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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

640:透視魔法

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「全員揃ったポか? それじゃあ、プロジェクト会議を始めるポよ~!」

 日が沈み、辺りが薄暗くなった宵の口。
 夕食後、空間魔法によって押し広げられた騎士団のテント内にて、白薔薇の騎士団メンバー総勢十一名、モッモ様御一行六名、計十七名が一同に会し、いよいよ明日に迫った墓塔の探索調査に向けてのプロジェクト会議が始まった。

「は~い! 質問っ!!」

 ノリリアがまだ何も話し出さないうちから、手をビシッと上げて声を出したのは、勿論……

「ポッ!? カービィちゃん、何ポッ!??」

 はい、うちのカービィです、ごめんなさい。
 その無作法に、羊皮紙の束の資料を開いていた手を止めて、ノリリアはキッ!とカービィを睨み付けた。

「ここにいといてなんなんだけど……。おいら達もプロジェクトに参加していいのかぁ?」

 食後で腹一杯なのだろう、突き出たお腹をさすりながら、椅子にもたれかかったぬぼ~んとした格好で、カービィはそう言った。
 あまりにもだらしの無いその様子と、あまりにも今更なその質問に、ノリリアのみならず周りの俺達みんながうんざりしたのは言うまでもなく……

「カービィ……、今更そんな事を聞いてどうするのよ?」

 静かだけど怒りが抑え切れていない声色で、グレコが問い掛けた。

「だってよ、ローズはおいら達がプロジェクトに同行する事は認めていたけど、墓塔内部の調査にまで参加していいとは言ってなかったろ? ここまで来たんだし、おいらだって勿論塔の中に入ってみてぇけど……。後で報告して、何か問題があったら困るんじゃねぇかなぁ~?って思って」

 ニヤニヤしている辺り、到底心配しているようには見えないから……、たぶん一応の確認ってやつだろう。
 
「ポポ、その心配は無用ポ、カービィちゃん。ギルドに提出する調査報告書には、カービィちゃん達の名前を記載しない事に決めたポよ。規律違反にはなるポが……、団長の機嫌を損ねるのはもう嫌ポ。厄介事を避ける為には、少々の事には目を瞑る事にしたポね。だから気にしなくていいポよ」

 おぉ~、ノリリアにしては不真面目な選択ですこと。
 だがまぁしかし、気持ちは分からなくもない。
 あの見境の無いローズ団長の事だもん、カービィの名前が書かれた報告書を見た途端、またもや発狂しちゃいそうだしな。
 ……うん、想像しただけでも恐ろしいよ、やめておいた方が賢明だ。

「そか! 了解で~す!!」

 タヌキみたいな真ん丸お腹をポンっと叩いて、カービィはそう言った。

「それじゃあ……、まず、今後の日程から確認するポ。目標は、明日からの三日間で墓塔内部全てを攻略する事、そして残りの二日間で調査結果をまとめる事ポ。つまり、ノヴァの月16日がこのプロジェクトの最終日になる予定ポが……、それまでに調査が完了しない場合は、第一陣として数名が、そこまでで出来上がった調査報告書を持ってフーガに帰還、残りのメンバーで引き続き現地調査をする事になるポね。それから……、モッモちゃん達は、遅くても16日の夜にはタイニック号に戻ってポ。ザサーク船長に確認したところ、タイニック号は17日の夜明けと共に、港町アルーを出航すると言っていたポね。まぁ、モッモちゃんの空間移動術があれば、船が出航してしまっても問題ないかも知れないポが……、一応伝えておくポよ」

 なるほど、そうか。
 タイニック号の甲板には、導きの石碑を設置してあるんだったな。
 となると……、墓塔の調査が長引くようなら、そっちを手伝って、ちゃんと終わってから船にテレポートするっていう手もあるわけだ!
 船の出航に間に合うかな?って、なんとなく気が急いていた部分があったんだけど、心配はしなくて良さそうだな。

「次! 塔の内部について、現時点で分かっている事を改めて確認するポ。事前調査の報告書によると、塔内部は全部で八つの階層に分かれているポ。外から見た塔の高さから考えても、八階層というのはまぁ妥当な線ポね。それに、みんなも知っての通り、事前調査に当たってくれたアメリアさんは、ギルド内でも随一の透視魔法の使い手ポ、透視結果は信頼して大丈夫ポね。一つ気になるのは、塔内部の北東に位置する場所に、何か太い柱の様なものが立っているという報告が上がってる事ポ。最下層の一階から最上階の八階まで、その柱が塔を貫いている、という事ポね。これが何なのかはまだ分からないポが……。とりあえず、塔内部が八階層に分かれている事は、まず間違いないと考えていいポ」

