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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

638:ヨッチョレ

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「それじゃあみんな、出発ポォ~!!!」

 アーレイク島探索2日目の、ノヴァの月11日、早朝。
 白薔薇の騎士団及びモッモ様御一行は、巨木ユーザネイジアより南東に位置する、大魔導師アーレイク・ピタラスの遺した墓塔、別名封魔の塔に向けて出発した。
 ミュエル鳥が船に戻ってしまった為と、塔の攻略に魔力を温存する目的で、本日は徒歩での移動となる。
 港町アルーに戻るザサークとビッチェ、救出されたソーム族の青年ルオと、船に戻っているであろうミュエル鳥を迎えに行くモーブとヤーリュ、更には怪我を負って意識が戻らないアイビーと、その看病をするサンとブリックをその場に残し、俺たちは一路、島の中央を目指す。

「モッモ~。おまい、もう歩けるだろ?」

 ギンロの背におぶわれた俺を見て、隣を歩くカービィがこちらを見上げながら、にたにたと笑ってそう言った。

「歩けない事はないけど……。でも、グレコがそうしろって……」

 前を行くグレコを顎で指しながら、俺はそう答えた。

 昨日、ハーピー達との交戦によって負傷した背中と胸は、カービィの白魔法によってほぼ完治しているし、腰が抜けて歩けなかった下半身も問題なく動く。
 だから今日は、俺も頑張ってみんなと一緒に歩こうと意気込んでいたのだが……
 出発直前にグレコに言われたのだ、今日はギンロに運んでもらいなさいって。

「カービィ、余計な事言わないの。封魔の塔の攻略には、必ずモッモの力が必要になるはずよ。今疲れさせて、肝心な時に役に立たなきゃ困るでしょう?」

 ピシャリと言い放つグレコ。

 ……なんだろうな? 守られてるのか、ディスられてるのか、どっちか分からないぞ。

「案ずるなモッモ、我がしかと運んでやる。なに、お主は赤子のように軽い故、我には何の負担にもならぬ」

 ギンロがいつになく爽やかにそう言った。

 ……なんだろうな? 有り難いんだけど、その言い回しだと素直に喜べないぞ。

「ティカ殿。どうじゃ、わしをおぶってみんか?」

 ティカに対し、急に妙な提案をするテッチャ。

「何故だ?」

 怪訝な顔でテッチャを睨むティカ。

「モッモよりわしの方が重いでの。わしをおぶえば、ギンロより重い物を運ぶ事になるで……、体力がつくんじゃねぇかの?」

 うわっ、テッチャめ…… 、なんて奴だっ!
 ティカのギンロに対するライバル心を利用して、自分が楽する作戦だな!?

 しかしながら、ティカも馬鹿ではない。
 テッチャを嘲笑うかの様に一瞥し、ティカはニヤリと笑った。

「ふん。その手には、乗らない」

 テッチャは、どうやら作戦が失敗したと悟ったのだろう、バツの悪そうな顔で視線を逸らしていた。
 
 アーレイク島内に広がる深い森は、これまで通ってきたどの島の森よりも深く、自然豊かな景色が広がっていた。
 青々とした葉を茂らせる木々、咲き乱れる色とりどりの美しい花と、実り豊かな果実。
 見た事のない虫や鳥、小さな獣や魔物まで、数多くの、様々な種の生き物が共生しているようだ。
 そしてそのどれもが、俺たちを怖がる事もなく、不思議そうな目で遠くから見ていた。

 手付かずの自然とはまさにこの事だろう。
 ギンロの背の上から俺は、楽しげに周囲を観察していた。
 大自然のど真ん中、道無き道を、俺たちは進んで行った。






 歩き続ける事半日以上。
 森が淡いピンク色の光に包まれた夕暮れ時、俺たちは目的の地に辿り着いた。

「おぉ~、あれがそうか?」

 小さな声で、カービィが呟いた。
 低木の陰に身を潜め、息を殺す俺たち。
 目の前には、森の中にポッカリと出来た広い岩場と、巨木ユーザネイジアに負けずとも劣らない巨大な建造物、その周囲を飛び交う無数のハーピー達の姿があった。

「何あれ? なんだか、思っていたのと全然違うわね」

 何を思っていたのかは知らないが、唖然とした表情でグレコがそう言った。

 ギェーギェーと鳴き声を上げながら、そこかしこに群がるハーピー達。
 茶色の岩場のあちこちには、ハーピーの巣らしき円形の、枯れ枝の山のような物が沢山存在している。
 そして、それらに囲まれるようにして、岩場の中央に位置する場所に、その塔は存在した。

