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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

624:邪魔

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 あ~もぉ~!
 ティカの馬鹿っ!!
 どうしてそうなるのぉっ!??

「一人でって、ノリリア達は!? 近くに居ないの!??」

 声を張り上げるグレコ。
 すると、かなり顔の険しいカナリーが……

「ノリリア副団長及び騎士団のメンバーは皆、悪魔を封印する為の準備に取り掛かっているようです。敵に見つからないように身を隠しながら、封印の結界を創る為に、所定の位置で待機しています」

 眉間を皺皺にしながらそう説明してくれた。 

 なるほど!
 それがティカの言っていた作戦ってやつか!?
 ティカが悪魔の気を引いている隙に、ノリリア達が封印しちゃうって作戦だなっ!!?

「しかし、勝手に飛び出したティカさんが邪魔で、封印魔法を行使できないようなのです。このままだと、悪魔もろともティカさんまでもが封印されてしまう事になります」

 なっ……、だぁあっ!?
 もはや邪魔者っ!!?
 何やってんだよティカ~!!??

「あんの、馬鹿……」

 呆れてものも言えず、俯くグレコ。

「アイビーさん、我々はどうしましょう?」

 パロット学士がアイビーに指示を仰ぐ。

「うん……。ボナークさん、この出口はどこに通じているんですか? 具体的に!」

 頭上に広がる、光が差し込む縦穴を指差し、アイビーが問い掛ける。
 まだ地面を食べようとしているポインシェラを宥めていたボナークが、円な瞳でこちらを見た。

「ユーザネイジアの木の真下だど。南側はハーピーが群生しとるっけ、北側に穴を開けたど」

「なるほど……。カナリー、ノリリア達の現在地はどの辺りなのか聞いてくれ」

「了解しました!」

 すぐさま杖を上に向けて、通信魔法を試みるカナリー。

「いったい何を考えてるのかしら? まったく……」

 ティカに対する怒りが収まらないらしいグレコは、鬼の形相でぶつぶつと独り言を呟いている。
 こ、怖い……

「しかしグレコよ、ティカも何か考えがあっての事であろう」

 俺を背負ったまま、ドーンと言い放つギンロ。

 やめなよギンロ、火に油を注ぐって言葉知ってる?
 今ティカの味方をすると、グレコの怒りに引火して、噴火しちゃうよ??
 それにさ、俺が背に乗ってる事忘れてないよね???
 この場合、俺にも確実に飛び火するから、やめてくんない????
 
「どういう根拠があって、そういう事が言えるのよ?」

 静かに、じろりとギンロを睨み付けるグレコ。
 ちょっと怖かったのだろう、ギンロの全身の毛がフワッと震えた。

「う、うむ……。我と共に地上を行き、お主らが上空でハーピーに襲撃を受けた際、助けに向かおうと提案した我にティカはこう言ったのだ。あっちに何かがいる、と」

 ……あっち? あっちってどっちよ??

「あっち? それでティカは、勝手にユーザネイジアの木まで走って行って、勝手に悪魔と戦っているってわけ?? ……それのどこが根拠なのよ???」

 ひぃっ!?
 口調はゆっくりなんだけど、グレコの全身から放たれる怒りのオーラが半端ねぇっ!!?

 またしても、ちょっと怖かったのだろう、ギンロの全身の毛が再度フワワッと震えた。

「つ、つまりだな……。ティカは元々、そこに悪魔がいる事を知っており、敢えて戦いを挑んだと考えられるのではないか、という事だ。それ即ち、何か策があるに違いない、かと……」

 少しずつ声が小さくなるギンロ。
 情けなくも、その尻尾はスーッと下へと垂れ下がって、足の間に隠れている。
 犬がビビっている時になるあれだ。

「ギンロ、それはあなたの憶測に過ぎないでしょう? ティカにちゃんとした作戦があるという根拠には到底ならないわ。悪いけど私は、まだ彼の事を完全に信用したわけじゃないの。リザドーニャの王宮ではモッモがお世話になったみたいだけど……、一度は悪魔に乗り移られた身でしょ?? まさかとは思うけど、彼の中に悪魔の一部が残ってるんじゃないかって、私は心配なのよ」

 なぬっ!? グレコったら、そんな事を考えていたのかっ!!?
 ただ単に、ティカの爬虫類紛いな外見が気に入らないから嫌ってるのかと思ってたぜ!!!