「あ~、一ついいっけ~?」

 そう言って手を上げたのはボナークだ。

「今言ってた柱の事だけんど、柱っちゅ~よりかは、何かの仕掛けじゃねぇかってアメリアは言っとったど。まぁ~確信が持てねぇってぇ、報告書には書いておらんだろうが……」

「ポポ、そうだったんですポか。仕掛け……?」

「恐らくだけんど、昇降機か何かじゃねぇかって言っとったど。各階層の内部に何があるのかまでは分かんねかったみたいだけんど、上階に向かう為の階段らしきものが一つも見当たらなかったらしいっけ。たぶん昇降機だろうってぇ、言うとったどぉ~」

「ポポ、そうですポか。貴重な情報ありがとうございますポ、ボナークさん」

 ペコリと頭を下げるノリリア。
 すると、またしてもカービィが手を上げた。

「はい! 各階層の内部情報が全く無いのは何故なんですか!? アメリアなら分かりそうなもんだけどな」

 どうやらカービィは、事前調査を行ったアメリアという人物と顔見知りらしい。

「それは私から説明致しましょう」

 そう言って立ち上がったのはパロット学士だ。

「皆さんも先程、墓塔の全貌をご覧になられたかと思いますが……。墓塔には扉はおろか、窓の一つも存在しません。故に内部は完全なる密閉状態となっていると考えられます。そして、アメリアさんの透視魔法をもってしても内部の状況が見えてこなかった理由といたしまして、墓塔の外壁を覆っている物質に原因があります」

 外壁を覆っている物質、とな?
 確か、墓塔は赤銅色をしていたけど……

「アメリアさんが持ち帰られた墓塔の外壁の物質を成分分析したところ、合成銅でした。そして驚くべき事に、反魔物質であるマハカム魔岩が多量に含まれていたのです」

 はん、ま……? まは……??
 何だって???

「マハカム魔岩は主に、魔封じの結界を創る際に用いられる魔石です。反魔物質であるマハカム魔岩は、魔法、魔力、それらを構成する魔素そのものを弾く性質があります。つまりアメリアさんの透視魔法は、このマハカム魔岩が含まれた墓塔の外壁の為に、内部の詳細まで見通す事が出来なかったのだと考えられます」

 ……正直、俺にはちんぷんかんな話なんだけど、質問したカービィは納得したらしく、ふんふんと頷いている。
 すると今度は、俺の隣に座っているテッチャが手を上げた。

「そのマハカム魔岩の事なんじゃが、あれだけのデカい塔をまるすっぽ覆うだけの分量を手に入れるには、そんじょそこらの魔導師風情には不可能じゃて。ドワーフの商工会を通しても、かき集めるのに苦労する量じゃ。ほんで……、さっきパロット学士と話しておった事、みんなにも伝えておくべきじゃねぇかの?」

 そういえば、夕食前にテッチャは、何やらパロット学士と話し込んでいたな。
 何か、まだみんなに伝えられていない新たな情報があるのだろうか?

 テッチャの言葉にパロット学士は、明らかに困った表情でノリリアに視線を向けた。

「ポ、その話は墓塔の調査が終わってからと思っていたポが……」

 渋い表情になるノリリア。

 うわっ!? テッチャのやつ、余計な事したなっ!??
 
「何か分かってんなら話してくれよ、おいらも知りてぇ」

 うわっ!? カービィのやつ、空気読めてねぇなっ!!?

 後で話すって言うのなら、特に重要な事ではないのだろうか?
 でもさすがに、重要じゃ無い事を、テッチャがわざわざ伝えておくべきだ~、なんて言わないか……??

 そしてどうやら、他の団員達にもその話はまだ伝えられていない様で、何事だろうとみんな戸惑っている。
 それを見てノリリアは、パロット学士とアイコンタクトを取りつつ、意を決してこう言った。

「実は……、これはまだ仮説の段階ポが……。故アーレイク・ピタラス大魔導師は、かつて世界平和を目的として活動していた過激派の秘密結社【サルヴァトル】のメンバーであった可能性が浮上してきたのポ」

 ノリリアの言葉に、騎士団のメンバー及びカービィは、驚愕の表情となった。
 だけど、勿論なんのこっちゃ分からん俺は……

 秘密結社? サル、なんちゃら??
 え、え、え……???

 頭の上に、いくつものクエスチョンマークを浮かべる事しか出来なかった。
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