらなんでも……、無慈悲ですわ」

 困惑しつつも、冷静に先を考えるインディゴ。

 確かにそうだ、その可能性は高いぞ。
 魔導師から魔法を取り上げるわけだから、試練とやらはそれ相応のもののはず。
 ……いや、どんなものなのかは想像付かないけどね。

「ノリリア、ここはもう進むしか無いと思うわ。それに、せっかく案内役がいるんだから、とりあえず案内してもらいましょうよ。進んだ先でもし、無理難題をふっかけられたら……、その時は引き返しましょ」

 いつも通り、出たとこ勝負なグレコ。
 グレコってさ、結構そういうとこあるよね。
 コトコ島の時もそうだったけど、大胆というか何というか……、案外後先考えないよね君。

「ポポポ……。カービィちゃんはどう思うポか?」

 少し離れた場所で、まだ床にへたり込んでいるカービィに対し、声を掛けるノリリア。
 カービィは完全に電池が切れてしまったようで、未だぼんやりとした目で、宙に浮かぶリブロ・プラタを見つめている。

「え? あぁ……、おいらも……。いや、おいらは、おまいの指示に従うよ、ノリリア」

 まるで覇気のないその言葉に、ノリリアは少々ムッとした表情になるが、すぐさま気持ちを切り替えてこう言った。

「ポッ! 決めたポ!! このまま先に進むポよ!!!」

 そして、リブロ・プラタに向かって言った。

「塔の番人リブロ・プラタ! あたち達は皆、試練に挑戦するポ!! 案内してポよ!!!」

 その言葉に、リブロ・プラタは水色の目をカッと見開いた。
 そして、自ら中身を開き、パラパラとページをめくって……

『それでは……、これより、第一の試練、開始! 我に続くのだぁっ!!』

 そう叫んだかと思うと、そのままの状態でフワフワと空中を移動し始めた。
 リブロ・プラタが向かう先は、入り口の扉から見て、対面にある奥の扉ではなく、右側にある扉の方だ。
 ノリリア達は頷き合って、リブロ・プラタについて行く。

 俺も、みんなの後について行こうとしたのだが……
 まだへたり込んでいるカービィを視界の端に捉え、急ぎ傍まで駆け寄って、その腕を掴んだ。

「カービィ、どうしたのさ? らしくないよ??」

 俺の言葉にカービィは、ハッとした表情になり、思わぬことを口にした。

「あいつ……、あの本……。そっくりなんだよ。おいらに呪いをかけた悪魔に……」

 ……え? マジで??

 俺は、空中を移動するリブロ・プラタに視線を向けた。
 銀製の書物に、突如として現れた目、そして発せられた声……
 普通に考えれば、かなり気味の悪い存在だ。

 あいつが、カービィに呪いをかけた悪魔に、そっくりだと???

 俺は記憶を遡る。
 
 カービィに呪いをかけたのって、確か……、悪魔の書って呼ばれる本で……
 同時に、カービィの両親を殺害したはずじゃ……?
 え?? てか、あいつが悪魔って……、ヤバくない???

 俺の手をとって、ようやく立ち上がるカービィ。
 心無しか怯えているようにも見えるその目は、真っ直ぐにリブロ・プラタを見つめていた。
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