 しかし、悪魔に乗り移られたから、悪魔の一部が残っているかも~なんて……、そんな事、本当にあるの?
 いや、そんな事あっちゃ困るだろ??
 ティカはもう既に俺の仲間なのだ。
 悪魔の一部が残った仲間なんて……、いやいや、困るわそんなの。

「アイビーさん! ノリリア副団長達はユーザネイジアの東側に待機しているそうです!! 同じく、ティカさんが悪魔と対峙しているのも東側だという事です!!!」
 
 通信を終えたカナリーが、アイビーに告げる。

「了解! ボナークさん、ハーピー達を正気に戻す為の閃光弾はもう準備できていますか!?」

 アイビーに尋ねられたボナークは、ニヤリと笑って自らのローブをめくり、その内側を見せた。
 そこには閃光弾と思われる丸い玉が、いくつもいくつもぶら下がっている。

「大丈夫そうですね。それじゃあ……、みんなよく聞いて! 僕達は今から、この縦穴を上って地上に出る。そして、ユーザネイジアの木の東側へと向かう。恐らく外ではハーピー達が待ち構えているだろうから、ハーピーの対処はボナークさんと、ヤーリュとモーブに一任するよ。いいね?」

 アイビーの言葉に、ヤーリュとモーブが力強く頷く。

「地上の地形がどうなっているのかは分からないけれど、ノリリア達は身を隠せている。だから僕達も、敵に見つからないように二手に分かれて、ノリリア達の所まで進もう。モッモさん達四人とボナークさんは僕と一緒に、残りはカナリーが先導してくれ。今はティカさんが悪魔と対峙しているようだが、恐らくノリリアは機会を伺っているはずだ。ティカさんが悪魔と一定の距離を取ったところで、一斉に封印魔法を行使するつもりだろう。相手がどのような悪魔か分からない以上、その力も計り知れない。念には念をだ、僕とカナリーも封印魔法を行使しよう。カービィさんも、お願いします!」

 ポインシェラの傍で、ポインシェラの背中の宝石を撫で撫でしていた締まりのない顔のカービィは、アイビーに声を掛けられて、咄嗟に敬礼ポーズをしてみせた。
 キラーン☆っていうキメ顔だけれども……、とてもじゃないが、作戦を理解しているとは思えないな。

「俺様達はどうすりゃいい?」

 ずっと黙っていたザサークが口を開く。

「キッズ船長とビッチェさんは、僕達とは逆方向の西側に回ってください。そして、行方不明になられているソーム族の青年を探してください。悪魔の方は我々に任せてくださって大丈夫です」
 
 アイビーの言葉に、ザサークとビッチェは互いに目を合わせて頷いた。
 
「けど、封印をするにしても、ティカが邪魔なのよね? 機会を伺うって……、そんな悠長な事をしていて大丈夫なの??」

 グレコの問い掛けに、アイビーは少しばかり目を伏せる。

「そうだね……。階級こそ分からないが、相手は悪魔。それも、あれだけの数のハーピーを、興奮状態にした上で操る事の出来る力を持っている。グレコさんの言うように、機を逃せばこちらがやられ兼ねない。だから、最悪の場合……、僕が一時的にティカさんを行動不能状態にして、強制的に悪魔から引き離す」

 行動不能状態!?
 え、それってどういう!??

「……どうするつもり?」

「麻痺魔法か、眠り魔法を行使する。ただその場合、魔法を行使した時点で、敵にこちらの位置を知らせる事になるだろう。つまり、一瞬の躊躇が命取りになる……。カナリー、ノリリアに伝えてくれ。ティカさんが行動不能状態になったのを確認したら、すぐさま全員で封印魔法を行使して欲しいと」

「了解です」

 わわわわ!?
 なんだか大掛かりになってきたぞっ!??
 そんな一か八かの作戦で大丈夫なのかぁっ!?!?

「モッモ、ティカに連絡を取れぬのか?」

 ギンロがボソボソっと呟いた。

「連絡って……、あ、絆の耳飾りで?」

 俺はコソコソと返事をする。

「うむ。リザドーニャの王宮にて、かの悪魔と対峙した時、我には声が聞こえていたのだ。しかしながら、我は声が出せぬ状況だったが故、心内で応えだのだが、そちらからの応答がなく、止むを得ず我は目の前の敵に集中した。ティカは手練れ故、我と同じく、戦いの最中にても心内で応答出来るはずだ」

 ギンロの言葉には引っかかる点が幾つかあるものの……
 なるほど、つまりティカに作戦を伝えろと言いたいのだな?

「でも……、何て言えばいいの?」

 悪魔を封印したいから、そこを退けって?
 退かないと、ティカごと封印しちゃうよって??

「後方に援軍がいる、機を見て退避しろと伝えるのだ」

 おぉ、なんかそれ、カッコいいね。
 
「分かった! やってみる!!」

 俺は絆の耳飾りに意識を集中させて、ティカと通信を試みる。
 何故そうしたかは分からないが、アイビーやグレコにばれないように、コッソリと。

「ティカ? ティカ聞こえる?? モッモだよ」

 すると、ティカの声が聞こえてきた。
 だがしかし、それは俺に対する返答ではなくて……

「我が名はティカ・レイズン! 神に選ばれし使者である!! 悪しき魂を持つ貴様を、この手で討ち滅ぼす者なり!!!」

 雄叫びのように激しく、すご~く嫌な予感がする言葉を口にするティカの声が、俺の耳に届いたのだった。
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