 夕陽の光を受けて輝くそれは、明らかに人工的な、赤銅色の建物だ。
 その全容は巨大過ぎて、ここからではとてもじゃないが、天辺までは見通せない。
 圧倒的な存在感と神秘的な空気が、辺りには漂っていた。

「なんとも奇怪な塔じゃの。まるで煙突のようじゃて」

 テッチャの言葉に、俺は確かにと頷く。
 壁面には角張っている部分があるので、形こそまん丸では無さそうだが、なんていうかこう……、そう、穴が無いのだ。
 ここから見える限りでは、赤銅色の壁が延々上へと聳え立っているだけで、窓も扉も一つもない。
 つまり塔の中は、完全なる密室になっているはず、と考えられるわけだ。
 
「ハーピー達、随分と興奮していますわね」

 インディゴの言葉に、ノリリアが頷く。

「ポポ、ここはボナークさんに任せるポよ」

 ノリリアに目配せされたボナークは、自信たっぷりな様子で胸を張り、一人低木の茂みから立ち上がって、塔へ向かって歩き出した。
 杖も魔導書も持っていないその姿は、どう見ても丸腰にしか見えないのだが……

「ギェッ!? ギェエェェ~! ギェエェェ~!! ギェエェェ~!!!」

 一体のハーピーがボナークに気付き、激しく鳴き声を上げた。
 その声に反応して、周りのハーピー達もけたたましく鳴き始める。
 バッサバッサと羽音を立てながら、ボナークを取り囲むように空を旋回するハーピー達。
 それでもボナークは歩みを止めない。
 一歩ずつ、ずしずしと、堂々たる様相で塔へと向かって行く。

 あわわわわっ!?
 だ、大丈夫なのっ!??
 どう考えても、ハーピー達は威嚇しているようにしか見えないんだけどっ!!??

 固唾を飲んで見守る俺達。
 するとボナークは、ローブの内側から何かを取り出した。
 俺が思うにそれは……、鳴子なるこだ。
 前世の記憶の中にある、しゃもじに似た形の、楽器……?

 カタタンッ♪ カタタンッ♪ カタタンタンッ♪

「……ふぇ?」

 突如として始まった、予想だにしなかった光景に、俺は思わず間抜けな声を出していた。
 興奮気味のハーピー達に囲まれた明らかに緊迫した状況の中で、ボナークは鳴子を手に、楽しげに踊り出したではないか。
 しかもその踊りは、どこからどう見ても、よさこい踊りだった。

「はぁ~っ! ヨッチョレ、ヨッチョレ……、あぁ~、ヨッチョレヨッチョレ!! ヨッチョレさぁ~いっ!!!」

 掛け声を上げながら、軽やかにステップを踏み踊るボナーク。
 その姿があまりに豪快で、場違いで……

「あ!? 見て、ハーピー達がっ!!?」

 驚きの声を上げたグレコが、上を指差す。
 ボナークを取り囲むように空を旋回していたハーピー達が、徐々に散っていっているではないか。
 激しく鳴くのをやめて、大人しく岩場の巣へと戻って行く。

「さっすがボナーク! こんだけ大勢の魔物相手に、鎮静の舞を成功させるとはなっ!!」

 鼻息荒く、カービィが言った。

 ち……、鎮静の舞?
 あの踊りは、そんなに凄い技なのか??
 
 目をパチクリさせる俺。
 その間にも、空を旋回するハーピー達はだんだんと数を減らしていって……

 た、確かに、凄い。
 このままハーピー達が鎮まれば、俺たちは容易に塔に近づけるぞ。
 ボナークめ、案外ちゃんとした奴だったのか。
 さすが、カービィが一目置くだけあるな。

 しかし、次の瞬間!

「ギャエェエェェェェ~~~!!!」

 ひぃっ!?
 なんっ!??
 何ぃいぃぃっ!?!?

 耳をつんざくような、馬鹿でかい鳴き声が辺りに響いた。
 それと同時に、ボァッサ~、ボァッサ~と、一際重い羽音が頭上から聞こえてきて……

 な、なんだか……、嫌な予感がするぞ?

 恐る恐る上へと視線を向ける俺たち。

「なっ!?」

「ポポゥッ!?」

「うぉおっ!?」

 夕焼け空に、一際映える巨大な青い翼。
 周りのハーピー達の三倍はあるであろう馬鹿でかいハーピーが、空から舞い降りてきているではないか。
 しかも、その足先に生える鎌のように鋭利な爪が、明らかにボナークを狙っているのだ。

 ひょおっ!?
 ひょえぇえぇぇ~っ!??
 ボナーク、逃げろぉおっ!!??
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