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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

620:なんとかするっけよ

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「悪魔を捕獲するというのは……、さすがのボナークさんでも難しいんじゃありませんか?」

 冷や汗をかきながら、パロット学士が言った。

「んまぁ~、難しいっけ。んだども、名前が悪魔っちゅ~だけで、元はただの魔物っけ? 産まれた世界が違うだけでぇ、所詮は魔物だど。しっかしまぁ~、一筋縄じゃいかねぇっけ。ちゃ~んと準備して行くだどっ!」

 遠足前日の幼稚園児みたいにワクワクしている様子のボナーク。

 しかしなんだ?
 産まれた世界が違うだけって……、何言ってんだこいつ??
 そんな屁理屈でどうにか出来る相手ではないと思うんだけどね、悪魔ってのはさ。

「まさか、ここまで頭がおかしい方だとは……」

 小声ながらも、めちゃくちゃ失礼な事を呟くカナリー。
 額に手を当てて、分かりやすく呆れ、項垂れる。

「準備して、という事は……、何か算段があるんですか? 悪魔を、その……、捕獲する術が何か??」

 至って冷静に、話を進めるアイビー。

「んだ、考えはちゃんとあるだど。まずは興奮トランス状態のハーピー達を元に戻すっけよ。あいつらみんなして木を守っとるけぇ~、邪魔でしょうがねぇっ! ここに閃光弾を百発用意したっけ、これを一斉に放ってぇ~、ビックリさせて目を覚まさせるだど!! そいで鳥笛を吹きゃ、ちぃとは正常になるっけ!!!」

「なるほど! で、その後はっ!?」

 セカセカと質問するモーブ。

「興奮状態から醒めれば元の住処に戻るはずだど。ハーピー達が居なくなった所を狙ってぇ、一気に木を登るんだど!」

「登る~? ユーザネイジアの木をですかぁ~??」

 いつも通り語尾が伸びるヤーリュ。

「んだ。奴はユーザネイジアの木の天辺付近に巣食っているんだっけ。妙な鳥の巣みたいな丸いやつがあっけ、そこに向かうんだど」

 ふむ、つまり……、悪魔はユーザネイジアの木の天辺に巣を作っていて、それを守っているハーピー達を追い払った後、その巣に隠れているであろう悪魔を倒しに行く、ってわけか。
 けど、ユーザネイジアって、樹齢百年以上なんだよね?
 どんな木か知らないけれど、馬鹿でかいんじゃないの??
 そんなの本当に上れるのかなぁ???

「その巣とやらに向かって、その後は?」

 アイビーのこの質問に、これまでスラスラと答えていたボナークが一旦言葉に詰まる。
 そして……

「その後はだ……、なんとかするっけよ」

 ……え? は?? まさか???
 一番大事な部分がノープラン????

 ひょうひょうと答えたボナークの言葉に、無言のまま互いに目を合わせる騎士団メンバー達。
 グレコもギンロも、さすがにそれはヤバいだろう? といった表情である。
 すると、ずっと黙っていたザサークが急に声を発した。

「なぁボナーク、ルオを見てねぇか? ほら、ガレッタの弟の」

 おいおいおい……、ザサークこの野郎、結構ぶった斬ったな!?
 今それを聞くと、話の流れがコロッと変わっちまうぞ!??
 
「ルオ? いんや、見てねぇど。わしゃ五日間ずっと、地下に篭りっきりだったっけ。……ルオがどうかしたっけ??」

 ほら言わんこっちゃない、話題が変わっちゃったじゃないか。
 けど……、ボナークのこの言い方だと、ハーピー達が港町アルーに夜襲をかけていた事を、どうやらボナークは知らないようだ。

「実は、三日前の晩から、港町アルーがハーピー達に襲われ続けていたんです。町は壊滅状態。町に暮らすマーレ・ヴァンデアンのソーム族の方々は皆、今は町の近くの洞窟内に避難しています。そして、ルオという青年が、ハーピーに連れ去られてしまったそうです」

 アイビーの説明に、ボナークは小さな目をあらん限り見開いて(それでも豆粒みたいに小さいけどね)、驚く。

「なんど!? そんな事になっとったっけっ!??」

「俺様とビッチェは、ルオを連れ戻す。ハーピー達がルオを連れ去った理由は分からねぇが、ハーピー達を操っている親玉がどっかにいるんなら……。ボナーク、俺様をそこへ案内してくれ」

 むむっ!? 
 ザサークが何やら本気モードっぽい顔付きになってるぞっ!!?
 全身の鱗がいつも以上に黒光りしてるっ!!!?

「分かっだど。もう穴は随分と掘れているっけ、このまま地下通路を東に向かうど」

 そう言って、ボナークは地下通路の先を指さした。
 土臭くて、湿ってて、真っ暗な通路の先を……

 するとアイビーが、ザサークの方を向いているボナークに背を向け、みんなをそっと集めて小声で話し始めた。

「とりあえず……、僕達はボナークさんと一緒に、このまま地下通路を通って、ユーザネイジアの木に向かおう」

「その先はどうします?」

 不安気なパロット学士。

「敵の狙いが定かで無い今、下手にこちらから攻撃を仕掛けるのは得策では無いでしょう」

 険しい顔のカナリー。

「ですがですが! ノリリア副団長達は既にユーザネイジアに向かっていますよっ!?」

 セカセカ、アワアワするモーブ。

「そうだね。だからカナリー、後で通信魔法を行使して、ノリリアとインディゴにこちらの動きを伝えておいてくれないか?」
 
「了解しました」

「それで……、ユーザネイジアの木に向かって、私達はどうするの?」

 グレコの問い掛けに、アイビーは少しばかり考えた後、何故か俺を見た。
 
 ……へぁ? 何故、俺を見る??

 俺はまだ、絶賛カービィの治療を受けている最中である。
 手足の感覚は戻ってきたものの、まだ仰向けに寝転んだままで、ダラーンとしてて、随分と情け無い姿に違いない。
 そんな俺に対し、アイビーに続いてみんなも視線を向けてきた。

「悪魔をおびき寄せる為に、モッモ君に力を解放してもらう」

 ふぁっ!? お、お、俺の力をっ!??
 かかか、解放だとぉおうっ!?!?

 ……え、それってどうやって?
 力の解放なんて、全然分かんないけど俺。
 てか、仮に出来たとして、それは一体何の為に??

「まさか、モッモを囮に!? そんなの駄目よっ!!」

 げげっ!?
 囮かよアイビーこの野郎っ!??

「悪魔は時の神の使者を狙っているかも知れないのよっ!? モッモが力を使えば、モッモが時の神の使者だとこちらからバラす事になるじゃないっ!!? そんなの……、そんなの危険だわ!!!」

 うむ、グレコ! 頼むっ!!
 全力で反対してくれっ!!!
 ただでさえも今、俺は全身がズタボロで満身創痍なのだ。
 この状態で、悪魔をおびき寄せる為の囮なんて……
 無理だよ死んじゃうっ!!!!

「力を解放するとは、どういう事だ?」

 おっと、ギンロ! 駄目よっ!!
 そんな所を気にして突っ込まないでっ!!!
 モッモを囮にするなど言語道断、反対である……、とかなんとか怖い顔で言って、やめさせてっ!!!!

「みんな覚えているかい? イゲンザ島でモッモ君が、悪魔サキュバスのグノンマルを倒した際に使った技を」

 淡々と話を進めるアイビー。

「確か……、時間逆行の呪い、でしたかね?」

 顎に手を当てて、いかにも学者っぽく答えるパロット学士。

「そう、時間逆行だ。僕が思うにあの技は、時の神の使者故に為せる技だろう。いくらモッモ君が持っている万呪の枝が、様々な呪いをかける事の出来る伝説級の代物だったとしても、使う者に力が無ければ効力を発しないはずだ。少なくとも、僕ら魔導師の使う杖はそうだろう? 魔力を持たない者が握っても、杖は魔法を行使出来ない。つまり、モッモ君が万呪の枝を奮う際には、少なからず神の力である神力を、モッモ君は使っているはずなんだ」

 アイビーの説明は、なんだか難しくて頭がこんがらがっちゃいそう。
 だけど一つだけ理解出来た事がある。
 つまりアイビーは、悪魔をおびき出す為に、ユーザネイジアの木の元で、俺に万呪の枝を使わせようとしてるんだな?

「ふむ、つまり……。悪魔をおびき寄せる為、モッモに万呪の枝を奮えと言いたいのか?」

 まとめにかかるギンロ。
 ……でもさ、今それ、俺が先に心の中でまとめたからね。
 ギンロはいつも一歩遅いんだよ、まったく。

「そんなの無茶よ! だってほら、見てよっ!? あんな状態なのよっ!!? あんなのでどうしろっていうの!?!? 今のモッモには、逃げる事すら出来ないのよっ!!???」

 グレコのやつ、俺の事をめちゃくちゃ指差してる。
 ビシィッ! て感じで指差してるぜ。
 言っている事は正しいし、俺を守る為の発言なのだろうが……
 けどあんた、親から教わらなかったのかい?
 人に向かって指を差しちゃ駄目って、教わらなかったのかい??

「勿論、一人で行かせる気は毛頭無いよ。僕らは全力でモッモ君を守護する。僕が言いたいのは、さっきボナークさんが言っていた、ユーザネイジアの木の天辺にある巣とやらに乗り込む作戦には反対だって事だ。どのような戦いにおいても、無闇に敵陣に入り込むのは得策では無いからね。その巣とやらの内部がどうなっているのかも分からないし、身動きが取りやすい場所で敵を待ち構え、敵が姿を現したところで一気に叩き込む……。これが一番勝率の高い戦法だと思うよ」

 ふむ、なんだか至極まともな作戦のように思えるな。
 敵陣に乗り込むより、敵を外におびき出すと……、確かにそっちの方が良い気がするぞ。
 でもだからって、俺の事を囮にするのはどうかと思うぞ?

「しかし、それだと団長の命令に背くのでは? 悪魔との戦闘は可能な限り回避する、そう決めたはずです。それを、こちらからおびき寄せるだなんて……。そもそも、何故ノリリア副団長は、ユーザネイジアの木を集合地点に定めたのでしょう?? ハーピー達が群がっていて、更には悪魔が潜んでいるかも知れないと考えるその場所に、何故……??? まさかとは思いますが、ノリリア副団長は、最初から悪魔と対峙し、倒すつもりでいたのでしょうか????」

 カナリーの疑問に対し、アイビーはフッと笑みを漏らす。

「ノリリアはとても真面目だし、平時なら騎士団の規則や団長の命令に反いたりはしない。だけど、今はそれ以上に……、彼女には、成し遂げたい目的があるんだよ。アーレイク・ピタラスの墓塔の攻略、及び呪術に対する解呪の方法、その知識を得る事。その為に必要な事を、ノリリアは理解している。それは……」

 するとアイビーは、その優し気な眼差しで俺を見つめ、こう言った。

「時の神の使者を、封魔の塔へと導く事。その為には、邪魔立てする者を排除しなくてはならない、例え相手が悪魔でもね……。僕らがモッモ君と出会ったのは、決して偶然じゃない。この世に起こる全ての出来事は、必然なんだよ」
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